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コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう BIG BROTHER VS COVID 2021年5月6日(木)18時45分   Newsweek

2021年05月15日 16時01分34秒 | 感染症

ワクチン接種率でも大きく後れを取る日本、感染の再拡大が続き、経済のダメージも大きい FIERS-ISTOCK

<大動員+デジタル技術でコロナ抑え込みに成功しているのは、中国だけではない。感染症対策に限らず、多くのメリットを生み出す行政デジタル化。日本も志向するが、ウイグル問題のような人権侵害はどう防ぐのか(後編)>

※前編より続く:コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体

大動員とそれを支えるデジタル技術は、中国のみに見られるものではない。

韓国では大規模なPCR検査、調査スタッフを増員しての感染経路追跡という動員に加え、国民IDである住民登録番号に基づき、出入国履歴やクレジットカード、交通カードの利用履歴、携帯電話の位置情報など各種情報の統合、さらに監視カメラ映像の活用まで行っている。

なぜ、韓国はこのような対策を採ることができたのか。「韓国の感染症関連の法制度はもともと日本と大きく異なるものではなかった」と、国民IDに詳しい國學院大學の羅芝賢(ナ・ジヒョン)専任講師は指摘する。

転機となったのは2015年のMERS(中東呼吸器症候群)流行だ。国民の不安感が増大し、激しく政府を突き上げたことで緊急の法改正が行われ、前述の情報活用は合法化された。

コロナ対策の成功例として知られる台湾でも同様で、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行をきっかけに、動員体制と国民IDである身分証統一番号の活用を含めた情報収集、統合の仕組みが整えられている(関連記事:コロナ封じ込め「デジタル監視」を台湾人が受け入れる理由)。

一方、日本は1960年代以後、何度か国民IDの導入を試みてきたが、いずれも失敗に終わった。現行のマイナンバー制度も普及率は低い。

「世界的に見ても、導入を実現したのは韓国、台湾、エストニアなどの後発福祉国家ばかり」と、羅講師は指摘する。「アメリカやイギリス、ドイツ、日本などの先発福祉国家は失敗している」

後発福祉国家では、既存の住民番号を流用する形で新規の社会保障サービスが導入され、複数の行政情報を統合する国民IDが形成されてきた。中国の身分証も、80年代に導入された仕組みが、その後多くの行政サービスに活用されるという形で発展してきた。

一方、先発福祉国家では、行政サービスごとに個別の管理体系が構築されている。日本では戸籍、住民票、健康保険、納税などの事業ごとに番号が分かれ、それを管理する主体も異なる。

それらの統合にはコストがかかる上、市民にとってメリットに乏しいため受け入れる動機が弱い。羅講師は「福祉行政の向上をもたらさない形での国民ID導入は今後も難しい」と予測する。

日本も中国と「同じ方向」へ

近年の急激なデジタル技術の発展は、福祉の向上だけではない、多くのメリットをも生み出している。その最先端を走る中国では、国民IDを軸としたデータ統合により、行政効率が大きく向上した。

結婚や住宅ローン申し込みなどのたびに、無数の役所を駆けずり回らなければならないのが中国人民の不満のタネだったが、近年ではスマホ一つで完結することも多い。一部地方では離婚届までスマホで提出できるという徹底ぶりだ。

 
中国では大々的に利用されたスマホアプリ「健康コード」で人の移動を把握した(河北省の映画館) CAO JIANXIONG-VCG/GETTY IMAGES
 

中国政府は「データを走らせよ、市民の足を引っ張るな」をスローガンに、行政デジタル化は国民の利益に資するものとして強烈に推進している。

民間での活用も進む。大手IT企業アリババグループが開発したAIスコア「芝麻信用」は、モバイル決済、ネットショッピングやウェブサービスの利用履歴と犯罪歴などの行政データを組み合わせることで、個人の信用を点数化する。

伝統的な金融サービスでは、屋台の店主のような零細事業者が融資を受けることは難しかったが、屋台でもちゃんと客が付いているという支払いデータがあり、かつ犯罪歴がないなどのデータと照合して信用を証明できれば、融資が受けられるようになる――。筆者の取材にアリババの担当者が答えた言葉だ。

