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秋篠宮さまが「皇太弟」でなく「皇嗣」になった意味~天皇になる「覚悟」について   大木 賢一(共同通信社編集委員) 11/15(日) 7:01配信

2020年11月15日 12時25分39秒 | 皇室

秋篠宮さまが「皇太弟」でなく「皇嗣」になった意味~天皇になる「覚悟」について

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現代ビジネス

「皇太子」と「皇嗣」の違い

 秋篠宮さまの「立皇嗣の礼」が11月8日、皇居の宮殿で催されました。皇位継承順1位の「皇嗣」となったことを広く宣言する儀式でしたが、一方で、男性皇族減少の中で皇位継承を安定化させる方策については、今後政府が検討することになっています。国民の8割以上が支持する女性天皇の実現などについて、結論はおろか、まともな論議もまだされていない中で、後々に至る皇統の道筋が決定したかのような印象を与える儀式が行われたことに、私はいささかの疑問を感じます。

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 もちろん、昨年春の天皇代替わりによって、秋篠宮さまが継承順1位となったことは紛れもない事実です。しかし、それはあくまでも現時点での『暫定1位』であると言うべきではないでしょうか。後に詳述しますが、当の秋篠宮さま自身の表情もどこか曇っているようで、私には「天皇になる覚悟」が十分にあるようには見えませんでした。

 「立皇嗣の礼」という名の儀式が行われたのは、歴史上今回が初めてで、その形式は平成3(1991)年の「立太子の礼」がほぼそのまま踏襲されました。現在の天皇陛下、上皇さまも、この「立太子の礼」を経て、正式に「皇太子」となったのです。

 少しややこしくなりますが、ここで改めて「皇太子」と「皇嗣」の違いについて説明しておく必要があります。「皇位継承順が1位である」という点では両者に違いはありません。しかし「皇太子」には「次の天皇として確定した者」という意味合いがあるのに対し、「皇嗣」は単に「跡継ぎ」を示す言葉であると私は解釈しています

 皇室典範第8条に「皇嗣たる皇子を皇太子という」との表現があります。この条文を易しく言い換えれば「跡継ぎである天皇の子を皇太子と呼びます」ということになり、「皇嗣」は特定の人を指し示す固有名詞ではなく、「天皇の地位を嗣ぐ者」の意味であることが分かるはずです。皇太子もまた「皇嗣」であることに変わりはないのです。

 ところが、今回の代替わりでは、秋篠宮さまを「皇嗣殿下」と呼ぶことになり、「皇嗣」があたかも特定の人物を指す言葉のようになってしまいました。話がややこしくなった原因はここにあると私は考えています。「皇嗣殿下」とは、歴史的にも奇妙な呼称です。

晴れやかさを欠く表情

 もう一つ考えなければならないのは「皇太弟」という言葉の存在です。これは読んで字のごとく、「皇太子の弟バージョン」と言えます。ですから「次の天皇として確定した、天皇の弟」ということになります。「皇太弟」は歴史的にも実在しました。現在の法令に、その規定はありませんが、皇室典範風に言うのなら「皇嗣たる皇弟を皇太弟という」とでもなるでしょうか。

 日本古代史や中世史の研究者によれば、「皇太子」も「皇太弟」も、元々は次期天皇の地位を巡って宮中でいさかいが絶えなかったため、「これで決まりです」と決着をつける意味でつくられた地位です。

 今回、秋篠宮さまはこの「皇太弟」にはなりませんでした。上皇さまの退位を実現する皇室典範特例法制定の過程で議論はされましたが、秋篠宮さま自身が皇太子や皇太弟といった特別な呼称に難色を示したようで、検討の結果、「皇嗣殿下」に落ち着いたといいます。

 秋篠宮さまには「自分は皇位を継ぐ前提での教育を受けていない」という負い目のような意識があるとも聞きます。今回の「立皇嗣の礼」の様子をテレビで見ていて、私は、天皇、皇后両陛下の前に進む秋篠宮さまの表情が晴れやかさを欠いていると感じました。か細い声は力なく、視線もふらふらと定まっておらず、大変失礼ではありますが、とても「次の天皇としての覚悟」ができているようには見えませんでした。

 天皇陛下の堂々とした立ち姿とは比べものにならず、「本当は天皇になんかなりたくないのだろうな」と気の毒に思ったのが正直なところです。とは言いながら、男系男子しか皇位につけない制度の中で、これまで少なくとも20年ほどは「兄の次は自分だ」と自覚を深める時間はあったはずです。  特例法は、皇嗣について「皇太子の例による」と定めていますので、「事実上の皇太子」「皇太子と同格」とみなされる傾向がありますが、「皇太子」と「皇嗣」では、これまで見てきたように、重大な違いがあります。今回の儀式を「次期天皇決定宣言の場」と位置付けるのであれば、秋篠宮さまは「皇太弟」になるべきでした。逆に言えば「皇太弟」でない以上、次期天皇は決まっておらず、秋篠宮さまはやはり「暫定1位」と言うしかありません。

 

「お健やかにお務めを果たされますように」

 話は変わりますが、今回の儀式でもう一つ気づいたことがあります。夕方から行われた「朝見の儀」での両陛下の言葉です。天皇陛下は弟に対し「これまでに培ってきたものを十分にいかし、国民の期待に応え、皇嗣としての務めを立派に果たしていかれるよう願っています」と話しました。皇后さまは「どうぞ、これからもお健やかにお務めを果たされますように」と語りました。

 この言葉がなぜか私の心に残り、とても優しく穏やかな印象をもたらしました。内容としてはごく普通なのに、なぜそう感じるのだろう。考えているうちに気がつきました。2人とも弟に対して敬語を使っているのです。

 興味を覚えて平成の立太子の際の新聞を調べてみると、言葉はほとんど同じですが、現在の上皇夫妻は敬語を使っていませんでした。この時は「親から子へ」の言葉でしたので、敬語がないのは当然と言えば当然です。今回は「兄から弟へ」なので微妙な距離感もあるのでしょうが、天皇という地位の重さや皇室の前例踏襲主義を考えれば、今回も敬語を使わないという選択肢は、あったはずです。しかし両陛下は、あえてそこに敬語を入れました。

 また、上皇さまが「培ってきたものをさらに磨き」と述べた部分を、陛下は「十分にいかし」と言い変えています。「弟はすでに十分、多くのものを培っている」――。兄として弟の人格を尊重する眼差し、尊大な振る舞いを好まない陛下らしい謙虚な人柄を感じずにはいられませんでした。

 今回の儀式は、新聞休刊日で、米大統領選の結果という大ニュースが重なったため、メディアの扱いはさほどではなく、国民的注目も小さかったように思います。ですが政府は、この儀式終了後、皇位継承安定化策の本格検討を始めると明言しています。兄と弟、そして皇室という大きなファミリー全体の幸せのため、これまでのように問題を先送りせず、根本的議論がなされることが大事だと思います。

大木 賢一(共同通信社編集委員)

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