都市部で進む、家電量販店の「デパート化」 ヤマダ・ヨドバシ・ビックの目指す方向とは
ITmedia ビジネスONLiNE 2025/1/28
国内の家電量販店市場は、既に成長が止まっている。家電出荷額は横ばいに推移しており、業界トップのヤマダホールディングス(HD)も、2010年度の2兆1532億円をピークに売上高が減少に転じ、2024年3月期の売上高は1兆5920億円となった。
家電販売で成長が見込めなくなったいま、大型量販店を構える各社が進めているのが「デパート化」である。家具売場や酒類売場を設け、中には食品スーパーを併設する店舗も多い。今回はヤマダ、ヨドバシ、ビックなど、各社が進めるデパート化施策をまとめていく。
●「非家電」を強化してきた業界の雄・ヤマダ
ヤマダHDは1992年の大規模小売店舗法改正後に大型店舗の出店を加速し、地方を中心に勢力を伸ばしてきた。2001年には家電量販店として売り上げが業界トップとなり、2010年度にピークの2.1兆円となった。だが市場規模としては既に頭打ちとなり、減少に転じた。
住宅関連の強化によって、店舗にも特徴が現れている。系列で店舗数が最も多い「テックランド」では、ニトリのように椅子やテーブル、寝具などの家具を取りそろえるコーナーがある。リフォームコーナーがある店舗では、キッチン設備も充実している。店舗数が縮小しているが、2017年から家具販売に力を入れる「家電住まいる館」の出店も進めてきた。
2021年からは、既存店を増築・増床する形で大型店「LIFE SELECT」の出店を進めて、2024年9月末時点で33店舗を展開する。もともと2007年に都市型店舗「LABI」としてオープンした池袋店は基本的に家電が多いものの、地下2階に薬局があるほか、5階の家具フロアには大塚家具ブランドの製品も取りそろえている。
このように同社は家具をそろえて「非家電」を強化し、店舗のデパート化を進めてきた。家具店はニトリを筆頭に都市部より郊外を主戦場にするチェーンが多く、郊外立地に強みを持つヤマダならではの施策といえる。
●ヨドバシは百貨店跡地へ 「衣食住」が充実
ヨドバシカメラは、これまで全国各地のターミナル駅近辺に超大型店を構えてきた。西武池袋本店の一部を買収したように、駅前1等地を狙っている。店舗数はヤマダHDと比較してかなり少ないが、1店舗当たりの規模が大きい。
中でも東京・秋葉原の「ヨドバシAkiba」と、大阪・梅田にある「ヨドバシ梅田」が代表的な店舗だ。2005年に開業したヨドバシAkibaは延床面積6万平方メートル超、1階から6階がヨドバシカメラのフロアで、地下1階と7~9階は専門店フロアとなっている。
ヨドバシカメラのフロアには通常の家電や電子機器の他、化粧品や酒類、アウトドア用品のコーナーがある。高級時計とキャリーバッグのコーナーはインバウンドでにぎわっていることが多い。8階のレストランフロアには居酒屋も入居している。
米ファンド・フォートレスを通じて西武・そごうの一部店舗を取得したヨドバシHDだが、既に千葉そごう・ジュンヌ館跡地に出店している。今後は西武池袋本店への出店を予定しているほか、西武渋谷店への出店も検討しており、秋葉原・梅田ほどの大規模店を再び出店する可能性は低いが、百貨店跡地を中心に勢力を拡大する見込みだ。
●規模は小さめだが、「薬局」が充実しているビック
ビックカメラは空港内店舗など小規模なものを除くと約50店舗を運営している。全国の主要駅付近に出店し、1店舗当たりの規模はヨドバシカメラよりも小さく、売り上げも2024年8月期は4503億円(単体)で、ヤマダ・ヨドバシほどではない。
店舗の構成はヨドバシカメラと似ている。非家電ではおもちゃ売場が充実しているほか、インバウンド向けのトラベル・時計コーナー、お酒売場もある。ただし店舗面積が限られているため、商品の選択肢は少ないと感じる。「本店」を名乗る池袋本店でも、PC類を道路の向かい側にある「カメラ・パソコン館」で販売するなど、複数店舗でラインアップを充足させている。
デパート化が目立つのは、2022年11月にオープンした千葉駅前店だ。池袋本店より規模が大きく、施設は9階建て。延床面積は約2万5000平方メートルだ。専門店もいくつか入居し、9階のレストランフロアには、サイゼリヤとくら寿司がある。
ビル1棟を開発することが多いヤマダデンキとビックカメラに対し、ビックカメラは商業施設や百貨店内のテナントとして出店することが多い。近年では三越日本橋本店への出店が話題となった。面積の都合上、店舗規模や品ぞろえは他の大型量販店より限られ、飲食店を併設する店舗も数少ない。
●独自性はヤマダが一歩リードか
ここまで見たように、家電量販店は各社とも非家電を強化し、デパート化を進めてきた。その中でヤマダは家具・インテリア、ヨドバシは専門店も入居する大規模店、ビックカメラは中規模店と微妙に毛色は異なる。
前述の通りニトリやイケアのような大手家具店の主戦場がロードサイドであることを考えると、駅前1等地を押さえるヨドバシ、ビックが家具・インテリアを強化したとして、成長できるかは未知数である。その点、ヤマダはやや独自性が強いかもしれない。
(管理人注;wikipedeia;ロードサイド店舗(ロードサイドてんぽ)とは、幹線道路など通行量の多い道路の沿線において、自家用車・オートバイ(原動機付自転車)でのアクセスが主たる集客方法である店舗のこと。特に郊外の主要幹線道路沿いに立地するものを指す場合が多い。「ロードサイド」とは沿道のこと)
ヨドバシ、ビックは駅前立地を生かし、インバウンド向け商品や高額品を陳列するなど、非家電の商品構成が似ている。ただ、商品選びの余地でいえば面積が大きい傾向にある前者に分があるだろう。とはいえ出店余地はビックカメラの方が大きく、今後も年5~10店舗ペースで、建物面積が最大で1平方メートル規模の店舗を出店する方針だ。
ちなみに、本稿で触れたヤマダのLABI1 LIFE SELECT 池袋は、旧三越池袋店の跡地に位置する。ヨドバシ、ビックも旧百貨店跡地への出店を進めてきたことを考えると、都市部でいえば、まさに家電量販店のデパート化が進んでいる。この流れは地方まで波及するか、注視したい。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。