(13)キツネどんのおはなし(1912年刊)
ビアトリクス・ポター さく・え いしいももこ氏訳
(要約)
《わたしは、これまで、おぎょうぎのいいひとたちのおはなしばかり かいてきました。そこで、気をかえて、ふたりの いやなひと―アナグマ・トミーとキツネどんのおはなしを かいてみようとおもいます。》
《キツネどんを「いいひと」だなんて いうひとは どこにもいません。1キロはなれていたって キツネどんのにおいは つーんとにおってくるのです。》
《それに キツネどんは いやなかんじのひげをはやし ひっこしが すきでした。きょうは、林のなかの 小えだでつくった小屋にいて、ちかくにすむベンジャミン・バニー一家をふるえあがらせる。かとおもえば、あすは、みずうみのきしの やなぎの木にひっこして、かもや、水ねずみたちをこわがらせています。》冬と春さきには、たいてい いわやまのてっぺんの ブル・バンクスという、大きな石ころがつみかさなった 土手のあいだの 土のなかに もぐっています。
キツネどんは、いえを5,6けん もっているというのに じっとしていません。けれども キツネどんが でていったからといって あきやになるとは かぎりません。そのあとへ、アナグマ・トミーが(ゆるしもうけずに)たびたび はいりこみます。
《トミーは、毛むくじゃらの ずんぐりやで、にやりと わらったような かおをしています。》
よたよたと 歩きり 《くらしぶりは、あまり じょうひんでは ありません。》 はちの巣、かえる、むしを たべます。
トミーのふくは どろだらけです。ねむるのは ひるまでしたから 《いつも くつをはいたまま ねました。》《トミーのねるベッドは、たいてい キツネどんのベッドでした。》
《さて、トミーは じつはいうと、ときたま うさぎ肉のパイをたべました。でも、それは ごくわかい うさぎの肉だけで、それも、ほんとうに ほかのたべものが 手にはいらないときに かぎりました。》けれども、トミーは、年よりうさぎのバウンサーさんとは したしくしていました。だいきらいな かわうそや キツネどんのうわさをするときは きがあうのです。バウンサーさんは もう大した年で、うさぎたばこをすいながら 戸口で ひなたぼっこを するのでした。
バウンサーさんは、むすこのベンジャミンや、うまれて まもない まごたちと くらしていました。
《その日は、ベンジャミンたちが 外出をし、おじいちゃんは まごのおもりをしていました。》あかんぼうたちは 青い目があいたばかりで 足も ぴくぴく うごかせるだけでした。そして、おとなのあなとは ちがう ひくいてんじょうのあなのなかで うさぎの毛とほし草のふわふわベッドに ねかされていました。
《そこで―じつをいうと、おじいちゃんは、まごのことを すっかりわすれてしまったのです。》
おじいちゃんは 日なたにすわって とおりかかったアナグマ・トミーと なかよく はなしあいました。トミーは えものが とれないと こぼします。
《「わたしは、もう2週間 まんぞくなしょくじをしていない。これじゃ、さいしょくしゅぎしゃになって、じぶんのしっぽでも くうよりしかたがないな」
《これは たいした おもしろい じょうだんでもありません。けれど おじいちゃんには おかしく おもえました。トミーは とてもずんぐりふとっていて、にやりと わらっているように見えたからです。》
そこで、おじいちゃんは 「ははは」とわらって じたくでケーキをさしあげようと いいます。トミーは それをきくと すばやく からだを あなに おしこにました。ふたりは たばこを ぷかぷか すって あなのなかは けむりだらけになりました。あまり けむいので おじいちゃんは めをとじました.....
《プロプシーとベンジャミンが、いえにもどってきたおとで―おじいちゃんは 目をさましました。トミーも いなくなり あかんぼうたちも 1ぴきのこらず いなくなってしまいました!》
おじいちゃんは だれも 知らないひとは、いえにいれていないと がんばりましたが あなぐまのにおいは かくしきれず 地めんには、まるい足あとが はっきり ついていました。おじいちゃんは めんもく まるつぶれです。プロプシーは かなしがり おじいちゃんを ぶちました。
《ベンジャミンは すぐさま トミーのあとを おいかけました。》トミーは、足あとをのこしていたうえに ゆっくりのぼっていたので あとをつけるのは そう むずかしく ありませんでした。
《青いヒヤシンスが、じゅうたんをしいたように さいていました。》《ベンジャミンが ぴっくとして 立ちどまったのは はなのにおいのためでは ありません。》
《キツネどんの 小えだづくりのいえが、目のまえにあったからです。》めづらしいことに きょうは キツネどんは ございたくでした。《ベンジャミンは 2ほんあしで つったち、目をまるくして、そのいえを見ました。》いえの なかから だれかのこえがし おさらを おとすおとがしました。ベンジャミンは めくらめっぽう にげだしました。
