2020年6月4日 07時17分 東京新聞
◆関東学院大教授(英王室研究)・君塚直隆氏
ヨーロッパ諸国の王室の大半は、男女平等の観点から女性の王位継承権を認め、二十世紀後半から性別に関係なく第一子を優先する「絶対的長子相続制」を導入してきた。日本も皇位継承権を「男系男子」に限定した皇室典範を改正するべきだ。天皇制の維持には国民の支持が不可欠であり、世論調査の支持率が高い愛子内親王を皇位継承順位第一位に据えるべきだろう。
現行の典範は、明治時代に作られたものとほとんど変わらず、その明治の典範にしても歴史は浅い。日本では確かに皇位は男系男子を中心に継承されてきたが、あくまでも慣例であって皇室史上八人・十代(二人は重祚(ちょうそ))の女性天皇がいた。男系男子にこだわるべき明確な歴史的根拠はない。
明治に神話時代からの「万世一系」という男系男子による皇統存続の必要性が強調され、女帝が排除された。背景に欧米列強による植民地化を免れ、強力な近代国家を形成するため、君主の天皇は「陸海軍の大元帥」にして「統治権の総攬(そうらん)者」でなければならなかったという事情があった。
しかし、第二次世界大戦で敗北後、天皇は新憲法で象徴天皇となり、政治に極力関わらず、儀礼的な存在としての側面を強めた。このとき戦前の典範を全面改正すれば良かったが、政界は新憲法の作成だけでも精いっぱいで、典範にはほとんど手を着けなかった。
いまの皇族の減少と高齢化という「負のスパイラル」は、すべて典範に元凶がある。旧弊を改正しない限り、悠仁親王の配偶者となる女性も男子出産のプレッシャーを受けることになり、大きな人権問題だ。
ヨーロッパ諸国の王室では、あと三十年ほどすれば、愛子内親王と同世代の女性君主が次々と誕生する。日本も性別に縛られない皇位継承制度を導入し、女性皇族も男性皇族と同様に結婚後も国民のために働いてもらってはどうか。
保守派は戦後に皇籍離脱した旧宮家の血筋の男性を皇籍復帰させる案を発表したが、七十年も民間人として暮らし、顔も名前も知らない人物の皇室入りを国民が支持するとは思えない。 (聞き手・阿部博行)
=おわり
男女問わず第1子(長子)を優先して王位継承者とするヨーロッパの君主国
()は法改正年
スウエーデン (1979年)
オランダ (83年)
ノルウエー (90年)
ベルギー (91年)
デンマーク (2009年)
ルクセンブルグ (11年)
英国 (13年)
*スペインとモナコは男子優先(女子も継承権を有す)
リヒテンシュタインは男子のみ