自民党派閥の「政治とカネ」の問題が焦点となった今回の衆院選では、当選者数を巡り、派閥や旧派閥の間で明暗が分かれた。麻生派などは一定の議席数を維持したが、政治資金問題で批判を浴びた旧安倍派は立候補者50人中28人が落選し、派閥の解散決定時から衆院の所属議員数が約6割減った。打撃を受けた旧派閥を中心に、党内では執行部への不満が高まっている。
当選者数を派閥・旧派閥別でみると、党内派閥として唯一残る麻生派が31人(立候補者40人)と最多となった。これに旧茂木派の27人(同33人)、旧岸田派の26人(同35人)が続く。今後の影響力にも直結するとみられ、旧茂木派幹部は衆院選後、「苦戦したこの選挙戦で規模をほぼ維持できたのは大きい」と語った。
一方で、政治資金収支報告書の不記載で逆風にさらされた旧安倍派は、当選者数が22人(同50人)にとどまった。2012年衆院選で初当選した「安倍チルドレン」も大多数が落選し、最盛期は100人に達した「最大派閥」は今や見る影もない。
同じく批判を浴びた旧二階派の当選者数は22人(同26人)に達したが、派中枢で事務総長を務めた武田良太・元総務相が落選するなど、大きなダメージを受けた。同派会長だった二階俊博・元幹事長や、側近の林幹雄・元経済産業相も引退しており、同派の閣僚経験者は「もはや集まろうと思っても集まれない」と嘆く。
自民は政治資金問題で旧安倍、二階両派議員を対象に立候補者10人を公認せず、公認となった34人についても比例選への重複立候補を認めなかった。選挙戦直前の決定に、党内では「二重処分だ」(旧安倍派中堅)と不満の声がくすぶった。
さらに追い打ちをかけたのが、非公認候補が代表を務める党支部に対し、党本部が2000万円を支出した問題だ。選挙戦終盤に問題が判明すると、野党側は「非公認は見せかけだ」と追及を強め、自民失速の大きな要因となった。
落選した閣僚経験者の一人は「『2000万円問題』で全て持って行かれた。勝敗が決まったのは最後の3日だ」と肩を落とし、旧安倍派の若手も「党本部の失策で仲間を失った」と怒りをあらわにした。
当選者の追加公認を巡っても、石破首相(党総裁)が28日の記者会見で「国民の理解」を判断基準にすると発言したことに「まだ問題を引きずるのか」と戸惑いが広がる。来夏には参院選が控えており、党内では「石破氏ではもう持たない。参院議員は納得しない」(中堅)と、半ば公然と批判の声がささやかれている。
衆院選で大敗を喫した自民党の石破茂首相に対し、「責任を取れ!」との大合唱が巻き起こっている。一部は特別国会(11日召集予定)での首相指名選挙での造反までちらつかせる事態だ。石破首相は〝いびり〟に耐えられるのか。
衆院選で自民党は公示前から56議席減らし、自公でも過半数割れした。石破首相は続投を宣言したが、党内のあちこちから「歴史的大敗で責任を取らないとは何事か」「小泉進次郎選対委員長は辞表を提出したのに総裁が居座るとはあり得ない」と次々と石破首相への責任論を問う声が上がった。
「石破首相を公然と追及しているのは、主に旧安倍派や高市早苗氏の支持派からです。旧安倍派はすでに党内処分が出ていた裏金問題で、非公認や比例重複禁止の措置が取られたことに怒り心頭でした。さらに追い打ちをかける2000万円支給で息の根を止められたともいえ、黙っているハズがありません」(党関係者)
自民党は国民民主党との連立を模索しているが、玉木雄一郎代表は否定し、あくまで政策ごとでの部分連合にとどまる見通しを示している。ただ首相指名選挙で上位2人による決選投票となれば、野党側は一枚岩となっていないため石破首相が押し切る公算だ。それでも「石破の名前を書けない!」と造反者が出るようなことになれば、先行きは一気に不透明になる。
「党内で石破首相の責任を問う声は続くでしょう。ただ、旧安倍派は3分の1の20人にまで激減し、高市氏が応援した40人中、当選したのは16人しかいないので絶対数が少ない。首相への党内批判はメディアも扱うので声は大きくなるが、旧民主党のように党を割ってまでの内ゲバにまで発展することはないでしょう」(同)
石破首相は麻生政権の時に閣僚ながら公然と麻生おろしを叫び、安倍元首相にも責任を問うなどして、「後ろから弾を撃つ男」と言われたが、まさに自身が同じ境遇に立たされることになったのは皮肉なもの。
「いま辞めるようなことがあれば、戦後最短内閣の汚名となるだけに簡単に引き下がることはない。石破首相は全く批判に動じない〝メンタルおばけ〟ですから」(議員秘書)。党内いびりに屈して、サジを投げることはないとの見方だが…。
1138回 信じられない!石破辞任せず!ここまで酷いとは… 絶対に引き摺りおろされる
2024/10/29
衆院選で2009年以来の与党の過半数割れとなり、党内の混乱が収まらない自民党。公示後、裏金問題で非公認となった候補が代表を務める政党支部に2000万円を出していたことに不満を募らせる議員も多い。今後の首班指名で、全員が「石破茂」と書くのかも微妙な様子で、不穏な状態が続いている。
「石破おろしの号砲が鳴りそうだ」
と自民党の小選挙区で当選したA議員が憤慨する。