《ベンジャミンは、森のはんたいがわへぬけるまで、かけどおしに かけました。どうやら、トミーも こっちのほうへ やってきたようすです。森のさかいの石がきのうえには、トミーの足あとが、ついちましたし、バラのえだには ふくろの毛ばが ひっかかっていました。》ベンジャミンは 石がきを のりこえ、草はらに でました。トミーが しかけたばかりの もぐらとりが見つかりました。
《もう ゆうがたになっていたので うさぎたちが、さんぽに出てきていました。》1ぴき 青いうわぎをきたのが ほかとはなれて たんぽぽをつんでいました。
《「ピーターいとこ!ピーターいとこ!」とベンジャミンは どなりました。》青いうわぎのうさぎは2ほんのあしで たって、ぴくんと耳を立てましたー。
「いったい どうしたというんだね、ベンジャミンいとこ」
「やつが―アナグマ・トミーが、うちの子をさらっていっってしまった。きみ 見たか?」
「いったい なんびき つれていったんだ?」
「7ひきだよ!やつ こっちのほうへ きたか?はやく きかせてくれよ」
「きた きた。あれから まだ10ぷんとたっていない。ふくろには 毛むしが はいっているんだと いっていたが。《毛むしにしては、どうも ぴくぴくしすぎると おもったんだ》」
「どっちへだ、ピーター?やつは どっちへ いった?」
「ふくろのなかのものは ごよごよ うごいていたよ。《ベンジャミン ぼくに かんがえさせてくれ。まず きみのはなしを はじめから きこうじゃないか」
そこで ベンジャミンは はなしました。》
《「ざんねんながら、バウンサーおじさんは、年ににあわず、けいそつなことをなさったね」と、ピーターは かんがえこみながら いいました。
「だが、まだ のぞみは ふたつある。子どもたちは げんきにあばれていた。それに、トミーはおちゃをのんだあとだから、きっと、ひるねをする。子どもたちをたべるのは あすの朝だよ」》
「ピーター、どっちへいった?」
「まあ、ベンジャミンいとこ おちつくんだ。ぼくは しってるよ。小えだの小屋には キツネどんが いる。とすると、いわやまの てっぺんの もう1けんのいえに いっているんだ。カトンテールのそばをとおるから なにかことづけはないかと 言っていたよ。(ピーターのいもうと。黒うさぎとけっこんして おかにすんでいるのでした。)
ピーターは、《しんぱいで ただ おろおろしているベンジャミンといっしょに出かけました。》おかを のぼると トミーの足あとは まだ はっきり わかりました。トミーは 10歩ほど いっては やすんでいるようです。
《「よほど いきをきらしているものとみえるな。》におってくるので まだ ちかくに いるぞ。《なんて むなくその わるい においだ」
《まだ 夕日は あたたかく おかのまきばを てらしていました。》おかのとちゅうで カトンテールが 子どもたちといっしょに いえの戸口に こしかけていました。《カトンテールは トミーが むこうのほうをとおるのを見た といいました。》「おまえのだんなは いるか」ときくと カトンテールは 「見ているとトミーは、2ど 立ちどまって やすみましたよ」といいました。《トミーは あたまをふって カトンテールにあいずをし、ふくろをゆびさすと、はらをかかえて わらったようだったと、カトンテールは いいました。》
《「はやく、ピーター!もう りょうりしているかもしれないぞ。さあいそいで!」と、ベンジャミンは いいました。》ピーターたちは おかを どんどん のぼっていきました。「カトンテールのだんなは うちにいたんだ。黒い耳が見えたよ。」「いわやまのすぐそばに すんでいるんだ。だれでも おとなりさんとはけんかしたくないさ。さあ、いそごう、ベンジャミン!」
《いわやまのてっぺんの 森のちかくにくると ふたりは ようじんぶかく あるきはじめました。》
キツネどんは きりたったいわのしたに 1けんのいえをかまえていました。《ピーターたちは 耳をすまし、あたりに目をくばりながら、いわをよじのぼりました。》いえの入口の戸には、かぎがかかっていました。
まどから のぞくと おかってに 火はついていませんでした
《ベンジャミンは ほっと あんしんしました。》でも テーブルの上には、おりょうりのしたくがしてあるので、ベンジャミンは ぞっとしました。とても 大きなパイざら―まだ、からでしたが―や、大きな肉きりぼうちょうや、でばぼうちょうなどが のっていたのです。
テーブルには ひとりぶんの したくが してありました。
でも、おかってには だれもいず 小うさぎたちも みえません。あたりは ひそりとしていました。ベンジャミンとピーターは、まどガラスにはなをおしつけて、うすぐらいへやを よくよく のぞきました。
それから いそいで いえのうらがわに まわりました。しめった いやなにおいのするばしょで、ピーターたちは 身ぶるいしました。
《「ああ、かわいそうな、うちの子どもたち」》ベンジャミンは なげきました。
《ふたりは そおっと しんしつのまどへちかよりました。》ここのまども くぎがうってあります。《けれど ちょっとまえに だれかが まどをあけたようすがあります。》《くもの巣がちぎれ、まどわくには どろだらけの足あとがついています》だれかの ゆっくりして おちついた うなるような いびきが きこえました!
