《長嶋茂雄の名ゼリフ「わが巨人軍は永久に不滅です」みたいだな》

ネット上では驚きと嘲笑の声が広がっている。自民党内の議員グループや勉強会で、安倍晋三元首相を「永久顧問」とする動きが相次いでいる──などと報じられたことに対してだ。

安倍氏が顧問を務めた保守系議員グループ「保守団結の会」(代表世話人・高鳥修一衆院議員ら)は29日の会合で、安倍氏を永久顧問にすることを決定。高鳥氏は記者団に「わが会に引き続き名前を残す。しっかりと安倍イズムを継承していく」と説明。安倍氏が最高顧問だった「産業や伝統文化等への麻の活用に関する勉強会」(会長・森山裕選対委員長)も同日の会合で、安倍氏の肩書を永久顧問に変更した。

だが、こうした動きに対し、「いったい何を考えているのか」と憤るのは福田赳夫元首相の秘書で、自民党本部情報局国際部主事を務めた中原義正氏だ。

「亡くなった人を顧問に据えて何をやりたいのか。そもそも、銃撃事件がなぜ起きたのかといえば、安倍元首相が旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)のお先棒を担ぐような真似をしていたからだろう。何が名誉なのか。今、政府・与党の国会議員がやるべきことは、安倍イズムの継承などではなく、銃撃事件が起きた背景をしっかりと調査し、2度とこうした悲劇を繰り返さないために何をするべきなのかということだろう」(中原氏)

ネット上でも、《これはさすがにどうなのか。旧統一教会も今後、永久顧問の安倍元首相も我々の活動を応援していました、などと永久にアピールするのでは》、《東京五輪組織委が女性蔑視発言で会長を辞任した森喜朗元首相を「名誉最高顧問」に就けようとしていたが、それよりひどいな》といった声が出ている。

 世論の逆風の中で準備が進む安倍晋三元首相の国葬。旧統一教会問題で揺れる岸田政権が、実施理由に挙げるのが「弔問外交」だ。来日する要人の格や参列国数が注目されてきたが、今回は仮に国葬が行われたとしても、盛り上がりに欠けるという予想もある。そもそも「弔問外交」はいつから始まり、どんな効果があるのか。歴史をひもといてみた。(特別報道部・西田直晃、宮畑譲)

◆元外交官「下準備なし。意義深いものにならない」

 政府の過去の国会答弁によると、弔問外交は「元首等の葬儀に参列した各国の要人の間で行われる外交」を指す。
 ただ、国連やサミットのような交渉があるわけではない。元外交官の天木直人氏は「葬儀とは別に参列者が一堂に会する場はあるが、私の記憶では、特定の外交課題を話し合うことはなかった。副次的にもたらされるものがあるとしても、成果を期待しにくい」と証言。元外交官で平和外交研究所の美根慶樹代表も「どういうクラスの代表が来るかは、そのときどきの状況による。外交で結果を出すには準備が必要。下準備を経ずに元首級の人物と会っても、意義深いものにはならない」と強調する。
 安倍氏の国葬が行われた場合、誰が訪れるのか。今のところ米国のハリス副大統領やカナダのトルドー首相、インドのモディ首相らが参列を表明している。
 だが、当初は出席の意向だったマクロン仏大統領が「内政の予定」を理由に撤回。ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻で日本政府の制裁対象となり、不参加が決定的だ。

◆「シンゾー・ドナルド」のトランプ氏は参列せず

2019年9月25日、米ニューヨークで、日米貿易協定締結で最終合意し、握手する当時の安倍首相(左)とトランプ大統領=AP

2019年9月25日、米ニューヨークで、日米貿易協定締結で最終合意し、握手する当時の安倍首相(左)とトランプ大統領=AP

 同盟国の絆をアピールしてきた米国は、現・前大統領が不参加に。日米関係に詳しい明治大の海野素央教授は「バイデン大統領は11月の中間選挙での勝利に躍起。現職大統領には不利な選挙にもかかわらず、上下両院で善戦の兆しが出ており、国内を離れないためにハリス氏の訪日を決めた」と説明する。
 安倍氏と蜜月関係を築いたトランプ前大統領についても「機密情報持ち出しが、米国民の一番の関心事だ。家宅捜索されたトランプ氏はリークした人物を捜し出すことに必死。大統領選再出馬のためにも国葬どころではない」という。
 安倍氏は「地球儀を俯瞰する外交」を掲げていたが、元首級の参列者は限定的。さらに海野氏はこう指摘する。「日本の国論が二分されていることも米国は分かっている。儀礼以上の外交成果が期待できる場にはならないのでは」

◆吉田茂氏国葬も元首級出席の記録なし

 安倍政権で関係が冷え込んだ中国の動向はどうなるか。明治大の羽根次郎准教授(現代中国論)は「エネルギー危機に伴う物価急騰は今後も深刻化する。親中派の二階俊博元幹事長が国葬擁護にかじを切ったのは、対中関係の再構築で国民生活の改善を図るため、国葬を利用したい思惑がありそうだ」とみる。
 「日中国交正常化50年でもあり、習近平国家主席とはいかなくても、李克強首相や王毅外相といった対日政策に影響力を持つ人物が訪れるのでは。逆にそれなりの人物が来なければ、日本のメンツはつぶれる」
 ちなみに戦後唯一の国葬だった1967年の吉田茂元首相の葬儀には、西ドイツ下院議長、中華民国(台湾)国民政府秘書長、元連合国軍最高司令官のリッジウェー氏らが来訪。72カ国の駐日大使やその妻らも含め136人が参列したが、元首級の名前は記録にない。国葬終了後の夜、外国代表へのレセプションが首相官邸で開かれたことだけが短く記されている。
 

