バンクーバー外相会議に中国強烈な不満
中露を招聘しなかった主催者
朝鮮戦争時の連合国側(朝鮮戦争国連軍)外相を集めて会議を開こうと呼び掛けたのはアメリカで、相談した相手はカナダであると、中国は報道している。テーマはもちろん、北朝鮮問題、すなわち朝鮮半島安全保障問題だ。
1月16日付の「環球時報」が「美加(米国・カナダ)20カ国が"北朝鮮核問題大会"をやってのけた」という趣旨のタイトルで、一面トップで扱っている(リンク先は、それを転載した中国政府系の「参考消息網」)。
同社説では「国連軍幽霊の再現、中露両国は招聘されていない」ということが強烈な口調で書かれているだけでなく、バンクーバー会議に集まった国家の外相を「奇怪なサークル」とまで呼んでおり、中国の不満が尋常ではないことが窺える。
そのため国連軍が38度線を越えた1950年10月、毛沢東は中国人民志願軍を編成して北朝鮮に出兵させたのである。
中国人民解放軍ではなくて、「中国人民志願軍」としたのは、「中国共産党の軍隊」ではなく、「民間の志願者が軍隊を結成した」という形を取って、「国家としての参戦」の形を避けようとしたからだ。この当時、北朝鮮の国境にある吉林省延辺朝鮮族自治区にいて、戦火を逃れて天津に移った筆者は、中国人の小学校で、小学生までが志願することを英雄物語として教育された現象を経験している。
このように中国と旧ソ連(後のロシア)は、国家の軍隊として表に出ていたわけではないが、しかし北朝鮮の後ろ盾として「北朝鮮側」を応援していたことだけは確かだ。
そのためアメリカを中心とした朝鮮戦争国連軍側は、北朝鮮および中国とロシアを招聘しなかったものと、形の上では解釈することができる。しかし中国にも呼びかけて国連安保理として動いているはずのアメリカが、なぜ中国を外した形で北朝鮮問題を協議しなければならないのか。このことに対して、中国は激しく抗議表明をしたわけだ。
ただ、対話路線と圧力路線の間には明確な分岐線があり、対話路線は「中国、ロシア、韓国」を中心として主張されており、圧力路線は日米を中心に展開されている。対話路線が実行され始めているだけに、圧力路線を引っ込めるわけではないことを、アメリカは見せたいのだろう。トランプ大統領自身の発言の揺れと韓国の八方美人的立場は、ここでは先ず目をつぶって、論じないこととしよう
米中蜜月から米中対立へ移行するか
トランプ政権誕生以来、習近平国家主席としては、最大限の賛辞と友好を以て、トランプ大統領を熱烈歓迎してきたつもりだろう。
そのトランプ政権が、こともあろうに中国をロシアとともに除け者にして、朝鮮戦争時代の「共産圏」対「自由主義圏」という構図で、一つのグループを作ったことが、習近平氏には、きっと耐えられないほどの屈辱に映ったにちがいない。
中国外交部の報道官は、憤怒に満ちた表情と激しい語調で以下のような主旨のことを定例記者会見で語った
――当時の国連軍参加国の名義で会議を招集するなどということは、まさに冷戦時代の考え方である。朝鮮半島非核化問題に関わる重要な国(筆者注:中国とロシア)が参加しない形での会議は、絶対に問題を解決するには到らないことは明白だ。それゆえ、このような会議の合法性と代表性に国際社会が疑問を投げかけている。(中略)発起国としてのアメリカとカナダは、国際社会の分裂を招くだけで、国際社会が手を携えて朝鮮半島の核問題を解決していこうとする努力を台無しにしてしまった。この問題を解決するためには「六者会談」と「国連安保理決議」以外にはない。
なんとか「双暫停」(中朝双方が暫定的に軍事行動を停止して、対話のテーブルに着く)という中国のシナリオを実現に持ち込んで、「得意」になっていた習近平氏としては、米中二大大国と位置付けている「この中国」を、こともあろうにアメリカが、あのトランプ氏が外して北朝鮮問題を語る会議を開いたということは、腸(はらわた)煮えくり返るような思いだろう。
南北朝鮮の対話が進む中、米中首脳(トランプと習近平)による「友好的な」電話会談を終えたばかりだ。まさにその同じ16日に、「その舌の根も乾かぬうちに」一方では中国を敵国と位置付ける冷戦時代の構造を再現した会議を行なうとは何事か。きっと、こう思っているにちがいない。
中露を招聘しなかったことを激しく抗議
中央テレビ局CCTVや、その他の中国政府系メディアも、こぞって「バンクーバー外相会談が中露を招聘しなかった」ということを激しく非難している。
ロシアのラブロフ外相も、「バンクーバー会議は、百害あって一利なし」と言っていると、中国メディアは、こぞって報道している。
筆者の見解を申し上げるなら、このバンクーバー会議により、逆に北朝鮮問題の根源が明確になり、国連軍側を代表したアメリカは、いかなる休戦協定を朝鮮戦争に対して結んだかを考えざるを得なくなるので、決して悪いことだとは思えない。
また、チャイナ・マネーにより、一方的に覇権をほしいままに広げていこうとする中国に対しては、良い歯止めとなり得る役割を果たすだろうとも思われ、悪くない展開だということもできる。
果たして、これ以降、米中首脳が「仮初め」ではあったとしても、これまでのような蜜月関係を保っていられるか否か、その動向に注目していきたいと思っている。
それによって、日本の未来図も変わっていくだろう。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。