大阪・北新地のクリニックで起きた放火殺人事件で、一酸化炭素(CO)中毒による蘇生後脳症と診断され、意識不明の重体だった谷本盛雄容疑者(61)が30日午後、入院先の病院で死亡した。大阪府警が明らかにした。谷本容疑者の刑事責任を問うことはできなくなり、動機などの全容解明も見込めなくなった。
事件は17日午前10時15分頃、大阪市北区曽根崎新地にある8階建て雑居ビルの4階に入る「西梅田こころとからだのクリニック」で発生。消防隊の到着時、クリニック内にいた患者ら26人は奥の診察室側で、いずれも心肺停止の状態で倒れていた。谷本容疑者は出入り口側で倒れており、最初に救急搬送されたとみられる。
捜査関係者によると、谷本容疑者も心肺停止状態だったが、大阪市内の病院で治療を受け、人工心肺装置を使って、いったん蘇生。ただ、それまでに十分な酸素が届かなかったため、脳に深刻な損傷を負い、蘇生後脳症と診断された。
府警によると、意識が戻らない状態が続いていたが、30日午後7時5分、死亡が確認されたという。
患者ら26人のうち、25人は死亡。残る女性1人は重篤な状態が続いている。
なぜ「ザワ」が犠牲に、真相を知りたかった 絶えない献花と悔やむ声
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放火現場前では大みそかにも多くの人が手を合わせた=2021年12月31日午後0時12分、大阪市北区、西岡臣撮影
25人が犠牲になった大阪市北区の放火殺人事件は、12月31日で発生から2週間がたち、現場には献花に訪れる人々の姿があった。30日には、重篤な状況が続いていた谷本盛雄容疑者(61)が死亡。現場を訪れた人々からは、事件の全容が解明されないことを悔やむ声が聞かれた。
【写真】放火現場前では大みそかにも多くの人が手を合わせた=2021年12月31日午後0時19分、大阪市北区、西岡臣撮影
現場のクリニックが入る雑居ビル前。冷たい風の中、次々と人が訪れ、歩道脇の配電設備の周りに花を手向けた。
事件で亡くなったクリニック院長の西沢弘太郎さん(49)と小学校の同級生だった女性(48)=埼玉県=はこの日、大阪に帰省。娘を連れて、真っ先に現場を訪れた。
西沢さんのことは「ザワ」と呼び、お互いの家を行き来する間柄だったという。「彼はランドセルが緑色で、我が道を行くタイプ。楽しい人でした」。「せめて気持ちだけでも」とコーヒーを供え、ビルの4階に向かって手を合わせた。黒く焦げた窓枠や天井を見つめ、涙を浮かべた。
谷本容疑者が死亡し、事件の真相解明は難しくなる恐れがある。女性は「何とか事件の真相を聞きたかった。残念(な気持ち)しかないです」と悔やんだ。
朝日新聞社