くらやみに なれると 《キツネどんのベッドにだれかが ねているのが見えてきました。》くつを はいています。
《ベンジャミンは ふるえあがって ピーターをまどのところから ひきはなしました。》
《キツネどんのベッドからは、トミーのいびきが、まだ ふとく きそくただしくきこえてきます。子どもたちは どこにも みえません。》
ピーターたちは また おもてにもどって、おかってのまどの しめくぎをはずそうとしましたが、だめです。どうにも なりません。
月が森の上にのぼり、あかるく つめたく、こうこうと、いえをてらしだしました。
《でも、どうしたことでしょう、小うさぎたちは、1ぴきも見えません。》月の光でみると、おかっての 炉のわきに きゅうしきな パン焼きがまが ありました。《それに、小さな 釜のふたがついています。
《それを見ているうち、ピーターとベンジャミンは、きゅうに気がつきました。》ふたりが まどをゆすると ふたが へんじのしるしに うごくのでした。《子どもたちは、生きていたのです!》ベンジャミンは こうふんして おおさわぎをしました。トミーが目をさまさなかったのは さいわいでした。
トミーは、まだ いびきをかいて ねていました。
ピーターたちは こそこそと そうだんしたあげく トンネルをほることにしました。
《ふたりは ただ ほりにほりました。岩だらけでしたが、夜があけるころ おかってのしたまで きていました。ピーターは つめがすりへったので ベンジャミンが あおむけにねて たてあなをほり ピーターは 土を かきだしていました。
「夜があけた―日がでたぞ。したの森で、かけすが さわいでいる」と、ピーターはどなってベンジャミンにしらせました。ベンジャミンはあなから でてきて 耳のなかの土をはらいました。
《きりのなかの 草はらから、また おこったような かけすのなきごえが きこえ―つづいて、するどく きつねの さけぶこえが しました。》
《ピーターたちは あわてふためき、いちばん ばかなことをしてしまいました。ふたりは、みじかいトンネルの そのどんづまり―キツネどんのおかっての ゆかしたに にげこんだのです。》
キツネどんは おかをのぼってくるところで かんかんに かんしゃくを おこしていました。《まず、ゆうべ だいじな おさらをこわしたことで はらをたてていました。おさらをこわしたのは じぶんが わるいのです。》
《それから、ゆうべ、か や はむしが うるさっかったうえ、巣についている、めすのきじを とりそこないました。巣のたまごは 2つ くさっていました。《ゆうべは キツネどんには おもしろくない夜だったのです。きげんがわるいときは ひっこしをするのが、キツネどんのわるいくせです。》やなぎの木のしたの あなに いってみました。けれど、そこは しけていました。
《そこで、おかにのぼっていきました。けれど、まぎれもない あなぐまの足あとを見つけると、キツネどんのきげんは すこしでも よくなるわけがありません。》だらしなく こけを あちこち ほりおこすのは トミーのほかには ないのです。キツネどんは かんしゃくを ばくはつさせました。《トミーが どこへいったのか けんとうがついたのです。》かけすが 1わ しつこく ついてくるのも しゃくでした。
かけすは、うるさく なきたて、こえのとどくかぎりのところにいる うさぎたちに、 ねこか きつねが 森にやってきたぞ と、おしえているのです。
キツネどんは さびた 大きなかぎを手にして、そおっとちかづき、鼻をくんくんさせ、ひげは つきたっていました。なかに だれもいないなんて あやしいものだと キツネどんはおもいました。《さびたかぎを あなにいれて まわしました。その音は、ピーターたちにも きこえました。》キツネどんは そっと いえに はいりました。
おかっての ようすをみて はらわたが にえくりました。キツネどんのしなものが かってに ならべて あったからです。
あたりは ほりおこした土のにおいと あなぐまのにおいで いっぱいでした。そのため、うさぎのにいおが けされていたのは さいわいでした。
けれども キツネどんが いちばん おやっとおもったのは、じぶんのベッドのなかから きこえてくる ふとい ゆっくりしたいびきでした。しんしつの ドアのすきまから のぞきました。
《のぞいたとおもうと、キツネどんは、いえから とびだしていました。あまりにも はらがたったので、キツネどんのひげは、さかだち、上着のえりは つきたっていました。》
キツネどんは いえにはいったり でたりしました。そして、すこしづつ おくまで ふみこんで とうとうしんしつを のぞきこみました。いえの外にでると、くやしがって じめんをかきむしりましたが、いえにはいると どうも あなぐまの歯のようすに 気がくじけるのでした。
《トミーは あおむけにねて にんまり わらっていました。》そして あいかわらず いびきをかいていましたが、《かた目だけ、ちゃんと つぶっていませんでした。》
キツネどんは しんしつを 出たりはいったりして つえをもったり、1どは 石たんバケツをもってきましたが、かんがえなおして 外へ もちだしました。
トミーは すこし よこむきにねて まえより ぐっすり ねむっているように みえました。トミーは、しょのないなまけもので キツネどんなどは すこしも、こわくないのです。いまは、ゆっくり ねていたいのです。
キツネどんは こんどは ものほしづなをもってきて まず まどをあけ、つなのはしだけ のこして 外へだしました。まどのなかにのこっているつなのはしには 金のぼうをまげた かぎがついていました。
トミーは、あいかえあらず いびきをかいています。キツネどんが へやの外をでると、りょう目をあけ、綱のはしを見て にゃりとしました。
キツネどんは しんしつのまどからつなをひきだし、1ぽんの木にむすびつけました。
そのあと 水を 大きなバケツに いっぱい いどからくみ、それをさげ、よろめながら、しんしつに もどってきました。
キツねどんは、つなのはしを ベッドの上の 木のわくにとりつけました。カーテンをさげるわくでした。キツネどんは、トミーを見おろしました。まあ、よくねていること。
トミーのあたまのうえから バケツの水を ひっかけてやるつもりでした。ところが、バケツは おもくて もちあげることが できません。トミーはあいかわらず よく ねています。
キツネどんは、かんがえて バケツのみずを せんめんきと水さしのなかへ あけ からのバケツをぶらさげてから ミルクちゃわんで水をいれました。とうとうバケツの水がいっぱいになりました。
《キツネどんは うらぐちをさして はしりました。はやく つなをほどいて、バケツの水を さあっと トミーにかけてやりたかったのです。》
キツネどんが へやを出るがはやいか、トミーは、ベッドからとびおき、《キツネどんのガウンを くるくるまきにして じぶんのかわりに もうふでくるみ、バケツのしたにおきました。》
トミーは 大にやにやで へやをでて おかってにいきました。火をたきつけ やかんに おゆをわかしました。《小うさぎたちのおりょうりは てまがかかるので あとにしました。》
いっぽう キツネどんは 木のところまでいくと むすびめがほどけなく、20ぷんも つなをかんだり かじったりしていました。そのうち ぷつんと!ときれたので、キツネどんは あおむけに ひっくりかえりました。
いえのなかでは ものおとがして バケツがころがっていく音がしました。
《けれど なんのさけびごえもあがりません。》
まどをのぞくと、ベッドから 水がぽたぽた おち ベッドのまんなかで なにか ぺしゃんと つぶれています。
その まんなかへんは バケツにやられて へこんでいました。キツネどんは30ぷんも じっと見ていました。目は ギラギラ ひかっていました。
キツネどんは うれしそうに ちょうしにのって まどをたたいたりしました。《けれど、ベッドの上のものは、うごきません》
「《あの いやらしいやつを やつのほったあなに うめえしまおう。》《まずあなを よういしよう」》
キツネどんは おかっての戸をあけました....
