退屈しないように シニアの暮らし

ブログ巡り、パン作り、テニス、犬と遊ぶ、リコーダー、韓国、温泉、俳句、麻雀、木工、家庭菜園、散歩
さて何をしようか

幸福な世界

2015-01-31 05:35:13 | 韓で遊ぶ


一本の牛乳

皆が貧しかった頃、町外れの古びた自炊部屋に医大生が暮らしていました。
学費はおろか3度の食事さえ難しい状況で、青年は悩んだ末、大事な本を何冊か売ろうと古本屋に行きました。苦学生の懐事情を良く知っていて、いつも古本を買ってくれる古本屋の主人がその日に限って病気で店を閉めていました。
そのまま帰る気力さえもなかった彼は、あまりの空腹と疲れに水でももらおうと隣の家に入って行きました。
そして一人で留守番をしていた少女に事情を話した後、何か食べるものを少しくれと頼みました。
ですが、少女はとてもすまないといいながら、食べるものは無いと答えました。
「ならば、、、水でもちょっとくれるかい。」
少女は何の疑いもなく台所に行って、おそらくは自分の昼に飲むはずであった牛乳を一本持って来ました。
医大生は少女に対して恥ずかしくすまないと思ったのですが、あまりにも空腹だったので牛乳をゴクゴクと飲み干しました。
その後、何年かの歳月が流れました。
少女の母親が病気になり入院することになりました。少女は、重病で何回か意識を失い手術までした母親のそばを、ひと時も離れずに見守りました。
その手厚い看病のおかげか母親は奇跡的に意識を回復しました。
退院する日、母親の健康が回復したことは、言葉にもならないくらいうれしいことでしたが、とんでもないはずの病院の費用が心配でした。ですが、退院の手続きのため請求書を受け取った時、少女はびっくり驚きました。
「入院費と治療費、、すべて合わせて牛乳一本。支払済み。」
かつて、力なく少女の家に入って来て、飲むものをくれと言ったあの苦学生が立派な医者になっていたのでした。
牛乳一本。
その時、空腹の苦学生にとっては、それはただの牛乳ではなかったのです。
空腹を満たす飯であり、希望だったのでした。
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幸福な世界

2015-01-30 07:17:42 | 韓で遊ぶ


100ウォン硬貨

彼女は白い服を着た看護師です。
ですが今やっと見習いを抜け出したばかりの新米で、世話をしなければならないのは重症のライ病患者でした。
彼女には辛くなった時に勇気をくれる物が一つありました。
それが100ウォンの硬貨です。
彼女は、はじめから本当に一生懸命仕事をしました。勤務時間以外にも、暇があれば、この患者、あの患者にと飯を食べさせてやったり、爪を切ってやったり、髪を刈ってやったり、誰が指示しなくても仕事を見つけては喜んでやりました。
いつも睡眠不足で夜が短かったのですが、誰が見ていようと見ていまいと、残業して仕事を続けていました。動きが不自由なおばあさんにはご飯を食べさせてあげて、髪の毛が伸びたおじいさんには髪を切ってあげました。
「おじいさん、髪の毛をきれいに切ってあげるから動かないでじっとしていてね。」
老人たちはこの献身的な看護師に対し口癖のように言いました。
「あれまあ、ありがたいね。息子がいたら嫁にするのに。」
無理をして体の調子が悪い時もありますが、こんなことまでしなければならないのか、、、と思うこともなくはありませんでしたが、小さなお世話一つにもありがたいというおばあさん、おじいさんたちを見ていると、そんな気持ちはいつの間にか春の日の雪のように消えるのでした。
そんなある日のお昼の時間でした。
一人のおばあさんが、食堂に彼女を探してきて呼びました。
「どうしたの、おばあさん。どこか具合が悪いの。」
何かあるのかと思ってついてきた彼女の手に、おばあさんはいつも落としてなくすさないようにとしっかり握りしめていた垢がつき汗でぬれた100ウォン硬貨を1枚黙って握らせました。
「おいしいものを買って食べなさい。とってもありがたいからお前に上げるんだから。」
「おばあさん、これ、、こんなものを貰わなくても、、、」
遠慮する彼女に怒って見せてまでして必死に握らせてくれた100ウォン硬貨一つ、それは彼女が初心を忘れそうな時に、彼女の心を取り戻してくれ立ち直らせてくれる希望のマスコットであり栄養剤なのでした。
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幸福な世界

