自民党総裁・幹事長室名で出された文書
派閥パーティを巡る裏金事件で自民党の公認を得られなかった候補に、公認候補と同じ2000万円の政党交付金が振り込まれていた問題。森山氏は10月23日、交付を認めた上で、「党勢拡大のための活動費」だと弁解した。
この「党勢拡大」とは、一体何なのか。それを説明するのが、翌10月24日付で、自由民主党総裁・幹事長室から党公認候補者や選挙実務者に向けて出された文書〈わが党の支部政党交付金に関する報道について〉だ。
〈しんぶん赤旗が「自民党が非公認の候補者に公認料を出している」かの如く記事を出し、各種マスコミもこのことを報じております。一部ネットでは「#偽装非公認」というハッシュタグまで散見され、各候補の選挙活動中にもこのことを指摘される可能性があるかと考えます。この赤旗の記事は、事実を曲解して極めて精緻に誤解を誘導するものであります。〉
そのうえで、以下のように説明している。
〈・わが党は、通常期には、政党交付金を年4回、政党支部(県連、選挙区支部)に交付しています。
・そのほかに選挙に際しては、支部活動の活発化や、党勢拡大のため、別途、交付をしています(今回指摘されている交付金)。〉
また、選挙に関する「党勢拡大」とは、〈党の政策のPR、選挙区内の比例票の掘り起こし、公示前までの個人版自由民主の作成や新聞折り込みなど〉と記されている。
「交付金はあくまで政党支部の資金なので、個人の選挙に使うものではない、との説明でした。ただ、議員が代表を務める政党支部の資金は、基本的にその議員の政治活動に使われるため、『個人』宛ではないというロジックは不可解です。そもそも、お金に色はありません。2000万円の支給で非公認候補の資金繰りに余裕が生まれ、結果的に選挙運動費に充当されかねないのです」(政治部記者)
〈寄付金 15,000,000 R3.10.15 森山裕〉
では、選挙の責任者である幹事長の森山氏は、これまで選挙直前に支給される交付金をどのように使ってきたのか。
2021年の前回衆院選(同年10月19日公示)を見てみよう。自由民主党本部の「政党交付金使途等報告書」によれば、森山氏が代表を務める「自由民主党鹿児島県第四選挙区支部」に、公示4日前の10月15日、1500万円の交付金が支払われている。一方、「自由民主党鹿児島県第四選挙区支部」の収支報告には、次のような数字が記されていた。
〈寄付金 15,000,000 R3.10.15 森山裕〉
交付金が振り込まれた同日に、同額の1500万円をそのまま自身への寄付金として支出しているのだ。
さらに、「週刊文春」が入手した森山氏の「選挙運動費用収支報告書」の収入欄には、こう書かれている。
〈R3.10.6 5,000,000 寄付 自由民主党鹿児島県第四選挙区支部〉
〈R3.10.6 10,000,000 寄付 自由民主党鹿児島県第四選挙区支部〉
つまり、交付金1500万円の支給(10月15日)を見越し、その9日前の10月6日に自身の政党支部から、交付金と同額の計1500万円をまるごと自身の選挙運動費として支出している形だ。2021年、森山氏が選挙運動にかけた費用の総額は2349万円(うち公費負担257万円)。この1500万円は「支部活動の活発化」などではなく、全額が選挙運動費に充てられたことになる。
にもかかわらず、森山氏は、選挙直前に支給される交付金をあくまで「支部活動の活発化や、党勢拡大」のための費用と主張しているのだ。
「使えたかどうかちょっとよく調べてみないとわかりません」
果たして、森山氏はどのように説明するのか。10月25日午後、電話で話を聞いた。
──前回の衆院選では、森山さんも交付金の1500万円を即日、自分の選挙運動費として支出しているが。
「それは調べてみないとちょっとわかりませんが。ただ今回は、通達をきちっと出してますので、選挙には使えないようになっています」
──これまでは個人の選挙費用としても使えたが、今回は駄目ということか。
「いやそれは。使えたかどうかちょっとよく調べてみないとわかりません。支部の活動と、支部長個人とは違いますのでね」
──今回の2000万円も一度振り込まれた以上、元々支部にあったお金とは区別がつかない。候補者が選挙に使っても分からないのでは。
「10月9日に、支部政党交付金支給通知書というのを出しています。選挙運動に使う場合は、貴支部から候補者への寄付として支出してください、選挙運動費用の会計帳簿に収入として記載してくださいと書いていますから」
「そんな議論をしていたら何にも進まないですよ」
──非公認の候補者については、自身の支部から自分に支出し、選挙運動の収入にすることを禁止している?
「そうです、そうです。うちは政党交付金についてはですね、かなり綿密にやってきたんですよ」
──元々、支部には有権者からの寄付などもある。そういうお金も、今回の非公認候補者は支部から自分の選挙運動用に支出できないのか。
「いやそれは、政党交付金と違うじゃないですか」
──お金に色はない。原資が政党交付金なのか、元々の支部に溜まっていたお金なのかは判別できないのでは?
「いやそこは、もうそれぞれが良識を持ってやらないとですね。そんな議論をしていたら何にも進まないですよ。それに、政党交付金は専用口座に振りこむことになってるわけですから」
こうした森山氏の説明は有権者の納得を得られるのか。投開票日(10月27日)は刻一刻と近づいている。
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石破茂首相は「候補者にお金を出してはいない。政党支部に出している」などと強く反論しているが、青木氏は「政治家が代表を務める政党支部は、その政治家の資金管理団体に次ぐ事実上の第二の財布となっていて、単なる形式論でしかない」とぴしゃり。
続いて「資金管理団体と政党支部は、同一の政治家が代表を務めていて、場合によっては所在地も会計責任者も同一のことが珍しくない。だから、いずれも同じ政治家のお財布になっている」と解説し、「だから個人の資金管理団体に渡そうが、政党支部に渡そうが、当然、その政党支部長が務めているところに入っていくということなので、これはいくらなんでも『政党支部に渡したので、非公認の候補に渡したんじゃありません』っていうのは、もうこれは言い訳としてもちょっとピント外れという感じ」と断じた。
さらに「これ政党助成金ですからね、税金なんです。裏金議員は公認する場合でも比例名簿との重複はさせないと。これ石破さんの理屈でどういう事かと言えば、小選挙区できちんと自力で勝ち上がってくれば、一応選挙区の皆さんがそれなりに信任してくれたのだからその場合は仲間して迎え入れるのもやぶさかではないと言ったわけです」と総裁の主張を説明。
その上で「ということは『自力で勝ち上がってこい』というのが大前提だったのに。特に非公認にしたような人は金額も大きいし説明も尽くしてない。その人に2000万、しかも税金から。いやこれは普通に考えて誰も納得しないですよね」と呆れかえっていた。