中古カメラ屋をひやかしていて棚の隅にMINOX Bを見つける。既にこの機種はコレクションしている。フィルムカメラ、ましてやMINOXフィルムのフォーマットなんて今の時代に絶対買ってはいけない。頭では理解しつつも気が付けば掌の中に。この機種は完全メカニカルシャッター。露出計まで付いていてこれがセレン式。電池などという軟なものとは無用の世界。小さなボディーにみっちりとメカが詰まっている。小さいながらも手にするとずしりと重い。自宅に持ち帰りちょっとの整備のつもりが分解を始めていた。20年ほど前にシャッター幕の交換をした経験があり、凡その手順は身体が覚えていた。途中やってはいけない所作では無意識に手が止まる。無茶をすると薄い薄いシャッター幕は折れ曲がり、スプリングは伸び切ってしまうのだ。下手に各所をいじると無限遠やパララックス補正が無茶苦茶になる。注意しながらスローガバナーに注油だけして組み戻す。ファインダーは少し曇っているけれど前玉の合わせ面なので手を出さない。ここは下手をするとガラスレンズを破損しかねない。外装をクリーニングして専用革ケースはデリケートクリームで保護。このカメラに付く長いチェーンは要所要所に球が付いていてこれが距離計になる。スパイ活動で機密書類の盗撮接写にはこれが重宝する。昔のTVドラマ「キーハンター」などではこのカメラが何度も登場していた。そして一番困ったのはこのカメラにはなんとフィルムが入ったままだった。昔、eBayでアメリカからアンティークカメラを盛んに買っていた時も稀にフィルムが入れっぱなしということがあった。30-40年前の何が写っているかわからないフィルムを現像に出していいものかの葛藤が始まる。知らない人のプライバシーを覗く罪悪感もある。ネットでも同じような経緯のフィルムを現像プリントした記事があった。フィルム前半は町の風景や幸せな家族写真。しかし途中で傾いてブレた家の庭、怒っている女性が写っていてそこで撮影は終わっていた。この幸せな一家にいったい何があったというのだ。デジカメになってからもカメラ本体メモリーに画像が残っていることがあった。顔認証で家族全員の笑顔が登録されているのを設定メニューに見つけたこともある。くれぐれも中古カメラを手放すときにはご用心なのだ。
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