2015-01-29 07:32:30 | 韓で遊ぶ


100番目の客

昼、一時混んでいた客がとだえた午後の時間でした。
主人が一息ついて新聞をめくっている時、店の戸が開いて一人のおばあさんと垢にまみれた子供が入って来ました。
「あの、、牛の頭のクッパ、一杯いくらですか。」
おばあさんは中腰になったまま腰のあたりから小銭入れを出してお金を数えた後、クッパを一杯注文しました。湯気がゆらゆらでている一杯のクッパ。
おばあさんは土鍋を孫の座っているほうに押してやりました。
少年はつばをゴックンと飲み込んでおばあさんを見つめました。
「おばあさん、本当にお昼ご飯、食べたの。」
「そうだ、早く食べなさい。」
おばあさんはカクテキを一切れ口に入れ、もぐもぐかじっている間に少年は一杯のクッパをあっという間に食べてしまいました。
その姿を見ていた店の主人が二人の前に近づいて行きました。
「おばあさん、今日は本当に運がいいですよ。おばあさんが家の店の100人目のお客さんです。家の店では100人目のお客さんにお金をいただかないのですよ。」
主人はお金を受け取らずにおばあさんにクッパを一杯差し出しました。
いく日か後、おばあさんと少年がまたクッパ店に立ち寄りました。おばあさんは今度もクッパを一杯だけ注文し、あの二人だとわかった主人は今度もまた100人目の客の幸運ということにしました。
それから一ヶ月ほど経ったある日のことでした。何気なく窓の外を見た主人はびっくり驚きました。おばあさんと一緒にクッパを食べに来たあの時の少年が、クッパ店の前の道を挟んで向かい側にしゃがみこんで何かを数えていました。
クッパ店に客が入って行く度に、小石を一つずつ円の中に入れていたのでした。ですが、お昼時間が過ぎても小石は50個をこえることができませんでした。あせった主人はなじみの客に電話をかけはじめました。
「ちょっと、今、忙しくなかったらクッパを一杯食べに来てくれ。今日はタダだ。タダ。」
そうやってあちこち電話をかけると、クッパ店には客が押し寄せはじめました。
「81,82,83、、、」
少年の計算が早くなりました。そしてとうとう99個の小石が円の中に入った時、少年は急いでおばあさんの手を引っ張ってクッパ店に入って来ました。
「おばあさん、今度は僕がおごってあげる。」
本当に100番目の客になったおばあさんは、暖かい牛の頭のクッパを一杯いただき、少年はおばあさんがそうしたようにカクテギだけもぐもぐと食べていました。
「ねえ、あの子にも一杯やろうか。」
クッパ店の主人のおばさんが、おじさんにささやきました。
「シィ。あの子は今食べなくてもお腹が一杯だということを学んでいるのじゃないか。」
ずるずるとおいしそうに食べていたおばあさんが少年に言いました。
「少しやろうか。」
ですが少年は、お腹を前につきだして言いました。
「いや、僕はお腹がいっぱいさ、、これ見ておばあさん。」
その日以後、不思議なことが起こりました。クッパ店に客が押し寄せ本当に毎日100番目の客、200番目の客が出るようになりました。
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幸福な世界

2015-01-28 06:20:16 | 韓で遊ぶ


一歩、一歩

足の不自由な息子が、父と一緒に山に登っていました。
いつも挑戦もしないで諦めてしまっていた息子と、いつも、そんな意気地のない息子をかわいそうに思っていた父が初めて行く山登りでした。
それは、誰の目にも険しい行程でした。急な道を登るたびに、息子は転んで傷ついて石の角にぶつかって血を流したりもしましたが、上りながら出会う人たちの励まされ、父が差し出す手をつかみながら、がんばろうと思いました。
「がんばれ、あと少し行くと頂上だ。」
「はい、お父さん、、はあはあ。」
一歩一歩が、骨がきしむような苦痛の連続でしたが、息子はどうしてもやめることができませんでした。
他の人たちよりも何倍ものろく、辛い道でした。何歩か行っては水を飲み、何歩か行っては汗を拭いて、、そうしているうちに皆が父子を追い越して行きました。
そうやって何時間過ぎたのかわかりません。
日が暮れる頃になって、やっと頂上がすぐそこに見えるところまで上ることができました。後、もう何歩か行けば頂上です。
喜びでウキウキした息子が、最後の力をふりしぼって歩こうとした瞬間、父が息子を引きとめました。
「さあ、さあ、もうこれで降りていこう。」
「えっ、頂上がすぐそこなのに、、降りるのですか。」
父は汗まみれになった息子の顔を丁寧に拭いてやりながら、今降りていかなければならない理由を話しました。
「私たちは山に登るために来たのであり、頂上を踏もうと来たのではない。お前が今頂上に立ったならば、二度とこのようにつらい山登りをしないのではないか。」
父の話を聞いた息子は何も言わずに山を降りて行きました。
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幸福な世界

