自民党の茂木敏充幹事長が窮地に陥っている。原因となったのは、1月25日の読売新聞の報道だ。同紙は1面カタで、自民党執行部が清和政策研究会(清和会、安倍派)の塩谷立座長のほか、松野博一前官房長官ら、いわゆる「5人衆」らを念頭に「安倍派幹部に離党要求」との記事を出したのである。
この記事を見てすぐに動いたのが清和会元会長で、今なお同派に影響力を持っている森喜朗元首相だった。森氏は即日、衆院議員会館内の麻生太郎副総裁の事務所を訪れ、読売新聞の記事にある「執行部」に岸田文雄首相や麻生氏も含まれるのか質した。清和会関係者によれば、麻生氏は「知らない」との回答だったという。岸田首相も同様で、「執行部」とはなっているが、茂木氏の独断だったことが判明した。
茂木氏は読売新聞に勤務した経験があり、読売新聞グループ本社の渡辺恒雄主筆のもとをしばしば訪れるなど、今でも他のメディアとは「別格」の扱いをしてきた。読売新聞の女性記者が茂木氏に食い込んでいることもあり、しばしば特ダネを出している。今回、茂木氏が出所だということをカモフラージュするため「自民党執行部」という主語にしたとみられる。
いきなり紙面を通じて離党要求を突き付けられた形の清和会幹部らは、強く反発。茂木氏は萩生田光一前政調会長に何度も電話し、釈明に追われたという。
これに追い討ちをかけるように、平成研究会(茂木派)の小渕優子選対委員長、そして青木一彦参院議員が相次いで派閥離脱を表明した。小渕氏の父は平成研会長を務めた小渕恵三元首相。青木氏の父は小渕内閣で官房長官を務め、「参院のドン」と呼ばれた青木幹雄元参院議員会長だ。この2人の「後見人」ともいえる存在が森元首相であり、自民党内では、
「清和会に喧嘩を仕掛けてきた茂木氏に打撃を与えるために、森氏が動いた」(閣僚経験者)
との見方がもっぱらだ。
岸田首相による宏池会の解散表明、そして清和会の混乱に乗じて政局の主導権を握ろうとした茂木氏だが、逆に包囲網を敷かれる形となった。平成研では派閥離脱を表明する議員がさらに増える見込みで、
「これで茂木さんは、ポスト岸田の芽は完全になくなった」(自民党幹部)
策士策に溺れる、とはまさにこのことだろう。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)
【参考】↓
自民執行部、安倍派幹部に離党要求…立件見送られた「5人衆」ら念頭
自民党執行部が、派閥による政治資金規正法違反事件を巡り、立件対象とならなかった安倍派幹部について、自発的な離党や議員辞職を求めたことがわかった。自ら身を処さない場合、党として厳重な処分を科すことを検討している。
事件に関して十分な説明をせず、政治的な責任も取っていないとして、世論や自民党内で批判が高まっていることから、厳しく対応せざるを得ないと判断した。
安倍派幹部としては、同派座長の塩谷立・元文部科学相や、派閥の事務を取り仕切る事務総長を務める高木毅・前国会対策委員長、松野博一・前官房長官など同派中枢の「5人衆」らを念頭に置いている。党則に基づく処分には、党の役職停止、離党勧告、除名などがある。
安倍派幹部らは東京地検特捜部から立件を見送られたが、自民が事件を受け、政治改革を検討している「政治刷新本部」(本部長・岸田首相)の中間とりまとめ案では、「関係者による明確な説明責任に加え、あるべき政治責任についても結論を得る」と明記した。
安倍派では、政治資金パーティー収入の販売ノルマ超過分を所属議員側にキックバック(還流)することが慣習化し、議員らは政治資金収支報告書に記載せずに裏金化していたとされる。
塩谷氏が記者会見で「全く知らなかった」と述べるなど、安倍派幹部は自らの関与などに関し、詳しい説明を避けている。党内では、「進退をもってけじめをつけるべきだ」との意見が多く出ている。