大企業の社員や不動産資産の保有者しか使えなかった金融サービスを、より多くの人が享受できるようにした「金融包摂」の成功例とされる。

データ活用はコロナ対策にとどまらず、大きな価値をもたらす。となれば、その基盤となる国民IDの導入にこれまで後ろ向きだった先進国で変化が生まれるのではないか。

「日本も基本的には中国と同じ方向に向かっている」

情報化社会や監視社会を研究する慶應義塾大学の大屋雄裕教授(法哲学)は言う。日本の未来戦略である「ソサエティー5.0」の構想を見ると、中国との共通点は多い。

「今までの情報社会では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。ソサエティー5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになります」(内閣府ホームページ)

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日本では統計「手作業」問題に限らず、行政デジタル化の遅れがコロナ対策の足を引っ張っている RODRIGO REYES MARIN-ZUMA PRESS-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

 

国民IDとなるマイナンバーカードはソサエティー5.0実現の基盤と位置付けられ、政府は普及活動に力を入れている。また、日本でも既に先駆的なデータ活用の取り組みは存在している。

例えば大阪府箕面市では、これまで学校や各行政部局がばらばらに持っていたデータを集約、分析し、家庭の問題や子供の虐待を発見する「子ども成長見守りシステム」を開発した。身長や体重など発育の遅れ、成績の急落といったデータから、問題の予兆をいち早くキャッチすることができる。

「現在は自治体単位の取り組みだけに、越境通学している子供のデータは追えない。行政コストの削減に加え、新たな技術によるデータ活用のためにも、データの統合と活用は不可欠だ」(大屋教授)

抑止的手段をどう組み込むか

一方で、権力の暴走にもつながりかねないとの危惧もある。この点でも、中国は「先進国」だ。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは2019年に「新疆で稼働する大規模な監視システム」と題した報告書を発表した。

 

海外在住の親族はいないか、ファイル交換ソフトを使用していないか、出国歴はあるかといった複数のデータを統合することで、「危険思想予備軍」を選び出し、予防的に拘束していると指摘した。既に100万人を超えるウイグル人住民が収容施設に拘束されるなど、デジタル技術が人権侵害のツールとして活用されている。

データの統合と活用にメリットがあるとしても、権力の暴走というデメリットをいかに防ぐのかが問われている。

「データの統合を認めつつも、問題がある手法を取っていないかを事後的にチェックしていく制度をセットにする必要がある」と、大屋教授は指摘する。

データの統合ができないような仕組みづくりによって、悪用できないようにするのがこれまでの日本だった(善用もできなかったが)。今後は監視の目を光らせながらも運用を認めていく形へと、政府と社会の関係性を変えなければならないと説く。

政府に権力を与えた場合でも、過剰な人権の制限や国家の暴走を許さないよう、事後的にコントロールできるか。この点について日本人の多くは自信を持っていないようだ。

昨年4月、ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが世界18カ国を対象に実施した国際世論調査がある。

「ウイルスの拡散防止に役立つならば、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない」という設問に、「そう思う」と回答した比率で、日本は最低の40%。先進民主主義国でもアメリカは68%、ドイツは89%と大きく懸け離れている。

「個人情報が取られるのは『なんとなく』怖いという不安が忌避感につながっている」

筆者と共著で『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、2019年)を執筆した神戸大学の梶谷懐教授は、茫漠とした不安では監視社会化の歯止めとしては脆弱だと危惧する。

そもそも、先進国で監視社会化抑止のよりどころとなっていた人権やプライバシーといった理念は、生存が保障された状況でより良き社会を目指すための主張であり、コロナのような命そのものが脅かされる状況では分が悪い。

梶谷教授は「中国の成功を見れば、日本を含む西側諸国の市民が『民主的』に監視社会化を望むようになるまで、あと一歩だろう」と指摘。データの収集と統合は不可避の趨勢だとしても、同時に、市民の積極的な関与などの抑止的手段を組み込む必要があると警告する。

日本のデジタル行政改革は雪崩を打ったかのように進んでいる。そのなかで、中国型の監視社会とは異なる道を歩むために何をなすべきかが問われている。

 


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