葉梨法相の更迭を受け、与党内では、閣僚が次々と辞任する「辞任ドミノ」が続くことへの警戒感が広がっている。閣内には、寺田総務相ら「政治とカネ」の問題を抱える閣僚が残っているためだ。岸田首相が一度は葉梨氏を続投させる意向を示したことについても、危機管理の対応力を疑問視する声が相次いでいる。
■「真摯に」
「法相として最も重たい判断をする死刑について、軽々しい発言をし、国民に不信を持たれた。辞任はやむを得ない判断だ」
自民党の遠藤総務会長は11日夕、記者団の取材に応じ、更迭への理解を示した。政権運営への影響については、「ゼロとは言わないが、国民の批判を真摯(しんし)に受け止め、一致団結して岸田政権を支えたい」と強調した。
10月24日の山際大志郎・前経済再生相の辞任から3週間足らずの間に、再び閣僚辞任の事態に陥ったことに、公明党の山口代表は11日、「国民の信頼がなければ政権運営はできない。国民の期待に応えるように、(政府は)気を引き締めて(政権運営に)あたってほしい」と注文した。
■「さらし者」
閣内には、政権運営の「火種」がくすぶっている。寺田氏は、自身の後援会の政治資金収支報告書を巡り、借入金の不記載などが相次いで判明しているほか、秋葉復興相も、地元事務所の賃料の確定申告が行われていなかった問題が明らかになっている。自民党の役職でも、高木毅国会対策委員長に対し、国会運営での調整力不足を指摘する声がある。
首相は、いずれも交代させる考えを示していない。党内では、「傷口が広がってからまた辞任に追い込まれれば、ダメージはさらに大きくなる。寺田氏も一緒に更迭するべきだった」との声が出ている。
首相は葉梨氏について、10日夜の段階でいったんは続投を決めた。葉梨氏は11日の衆院法務委員会で野党の追及にさらされ、釈明を繰り返した。その直後の更迭に、自民幹部は「野党議員から『10日のうちに更迭しておけば、さらし者にされなくて済んだのに』と助言を受けてしまった」と明かす。
閣僚経験者は、「政権運営はますます厳しくなるだろう。首相には政治センスが欠けている」と危機感をあらわにした。
野党も、首相の資質を標的にして攻勢を強めている。
立憲民主党の泉代表は11日、記者団に「首相としての決断力や考え方に欠落がある」と酷評した。国民民主党の玉木代表は、寺田、秋葉両氏を念頭に「辞めるならまとめて辞めた方がいい」と、辞任を要求した。
日本維新の会の馬場代表も党会合で、「(国政選挙がない)『黄金の3年間』が悪夢の3年間になりそうだ」とこき下ろした。
11日午後1時半ごろ、首相は自民党幹部に電話をかけた。
「国会にご迷惑をおかけすることになるのでお伝えします。葉梨さんを更迭することにしました」
わずか1時間前、首相は参院本会議で更迭を求める野党議員に「説明責任を徹底的に果たしてもらわなければならない」と続投を宣言したばかり。急転直下の更迭劇だった。
死刑執行の役割を軽んじた葉梨氏の失言から一夜明けた10日、与党内は辞任不可避との見方が強まっていた。与党幹部は首相に「このまま外遊にいけば、ずっと野党に追及され続ける」と進言していた。派閥幹部は「(葉梨氏は)身内の岸田派なんだから、気兼ねなく更迭出来る」と話した。
それに対して、首相官邸の動きは鈍かった。10日朝、松野博一官房長官は謝罪する葉梨氏に厳重注意をしただけだった。
岸田総理 葉梨法務大臣を“更迭”任命責任「重く受け止めている」(2022年11月11日)
自民党の石破茂元幹事長は11日、自身のブログで、葉梨康弘法相ら閣僚2人の更迭が続いた岸田内閣の先行きについて「短期間に相次いで閣僚が辞任する事態は、リクルート事件の時の竹下内閣や民主党の野田内閣をほうふつとさせる」と記載した。この後の展開はかなり厳しくなるかもしれないとも投稿した。
竹下、野田両内閣は不祥事や閣僚の辞任が相次ぎ、竹下内閣は政権発足から約1年7カ月で退陣、野田内閣は約1年4カ月で政権交代を余儀なくされた。
(画像はネットから借用)