すると テーブルに あなぐまトミーがすわっていて、《キツネどんのきゅうすから キツネどんのおちゃわんへ おちゃを ついでいるところでした。》トミーは すこしも ぬれていず にやっと わらっていました。そして、にたったおちゃを キツネどんの からだじゅうに ひっかけました。
《そこで キツネどんは トミーにとびかかり、トミーは こわれたせとものを ふみつけながら キツネどんと がっちり くみあいました。くみあったあと、ふたりは おかってじゅうをころげまわって、はげしく たたかいました》
ピーターたちは トンネルから出て、こわごわ 耳をすましました。
《いえのなかの さわぎは、たいへんなものでした。》 《小うさぎが そとにでられないよう とじこめられていたのは うんのいいことでした。》
《おかってでは テーブルをのぞいて なにもかも ひっくりかえっていました。》
なにもかも こわれ、トミーはジャムのつぼのなかに かたあしをつっこみました。やかんの おゆは キツネどんのしっぽに かかりました。
トミーは キツネどんを まるたのように ごろごろ ころがして、おもてへ つきだしました。」
いがみあいは つづき ふたりは いわにぶつかって はずんだりしながら、おかを ころげおちていきました。たしかに、キツネどんとトミーほど いがみあっている かたきどうしは、めったに いないでしょうね。
《おそろしいやつらが、いなくなるがはやいか、ピーターたちは 木のかげから 出てきました。
「さあ いまだ、ベンジャミン!いえに はいって!子どもたちを たすけだすんだ!ぼくは おもてで 見はりをする」
けれども ベンジャミンは こわくて、いえに はいれませんでした。
「だめだ、だめだ。やつら かえってくるよ」
「かえってくるものか」
「ううん、かえってくるってばあ!」
「きみ なんていう 口のききかたをするんだ?いまごろ、やつらは 石切り場のあなに ころがりおちているよ」
それでも、ベンジャミンは うごこうとしませんでした。ピーターは、ベンジャミンをうしろから おしながら 「はやく、だいじょうぶだよ。かまどのふたを閉めるのを わすれないで!》気づかれると こまるから」
《さて ベンジャミンのいえのほうでは ものごとが うまくいっていませんでした。プロプシーとおじいちゃんは けんかをしながら 夕ごはんをたべたあと ねむれない夜を すごしました。》《おもくるしい じかんが たっていきました。おじいちゃんはふくれ あなのすみに ひっこみ、プロプシーは、おじいちゃんのパイプをとりあげ、たばこをかくしました。
《 そのころ、ベンジャミンは、ちょうど キツネどんのおかってに はいっていったところでした。あたりは ほこりが もうもうとたち、ゆかは こわれものだらけでした。
ベンジャミンは おずおずと かまどのほうへ よっていきました。小さなふたをあけ、手で なかをさぐってみると なにか あたたかい ごよごよ うごくものがあります。ベンジャミンは、それをそっと もちあげて、ピーターのところへかけもどりました。》
ピーターは 耳をぴんとたてると まだ 森のおくで、かくとうのおとがしています。
2ひきのうさぎは いきをきらして おかをかけおりていきました。ふたりで りょうほうから ふくろを つかんで。
《そして ぶじ いえにつくと わっと うさぎあなに とびこみました。》
おじいちゃんとプロプシーのよろこびは たいへんな ものでした。子どもたちは かなり くしゃくしゃになっていたけれど おちちをもらうと げんきになりました。
プロプシーは、おじいちゃんに、あたらしいながいパイプと うさぎたばこをプレゼントしました。
ピーターとベンジャミンは、じぶんたちの ぼうけんだんを はなしましたが、キツネどんとアナグマ・トミーの けんかが どうなったか ということまでは、ざんねんながら ふたりとも みていなかったのです。
おわり
読んであげるなら:5・6才から
自分で読むなら:小学低学年から
ビアトリクス・ポター さく・え いしいももこ氏訳
(要約)
《わたしは、これまで、おぎょうぎのいいひとたちのおはなしばかり かいてきました。そこで、気をかえて、ふたりの いやなひと―アナグマ・トミーとキツネどんのおはなしを かいてみようとおもいます。》
《キツネどんを「いいひと」だなんて いうひとは どこにもいません。1キロはなれていたって キツネどんのにおいは つーんとにおってくるのです。》
《それに キツネどんは いやなかんじのひげをはやし ひっこしが すきでした。きょうは、林のなかの 小えだでつくった小屋にいて、ちかくにすむベンジャミン・バニー一家をふるえあがらせる。かとおもえば、あすは、みずうみのきしの やなぎの木にひっこして、かもや、水ねずみたちをこわがらせています。》冬と春さきには、たいてい いわやまのてっぺんの ブル・バンクスという、大きな石ころがつみかさなった 土手のあいだの 土のなかに もぐっています。
