いまだに「死亡者数トップ3」を誇る胃がんの最新治療…なんと、手術室に入らずにがん切除が可能に!(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
いまだに「死亡者数トップ3」を誇る胃がんの最新治療…なんと、手術室に入らずにがん切除が可能に!
1/25(木) 17:34配信
現代ビジネス
photo by gettyimages
昨今、がんにかかる人は増加しているが、死亡率は年々下がり続けているのをご存じだろうか――。「がん治療」の進化が著しいことが大きな要因の一つだ。一方で、患者側の最新医療に関する知識がアップデートされていないばかりに、手遅れになってしまうケースも残念ながら少なくないという。
【画像】大腸がんでも、いまや開腹手術より多い「腹腔鏡手術」
がん治療で後悔しないために、私たちが身につけておくべき知識とは何か。国立がん研究センターが、現時点で最も確かな情報をベースに作成した『「がん」はどうやって治すのか』から、そのポイントをお伝えしたい。今回は、近年、大きく変わった胃がんの治療について解説する。
*本記事は国立がん研究センター編『「がん」はどうやって治すのか』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
胃がん手術でも増える縮小手術
胃がん手術の方法。遠隔転移がなく、内視鏡による切除が適応にならない場合は切除手術が行われる。手術は腹部を20cmほど開腹して実施し、病巣のある部位と病期から方法を選択する
胃がん手術が最初に成功裏に行われたのは、乳がんとほぼ同じ時期の19世紀末でした。
初めに成功したのは幽門側(胃の出口側)胃切除術です(図「胃がん手術の方法」)。しばらくすると、難度がより高い胃全摘術も行われるようになります。その後、胃切除と同時にリンパ節を切除することが再発防止の観点から重要と考えられるようになり、その目的で、リンパ節を系統的に切除するリンパ節郭清術が普及しました。
胃の周辺にはリンパ節が数多く存在し、早期がんであってもリンパ節への転移が少なくありません。しかし、どこのリンパ節に転移があるかは、超音波、CT、MRIなどによる術前の検査や術中の目視では正確な判断が難しいのが実情です。
そのため、転移しそうなリンパ節をある程度広い範囲で予防的に郭清します。結果的に、広い範囲で郭清すれば後遺症のリスクが高くなり、取り残せば転移の恐れがあるというジレンマを抱えることになります。
胃がん患者が欧米に比べて圧倒的に多かった日本では、数多くの経験を背景に、胃の全摘もしくは幽門側3分の2の切除に加えて、胃のすぐそばと胃からやや離れ
たところのリンパ節も郭清するD2リンパ節郭清(D2手術)が1970年代から定型手術として広く行われてきました。
1/25(木) 17:34配信
現代ビジネス
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昨今、がんにかかる人は増加しているが、死亡率は年々下がり続けているのをご存じだろうか――。「がん治療」の進化が著しいことが大きな要因の一つだ。一方で、患者側の最新医療に関する知識がアップデートされていないばかりに、手遅れになってしまうケースも残念ながら少なくないという。
【画像】大腸がんでも、いまや開腹手術より多い「腹腔鏡手術」
がん治療で後悔しないために、私たちが身につけておくべき知識とは何か。国立がん研究センターが、現時点で最も確かな情報をベースに作成した『「がん」はどうやって治すのか』から、そのポイントをお伝えしたい。今回は、近年、大きく変わった胃がんの治療について解説する。
*本記事は国立がん研究センター編『「がん」はどうやって治すのか』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。
胃がん手術でも増える縮小手術
胃がん手術の方法。遠隔転移がなく、内視鏡による切除が適応にならない場合は切除手術が行われる。手術は腹部を20cmほど開腹して実施し、病巣のある部位と病期から方法を選択する
胃がん手術が最初に成功裏に行われたのは、乳がんとほぼ同じ時期の19世紀末でした。
初めに成功したのは幽門側(胃の出口側)胃切除術です(図「胃がん手術の方法」)。しばらくすると、難度がより高い胃全摘術も行われるようになります。その後、胃切除と同時にリンパ節を切除することが再発防止の観点から重要と考えられるようになり、その目的で、リンパ節を系統的に切除するリンパ節郭清術が普及しました。
胃の周辺にはリンパ節が数多く存在し、早期がんであってもリンパ節への転移が少なくありません。しかし、どこのリンパ節に転移があるかは、超音波、CT、MRIなどによる術前の検査や術中の目視では正確な判断が難しいのが実情です。
そのため、転移しそうなリンパ節をある程度広い範囲で予防的に郭清します。結果的に、広い範囲で郭清すれば後遺症のリスクが高くなり、取り残せば転移の恐れがあるというジレンマを抱えることになります。
胃がん患者が欧米に比べて圧倒的に多かった日本では、数多くの経験を背景に、胃の全摘もしくは幽門側3分の2の切除に加えて、胃のすぐそばと胃からやや離れ
