国家を私物化する安倍政権の改憲を許すな。自民党案に潜む「罠」<小林節氏>
11/24(日) 8:33配信 ハーバードビジネスhttps://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191124-00207060-hbolz-soci
(保存のためにコピペさせていただきます)
①
11月20日で桂太郎(第11・13・15代内閣総理大臣)を抜き、憲政史上最長の在職日数となった安倍晋三総理。この間、安倍総理は官僚人事を壟断し、自身の手駒として動く忠実な下僕を主要ポストに据え、自身の「身内」に利権を分け与え、嘘を嘘で糊塗し、法や民主主義を踏みにじり、公文書を捏造させ、国家を私物化してきた。
安倍総理は「政治は結果」というが、その結果は、粉飾だらけのアベノミクス、失敗だらけでカネをばらまく外交とろくな成果も見られない。
『月刊日本 12月号』では、総特集として、長期政権の驕りと緩みが噴出しまくっている安倍政権を批判する「国家を私物化する安倍晋三 国民を裏切り続けた七年間」を掲載している。
今回はその特集からもともと改憲論者でありながら、安倍政権の改憲スタンスに一貫して異議を唱えてきた慶應義塾大学名誉教授で法学者の小林節氏の論考を転載、紹介したい。
── 憲法改正に向けた安倍政権の動きが活発になっています。
小林節氏(以下、小林): 安倍総理は、憲法9条の1項、2項をそのままにして、憲法に自衛隊を明記するだけだと説明していますが、実は重大なことが隠されています。
昨年3月の自民党大会で決定された改憲の「条文イメージ(たたき台素案)」には、9条の2を加え、「前条の規定は必要な自衛の措置をとることを妨げず」と書かれているのです。
これまでの政府解釈、国会答弁は「必要・最小限の自衛」でした。安倍政権の改憲案は、この「最小限」という考え方を否定しようとしているのです。つまり、必要な自衛の措置ならば、何でもできるということです。極端に言えば、自衛隊は地球の裏側にも行けるということです。
9条の1項、2項が残るから大丈夫だと考えてはいけません。同レベルの法では新しい条文が優先されます。9条の2を入れることで、現行の1項、2項は排除されるのです。自民党は、単なるたたき台だと言っていますが、党大会で憲法改正推進本部長に一任され、総務会でも追認された文書です。それは党議決定なのです。
また、安倍総理は自衛隊を明記することによって、自衛隊に誇りを持たせると述べていますが、自衛隊を条文に書き込むこと自体が憲法になじみません。憲法に明記されている国家機関は、国会(衆議院・参議院)、内閣、最高裁判所、会計検査院だけです。それ以外の国家機関は法律によって規定されています。自衛隊を管理する防衛省も明記されていないのに、自衛隊だけを明記するのは不合理です。
── 改憲4項目には緊急事態条項も入っています。
小林:非常時には首相に、行政権に加えて立法権、財政権、自治体への命令権を与え、国民には命令に従う義務を課すものです。実際の災害時に必要のない異常な首相独裁体制です。
②
── 安倍政権の改憲案は危険ですが、自民党の憲法観自体に大きな問題があります。
小林:本来、憲法は主権者である国民が権力者を縛るものです。国家が個人の基本的人権を侵害することがないように制限するルールが、近代立憲主義における憲法なのです。ところが、自民党の憲法観は逆立ちしたものです。自民党議員と憲法論議をしていて驚かされることは、「権力を規制する『制限規範』としての憲法もあるが、権力に授権する『授権規範』としての憲法もあり、私は後者を採る」などと公言する者が多いことです。
現行憲法は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(99条)と規定していますが、2012年に自民党が出した憲法改正草案は、この規定を尊重義務と擁護義務に分け、「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」、「国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」と定めているのです。 つまり、下々の国民がきちんと憲法を尊重しているかどうかを、憲法の擁護者である権力者が監視しなければならないという発想なのです。
また、現行憲法は「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)と定めていますが、自民党の草案は「個人」を「人」に書き換えてしまいました。