衆院選当初、情勢調査などから自民党と公明党での過半数確保は「ほぼ間違いない」とみられていた。しかし、「政治とカネ」の問題への不信感から急落し、最後は、裏金事件で非公認とした8人の候補者の政党支部に2000万円の“選挙資金”を入金したことが「しんぶん赤旗」の報道で明らかとなり、ダメ押しとなった。
■問題は入金した時期
2000万円という額は、公認候補の公認料500万円、活動費1500万円と同じ。
これについて石破茂首相は、「選挙資金ではなく、活動費だ」と反論するも後の祭り。大阪で落選した自民党の候補者は、情勢調査で維新を相手に数%優勢という数字だったが、
「突然、逆風が吹いて、あっという間に維新に議席がとられていった。2000万円さえなければ、違った結果だった。オウンゴールだ」
と2000万円問題が落選の原因だと怒った。
自民党幹部によれば、非公認に2000万円出すという決定権を持つのは、石破首相と森山裕幹事長だという。
「時期ですよ、問題は。党内手続きはとられているが、なぜ選挙期間中に入金したのか。2人のうちどちらがこの時期に入金せよという指示を出したのか。党内で検証が必要。石破首相が主導していれば当然、責任を取らなければならない」
とA議員。
兵庫12区で当選した元環境相の山口壮氏は、
「自公で過半数を取れなければ、責任を取って即刻辞めて欲しい」
と石破首相に退陣を迫った。
しかし、石破首相は28日の会見で、
「国民の皆さまの疑念や怒りが払しょくされていなかったと認識している。自民党は反省が足りないと叱責された」
としながらも、
「厳しい声は謙虚に受け止めるが、安全保障、経済環境、国政は一時たりとも停滞が許されない。国政を確かなものとして進めていく。国民生活を守る、日本国を守ることで職責を果たしてまいりたい」
と今後も政権運営を担っていく考えを示した。
11月には、特別国会で首相を指名する「首班指名」の選挙がある。ここで、自民党が「石破茂」と一致結束して投票できるのかがカギとなる。
次の首相候補とも言われ、9月の総裁選で石破首相と争った高市早苗氏は、自身の当選の記者会見で新党結成について聞かれ、
「自民党に支えられて当選した。そのような考えはない」
などと述べ、自民党から首相の座を目指す考えだ。
石破首相の後釜には安定感がある林芳正官房長官、加藤勝信財務相ら、現職閣僚の名前もあがっている。
「石破おろしの声は確実に大きくなっている。高市氏をはじめ、石破氏の後を狙う人がいるからでもある。一番の有資格者は高市氏でしょう。林氏、加藤氏でもいいが、とにかく石破首相じゃもたないという雰囲気。それに、過半数割れして負けたのに石破首相のまま、という状況が続くとさらなるマイナスイメージとなる。来年夏の参院選でも過半数を切るのでは、と危惧する声が多々ある」(前出のA議員)
■河村たかし氏「めったにないチャンス」
一方、前回より50議席増、148議席となった立憲民主党の野田佳彦代表は、
「自民党が過半数割れしたならば、他の野党と誠意ある対応をし、政権交代を目指す」「首班を取りに行くのが当然だと思っております」
などと野党でも大きなうねりがみられる。
1993年の衆院選で自民党が過半数割れすると、日本新党の細川護煕氏を首相とする、非自民、非共産による8党の連立政権が誕生した。今回の衆院選でも、立憲民主党だけではなく、国民民主党が28議席、維新は38議席を獲得。参政党、日本保守党も衆院でははじめて議席を確保した。
日本保守党で唯一、小選挙区で勝った前名古屋市長の河村たかし氏がこう話す。
「うちの党は、自民党ではダメだ、としてスタートしている。それが評価されて小選挙区と比例区で3議席をいただいた。連立となれば、当然、話は聞かせていただく。私自身も、細川元首相の日本新党にいて、連立政権のときは新進党だった経験者だからね。自民党が過半数割れなんてめったにないチャンスです」
「非自民」系の無所属も6人が当選を果たしている。
自民党の政務調査役を長く務め、細川政権時に自民党が下野した当時の事情にも詳しい政治評論家の田村重信氏は、
「細川政権のように野党が連立を組むと、首班指名ではぎりぎりで過半数を取られてしまう。2000万円の問題が敗因の一つで、その責任は石破首相にあると考える議員が多いので、首班指名では自民党から造反者が出る可能性もあります。そこを突かれて、野党が一つになれば細川政権の再来は十分に考えられます」
と話し、こうも続けた。
「ここは2000万円で大失敗した森山幹事長の名誉挽回、腕の見せ所でしょう。首班指名では野党を切り崩すなど、どう乗り切るのか。野党側は連立をまとめ上げる知恵者がいるかどうかです」
(AERA dot.編集部・今西憲之)
自民党幹部は30日、派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、党を離党した世耕弘成前参院幹事長や、衆院選に非公認で出馬して当選した西村康稔元経済産業相、萩生田光一元政調会長、平沢勝栄元復興相の計4人に対し、自民党会派入りを打診していることを明らかにした。
自民党は衆院選で大敗し、公明党と合わせても計215議席で過半数(233議席)を大きく割り込んだ。【飼手勇介】