たところのリンパ節も郭清するD2リンパ節郭清(D2手術)が1970年代から定型手術として広く行われてきました。
胃がん手術の変化と、遠隔転移の生存率向上
ヘリコバクター・ピロリ菌の検査と除菌が広く行われるようになったことで、胃がんの罹患率は減少傾向にある ilustration by gettyimages
日本は長い間、世界有数の胃がんの多い国でした。今なお罹患数・死亡数ともに、胃がんは日本人のがんの部位別トップ3に入っていますが、最近は年齢調整罹患率*に減少傾向が認められます。
1982年に胃粘膜から発見されたヘリコバクター・ピロリ菌が日本人の胃がんの原因の98%を占めることが判明し、検査と除菌が広く行われるようになったのがその理由です。それに伴って胃がん手術の件数も減ってきました。
*年齢調整罹患率:集団全体の罹患率を、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求めた罹患率。
また、内視鏡やレントゲンによる胃がん検診が広く行われるようになり、早期発見例が増加しています。そのため、身体的負担の少ない胃がん手術が増え、全摘ではなく、幽門保存胃切除術や噴門(胃の入り口)のみ切除する噴門側胃切除術が多くなりました。
胃から遠い大動脈リンパ節や膵臓周囲のリンパ節に転移がある場合には、術前にがん病巣を小さくしたうえでリンパ節を含めた拡大手術を行います。このようなリンパ節転移があると、拡大手術を行っても5年生存率は10%以下でしたが、術前に抗がん剤投与を行うことによって、昨今は60%程度まで5年生存率が向上しています。
胃がんの腹腔鏡手術とロボット手術
このほか、傷の小さい腹腔鏡手術やロボット支援手術(ロボット手術)も患者に負担の少ない低侵襲手術として普及してきました。
全身麻酔下で腹部に1cm前後の小さい穴を5ヵ所ほど開け、そこから二酸化炭素ガスを導入して腹部を膨らませたうえで、内視鏡と鉗子を腹腔に入れて手術する方法です。術者はハイビジョンの鮮明な拡大画像を見ながら手術を進めます。切り取った胃は、臍(へそ)近くに設けた創口を3~4cmに広げて引き出します。
胃がんに対する腹腔鏡手術は1991年、世界に先駆けて日本で初めて行われました。現在は早期がんを対象に、国内で年間およそ2万件が実施されています。主な対象は、次の節で述べるように、口から入れる内視鏡による切除が行いにくい、胃の近くのリンパ節切除が必要な早期胃がんです。腹腔鏡手術では手術創が小さく、出血や術後の痛みが少ないため、早期回復と入院期間の短縮、早い社会復帰が可能になります。
ヘリコバクター・ピロリ菌の検査と除菌が広く行われるようになったことで、胃がんの罹患率は減少傾向にある ilustration by gettyimages
日本は長い間、世界有数の胃がんの多い国でした。今なお罹患数・死亡数ともに、胃がんは日本人のがんの部位別トップ3に入っていますが、最近は年齢調整罹患率*に減少傾向が認められます。
1982年に胃粘膜から発見されたヘリコバクター・ピロリ菌が日本人の胃がんの原因の98%を占めることが判明し、検査と除菌が広く行われるようになったのがその理由です。それに伴って胃がん手術の件数も減ってきました。
*年齢調整罹患率:集団全体の罹患率を、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求めた罹患率。
また、内視鏡やレントゲンによる胃がん検診が広く行われるようになり、早期発見例が増加しています。そのため、身体的負担の少ない胃がん手術が増え、全摘ではなく、幽門保存胃切除術や噴門(胃の入り口)のみ切除する噴門側胃切除術が多くなりました。
胃から遠い大動脈リンパ節や膵臓周囲のリンパ節に転移がある場合には、術前にがん病巣を小さくしたうえでリンパ節を含めた拡大手術を行います。このようなリンパ節転移があると、拡大手術を行っても5年生存率は10%以下でしたが、術前に抗がん剤投与を行うことによって、昨今は60%程度まで5年生存率が向上しています。
胃がんの腹腔鏡手術とロボット手術
このほか、傷の小さい腹腔鏡手術やロボット支援手術(ロボット手術)も患者に負担の少ない低侵襲手術として普及してきました。
全身麻酔下で腹部に1cm前後の小さい穴を5ヵ所ほど開け、そこから二酸化炭素ガスを導入して腹部を膨らませたうえで、内視鏡と鉗子を腹腔に入れて手術する方法です。術者はハイビジョンの鮮明な拡大画像を見ながら手術を進めます。切り取った胃は、臍(へそ)近くに設けた創口を3~4cmに広げて引き出します。
胃がんに対する腹腔鏡手術は1991年、世界に先駆けて日本で初めて行われました。現在は早期がんを対象に、国内で年間およそ2万件が実施されています。主な対象は、次の節で述べるように、口から入れる内視鏡による切除が行いにくい、胃の近くのリンパ節切除が必要な早期胃がんです。腹腔鏡手術では手術創が小さく、出血や術後の痛みが少ないため、早期回復と入院期間の短縮、早い社会復帰が可能になります。
内科で行う早期胃がんの内視鏡的切除