2015-01-27 07:21:28 | 韓で遊ぶ


愛の血

ある日のけだるい午後の休み時間に、がらりと戸を開けて一人の男性が職員室に入って来ました。
「あの、3年2組の担任の先生にお会いしたいのですが。」
子供の成績でも確認しに来た父兄かと思った先生は、担任の先生に会わせました。
ですが沈鬱な表情のその男性は、申し訳ない頼みをしに来たと言い難そうに話を切り出しました。
「先生のクラスのキハクが私の弟です。」
「あ、はい。」
「ところで、、家の母が血液が足りなくて手術を受けられないでいます。24時間以内に血液を探さないとならないのですが、、、。」
先生は何とかして血液を探してみると約束しましたが、自信がありませんでした。
「どうしよう。24時間なんて、、、」
先生は悩んだ末、放送室に走って行きました。そして震える手でマイクを持って言いました。友達のお母さんのために血液を分けてくれと。
「みなさん、キハクは皆さんの先輩であり友達です。」
そうやって放送をした後、先生はあせる気持ちをなだめながら職員室をうろうろしていました。10分経ち、20分経った時、一人の女子学生がはにかみながら戸を開きました。
「先生、私が助けになるでしょうか。」
先生はありがたい気持ちでその女学生の手をさっと握りました。
そして、また一人、また一人、、いつの間にか職員室は子供たちでいっぱいになりました。
先生はその中で健康な学生20名をつれて病院へ行きました。検査の結果、輸血が可能な学生は9名でした。皆が喜んで腕をまくり、キハクのお母さんは無事に手術を終えることができました。
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幸福な世界

2015-01-26 07:06:27 | 韓で遊ぶ


暖かい小石

6年生の時だったか、とても寒い冬でした。
お昼になると、何も言わないでいなくなる子がいました。クラスの仲間に理由もなく仲間はずれにされていたその子は、いつもそうやってご飯も食べないで一人で遊んでいました。
そんなある日、その子が近づいてきてメモをひとつ差し出しました。
「ウナちゃん、家に遊びにおいで。」
その子と特に親しいという訳でもなく、私は少し面食らったのですが、せっかくの誘いをどうしても断ることができませんでした。
「そうね、授業が終わったら会いましょう。」
その日はとても寒い日でした。足の指が冷たくて凍りつき、全身縮むくらいだったのですが、しばらく歩いてもその子の家はまだ遠いようでした。
「うううう、寒い、、一体どこまで行くのかしら。」
遊びに行くなんて言わなければ良かったと後悔し、このまま家に帰りたいと思い始めた時その子の足が止まりました。
「ついたわ。あそこよ。私の家。」
その子が指さした先には、風はおろか雪の重さにも耐えられないのではと思われるようなあばら家が一軒建っていました。
かび臭い部屋の中に病気の母親と幼い妹たちがごちゃごちゃといました。
「こ、こんにちは。」
「すまないね、私の身体が良くなくて、もてなしもできなくて、、、。」
私が心を開いて妹たちと遊んであげている時に日雇いの仕事に通っているその子の父親が帰ってきました。
「おやまあ、家の娘が友達を連れてきたんだね。」
その子の父は一度も友達を家に連れてきたことがない娘の初めてのお客だといって、私を歓迎してくれ、妹たちともすぐに仲良くなり楽しく遊ぶことができました。
日が暮れる頃に私がその子の家から帰る時でした。
「帰るわ。」
「また、遊びに来てね。」
「うん。」
その時、私を呼ぶ声が聞こえました。
「ちょっと、少し待ちなさい。」
行こうとする私を少し引き止めておいて、台所に入って行ったその子の父親が、少しして何かを手に包み込むように持って出てきました。
「あの、、これ。あげられるものといったら、こんな物しかなくて。」
その子の父親が手袋をはめた私の手に握らせてくれたの物は、火で温めて温かくなった2個の小石でした。ですが、その2個の小石よりも温かかったのは、その次に耳に入ってきた一言でした。
「家に帰るまで温かいと思うよ。気をつけて帰りなさい。」
「気をつけてね。バイバイ。」
「さようなら。」
私は世の中の何よりも暖かい小石を胸に抱いたまま家に帰って行きました。
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幸福な世界