キツネどんは、いえを5,6けん もっているというのに じっとしていません。けれども キツネどんが でていったからといって あきやになるとは かぎりません。そのあとへ、アナグマ・トミーが(ゆるしもうけずに)たびたび はいりこみます。
《トミーは、毛むくじゃらの ずんぐりやで、にやりと わらったような かおをしています。》
よたよたと 歩きり 《くらしぶりは、あまり じょうひんでは ありません。》 はちの巣、かえる、むしを たべます。
トミーのふくは どろだらけです。ねむるのは ひるまでしたから 《いつも くつをはいたまま ねました。》《トミーのねるベッドは、たいてい キツネどんのベッドでした。》
《さて、トミーは じつはいうと、ときたま うさぎ肉のパイをたべました。でも、それは ごくわかい うさぎの肉だけで、それも、ほんとうに ほかのたべものが 手にはいらないときに かぎりました。》けれども、トミーは、年よりうさぎのバウンサーさんとは したしくしていました。だいきらいな かわうそや キツネどんのうわさをするときは きがあうのです。バウンサーさんは もう大した年で、うさぎたばこをすいながら 戸口で ひなたぼっこを するのでした。
バウンサーさんは、むすこのベンジャミンや、うまれて まもない まごたちと くらしていました。
《その日は、ベンジャミンたちが 外出をし、おじいちゃんは まごのおもりをしていました。》あかんぼうたちは 青い目があいたばかりで 足も ぴくぴく うごかせるだけでした。そして、おとなのあなとは ちがう ひくいてんじょうのあなのなかで うさぎの毛とほし草のふわふわベッドに ねかされていました。
《そこで―じつをいうと、おじいちゃんは、まごのことを すっかりわすれてしまったのです。》
おじいちゃんは 日なたにすわって とおりかかったアナグマ・トミーと なかよく はなしあいました。トミーは えものが とれないと こぼします。
《「わたしは、もう2週間 まんぞくなしょくじをしていない。これじゃ、さいしょくしゅぎしゃになって、じぶんのしっぽでも くうよりしかたがないな」
《これは たいした おもしろい じょうだんでもありません。けれど おじいちゃんには おかしく おもえました。トミーは とてもずんぐりふとっていて、にやりと わらっているように見えたからです。》
そこで、おじいちゃんは 「ははは」とわらって じたくでケーキをさしあげようと いいます。トミーは それをきくと すばやく からだを あなに おしこにました。ふたりは たばこを ぷかぷか すって あなのなかは けむりだらけになりました。あまり けむいので おじいちゃんは めをとじました.....
《プロプシーとベンジャミンが、いえにもどってきたおとで―おじいちゃんは 目をさましました。トミーも いなくなり あかんぼうたちも 1ぴきのこらず いなくなってしまいました!》
おじいちゃんは だれも 知らないひとは、いえにいれていないと がんばりましたが あなぐまのにおいは かくしきれず 地めんには、まるい足あとが はっきり ついていました。おじいちゃんは めんもく まるつぶれです。プロプシーは かなしがり おじいちゃんを ぶちました。
《ベンジャミンは すぐさま トミーのあとを おいかけました。》トミーは、足あとをのこしていたうえに ゆっくりのぼっていたので あとをつけるのは そう むずかしく ありませんでした。
《青いヒヤシンスが、じゅうたんをしいたように さいていました。》《ベンジャミンが ぴっくとして 立ちどまったのは はなのにおいのためでは ありません。》
《キツネどんの 小えだづくりのいえが、目のまえにあったからです。》めづらしいことに きょうは キツネどんは ございたくでした。《ベンジャミンは 2ほんあしで つったち、目をまるくして、そのいえを見ました。》いえの なかから だれかのこえがし おさらを おとすおとがしました。ベンジャミンは めくらめっぽう にげだしました。
《ベンジャミンは、森のはんたいがわへぬけるまで、かけどおしに かけました。どうやら、トミーも こっちのほうへ やってきたようすです。森のさかいの石がきのうえには、トミーの足あとが、ついちましたし、バラのえだには ふくろの毛ばが ひっかかっていました。》ベンジャミンは 石がきを のりこえ、草はらに でました。トミーが しかけたばかりの もぐらとりが見つかりました。
《もう ゆうがたになっていたので うさぎたちが、さんぽに出てきていました。》1ぴき 青いうわぎをきたのが ほかとはなれて たんぽぽをつんでいました。
