安倍元首相の後継者 元フジ記者、現防衛大臣秘書官の甥・岸信千世氏か
安倍晋三・元首相は父の晋太郎氏が率いた「安倍派」を復活させ、政界のキングメーカー、いわば“令和の闇将軍”の座を不動のものにしたかに見えるが、その意気軒昂な姿とは裏腹に、足元に大きな不安を抱えている。
【写真13枚】杖をつき歩く岸信夫氏の隣に長男の信千世氏。他、安倍家と岸家のゴッドマザーと呼ばれる母・洋子さん、取材を振り切って車を発進させる昭恵さんも
岸田首相が面従腹背で“安倍離れ”を急いでいることに加え、安倍家の後継者問題が深刻化しているからだ。政治ジャーナリスト・野上忠興氏がいう。 「安倍氏と昭恵氏に子供がおらず、総理を辞めて代替わりを準備しなければならない時期なのに、地盤を継がせる後継者が決まっていない。地元にも、派内にも、危機感がある」 跡継ぎ問題を一番心配しているのが岸信介・元首相の娘で安倍家と岸家のゴッドマザーと呼ばれる母・洋子さん(93歳)だとされる。安倍家は長男・寛信氏(三菱商事パッケージング元社長)、次男の晋三氏、そして生まれてすぐ洋子さんの実家・岸家の養子になった三男で現・防衛相の信夫氏(山口2区)の3兄弟。後継者候補は寛信氏の長男(大手商社勤務)、岸信夫氏の長男・信千世氏(防衛大臣秘書官)と次男(大手不動産勤務)の3人と見られているが、なかなか決まらない。 「洋子さんは自分の目の黒いうちに後継者を決めたい。実家の岸家に養子に出した信夫氏の息子たちは岸家の地盤を継がなければならないから、安倍家の地盤はなんとしても寛信氏の長男に継いでほしいという思いが強い。しかし、長男は政治家の道は選ばないと断わり続けている」(地元・山口の政界関係者) そんな中、安倍氏に立ち塞がるのが、岸田派ナンバーツーの林芳正・外相だ。貴族院議員だった高祖父から続く4世議員で、安倍氏の地元・下関に強固な地盤を持ち、地元での政治的蓄積は林家のほうが安倍家より長い。 両家は中選挙区時代から安倍氏の父・晋太郎氏(元蔵相)と林氏の父・義郎氏(元副総理)が激しく争ってきたライバル関係だった歴史がある。
後継者は甥っ子か
林家との次の総選挙での対決を考えれば安倍家に残された時間は少ない。安倍氏が出馬するにしても、それまでに後継者を披露して後援会を安心させなければ林氏に切り崩される危険があるからだ(ちなみに林氏は東大の後輩である裕子夫人との間に二女がある)。 そこで寛信氏の長男の代わりに有力視されている後継者が岸家の信千世氏だ。フジテレビ記者から父の防衛大臣秘書官となり、すでに「政治家修業」に入っている。 「洋子さんが寛信氏の長男にこだわっていたから晋三さんは母には何も言わないが、本音は、彼が継ぎたくないなら信千世に継がせればいいじゃないかと考えているようです。洋子さんは三男の信夫君を生まれてすぐに兄の養子にして岸家を継がせた。今度は、信夫君の長男が安倍晋三家を継ぐことになるかもしれない」(安倍側近) ところが、ここにきてその信千世氏による安倍家継承案にも不安材料が持ち上がった。父・信夫氏の健康不安説だ。 信夫氏は9月に体調不良で防衛相の公務を一時取りやめ、「尿路感染症」と発表された。本誌・週刊ポストは杖をついて信千世氏に支えられながら苦しそうに歩く信夫氏の姿を報じた(2021年8月27日発売号)。 その後、信夫氏は「体調は十分改善した」と公務に復帰し、第2次岸田内閣でも防衛相に再任されたものの、党内では体調不安説が消えていない。「次の総選挙で引退し秘書官の信千世氏に後を継がせるのではないか」(安倍派議員)という見方もある。 岸氏に近いメディア関係者が語る。 「父親思いの信千世君は体調が良くない信夫氏に“これ以上、体に負担をかけてほしくない”と総選挙後に地元に入って挨拶に回るなど後継準備をしている」 仮に、信千世氏が岸氏の地盤(山口2区)を継ぐことになれば、安倍家の後継者問題は振り出しに戻ることになる。 そこで浮上しているのが信千世氏の実弟である岸家の次男が安倍家の地盤を継ぐという話だ。 「洋子さんも最近では、寛信氏の長男が政治家を継がないという決意が固いから、残る岸家の次男を安倍晋三氏の養子にして継がせる考え方に傾いていると聞いている。 しかし、これには信夫氏がウンと言わない。自分が岸家の養子にいったことで兄2人との関係がしっくりいってなかったことから、“兄弟で姓が違うのはよくない”と反対しているそうです」(同前)
日本の政治に影響を与える安倍家の跡目はなかなか決まりそうにないのである。 岸事務所に岸家と安倍家の後継問題について聞くと、「いずれも事実ではありません」と回答した。 さらに後継者問題の渦中にある昭恵夫人を取材すると、「安倍家の後継ぎについて」と切り出した途端に、肩をすくめて「すみません、すみません」と歩き出し、重ねて尋ねると「えっ、何の話? 知らない」と質問を遮って車を発進させた。 安倍氏は公私ともに、総理時代以上の難題を抱えつつある。 ※週刊ポスト2021年12月24日号