2015-01-25 06:21:57 | 韓で遊ぶ


ビリになろうとするかけっこ

ある年の秋のことです。地方のある刑務所で受刑者の体育大会が開かれました。
他の時とは違って、20年以上服役した囚人たちはもちろん、模範囚の家族まで招待される特別な行事でした。運動会の始まりを知らせる声が運動場いっぱいに広がりました。
「何とぞ、今日のこの行事が無事に進行されますことを願います。」
しばらくの間家族と離れていた受刑者にとっても、墓よりももっと深い心の監獄に閉じ込められ生きていた家族にとっても、それは胸がわくわくしないはずがありません。
すでにここ何日間で予選を済ませた球技種目の決勝戦をはじめとして、各就業所別の対抗戦と熱を帯びた応援戦が繰り広げられました。かけっこをする時も綱引きをする時も一生懸命であり小学校の運動会を彷彿させました。
あちこちから応援する声が聞こえました。
「いいぞ。、、がんばれ、がんばれ。」
「あなた、がんばって、、がんばって。」
何といっても、この日のハイライトは、父母を背負って運動場をひとまわり回る“孝行観光かけっこ大会”でした。
ですが参加者が一人二人と出発ラインに集まると、そこまでの思いっきり高潮した雰囲気が急に粛然とし始めました。
青い作業服を着た選手達が、父母を背負おうとやせた背中を父母の前にさし向けた時、出発の合図がなりました。しかし、全力を出して走る走者は誰もいませんでした。
息子の涙を拭いてやろうと自分の涙を拭くことができない母、、、。
息子の小さくなった背中が痛々しくて、どうしてもその背に乗れない父、、、。
刑務所の運動場はいつの間にか涙の海に変わってしまいました。いいえ、互いがゴール地点へ少しでも遅れて入って行こうと努力しているようなおかしな競争でした。それは決して言葉では表現できない感動のレースでした。
その人たちが願ったことは1等ではありませんでした。その人たちはそうやって一緒にいる時間をほんの一秒でも長くしたかったのでした。
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幸福な世界

2015-01-24 06:47:53 | 韓で遊ぶ


みかんを数える父

住宅街の路地が終わるところに果物屋が一軒ありました。
店には見栄えがいい果物がうずたかく積まれていました。主人が配達に行っていて息子が店番をしている時、乗用車が一台、店の前に止まりました。
「いらっしゃいませ。何をさし上げますか。」
乗用車から降りた夫婦は、ばらで置かれたみかんを一個食べてみた後で一箱を注文しました。息子はすぐにみかんの箱を持ってトランクに積みました。
「ありがとうございました。」
しかし、車がまさに出発しようとした時、誰かが急に車の前をふさぎました。果物屋の主でした。
「すみません。お客さん。みかんの箱をちょっと確認します。」
「どういうことですか。」
夫婦は驚いて聞きました。
主人はトランクからみかんの箱を取り出し店の中に運び入れました。
「父さん、何をするんだ。ちゃんと売ったのに、、、」
時間がかかるのが嫌で不快にも思うし、計算が間違ったのか気にもなるし、夫婦もついて中に入って行きました。ですが、いつの間にか箱を開いてみかんを床に広げた主人は箱から傷んだみかんを選び始めました。
「あれまあ、これは、5つも痛んでいる。」
主人は他の箱から痛んでいないみかんを5つ選んで箱に入れて息子を叱りました。
「箱のまま売る時は、そのままやったらだめだ。これはうちの店のみかんなんだ。」
「あ、はい、父さん」
主人はみかんの箱をまた車に積んだ後、待たせて申し訳ないと丁重にわびました。
「ありがとうございました。お気をつけて。」
息子はその後、みかんを箱ごと売る時には父がしたように一つ一つ調べることを忘れませんでした。
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幸福な世界

