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東京女子医大、"女帝"が残した「負の遺産」の実態 「女カルロス・ゴーン」が引き起こした機能不全  岩澤 倫彦        2025/2/3

2025年02月03日 19時16分00秒 | 今日のニュース
岩澤 倫彦        2025/2/3
コロナ禍を経て、巨額赤字を抱えた病院の姿が露呈しつつある。『週刊東洋経済』2月8日号の第1特集は「病院 大淘汰」だ。閉院が相次ぐ都市部や地方の実態に加えて、改革が成功し高成長を遂げた病院の実例など、医療の現場の今に迫る。

「女帝」といわれた、東京女子医科大学の岩本絹子・元理事長(2024年8月に理事長解任)は、1月13日に背任容疑で警視庁に逮捕された。新校舎建設に際し、業務実態がないにもかかわらず1級建築士に高額な報酬を支払い、大学に損害を与えた疑いだ。不正な報酬の中から、資金の還流を受けていたとみられる。

【写真】東京女子医大の"女帝"とはどんな人物だったのか

岩本元理事長が在任した5年余りで、女子医大の診療・研究体制は壊滅的な打撃を受け、優秀な医師や看護師が次々と去っていった。はたしてその再生は可能だろうか。

2014年、女子医大で鎮静薬プロポフォールを過剰投与された2歳男児の死亡事故が発生する。これを機に患者数が激減、厚生労働省から特定機能病院の指定を取り消された影響で、女子医大は経営危機に陥った。

コストカットで黒字化

経営立て直し役として、岩本元理事長は女子医大の副理事長に就任する。岩本元理事長は、1981年に同級生と都内で産婦人科クリニックを開業。いわゆる町医者だったが、女子医大の同窓会組織で影響力を持つようになっていた。

「岩本先生には女子医大のような1000床規模の病院を経営した経験がない。しかし創業家一族なので誰も反対できず、本人の強い希望で副理事長に就いた」(女子医大・元経営幹部)

岩本元理事長は、人事課や経理課、建築設計室などを束ねる経営統括部を新設。その担当になった。そして昇給の凍結や賞与の減額など人件費の削減を中心に、徹底したコストカットを断行する。

2015年度に基本金組み入れ前収支差額(純利益に相当)が37億円の赤字だったが、2017年度には6億円の黒字に回復した。だが、前出の元経営幹部は否定的だ。

退職者が続出

「経営再建を果たしたと岩本先生は自画自賛したが、実際は人件費を極限まで切り詰めた、見せかけの黒字化。だから『女カルロス・ゴーン』と揶揄された。給与は大学病院の中で最低ランクだったのに、昇給が止まり賞与も減額され、退職者が続出した」

(岩本理事長;画像はネットから借用)
岩本元理事長は学内では絶対的な権力者だった(写真:東京女子医科大学HP)© 東洋経済オンライン

女子医大で経営者としての地位を築くと、2019年に理事長のポストを手に入れる。前任理事長を追い出しての就任で、学内での発言力は絶対的なものになっていた。

だが、無理なコストカットのツケが回ってくる。医師や看護師が足りず、入院患者の受け入れを制限せざるをえなくなったのだ。

2020〜2022年度はコロナ補助金によって黒字を維持していたが、実質的に赤字体質が定着。「職員の減少→病床稼働数の減少→患者の減少→収益悪化」という負のスパイラルに陥っていた。2023年度の許可病床数は1190だが、稼働病床数は752にまで落ち込んでいる。

東京女子医大、"女帝"が残した「負の遺産」の実態 「女カルロス・ゴーン」が引き起こした機能不全
東京女子医大、"女帝"が残した「負の遺産」の実態 「女カルロス・ゴーン」が引き起こした機能不全© 東洋経済オンライン

プロポフォール事故を調査した第三者委員会は、再発防止策として小児集中治療室(PICU)の設置を提言した。ただし専門医が少ないために、PICUの実現は容易ではない。カナダの大学病院に勤務していた日本人専門医を招聘することになった。

「障壁になったのは女子医大の安い給与。岩本理事長に直談判して、一般病院並みの報酬を約束してもらった」(元女子医大関係者)

小児集中治療室の解体

カナダから帰国した医師は特任教授に就き、2021年7月、専門医6人体制でPICUがスタートした。しかし、岩本元理事長からすぐに手のひら返しを受ける。

「PICUは診療実績を積み上げると高い診療報酬が得られるが、最低でも1年間の実績は必要だと説明していた。だが経営陣は4カ月の時点で、採算が合わないと言い出した。約束された特任教授の報酬も減額されてしまった」(同)

さらに特任教授は契約を更新しない旨を通告され、6人の医師全員が退職を決めた。最終的に、わずか8カ月でPICUは解体されてしまったのである。

経営陣の場当たり的なPICUへの対応を批判した集中治療室(ICU)の医師にも、強権が発動される。ICU医師の降格や、責任者の減給など、不可解な理由で処分を連発したのだ。これに対して、ICU医師10人中9人が抗議の意を示して退職。ICUも機能不全に陥ってしまう。

女子医大は臓器移植に強い大学病院として定評がある。とくに脳死の臓器移植では、心臓、肝臓、膵臓(すいぞう)、腎臓に対応できる数少ない施設として認定されている。

「臓器移植は、手術後のICUでの管理が生着率(成功率)に大きく影響する。脳死移植の施設基準として、ICUが絶対条件になっている」(女子医大・外科医)

さらに脳外科、循環器外科、消化器外科など、高度な手術にもICUは必要不可欠だ。

重要部門のスタッフを追い出した大学経営陣に、有志の教授ら7人が連名で説明を要求した。だが経営陣は「対応に問題はない」と強弁するばかりだった。

2024年7月、文部科学省に申し入れをした有志の教授ら(写真:岩澤倫彦事務所)

2024年7月、文部科学省に申し入れをした有志の教授ら(写真:岩澤倫彦事務所)© 東洋経済オンライン

岩本元理事長には人的資源の重要性がまったく理解できていなかった。理事長に就任する前の2018年度と2024年度を比較すると、新宿にある付属病院(本院)だけで、医師と看護師がそれぞれ約200人も減少。これを以前のレベルに回復するのは容易ではない。

今回の不正発覚によって、国から受け取る私学助成金は「保留」になっている。2023年度は20億円だったが、2024年度はゼロ、翌年以降も大幅な減額になるのは避けられない。不祥事が多発した日本大学は3年連続でゼロになった。

昨年、岩本理事長が解任され、理事と監事、評議員が一新された。理事長には元大蔵官僚の清水治氏、学長には女子医大に36年間在籍した元教授の山中寿氏が就任した。

新たに就任した、清水理事長(左)と山中学長(写真:岩澤倫彦事務所)

新たに就任した、清水理事長(左)と山中学長(写真:岩澤倫彦事務所)© 東洋経済オンライン

カギを握るICUの再建

女子医大の再生で、最大のカギを握るのはICUの再建だ。取材に対して、山中学長は退職したICU医師らに「岩本元理事長らによる非礼を謝罪」したうえで、三顧の礼を尽くし、復職を依頼する考えを明かした。

岩本元理事長の不正が明るみに出た契機は、2人の職員の内部告発だった。2022年に女子医大は「情報漏洩」を理由に2人を懲戒解雇処分にした。さらに身分回復を求めて東京地裁に提訴した2人に対して損害賠償を求めて反訴し、現在も法廷での争いを継続中だ。

この対応を見ると、岩本元理事長による「負の遺産」が今も女子医大に残っていると言わざるをえない。こうしたウミを出さなければ、女子医大に対する不信感は、いつまでもくすぶり続けるだろう。

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