胃がんの内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)
胃以外の臓器やリンパ節への転移がなく、がんが粘膜層までしか達していない早期胃がんに対しては、内視鏡によって病巣を切除する方法が広く行われています。
これも低侵襲と機能温存の潮流のなかで確立されてきた胃がん治療法です。正確なデータはありませんが、最近は早期胃がんと診断された人の6~7割が内視鏡的切除を受けていると推定され、早期発見例の増加に伴って、外科手術を受ける人より多くなっている現状が見て取れます。
リンパ節転移の可能性がない早期の胃がんばかりでなく、食道がん、十二指腸がん、大腸がんなど、主として消化器のがんに対して、内視鏡的切除が広がってきました。この方法は、口または肛門から消化管内に内視鏡を挿入して観察しながら病巣を切除します。
内視鏡的切除は内科的処置とされ、通常は内科医や内視鏡専門医が担当しますが、病院によっては外科医が行うこともあります。手術室ではなく内視鏡室で、全身麻酔ではなく鎮静剤注射で切除を行います。
内視鏡による胃がん病巣の切除には二つの方法があります。
一つは胃の粘膜病変部に生理食塩水などを注射して少し持ち上げ、そこにワイヤーをかけて高周波電流によって焼灼切除する方法(内視鏡的粘膜切除術:EMR)、もう一つは同様にがんを浮きあがらせた後、高周波ナイフで病巣の周囲の粘膜を切開し、さらに粘膜下層を剝離して切除する方法(内視鏡的粘膜下層剝離術:ESD)です(図「胃がんの内視鏡的粘膜下層剝離術[ESD])。
このうちESDは、国立がん研究センター中央病院で1990年代後半に開発されました。二つの方法のうちESDが実施される割合が圧倒的に多く、胃がんのESDは2006年に保険収載され、標準治療になりました。
この方法の大きな利点は、処置にかかる時間が短く、わずかな侵襲ですむため、患者さんの身体的・心理的負担が極めて少ないこと、臓器を温存できるので術後の生活の質を落とさないですむことです。
内視鏡的切除が可能なのはどのような場合か、どんな方法で行うかは、日本消化器内視鏡学会の「胃癌に対するESD/EMRガイドライン」に詳細に記載されています。最新のガイドラインでは、リンパ節転移の可能性が極めて低く、がんが一括切除できる大きさと部位にある場合は、原則として内視鏡治療を行うとしています。
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国立がん研究センター( 国立研究開発法人)
胃がんの内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)
胃以外の臓器やリンパ節への転移がなく、がんが粘膜層までしか達していない早期胃がんに対しては、内視鏡によって病巣を切除する方法が広く行われています。
これも低侵襲と機能温存の潮流のなかで確立されてきた胃がん治療法です。正確なデータはありませんが、最近は早期胃がんと診断された人の6~7割が内視鏡的切除を受けていると推定され、早期発見例の増加に伴って、外科手術を受ける人より多くなっている現状が見て取れます。
リンパ節転移の可能性がない早期の胃がんばかりでなく、食道がん、十二指腸がん、大腸がんなど、主として消化器のがんに対して、内視鏡的切除が広がってきました。この方法は、口または肛門から消化管内に内視鏡を挿入して観察しながら病巣を切除します。
内視鏡的切除は内科的処置とされ、通常は内科医や内視鏡専門医が担当しますが、病院によっては外科医が行うこともあります。手術室ではなく内視鏡室で、全身麻酔ではなく鎮静剤注射で切除を行います。
内視鏡による胃がん病巣の切除には二つの方法があります。
一つは胃の粘膜病変部に生理食塩水などを注射して少し持ち上げ、そこにワイヤーをかけて高周波電流によって焼灼切除する方法(内視鏡的粘膜切除術:EMR)、もう一つは同様にがんを浮きあがらせた後、高周波ナイフで病巣の周囲の粘膜を切開し、さらに粘膜下層を剝離して切除する方法(内視鏡的粘膜下層剝離術:ESD)です(図「胃がんの内視鏡的粘膜下層剝離術[ESD])。
このうちESDは、国立がん研究センター中央病院で1990年代後半に開発されました。二つの方法のうちESDが実施される割合が圧倒的に多く、胃がんのESDは2006年に保険収載され、標準治療になりました。
この方法の大きな利点は、処置にかかる時間が短く、わずかな侵襲ですむため、患者さんの身体的・心理的負担が極めて少ないこと、臓器を温存できるので術後の生活の質を落とさないですむことです。
内視鏡的切除が可能なのはどのような場合か、どんな方法で行うかは、日本消化器内視鏡学会の「胃癌に対するESD/EMRガイドライン」に詳細に記載されています。最新のガイドラインでは、リンパ節転移の可能性が極めて低く、がんが一括切除できる大きさと部位にある場合は、原則として内視鏡治療を行うとしています。
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国立がん研究センター( 国立研究開発法人)