建国70年式典から見えて来た金正恩委員長の本心
想定通り、北朝鮮の建国70年記念式典は、ICBM抜きの抑制された軍事パレードだった。
このことは、習近平主席の不参加と共に、中国と北朝鮮がトランプの米国に譲歩したように見える。
譲歩という意味ではその通りだ。
しかし、それは屈服したという意味の譲歩ではない。
勝ち取るものを確実に取るという強い決意の表れであり、究極の首脳外交戦略なのだ。
日米同盟の思惑通りに進んでいると、安倍政権やその追従者たちが考えているとしたらおめでたい。
むしろ逆だ。
米朝合意を自分の手柄にしようとするトランプ大統領を、中国も北朝鮮も、もちろん韓国も、よく知っていて、トランプ大統領がこれら三か国に包囲されようとしているのだ。
もちろんロシアも三か国側に立っている。
このまま行けば、第二回目の米朝首脳会談が早晩行われ、そこで朝鮮戦争終結宣言が北朝鮮の完全非核化の前に先行して実現するだろう。
しかし、それは仕方がないことだ。
そもそも、こうなることは6月の米朝合意の時点で不可逆的だったのだ。
北朝鮮の非核化には時間がかかる。
これは非核化交渉の専門家が等しく指摘し、認めていることだ。
その一方で朝鮮戦争の終結宣言は今すぐにでも出来る。
これを要するに、朝鮮戦争の終結宣言と北朝鮮の非核化の実現は、物事のの性格上、時間差があり、朝鮮戦争の終結宣言が先行せざるを得ないものなのだ。
言い換えれば、朝鮮戦争の終結宣言と同時に北朝鮮がなすべき事は非核化の宣言とその完了までのロードマップを示せばいいのだ。
いますぐすべての核を放棄、廃棄する必要はない。
もしボルトンをはじめとした米政府内部の強硬派が、検証可能、かつ不可逆的で完全な非核化を、朝鮮戦争の終結宣言と同時に行うよう、いまでも主張しているとすれば、そもそもそれは6月の米朝合意に反することなのだ。
そんなことをトランプ大統領が認めるはずがない。
今度の北朝鮮の、一見譲歩に見えるトランプ大統領に送ったシグナルは。今度の首脳会談で非核化の証を見せる、つまり非核化の工程表を示す、だから約束通り朝鮮戦争の終結宣言に応じてくれ、そのために第二回目の首脳会談に応じてくれ、ということなのだ。
そして、それはトランプ大統領にとって望むところだ。
非核化の完了時期などどうでもいい。
金正恩委員長が非核化のロードマップを約束してくれれば勝利なのだ。
そして金正恩委員長にとっては非核化のロードマップを示す事は、それと引き換えに朝鮮戦争が終結すればお安い事だ。
朝鮮戦争が終ればあらゆる平和的な環境が整い、進む。
そうなればもはや米国が北朝鮮を攻撃する事は出来ない。
そうなれば核兵器は本当に要らなくなる。
もし何らかの都合で米国が再び強硬に転じても、もとに戻って核開発を再開すればいいだけの話だ。
トランプ大統領ですら攻撃できなかった米国だ。
だれが大統領になっても再び非核化交渉を始めるしかない。
金正恩委員長は、朝鮮戦争の終結と経済開放、開発に舵を切った。
そのためにはトランプ大統領に敵対する事はしない。
トランプ大統領に敵対しない限り金正恩委員長に敵対しない。
米朝合意を守る。
これこそが建国70年式典に見せた金正恩委員長の「譲歩」の裏にある本心である(了)