コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」
無症状者への検査と院内感染への備えは不十分
11月21日、菅義偉首相は新型コロナウイルス(以下、コロナ)が拡大している地域での、「Go Toキャンペーン」の運用を見直すことを表明した。遅きに失した感もあるが、時宜を得た対応だ。
冬場を迎え、全国的にコロナ感染が拡大するなか、税金を投じて人の移動を促進させるのはめちゃくちゃだ。こんなことを続けていたら、感染を拡大させるだけでなく、経済も悪化する。いま、政府がやらなければならないのは、国民に移動を自粛するように呼びかけることだ。これが世界の標準的な対応だ。米疾病対策センター(CDC)は、11月26日の感謝祭に合わせた旅行を控えるように促している。
「Go Toキャンペーン」は、日本のコロナ対策を象徴する存在だ。エビデンスに基づく、合理的な対応がなされていない。本稿では、この点について論じたい。
日本のコロナ対策は科学的か?
11月11日、イギリスの『エコノミスト』誌は「政府のコロナ対策は科学的ですか」という記事を掲載した。この記事では、世界各国の約2万5000人の研究者に対して、24カ国を対象に、政府のコロナ対策が、どの程度科学的かを聞いた研究が紹介されていた。この記事を読めば世界が日本のコロナ対策を、どう評価しているかがわかる。
この研究では、最も科学的と評価された国はニュージーランド、次いで中国だった。70%以上が「科学的」と回答している。一方、最も「非科学的」なのはアメリカ、次いでブラジル、イギリスと続く。
アメリカについて「科学的」と回答した研究者は約20%で、約70%が「非科学的」と回答している。日本に対しては約40%が「科学的」、25%が「非科学的」と回答している。日本は24カ国中17位、アジア5カ国中最低で、日本のコロナ対策の評価は低い。
この評価は日本のコロナ対策の実情を反映している。日本のメディアはあまり報じないが、日本は死者数、経済的ダメージともに大きい。下記の表は東アジア4カ国の人口10万人当たり死者数、GDPの前年同期比を示したものだ。直近の7~9月期の場合、死者数は0.5人、GDPはマイナス5.8%だ。いずれも東アジアで最低である。
(外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
7~9月期は、コロナが猛威を振るった欧州の多くの国より、経済ダメージは大きくなっている。10月28日現在、7~9月期の経済統計が公開されていないロシア・ポーランドを除く、人口3000万人以上の欧州5カ国で、日本より経済ダメージが大きいのはイギリスとスペインだけだ。ドイツに関しては、死者数も日本と変わりない。
日本のコロナ対策費の総額は約234兆円で、GDPの42%だ。これは主要先進7カ国で最高だ。ドイツとイタリアは30%台、イギリス、フランス、カナダが20%台、アメリカが15%台だ。日本のコロナ対策の費用対効果は極めて悪い。
日本の検査体制はこのままでいいのか
何が問題か。主要なコロナ対策は、マスク、ソーシャル・ディスタンス、検査だ。
日本がマスク着用、ソーシャル・ディスタンスの点で優等生であることは改めて言うまでもない。問題は検査だ。厚労省の方針で、PCR検査数は、先進国最低のレベルに抑え込まれている。私は、この方針を貫けば第3波でさらに大きな被害を生じると考えている。
それは、第3波では、若年の無症状感染者の占める割合が高まっているからだ。彼らが職場や家庭、さらに「Go Toキャンペーン」などを介して、感染を拡大させている。
このことは世界も注目している。11月12日、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは「新型コロナの症状観察、無症状感染者をほぼすべて見落とし=研究」という記事を掲載した。
この記事は、11月11日、アメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』オンライン版に掲載されたアメリカ海軍医学研究センターの臨床研究を紹介したものだ。
この研究の対象は、1848人の海兵隊員の新兵だ。彼らは、サウスカロライナ州のシタデル軍事大学に移動し、訓練を開始するにあたり、14日間の隔離下に置かれた。その際、到着後2日以内に1回、7日目、14日目に1回ずつ合計3回の検査を受けた。この結果、51人(3.4%)が検査陽性となった。
意外だったのは、51人すべてが定期検査で感染が確認され、46人は無症状だったことだ。残る5人も症状は軽微で、あらかじめ定められた検査を必要とするレベルには達していなかった。若年者は感染しても、無症状者が多く、有症状者を中心とした検査体制では、ほとんどの感染者を見落とす可能性が高いことを示唆している。
さらに、51人の検査陽性者のうち、35人は初回のPCR検査で陰性だった。多くは入所後に感染したのだろう。この事実は無症状の感染者を介して、集団内で感染が拡大したことを意味する。この研究は、これまでに実施された無症状者スクリーニングの世界最大の研究だ。信頼性は高い。だからこそ、世界最高峰の医学誌である『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』が掲載し、ウォール・ストリート・ジャーナルが紹介した。
日本でも、無症状感染者の存在は確認されている。10月15日、世田谷区は区内の17の介護施設の職員271人にPCR検査を実施したところ、2人(0.74%)が陽性だったと報告している。流行が拡大した現在、無症状感染者の数はさらに増加している可能性が高い。
厚労省は無症状者への検査に消極的
ところが、厚労省は無症状の人に対する検査に消極的だ。7月16日、コロナ感染症対策分科会は「無症状の人を公費で検査しない」と取りまとめている。現在も、この方針を踏襲している。厚労省はさまざまな通知を濫発しているが、対応を抜本的に見直す気配はない。
飲食店やイベントでの感染リスクに対する考え方も変わってきた。コロナ対策の研究が進んだためだ。
特記すべきは、10月30日~11月1日の3日間、横浜スタジアムで実施された実証実験だ。プロ野球の横浜DeNAベイスターズの公式戦の収容人数を、現行の上限である50%から80%以上に段階的に増やしながら、人の流れや場所ごとの混雑状況、さらに感染拡大に与える影響を調べた。
11月12日に公表された速報によると、来場者は初日が1万6594人で収容率51%、2日目は2万4537人で76%、最終日は2万7850人で86%だった。この中には、少なからぬ無症状感染者がいたはずだ。
ところが、本稿を執筆している11月23日現在、クラスター発生は報告されていない。屋外での大規模イベントを安全に実施できたことになる。そもそも屋外で感染リスクが低いことに加え、声を出しての応援の禁止、マスク着用、人混みを回避しソーシャル・ディスタンスを維持するなど、対策がうまくいったのだろう。
感染リスクが高いとされる飲食店についても同様だ。マスコミ報道では「過去最多となる23人の感染が明らかになった愛媛県では、6人が松山市内のスナック2軒の従業員や客だった」「静岡県内でも飲食店関係者7人の感染を確認した沼津市内の接待を伴う飲食店について新たにクラスターとして認定した」(いずれも日本経済新聞2020年11月23日)などの記事が目立つが、第3波でクラスターの中味は変わってきている。
第2波までは飲食店、とくに接待を伴う飲食店が中心を占めたが、第3波では、医療機関、教育機関、介護施設などに多様化している。