批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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東京地検特捜部は2日、政治資金規正法違反の疑いで市民から刑事告発されていた萩生田光一前政調会長と世耕弘成前参院幹事長について、いずれも不起訴処分を決めた。他にも告発されている議員がいるが、決定は同じだろう。裏金問題は一部議員の起訴と幹部の懲罰人事で幕引きとなる。
個人的には全く納得できない結末だが、問題は政治資金規正法自体の欠陥にあるらしい。弁護士の郷原信郎氏が8日に更新したブログが参考になる。政治団体宛てではない、政治家個人宛ての寄付が抜け穴になっているというのだ。
抜本的な法改正が必要だ。連休明けの国会で審議が進むのだろうか。4月28日の衆院補選で自民は3区とも敗北した。野党に風が吹いているはずだが、議論が深まるかはわからない。政権にはまだ余裕があるからだ。
それを示すのが5日発表のJNNの世論調査である。そこでは次回衆院選で「立憲などによる政権交代」を望む回答が、政権継続を望む声を上回り48%となった。
厳しい世論の表れと考えられるが、問題は同時に岸田内閣の支持率も7ポイント上昇していることだ。理解に苦しむとの声が多いが、むしろこの矛盾こそいま政治が直面する困難を表している。抽象的には政権交代しかないと感じても、具体的には自民以外の選択肢が思い浮かばない。それが多くの国民の感覚なのではないか。
裏返せば、国民は本気の選択肢の出現を待望している。いま野党に求められているのは、55年体制を彷彿とさせる「お灸を据える」役割ではない。現実の政権交代の緊張感である。それだけが政治とカネの問題を解消できる。
補選全勝を受けて、立憲と共産の「野党共闘」が復活しつつある。目の前の選挙戦略としては妥当かもしれない。しかし共産を入れた政権が現実に運営可能だろうか。いま本当に必要なのは、自民に批判的な中道勢力の再結集だろう。
前述の調査では立憲の支持率は10%強。4ポイントを超える急上昇だ。しかし2009年の政権交代前夜、民主党の支持率はじつに3割を超えていた。風に浮かれてはならない。
※AERA 2024年5月20日号