《「ピーターいとこ!ピーターいとこ!」とベンジャミンは どなりました。》青いうわぎのうさぎは2ほんのあしで たって、ぴくんと耳を立てましたー。
「いったい どうしたというんだね、ベンジャミンいとこ」
「やつが―アナグマ・トミーが、うちの子をさらっていっってしまった。きみ 見たか?」
「いったい なんびき つれていったんだ?」
「7ひきだよ!やつ こっちのほうへ きたか?はやく きかせてくれよ」
「きた きた。あれから まだ10ぷんとたっていない。ふくろには 毛むしが はいっているんだと いっていたが。《毛むしにしては、どうも ぴくぴくしすぎると おもったんだ》」
「どっちへだ、ピーター?やつは どっちへ いった?」
「ふくろのなかのものは ごよごよ うごいていたよ。《ベンジャミン ぼくに かんがえさせてくれ。まず きみのはなしを はじめから きこうじゃないか」
そこで ベンジャミンは はなしました。》
《「ざんねんながら、バウンサーおじさんは、年ににあわず、けいそつなことをなさったね」と、ピーターは かんがえこみながら いいました。
「だが、まだ のぞみは ふたつある。子どもたちは げんきにあばれていた。それに、トミーはおちゃをのんだあとだから、きっと、ひるねをする。子どもたちをたべるのは あすの朝だよ」》
「ピーター、どっちへいった?」
「まあ、ベンジャミンいとこ おちつくんだ。ぼくは しってるよ。小えだの小屋には キツネどんが いる。とすると、いわやまの てっぺんの もう1けんのいえに いっているんだ。カトンテールのそばをとおるから なにかことづけはないかと 言っていたよ。(ピーターのいもうと。黒うさぎとけっこんして おかにすんでいるのでした。)
ピーターは、《しんぱいで ただ おろおろしているベンジャミンといっしょに出かけました。》おかを のぼると トミーの足あとは まだ はっきり わかりました。トミーは 10歩ほど いっては やすんでいるようです。
《「よほど いきをきらしているものとみえるな。》におってくるので まだ ちかくに いるぞ。《なんて むなくその わるい においだ」
《まだ 夕日は あたたかく おかのまきばを てらしていました。》おかのとちゅうで カトンテールが 子どもたちといっしょに いえの戸口に こしかけていました。《カトンテールは トミーが むこうのほうをとおるのを見た といいました。》「おまえのだんなは いるか」ときくと カトンテールは 「見ているとトミーは、2ど 立ちどまって やすみましたよ」といいました。《トミーは あたまをふって カトンテールにあいずをし、ふくろをゆびさすと、はらをかかえて わらったようだったと、カトンテールは いいました。》
《「はやく、ピーター!もう りょうりしているかもしれないぞ。さあいそいで!」と、ベンジャミンは いいました。》ピーターたちは おかを どんどん のぼっていきました。「カトンテールのだんなは うちにいたんだ。黒い耳が見えたよ。」「いわやまのすぐそばに すんでいるんだ。だれでも おとなりさんとはけんかしたくないさ。さあ、いそごう、ベンジャミン!」
《いわやまのてっぺんの 森のちかくにくると ふたりは ようじんぶかく あるきはじめました。》
キツネどんは きりたったいわのしたに 1けんのいえをかまえていました。《ピーターたちは 耳をすまし、あたりに目をくばりながら、いわをよじのぼりました。》いえの入口の戸には、かぎがかかっていました。
まどから のぞくと おかってに 火はついていませんでした
《ベンジャミンは ほっと あんしんしました。》でも テーブルの上には、おりょうりのしたくがしてあるので、ベンジャミンは ぞっとしました。とても 大きなパイざら―まだ、からでしたが―や、大きな肉きりぼうちょうや、でばぼうちょうなどが のっていたのです。
テーブルには ひとりぶんの したくが してありました。
でも、おかってには だれもいず 小うさぎたちも みえません。あたりは ひそりとしていました。ベンジャミンとピーターは、まどガラスにはなをおしつけて、うすぐらいへやを よくよく のぞきました。
それから いそいで いえのうらがわに まわりました。しめった いやなにおいのするばしょで、ピーターたちは 身ぶるいしました。
《「ああ、かわいそうな、うちの子どもたち」》ベンジャミンは なげきました。
《ふたりは そおっと しんしつのまどへちかよりました。》ここのまども くぎがうってあります。《けれど ちょっとまえに だれかが まどをあけたようすがあります。》《くもの巣がちぎれ、まどわくには どろだらけの足あとがついています》だれかの ゆっくりして おちついた うなるような いびきが きこえました!
