作家・画家の大宮エリーさんの連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんぼのもんかと考えます。今回は研究者で実業家の成田悠輔さんとの出会いについてつづります。
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結論から言うと、成田さんに出会って日本の将来に少しだけ希望が持てたのである。普段、政治や国の話はしない私であるが、自分が学校をしているのも実は、心底国や政治に失望しているのが理由だったりする。国と切り離したコミュニティーがいると思うようになったのだ。けれど、成田さんは飄々(ひょうひょう)と、その持ち前の能力で、日本の今のたくさんある「なんかおかしいよね」に静かに着々と取り組んでいるのを知って驚いた。
「今例えば政治とか政府とか見ても、なんかおっさんたちが、集まってガヤガヤしながら決めてるじゃないすか。偉いおっさんたちがいなくても動いていくような社会にできないかなっていうのがあるんですよ」
わかるけど、どうやって? 成田さんは続ける。
「それに向けた準備作業として、ある企業のあるサービスを自動化していくとか、最適化していくみたいなことをやりながら、何か数十年とか100年たったら、社会がどうなるかっていうのを考える」
つまり新選組の潜伏期間みたいなこと? こりゃ本気じゃないかと思った。いきなり理想を掲げて進んでいくのをみると、本気なの? 成功するの?と思ってしまうのだが、彼ならやり遂げられるのかも。希望を持ちたくて意地悪なことを聞いた。
「権威の人たちが、どうぞどうぞってなりますかね?」
成田さんはサクッと答えた。
「あ、ならないので、よっぽどそのおっさんたちよりも強い機械を作り出さなくちゃいけないんですよね」
「これまで人間がやらなくちゃダメだって言われた医療をオンラインでもOKにする。例えば保育園とかベビーシッターみたいなものは、国の認可が下りた組織が、アプリでできるようにするとか。そういうすごい細かいものの集合体がその利権を覆していくと思うんです」
うれしくなって信じたくて、意地悪なことをもうひとつ聞いた。
「本当にやろうって思ってます?」
「そのタイミングを見計らってる。ちょっと大きな波がばあっと上がる瞬間を待たないといけなくて。二重戦略みたいなのが重要なのかな。撃ち落とされる可能性のある前線に出る人たちと、それを支える実行部隊の人たちみたいなのを、分けるような形で進んでいくしかない」
私が求めていた、本気でやろうとしている人の戦略ある聡明な答えだった。
「メディアに出てる人ってよりは、政府の会議とかでロビイングとかをやっている裏方系の人たちは、どう制度を変えたいという思いが具体的にあって、例えば子どもたちの生活の現状がどうなってるか、っていうことに関する情報を、もうちょっと自治体がちゃんと把握できるようにして、虐待とか、不登校とか、その手のことが起きそうな家庭を、事前に察知することができないかみたいなプロジェクトやったり」
よくはにかむ、変わった眼鏡の、朝起きられない、一体いつ日本にいるのかわからない彼が、東大なんてちょろくてMITにイェールにという最高頭脳を使い、あっという間に日本をよき方向に変えてくれる日がくるかもしれない。
そんな成田さんは、ご自身のことを、「最適化とか言ってるくせに自分の生き方に関しては効率化みたいなのは無縁で、できるだけ無駄なことをやりたいって感じなんです。人格分裂してるかもしれない」という。
成田さんは最後に神様が作って送り込んだ救世主なのかなと思った。
おおみや・えりー/1975年、大阪府出身。99年、東京大学薬学部卒業。脚本家、演出家などを経て画家として活躍。クリエイティブのオンライン学校「エリー学園」「こどもエリー学園」を主宰。現在、瀬戸内国際芸術祭(岡山県・犬島)で作品「フラワーフェアリーダンサーズ」を展示中
なりた・ゆうすけ/1985年、東京都生まれ。データやアルゴリズムでビジネスや政策をデザイン。2011年、東大大学院修了後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でPh.D.を取得。現在は米イェール大学経済学部助教授。半熟仮想株式会社代表。近著に『22世紀の民主主義』(SB新書)
※AERA 2022年9月12日号
(参考)成田さんは正確にはイェール大学 助教assistant professor:大学の教職((Professor)、准教授 に次ぐ職位にあたる。語学の壁もあり日本人で名門私立大学でこのポストを獲得するのは非常に難しいそうです。6年間の審査を受け准教授associate professorに昇進できるかどうかの難関壁が待っている。by管理人