「大手私鉄16社がすべて赤字」決算発表で浮き彫りになった"最もヤバい2社"
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■関東は西武、関西は近鉄が大幅赤字に
大手私鉄16社の中間決算は、新型コロナウイルス感染症の影響で大幅な減収減益となり、全社が経常赤字となった。各社の中間決算の概要を見ていこう(図表1)
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関東圏では西武ホールディングス(HD)の約346億円の経常損失が最大。東京メトロが約265億円、小田急電鉄が約220億円で続いた。関西圏では近鉄グループホールディングスの約438億円が最大で、阪急阪神ホールディングスが194億円、京阪電鉄が約60億円の経常赤字。
一方、赤字額が少なかったのは関東圏では相模鉄道、関西圏では南海電鉄だ。連結売上高に占める経常損失の割合でみると、西武HDの22.4%が最大で、京成電鉄が20%、東京メトロが18.9%、近鉄GHDが15.5%と続く。西武HDと近鉄GHDはホテル・レジャー部門の赤字が、京成と東京メトロは鉄道部門の赤字が影響した。
緊急事態宣言の発出があった第1四半期と比べて、第2四半期は各社とも赤字額は縮小しており、南海電鉄は黒字化、京阪電鉄も黒字目前まで来ている。南海電鉄は大手私鉄では唯一、2021年3月期の業績予想が黒字の見込みだ。
■本業の運輸部門は京王、東急など4社が痛手
鉄道事業を中核とする本業の運輸部門は各社とも大きな痛手を受けた。上半期の鉄道の輸送人員は京王の昨年同期比39.5%減を筆頭に、東急の同38.5%減、東京メトロの同38.2%減、小田急電鉄の同37.6%減と、東京都区部に路線網を持つ事業者の落ち込みが目立った。最も減少率が少なかった相鉄で同29.7%減と、各社約30~40%の減少となった(図表2)。
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第1四半期の運輸事業の営業赤字は、相鉄の約14億円を除いて各社大幅な赤字を記録した。しかし、第2四半期の運輸事業の営業赤字は東京メトロの約92億円を除けば、各社20億~60億円程度まで赤字額を縮小させており、東武鉄道と阪急阪神HDは黒字化。西武HDと相鉄も黒字化目前まで迫っている。
定期収入は、利用減にもかかわらず多くの事業者で平均単価が増加した。鉄道利用者は通勤・通学定期券を利用する定期利用者と、普通券・回数券などを利用する定期外利用者に分類できる。定期券は割引率が高いため、定期利用者の平均単価は少なくなる。定期券の割引率は1カ月定期、3カ月定期、6カ月定期と購入期間が長くなる方が割引率は高くなる。前年同期と比較して平均単価が上がっているのは、新型コロナ感染拡大の状況を鑑み、定期券の購入期間を短縮した影響と考えられる(図表3)。
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■空港路線を抱える事業者は依然として厳しい
一方、定期外利用者の平均単価は大幅な下落が目立つ。これは観光や空港輸送など移動距離が長い利用が大幅に落ち込んだ影響と考えられる。実際、減少率の上位4社、京成と南海、京急、名鉄はいずれも空港輸送を行っている事業者である。また続く東武、近鉄、小田急はいずれも沿線観光地へ特急列車を運行している事業者だ(図表4)。
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第1四半期と第2四半期を比較すると平均単価は回復傾向にあるが、依然として京成、南海、京急、名鉄の4社は高い落ち込みとなっており、航空需要の急減が鉄道事業者にも大きな影響を及ぼしていることがうかがえる。
関連事業についても見てみよう。各社のセグメント別営業損益をみると、不動産業は黒字を確保しているものの、運輸業とレジャー業という「双子の赤字」が重くのしかかっていることが分かる。近鉄GHDは運輸事業(近畿日本鉄道、近鉄バスなど)で約198億円、ホテル・レジャー事業(都ホテル、志摩スペイン村、近畿日本ツーリストなど)で約362億円、西武HDは都市交通・沿線事業(西武鉄道など)で約57億円、ホテル・レジャー事業(プリンスホテル、横浜八景島など)で約302億円の赤字を計上した(図表5)。
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阪急阪神HDは都市交通事業(阪急電鉄、阪神電鉄、阪急バス、阪神バスなど)で約70億円(赤色)、エンタテイメント・旅行・ホテル事業の合計が約220億円の赤字(黄色)。東急は交通事業(東急電鉄、東急バスなど)で約122億円、ホテル・リゾート事業で約185億円の赤字だった。
■レジャー部門は再編が行われる可能性
鉄道事業者は鉄道が生み出す利便性などの価値を、不動産開発や百貨店、流通、レジャー施設などの関連事業を通じて内部化することで利益を上げるビジネスモデルをとっているが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う緊急事態宣言や、その後の「新しい生活様式」の定着により移動や外食・娯楽・旅行需要などが抑制されたため、鉄道とレジャー部門が大きな打撃を受けた格好だ。