くらやみに なれると 《キツネどんのベッドにだれかが ねているのが見えてきました。》くつを はいています。
《ベンジャミンは ふるえあがって ピーターをまどのところから ひきはなしました。》
《キツネどんのベッドからは、トミーのいびきが、まだ ふとく きそくただしくきこえてきます。子どもたちは どこにも みえません。》
ピーターたちは また おもてにもどって、おかってのまどの しめくぎをはずそうとしましたが、だめです。どうにも なりません。
月が森の上にのぼり、あかるく つめたく、こうこうと、いえをてらしだしました。
《でも、どうしたことでしょう、小うさぎたちは、1ぴきも見えません。》月の光でみると、おかっての 炉のわきに きゅうしきな パン焼きがまが ありました。《それに、小さな 釜のふたがついています。
《それを見ているうち、ピーターとベンジャミンは、きゅうに気がつきました。》ふたりが まどをゆすると ふたが へんじのしるしに うごくのでした。《子どもたちは、生きていたのです!》ベンジャミンは こうふんして おおさわぎをしました。トミーが目をさまさなかったのは さいわいでした。
トミーは、まだ いびきをかいて ねていました。
ピーターたちは こそこそと そうだんしたあげく トンネルをほることにしました。
《ふたりは ただ ほりにほりました。岩だらけでしたが、夜があけるころ おかってのしたまで きていました。ピーターは つめがすりへったので ベンジャミンが あおむけにねて たてあなをほり ピーターは 土を かきだしていました。
「夜があけた―日がでたぞ。したの森で、かけすが さわいでいる」と、ピーターはどなってベンジャミンにしらせました。ベンジャミンはあなから でてきて 耳のなかの土をはらいました。
《きりのなかの 草はらから、また おこったような かけすのなきごえが きこえ―つづいて、するどく きつねの さけぶこえが しました。》
《ピーターたちは あわてふためき、いちばん ばかなことをしてしまいました。ふたりは、みじかいトンネルの そのどんづまり―キツネどんのおかっての ゆかしたに にげこんだのです。》
キツネどんは おかをのぼってくるところで かんかんに かんしゃくを おこしていました。《まず、ゆうべ だいじな おさらをこわしたことで はらをたてていました。おさらをこわしたのは じぶんが わるいのです。》
《それから、ゆうべ、か や はむしが うるさっかったうえ、巣についている、めすのきじを とりそこないました。巣のたまごは 2つ くさっていました。《ゆうべは キツネどんには おもしろくない夜だったのです。きげんがわるいときは ひっこしをするのが、キツネどんのわるいくせです。》やなぎの木のしたの あなに いってみました。けれど、そこは しけていました。
《そこで、おかにのぼっていきました。けれど、まぎれもない あなぐまの足あとを見つけると、キツネどんのきげんは すこしでも よくなるわけがありません。》だらしなく こけを あちこち ほりおこすのは トミーのほかには ないのです。キツネどんは かんしゃくを ばくはつさせました。《トミーが どこへいったのか けんとうがついたのです。》かけすが 1わ しつこく ついてくるのも しゃくでした。
かけすは、うるさく なきたて、こえのとどくかぎりのところにいる うさぎたちに、 ねこか きつねが 森にやってきたぞ と、おしえているのです。
キツネどんは さびた 大きなかぎを手にして、そおっとちかづき、鼻をくんくんさせ、ひげは つきたっていました。なかに だれもいないなんて あやしいものだと キツネどんはおもいました。《さびたかぎを あなにいれて まわしました。その音は、ピーターたちにも きこえました。》キツネどんは そっと いえに はいりました。
おかっての ようすをみて はらわたが にえくりました。キツネどんのしなものが かってに ならべて あったからです。
あたりは ほりおこした土のにおいと あなぐまのにおいで いっぱいでした。そのため、うさぎのにいおが けされていたのは さいわいでした。
けれども キツネどんが いちばん おやっとおもったのは、じぶんのベッドのなかから きこえてくる ふとい ゆっくりしたいびきでした。しんしつの ドアのすきまから のぞきました。
《のぞいたとおもうと、キツネどんは、いえから とびだしていました。あまりにも はらがたったので、キツネどんのひげは、さかだち、上着のえりは つきたっていました。》
キツネどんは いえにはいったり でたりしました。そして、すこしづつ おくまで ふみこんで とうとうしんしつを のぞきこみました。いえの外にでると、くやしがって じめんをかきむしりましたが、いえにはいると どうも あなぐまの歯のようすに 気がくじけるのでした。
《トミーは あおむけにねて にんまり わらっていました。》そして あいかわらず いびきをかいていましたが、《かた目だけ、ちゃんと つぶっていませんでした。》
キツネどんは しんしつを 出たりはいったりして つえをもったり、1どは 石たんバケツをもってきましたが、かんがえなおして 外へ もちだしました。
トミーは すこし よこむきにねて まえより ぐっすり ねむっているように みえました。トミーは、しょのないなまけもので キツネどんなどは すこしも、こわくないのです。いまは、ゆっくり ねていたいのです。
キツネどんは こんどは ものほしづなをもってきて まず まどをあけ、つなのはしだけ のこして 外へだしました。まどのなかにのこっているつなのはしには 金のぼうをまげた かぎがついていました。
トミーは、あいかえあらず いびきをかいています。キツネどんが へやの外をでると、りょう目をあけ、綱のはしを見て にゃりとしました。
キツネどんは しんしつのまどからつなをひきだし、1ぽんの木にむすびつけました。
そのあと 水を 大きなバケツに いっぱい いどからくみ、それをさげ、よろめながら、しんしつに もどってきました。
キツねどんは、つなのはしを ベッドの上の 木のわくにとりつけました。カーテンをさげるわくでした。キツネどんは、トミーを見おろしました。まあ、よくねていること。
トミーのあたまのうえから バケツの水を ひっかけてやるつもりでした。ところが、バケツは おもくて もちあげることが できません。トミーはあいかわらず よく ねています。
キツネどんは、かんがえて バケツのみずを せんめんきと水さしのなかへ あけ からのバケツをぶらさげてから ミルクちゃわんで水をいれました。とうとうバケツの水がいっぱいになりました。
《キツネどんは うらぐちをさして はしりました。はやく つなをほどいて、バケツの水を さあっと トミーにかけてやりたかったのです。》
キツネどんが へやを出るがはやいか、トミーは、ベッドからとびおき、《キツネどんのガウンを くるくるまきにして じぶんのかわりに もうふでくるみ、バケツのしたにおきました。》
トミーは 大にやにやで へやをでて おかってにいきました。火をたきつけ やかんに おゆをわかしました。《小うさぎたちのおりょうりは てまがかかるので あとにしました。》
いっぽう キツネどんは 木のところまでいくと むすびめがほどけなく、20ぷんも つなをかんだり かじったりしていました。そのうち ぷつんと!ときれたので、キツネどんは あおむけに ひっくりかえりました。
いえのなかでは ものおとがして バケツがころがっていく音がしました。
《けれど なんのさけびごえもあがりません。》
まどをのぞくと、ベッドから 水がぽたぽた おち ベッドのまんなかで なにか ぺしゃんと つぶれています。
その まんなかへんは バケツにやられて へこんでいました。キツネどんは30ぷんも じっと見ていました。目は ギラギラ ひかっていました。
キツネどんは うれしそうに ちょうしにのって まどをたたいたりしました。《けれど、ベッドの上のものは、うごきません》
「《あの いやらしいやつを やつのほったあなに うめえしまおう。》《まずあなを よういしよう」》
キツネどんは おかっての戸をあけました....