◆成果出すには国際社会動かす人物の出席が必要

小渕首相(当時)の合同葬で参列者に頭を下げ、献花に向かうクリントン米大統領㊧=2000年、東京・日本武道館で

小渕首相(当時)の合同葬で参列者に頭を下げ、献花に向かうクリントン米大統領㊧=2000年、東京・日本武道館で

 「弔問外交」にスポットが当たった例としては、1980年の旧ユーゴスラビア・チトー大統領の葬儀が知られている。第2次世界大戦でファシズムに抵抗した指導者で、戦後は第3世界諸国との非同盟運動の創始者。東西冷戦下、115カ国・地域の代表119人が参列した。
 移動手段の発達もあり、弔問外交はさらに定着していった。2013年に死去した南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領は、人種融和、反差別の象徴として尊敬を集めており、各国の首脳が駆けつけて「世界最大の弔問外交」とされた。
 日本では、1989年の昭和天皇の「大喪の礼」に、163カ国、国連など28国際機関からの弔問使節団を迎えた。活発な外交が行われ、インドネシアと中国の国交回復の契機になったとされる。元外務省国際情報局長の孫崎享氏は「各国の要人が一堂に会するのはどういうときも貴重。国際的な問題があっても、弔問を理由に集まることができる」と解説する。
 しかし、このまま安倍氏の国葬が行われても、国連安保理常任理事国の首脳が来日する可能性は低い。「国際社会を動かす重要な人物が来ないとなると、実質的に意義ある外交とは言えない」と話す。

◆内閣・自民党の合同葬でもよいのでは

 日本の首相の葬儀はどうだったのか。在職中の1980年に亡くなった大平正芳氏の葬儀では103カ国の254人が弔問。カーター米大統領、華国鋒中国首相が来日し、米中首脳会談が実現した。2000年に死去した小渕恵三氏の際も153カ国・3地域の377人が参列。クリントン米大統領や金大中韓国大統領ら多くの首脳が参列した。
 退任後は少し変わってくる。1995年に死去した福田赳夫氏の場合、120数カ国から約180人の各国弔問使節団が参列したが、訪れたのはシュミット元西ドイツ首相らだった。国際政治学者の舛添要一氏は「安倍氏が現職中に亡くなったのなら話は変わるが、『元首相』なら他国も経験者を送ることが多い。それは日本も同じだ」。
 大勢の海外要人が訪れた三氏の葬儀は、いずれも内閣・自民党の合同葬だった。こうしてみると、国葬でなくても弔問外交はできるのでは、という疑問も浮かんでくる。

◆世界の緊張緩和期待、見通し立たず

 ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「岸田氏が国葬を決めたのは、安倍氏と親しい保守系議員に気を使った面がある。弔問外交というのは、国葬への批判が高まるにつれて出てきた後付けの理由だ」と指摘する。岸田首相は31日に国葬について記者会見する予定。「見ものですね。納得できる説明ができるのか、かなり苦しいと思う」
 舛添氏も「各国は安倍氏が銃撃された背景に旧統一教会の問題があったことを冷静に見ている。それに政府は弔意や半旗を掲げることも求めない。それでは、もはや国葬とは言えない。そうなると、他国は『行っても仕方がない』となる。外交としての効果は期待できない」とにべもない。
 弔問外交に期待されるロシアのウクライナ侵攻終結や台湾問題の緊張緩和も、見通しは立たない。一方で、プーチン氏は11月にインドネシアで開かれるG20首脳会議には参加する意向を示している。孫崎氏は指摘する。
 「インドネシアはウクライナ問題で外交的な努力をしているが、日本の動きは全く見えない。小渕氏のころは、経済的にも日本が重要な地位を占め、少しは独自の外交もしていた。今は基本的に米国の政策に従うと見透かされている。そんな国を相手にしても仕方がないと世界は考えている」

◆デスクメモ

 〈反対が多くても押し通す〉〈外交を理由に正当化する〉。既視感の正体は「五輪外交」を掲げた東京五輪だ。「復興五輪」が「コロナに打ち勝った証し」に変質。外交の印象は薄かった。「暴力に屈せず、民主主義を守り抜く」に代わる国葬の理由が、「弔問外交」と言われても…。(本)
8/31(水)朝刊チェック:国葬で弔われるのは安倍晋三ではなく日本国かもしれない。
 
ワールドメイト これもカルト
深見東州(半田晴久)の活動が10分ちょっとでわかる動画
 
2022/8/31【LIVE】安倍元首相の国葬の意義説明へ 岸田首相会見
 

安倍元首相の国葬に消える血税は最大70億円! 岸田政権がヒタ隠す“本当の費用”を試算

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日刊ゲンダイDIGITAL

3年前の「即位の礼」と同規模