2015-01-23 06:50:13 | 韓で遊ぶ


怠け者の息子
小さな村に怠け者の息子をもった父親が暮らしていました。
年とって病気にもなり、これ以上仕事もできない父親は、一日中ぶらぶら遊んでばかりいる息子が心配でした。
ある日、男の妻がもう財産を息子に渡してはどうかと言いました。
「いつ渡したとしてもいずれは渡すものなのだし、一財産もらえたらあの子も自分の生きる道を探せるのではないの。」
ですが、自分の手でただの10ウォンでも稼がなければ1文も渡せないと言う父親の決心は揺らぎませんでした。
次の日、妻は頑固な夫に隠れて息子に札束を渡しました。
「何も言わないでお前が稼いだと金だと言いなさい。」
息子は気が進みませんでしたが、母の切実な申し出を断ることができませんでした。
「父さん、これ、、、私が仕事をして稼いた物です。」
当然、喜ぶと思っていた父は、何も言わないでお金を囲炉裏の火に投げ入れてしまいました。
「あ、何てことを。」
息子はお金が燃えるのを眺めながら何も言えませんでした。
息子はそのまま家を出ました。そして歯を食いしばって工事現場を転々としてきつい仕事をしました。そうやって汗を流して仕事をして一ヶ月がたちました。
生まれて初めて貴重な労働の対価を手にした息子は、父を思い浮かべ家に帰って行きました。
「母さん。」
久しぶりに息子を見た母は、走って来て息子の手をさっと握りました。
「あれまあ、お前、どれどれ顔を見せてごらん。」
息子は、怒りのあまり倒れた父の前に自信ありげに金を出し、母は涙を流して喜びました。
「工事現場でレンガを運んで稼いだお金です。」
「あれまあ、お前は良くやった。」
喜ぶ母親とは異なり、父は今回もお金を囲炉裏の火に投げ入れてしまいました。息子はびっくりして火の中のお金を慌てて取り出しました。
「父さん、あんまりだよ。このお金を稼ぐために私がどれだけ苦労したかわかりますか。」
父親はその時になってやっと息子の手を握って言いました。
「やっと私が本当の私の息子に出会ったようだ。帰って来てくれてありがとう。」
父親は息子がどうあるべきかを悟ってくれる日を指折り数えて待っていたのでした。
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幸福な世界

2015-01-22 04:06:12 | 韓で遊ぶ


父と息子

人里はなれた山里の粗末な家に、農業をする父と娘一人、二人の息子が暮らしていました。
この家は3姉弟の中の一人しか学校へ通えないほどの貧しい暮らしでした。
考えた末、家族はなべを回して学校へ誰が行くかを決めることにしました。この特別な抽選の結果、学校へ行くことができる幸運は2番目の息子に回って行きました。
「お。えっ、、」
「約束通り、お前が学校へ行くことになった。」
「ご、、、ごめんね、姉さん。」
学校は小川の向こうにありました。2番目は姉さんと弟に対するすまない気持ちに答えようと、誰よりも一生懸命勉強しました。
夏が来て梅雨になりました。土砂降りの雨で水が増して小川は急流になってしまい、少年が学校へ行こうと行った時には、赤味を帯び濁った水が飛び石を飲み込んだ後でした。
その時、父が近づいてきて地団駄を踏んでいる息子を背中に負ぶって川を渡って行きました。
「ほほ、お前もずいぶん大きくなったな。」
父はいつの間にか大きくなって重くなった息子を頼もしく健気に思いました。
それから1ヵ月後、しばらく具合の悪かった父が寝込んでしまいました。
姉と弟は朝早くからお金を稼ぎに出て行き、2番目が父の世話をすることになりました。息子は欠席することが嫌でしたが、病んでいる父を家に一人置いて行くことはできませんでした。
父は病んだ体にもかかわらず、息子が学校へ行けないことを心配しました。
「コンコン、俺は大丈夫だ、早く学校へ行かないと、、」
息子はしばらく悩んだ末、父を背負って小川を渡って学校に向かいました。夏に父がそうしてくれたように、父を背負ってです。
教室の片隅の日のよく入る窓辺で、一日中息子を見守る父は、その一日が辛かったのですがとても幸福でした。
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