すると テーブルに あなぐまトミーがすわっていて、《キツネどんのきゅうすから キツネどんのおちゃわんへ おちゃを ついでいるところでした。》トミーは すこしも ぬれていず にやっと わらっていました。そして、にたったおちゃを キツネどんの からだじゅうに ひっかけました。
《そこで キツネどんは トミーにとびかかり、トミーは こわれたせとものを ふみつけながら キツネどんと がっちり くみあいました。くみあったあと、ふたりは おかってじゅうをころげまわって、はげしく たたかいました》
ピーターたちは トンネルから出て、こわごわ 耳をすましました。
《いえのなかの さわぎは、たいへんなものでした。》 《小うさぎが そとにでられないよう とじこめられていたのは うんのいいことでした。》
《おかってでは テーブルをのぞいて なにもかも ひっくりかえっていました。》
なにもかも こわれ、トミーはジャムのつぼのなかに かたあしをつっこみました。やかんの おゆは キツネどんのしっぽに かかりました。
トミーは キツネどんを まるたのように ごろごろ ころがして、おもてへ つきだしました。」
いがみあいは つづき ふたりは いわにぶつかって はずんだりしながら、おかを ころげおちていきました。たしかに、キツネどんとトミーほど いがみあっている かたきどうしは、めったに いないでしょうね。
《おそろしいやつらが、いなくなるがはやいか、ピーターたちは 木のかげから 出てきました。
「さあ いまだ、ベンジャミン!いえに はいって!子どもたちを たすけだすんだ!ぼくは おもてで 見はりをする」
けれども ベンジャミンは こわくて、いえに はいれませんでした。
「だめだ、だめだ。やつら かえってくるよ」
「かえってくるものか」
「ううん、かえってくるってばあ!」
「きみ なんていう 口のききかたをするんだ?いまごろ、やつらは 石切り場のあなに ころがりおちているよ」
それでも、ベンジャミンは うごこうとしませんでした。ピーターは、ベンジャミンをうしろから おしながら 「はやく、だいじょうぶだよ。かまどのふたを閉めるのを わすれないで!》気づかれると こまるから」
《さて ベンジャミンのいえのほうでは ものごとが うまくいっていませんでした。プロプシーとおじいちゃんは けんかをしながら 夕ごはんをたべたあと ねむれない夜を すごしました。》《おもくるしい じかんが たっていきました。おじいちゃんはふくれ あなのすみに ひっこみ、プロプシーは、おじいちゃんのパイプをとりあげ、たばこをかくしました。
《 そのころ、ベンジャミンは、ちょうど キツネどんのおかってに はいっていったところでした。あたりは ほこりが もうもうとたち、ゆかは こわれものだらけでした。
ベンジャミンは おずおずと かまどのほうへ よっていきました。小さなふたをあけ、手で なかをさぐってみると なにか あたたかい ごよごよ うごくものがあります。ベンジャミンは、それをそっと もちあげて、ピーターのところへかけもどりました。》
ピーターは 耳をぴんとたてると まだ 森のおくで、かくとうのおとがしています。
2ひきのうさぎは いきをきらして おかをかけおりていきました。ふたりで りょうほうから ふくろを つかんで。
《そして ぶじ いえにつくと わっと うさぎあなに とびこみました。》
おじいちゃんとプロプシーのよろこびは たいへんな ものでした。子どもたちは かなり くしゃくしゃになっていたけれど おちちをもらうと げんきになりました。
プロプシーは、おじいちゃんに、あたらしいながいパイプと うさぎたばこをプレゼントしました。
ピーターとベンジャミンは、じぶんたちの ぼうけんだんを はなしましたが、キツネどんとアナグマ・トミーの けんかが どうなったか ということまでは、ざんねんながら ふたりとも みていなかったのです。
おわり
読んであげるなら:5・6才から
自分で読むなら:小学低学年から