「幸せな人生」に必要なカギは「ただ1つ」だった...ハーバード大学の80年以上かけた「人の生き方についての最大規模の縦断研究」が解き明かした「圧倒的な真実」
日々を慌ただしく過ごしていると、ついつい「幸せ」を置き去りにしてしまう。でも、幸せについて、ちょっと考え、知るだけで、「幸福度」は、一気に高まる。読めば今日から生き方が変わる大特集。
人の生き方についての最大規模の縦断研究
本誌の編集部には、これまで数十人もの「大ガネ持ち」を取材してきた記者がいる。さまざまな富豪の生活をつぶさに見てきたその記者は、しみじみと語る。
「けっこうな割合のおカネ持ちが、どこか幸せそうじゃない雰囲気なのが興味深く、不思議でもあります。一生で使い切れないくらいのおカネを持っているのに、空虚な表情の人が多いんです」
高い地位を築き、多くの金銭を手にしているにもかかわらず、不幸そうにみえる人がいる。その一方で、一般的な「成功」とは縁遠いものの、幸せを日々噛み締めているようにみえる人もいる。
幸せというのは、じつに不可解である。だからこそ「どうすれば幸せになれるのか?」という問いは、アリストテレスの時代から人類を悩ませつづけてきた。なかにはその歴史の重みに、「一貫した幸せの法則があるとは思えない」と感じている人もいるだろう。
しかし、あきらめるのはまだ早い。
近年、「幸福」についての心理学的、経済学的な研究が、大きな成果をあげるようになり、「幸せのカギを握るのはなにか」が明らかになりつつあるからだ。
なかでも大きな成果をあげている研究の一つが、「ハーバード成人発達研究」である。研究の4代目の責任者で、ハーバード大学医学大学院・精神医学教授のロバート・ウォールディンガー氏が解説する。
「1938年に始まった、80年以上の歴史をもつ研究です。開始以来、多くの被験者の、若いころから高齢期にいたるまでの人生を詳細に追跡してきました。さらにその子孫たちの人生も追っており、被験者の数は、三世代にわたる1300人超にのぼります。
被験者にたいしては、幸福度、健康状態をはじめ、膨大な項目についての調査をおこない、人生の変遷をつぶさに記録しています。人の生き方についての最大規模の縦断研究(長期間にわたる研究)と言えます」
驚くほど幸福度に影響を与える「人間関係の満足度」
1300人超の「人生の縮図」をまとめあげた巨大なデータ。ウォールディンガー氏らがこのデータから導き出した最新の「幸福の法則」は、アメリカで人々の耳目を集めた。氏の共著『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(辰巳出版)は日本でも翻訳され、好評を博している。
ちなみに、彼らが言う「幸福度」というのは、「一時的な快楽」のことではない。そうではなく、一過性の楽しさやみじめさを超えて、自分の人生には意味や目的があると感じられる奥深い実感を、厳密な方法で測定したものである。
それでは、長年の研究の結果、ウォールディンガー氏らが幸福を得るための「カギ」として見出したものとは、なんだったのか。氏は、
「それは、人間関係です」
と断言する
シンプルな答えに、やや拍子抜けかもしれないが、80年以上をかけ、膨大な被験者をみてきた研究がもつ説得力は大きい。
「長期の研究からわかってきたのは、『人間関係の満足度』と、幸福度や人生の満足度のあいだに、驚くほど強い関係があることでした。」
たとえば、被験者を80代まで追跡した時点で、その人物の中年期の状況から、80代の幸福度や健康状態を予期できるかを検討しました。
被験者の50代のときのデータを調べたところ、幸福度や健康と関係が深いのは、たとえばコレステロール値なんかではなく、なににもまして『人間関係の満足度』でした」
人生を振り返ったとき「何を最も誇りに感じるか?」
ウォールディンガー氏は、被験者たちが人生経験を重ねるなかで漏らすようになった、実感に満ちた言葉にも注目する。
「私たちの研究の被験者が80代になったとき、『人生を振り返って、なにに最も誇りを感じるか?』と聞くと、ほとんどすべての人が人間関係について答えました。『おカネ儲けをした』とか『大きな賞を勝ち取った』とか言う人はほとんどいない。人生の終盤にたどりついて、幸福にとって最も重要だと思われたのは、他人とのあたたかいつながりだったのです。
後編記事『ストレスのない人生は存在しないが「ストレスを強力に減らしてくれるもの」は存在した...「幸せな人生」を送るために必要な「小さなこと」』に続く。
「週刊現代」2023年8月26日・9月2日合併号より