人間はそれぞれ異なるDNAを持っているので、それぞれ個性があり、異なる好き嫌いを持っています。だから、意見が異なるのは当然です。お互いの違いや個性を最大限尊重し合うことが、人権が保障された社会です。自民党の草案は「個性を持った個人の尊重」という原則を切り捨てようとするものです。全体主義指向なのです。
── 7年に及ぶ安倍政権で、すでに憲法の理念が踏みにじられてきました。
小林:安倍総理は当初、憲法96条を改正して改憲発議要件を緩和しようとしました。法の支配を無視した「裏口入学」です。その後、96条改正を引っ込めたと思ったら、今度は解釈改憲によって、集団的自衛権行使を容認する安保法制を強行しました。これは明らかに憲法9条違反です。
2014年に施行された特定秘密保護法は、世界でも稀に見る悪法です。政府が秘密と決めたものは、それが何であるかも説明せず、永遠に秘密として闇に葬ることができるのです。政府が何をしたかを、主権者国民がわからなくするものであり、国民の知る権利に対する侵害で国民主権に対する反逆です。
安倍政権はまた、メディアに対して圧力をかけてきました。総務大臣が「公平性」を欠く放送を繰り返した放送局の電波停止に言及したこともありました。「使ってはいけない論客」リストが流され、そこに私の名前も載っていたそうです。メディアが萎縮するのは当然です。いまや、ほとんどの地上波が政権批判をできなくなっています。 安倍政権は政権におもねる御用メディアを育て、敵対するメディアを潰してきたのです。表現の自由、報道の自由、国民の知る権利が著しく脅かされているということです。
安倍政権はまた、「働き方改革」と称して高度プロフェッショナル制度などを導入しましたが、実質的には「残業代ゼロ制度」であり、勤労の権利を侵害するものです。
2017年には、安倍総理は野党による臨時国会召集要求を3カ月も拒みました。そして召集に応じるや、審議をせずに冒頭で解散してしまいました。これも、「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば内閣は(臨時国会)の召集を決定しなければならない」と明記した憲法53条に反する暴挙です。
2016年に導入されたマイナンバー制度は、国民のプライバシーを国が管理するものであり、憲法13条のプライバシー権を侵害するものです。
③
── 参議院では、憲法改正の発議に必要な3分の2に足りていません。
小林:決して安心してはいけません。自民党が、改憲派の野党議員を一本釣りすることなど容易なことです。
自民党は、世論調査を頻繁にやっており、国民投票に踏み切るタイミングをうかがっています。いま、国際情勢が悪化する中で、改憲賛成がじわじわ増えています。安倍政権は北方領土交渉で成果を上げることができませんでしたが、ロシアによる四島不法占拠に反発している国民も少なくありません。また、尖閣諸島などでの中国の行動に対する国民の警戒感も高まりつつあります。さらに、北朝鮮がミサイルを発射し、韓国との関係もこじれています。こうした厳しい国際情勢の中で、「日本に軍隊がなく、国防の意思をきちんと示さないから、外国から舐められているんだ」と考える人が増えています。
国際情勢が厳しくなる中で、左派の平和主義が説得力を持ちにくくなってきているのも確かです。安倍政権による改憲を阻止するためには、専守防衛によってわが国の安全保障を維持できることを明確に示すことが重要です。
わが国には、世界有数の経済力と技術力があります。その力によって、9条の範囲内で「専守防衛」の能力を高めることができます。「万が一にも日本に手を出せば、致命傷を負う」と他国が考えるように、日本は専守防衛に集中すべきです。その上で、わが国は海外では軍事力の不行使に徹し、対立する諸国間の仲裁と人道復興支援に邁進すべきです。
安倍政権による改憲を批判する人の中には、非武装中立を信奉し、自衛隊廃止を説く人もいます。しかし、いまはその議論をしているときではありません。まず、安倍政権の改憲を阻止し、それからその議論をすればいい話です。
国際情勢の悪化に伴って、改憲賛成がさらに増えてくる可能性もあります。賛成が過半数を超え、その状態が続くと判断すれば、国民投票に自信を持って、安倍政権は一気に動くでしょう。決して油断はできません。 (聞き手・構成 坪内隆彦)
こばやしせつ●法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院のロ客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在。
【月刊日本】 げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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