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鉄道事業者にとってレジャー部門は関連事業の要のひとつであるが、前年同期の営業利益を比較すれば分かるように、阪急阪神HDと西武HDを除けば必ずしも大きな利益をもたらしていたわけではない。インバウンド需要が蒸発し、国内旅行需要の本格的な回復にも数年単位の時間を要すると見込まれるだけに今後、レジャー部門の再編や整理が行われる可能性もあるだろう。
■赤字が重い西武と京成
各社決算の概要を見てきたが、その中からレジャー部門の赤字が重い西武HDと、運輸部門の赤字が重い京成の2社を取り上げて、決算の中身を見ていきたい。この2社は連結売上高に占める経常損失の割合が高い上位2社でもある。まずは西武HDだ。
プリンスホテルなどを運営する同社は、ホテル・レジャー事業が軒並み打撃を受けている。2020年度上半期累計(セグメント別売上高)を見ると、都市交通・沿線事業が前年同期比33.2%減の586億円、建設事業が同7.6%減の463億円、ホテル・レジャー事業が同72.1%減の340億円、不動産事業が同15.6%減の267億円だった。
2019年度上半期累計(同)では、ホテル・レジャー業が約1220億円で、都市交通・沿線事業が約878億円、建設事業が約501億円、不動産事業が約317億円だったことを見ても、ホテル・レジャー事業の大幅な落ち込みが目立っている。
■シティホテルは8割減、リゾートは7割減と厳しい
今回の決算では都市交通・沿線事業の約57億円の営業損失に対し、ホテル・レジャー業は302億円の営業損失を計上。償却前営業利益では、都市交通・沿線事業は50億円の黒字を確保しているものの、ホテル・レジャー事業は228億円の赤字でキャッシュアウトの大きな要因となった。
ホテル・レジャー業の営業収益内訳を見てみると、シティホテル業は前年同期比81.6%減の約117億円、リゾートホテル業は同71.6%減の約64億円、海外ホテル業は同52.1%減の約53億円、ゴルフ場などスポーツ業が同53.9%減の約47億円、横浜・八景島シーパラダイスなどその他が同60.6%減の約49億円と、いずれも厳しい数字が並んでいる。
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西武HDでは、人件費や水道光熱費、広告宣伝費等の固定費を削減するとともに、不急の設備投資の抑制(約360億円)、中間配当および期末配当を無配とするなど、総額620億円程度の圧縮を行い、キャッシュ流出を抑制したいとしている。
■「運輸事業」が重しになっている京成
続いて京成電鉄を見ていきたい。地下鉄経営に特化した東京メトロを除けば、京成は大手私鉄の中で事業に占める運輸事業の割合が最も高い会社である。2019年度上半期累計のセグメント別売上高を見ると、運輸業の約802億円に対し、流通業が約338億円、不動産業が約135億円、建設業が約109億円、レジャー・サービス業が約47億円で、運輸業がグループ売上の過半を占めていた。
鉄道利用が大幅に減った2020年度上半期累計でみても、運輸業が約492億円、流通業が約294億円、不動産業が約107億円、建設業が約105億円、レジャー・サービス業が約28億円と、その構図は変わらない。
ところが、その運輸業が大きな赤字を抱えているのが京成の決算の特徴だ。セグメント別営業利益をみると、運輸業が約154億円(うち鉄道が約66億円、バスが約62億円、タクシーが約26億円)の赤字を計上しているのに対し、レジャー・サービス業の約13億円の赤字を除けば、不動産業は約41億円、建設業は約5億円、流通業は0.2億円の黒字を計上しており、運輸業が大きく足を引っ張っていることが分かる。
■航空需要が戻らない限り苦境は続く
京成電鉄は2019年度中間決算で旅客運輸収入約341億円のうち約112億円が成田空港発着の利用者が占めていたように、運輸収入の3分の1を空港輸送が占めていた。ところが新型コロナウイルス感染症の影響で航空需要は激減。成田空港の中間決算によれば、成田空港の航空機発着回数は前年同期比64.5%減の4.8万回、航空旅客数は同94.0%減の136万人になった。
これに伴い、京成の成田空港発着する輸送人員は同85.9%の減少、旅客運輸収入も85.9%の減少を記録している。航空需要の回復には相当の時間を要する見込みで、京成の苦境はしばらく続きそうだ。
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枝久保 達也(えだくぼ・たつや)
鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家
1982年生まれ。東京メトロ勤務を経て2017年に独立。各種メディアでの執筆の他、江東区・江戸川区を走った幻の電車「城東電気軌道」の研究や、東京の都市交通史を中心としたブログ「Rail to Utopia」で活動中。鉄道史学会所属。
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(鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家 枝久保 達也)