小池百合子v.s.蓮舫を元都庁幹部はどう見ているか 「間違いだらけの政策」と「間違いだらけの出馬会見」とは
共同通信は5月27日、「蓮舫氏、都知事選へ出馬表明 『小池都政をリセット』」との記事を配信した。立憲民主党の蓮舫参院議員(56)は7月7日に投開票が行われる東京都知事選に立候補を表明。「自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットする先頭に立つ」と強い決意を示した。ところがこの発言、有権者にはあまり響かなかったようなのだ。
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都知事選は現職の小池百合子知事(71)が3選を目指し出馬する見通し。さらに広島県安芸高田市の石丸伸二市長(41)、元航空幕僚長の田母神俊雄氏(75)、タレントの清水国明氏(73)の立候補も報じられた。
他にも公職選挙法違反の疑いで警視庁に逮捕された政治団体「つばさの党」代表の黒川敦彦容疑者(45)も出馬すると見られているほか、「NHKから国民を守る党」は新人13人の立候補を発表。5月29日時点で、立候補予定者は20人を超えたようだ。
まさにカオスという表現がぴったりだ。そこで改めて都知事選の本質をプロに分析してもらおうと、元東京都庁職員の澤章氏に取材を依頼した。
澤氏は一橋大学を卒業後、民間企業での勤務を経て、1986年に東京都庁に入庁。その後は知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長など都政の要職を歴任した。 2020年に豊洲市場問題の内幕を描いた『築地と豊洲』(都政新報社)を出版し、東京都環境公社理事長を退任。21年には『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)を上梓した。
政治的パフォーマンス
まず澤氏に小池都政の問題点を訊くと、「今、都の税収は伸びに伸びています。他の自治体から強い不満が出るほどの額で、これが大きな問題を引き起こしているのです」と言う。 「例えば小池さんは昨年の1月4日に突然、18歳までの子供がいる都内の家庭に対し、子供1人あたり月5000円程度を給付すると発表しました。この施策は現在『018サポート』と名づけられています。確かに行政が子育て世帯を支援することは素晴らしいことですが、 その目的と手法があまりに“政治的”です」
澤氏が注目するのは、小池氏が発表した1月4日という日付だ。この日は岸田文雄首相の年頭記者会見も開かれ、ここで岸田首相は「“異次元”の少子化対策」を発表した。 「小池さんは岸田首相の発表にぶつける形で『018サポート』を発表しました。理由はマスコミの関心と世間の耳目を、岸田首相ではなく自分へ向けるためだったのは明らかです。東京都が子育て支援を実施するのに、こんな政治的なパフォーマンスが必要なのでしょうか?」
小池氏が普通の発表方法ではなく、パフォーマンスとして派手にぶち上げたのは、彼女の選挙対策に役立つからだ。
「確かに都は税収が豊富なので、『018サポート』に『税金の無駄遣い』と異議を唱える都民は少数派でしょう。子育て支援という立派な大義名分もあります。しかし、だからと言って小池さんが自分への支持者を増やすため、都の税収を好き勝手に使っていいはずがありません」(同・澤氏)
管理職から切実な悲鳴
実は小池氏、「5000円給付」をサプライズ発表するため、少数の幹部にしか事前に知らせなかった。これが後で大きな騒動を引き起こしたという。
「小池さんがサプライズ発表した後になって、関係部局へ指示が降りたわけです。もちろん現場は『聞いていない』と大騒ぎでした。ところが小池さんの側近は『知事のために早く実施しろ』と強い圧力をかけます。担当職員は残業に次ぐ残業で、身を粉にして働き続けました。苦しい仕事が子育て世帯の支援につながるのなら納得もできますが、結局は小池さんによる人気取り施策の片棒を強制的に担がされているわけです。どこの部署でも似た状況で、都職員のストレスは看過できないレベルに達しています。特に管理職が『もう西新宿の本庁では働きたくない。出先に避難したい』と悲鳴を上げています」(同・澤氏)
小池氏の「自分だけが目立てばいい」という本音が透けて見えたことがある。東京都が高校授業料の実質無償化を打ち出した際、埼玉、千葉、神奈川の3県が「地域間格差が拡大している」と懸念を表明し、国に対応を求めた問題だ。 「5月7日、3県は国に『都の財源が潤沢なことで地域間格差が生じている』との要望書を提出しました。これに小池さんは10日の定例記者会見で反論したのですが、その内容に問題がありました。『都の財政が潤沢だから無償化が実現したのではなく、行財政改革を進めている結果だ』と、“上から目線”と反発されても仕方がないような指摘を行ったのです」(同・澤氏)
不平等は無視する小池氏
3県と小池氏の議論は、どう考えても小池氏の分が悪いだろう。高校授業料の無償化は全国的な施策でなければ地域間の不平等を生むことが明白だからだ。小池氏が無償化を実現したいのであれば、全国の知事と話し合いを重ね、知事会などを通して国に要望するのが筋だという。
「埼玉、千葉、神奈川の3県から都内に通勤し、働いている方々もたくさんおられます。そうした3県民が都の税収の伸びに寄与しているのは言うまでもありません。それだけではなく、3県にある支社や支店が稼働することで、都内の本社も儲かります。3県民の寄与は大きいはずなのに、月5000円の給付や授業料無償化という恩恵は都民しか得られない。これは看過できない不平等でしょう。小池さんは都民の支持を集めるためなら、他県と不平等が生じても構わないと思っているに違いありません」(同・澤氏)
しかし、これほどなりふり構わず人気取りに走っても、今回の都知事選で小池氏は初めて苦戦を強いられる可能性があるという。
「政治家としての小池さんは『攻めるのは強く、守るのは弱い』という特徴があると感じています。小池さんは1期目と2期目の選挙で『旧来型の都政に穴を開ける』というムーブメントを巻き起こすことに成功し、攻めに攻めました。ところが今回の選挙では“敵役”が誰もいません。そのため1期目と2期目の実績を強調するという戦略しか存在しないのです。発信力が落ちるのは明らかで、守りの選挙戦を小池さんがどう戦うかが一つの注目点になるでしょう」(同・澤氏)
不発の蓮舫氏
一方、小池氏の対立候補の中では断トツの知名度を誇る蓮舫氏だが、出馬会見は不発に終わったという。
「会見で蓮舫さんは、あまりにも小池さんに攻撃的でした。国政とは異なり、都知事選では対立の構図を鮮明にしても、有権者はそれほど反応しません。神宮外苑の樹木伐採問題のように、具体的な施策で小池さんを批判するのは問題ありません。しかし一方的に小池さんを攻撃するだけの選挙活動では、最終的に有権者は蓮舫さんに反発します。蓮舫さんは貧困など困難な境遇に直面している都民に対して具体的な救済策を打ち出すなど、現実の政策論争で小池さんに対峙しなければ、有権者の支持は得られないと思います」(同・澤氏)
デイリー新潮編集部