都知事選が今週から始まる。「メディアがどう伝えるか?」にも注目だ。
政治記者といえばこれまではどんな「文化」だったのか? 毎日新聞の記者たちが書いた『 汚れた桜 「桜を見る会」疑惑に迫った49日 』(毎日新聞出版、2020年)を抜粋する。
《記者会見などのオープンな場での取材よりも、水面下で入手する独自情報を重視する政治記者の文化だ。》
なるほど、わかりやすく言えば“田崎史郎的な文化”である。
記者も「見られている」
《オフレコ重視の文化がずっと続いてきたのは確かであり、その積み重ねが記者会見の軽視を生み、そして形骸化を生んでいる側面があることは否めない。》
しかし時代は変わりつつある。
《SNSを通じて読者の反応がリアルタイムで返ってくるため、記者も「見られている」意識をより強く持つようになっているのだ。》
そう、記者も見られている。やはり記者会見は重要だ。記憶に新しいところでは、昨年行われた旧ジャニーズ事務所の会見も「?」と思う記者やレポーターの質問はSNSでツッコまれていた。ツッコミにも各々の見解の違いはあろうが、メディアが何をやっているか可視化されるのは健全ではないだろうか。
助け舟のような質問
それでいうと先週話題になった取材風景があった。
『小池知事、学歴詐称疑惑の質問を軽くあしらい『勝負服』の話題に 「逃げた!」「忖度メディアも酷すぎ」Xでは批判の声【都知事選】』(中日スポーツ6月12日)
「事件」は都議会閉会後の囲み会見でおきた。都知事選に3選出馬を表明した小池百合子都知事に対して、
《フリーランスの記者から「昨日、朝堂院大覚さんが…」と質問が飛んだ。小池知事はキョロキョロと周囲に視線を送った後に「すいません、ありがとうございます」と軽くあしらい、別の記者が「いつも勝負服のカラーで緑色の服を着られますけれども…」と違う質問をかぶせると、そちらには「メリハリつけた、そのような対応をしていきたいと思っております」と笑顔で答え、会見は終了となった。》
朝堂院大覚氏とは、小池氏の父と親しかった実業家である。朝堂院氏は6月11日に会見を開き、小池氏のカイロ大学卒業という学歴について「2年の期末試験を受けてます。ただ、点数を取れなかったから落第。それは事実。中退と言えば本当なんです」などと話していた。これを小池氏に尋ねた質問をさえぎり、助け舟を出すかのように「勝負服」質問をした記者の言動にSNSで批判が続出したのだ。
調べてみると、
『公約は“後出しじゃんけん”小池氏と蓮舫氏 首都決戦の行方は? 専門家に聞く』というテレビ朝日の番組記事(6月13日)で、
《この日は勝負カラーの緑ではなく、青のジャケットに青のネックレスで臨みました。》
と書かれていた。どうやら本気で取材の成果だと思っていたらしい。記事では学歴詐称疑惑の質問には触れていない。
この件にはもう一つ注目点がある。勝負服の質問をした記者は都庁記者クラブの仕切り役だったらしいこと。都知事の定例記者会見は都庁記者クラブ主催で毎週金曜日に開催されているが、現在はフリーランスなどクラブに非加盟の記者はオンラインでしか参加できないこと。なので今回の囲み会見が余計に「目立った」のだ。
フリーの記者への冷遇ぶり
フリーの記者を邪険に扱うような構図は「産経ニュース」(6月10日)を読むと面白い。
《東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)に出馬表明した立憲民主党の蓮舫参院議員を巡る記者団のぶら下がり取材で、フリーランス記者を含めて質問が活発に飛び交っている。》
フリーの記者も活発に質問できるならそれでよいのでは? と思うのだが、どうやらそうではないらしい。
《フリーの記者の質問は3選出馬が有力視される小池百合子都知事の「失政」に関する見解を聞くケースが多く、現状は蓮舫氏の背中を押すような質問が目立っている。》
小池氏は8年間都政をおこなってきた。その人物が3選を狙うというなら検証報道は多いほど都民の投票判断の材料になるはず。それが「王者」への接し方でもある。しかしこの記事では「小池百合子都知事の『失政』に関する見解を聞くケースが多く」という書き方になっている。失政を検証するのはダメなのだろうか。
幹事社のしきたりとは?
注目は、あきらかにフリーの記者に不快感をあらわしている部分だ。「フリージャーナリストの質問に戸惑った民放記者もいた」として、
《民放記者は幹事社として1問目の質問を終え、2問目を言いかけた途中で、差し込まれた形となったからだ。ぶら下がり取材にはルールはないものの、取材を効率化する観点から、一般に幹事社が冒頭、基本的な事項を尋ねた後、各社各人の質問に移っていく。》
幹事社などのしきたりを説明しているが、こういうのを読むと質問そのものより秩序が大事ということがわかる。勝負服の質問をした記者の言動と併せて読むと味わい深い。
念のために書いておくと、私はフリー記者の質問ならすべて良いとは思っていない。新聞記者の質問にも「?」と思うものがあるのと同じだ。ただ選挙取材では多様な質問が出るほど有権者の参考になるはず。
それでなくても小池氏には「答弁拒否」に関する話題が多かった。
本当に質問すべきこと
『小池都知事が答弁拒否、議員発言取り消しの“横暴”「今の東京都議会はあまりにもおかしい」』(東スポWEB 3月29日)
答弁拒否の見解を巡っては都議会で議論になったが、小池氏が答えない場合が多いなら記者がどんどん質問していくしかない。
小池氏の学歴詐称疑惑もゴシップ扱いにしていてよいのだろうか。大学卒業を認めるカイロ大学長名の2020年の声明文を巡り、小池氏の元側近の小島敏郎氏が、声明文は知事側で作成した可能性があると告発した(文藝春秋5月号)。この告発に対して小池氏は現在も説明していない。
「カイロ大声明」によって再選を果たした小池氏は「二期目に入るやエジプト関連予算を一気に増額させている」(週刊文春4月25日号)とも指摘されている。税金の使い方は東京都民に直接関わってくる。なので記者の皆さんには質問をどんどんしてほしい。民主主義の基本だ。勝負服の質問などしている場合ではない。
(プチ鹿島)