(1981年製 片倉シルクトラックレーサー)
その昔、私が競技活動をしていた70年代後半から80年代前半は、機材の差が勝敗に影響することは、現在より少なかったのではないかと考えられます。
もちろんカーボンフレームやカーボン素材のパーツはなく、クロモリフレームが主体でした。ロードではアルミフレームもありましたが、ごく少数でありかなり高価でもありました。また、チタンフレームもありましたが更に高価で一般的ではなかったと思います。
特に、トラックでは世界のトップクラスから私のような下々の選手までほぼ全員がクロモリフレームを使用していました。
ディスクホイールが一般化してきたのは80年代も後半からであり、それ以前は五輪や世界戦から長野県大会や国体予選のようなローカルな大会まで全員がスポークホイールを使用していたわけです。
(アラヤが初めて製造したエアロ形状リム、前輪はラジアル組です、昔のタイヤがまだ付いています。ソーヨー30Aだと思います)
スポークの本数は練習用が36本、トラック短距離では決戦用でも剛性を考えて32本ぐらい。個人追い抜きやロードTTで28本程度だったと思います。
昔はスポークの剛性も高くなく切れることがあり本数をあまり減らすことは出来なかったのです。
そのような状況なので現在より機材が成績に与える影響は少なかったと考えられます。
(剛性を高めるためスポークの交点を銅線で結束しています)
現在は、もし同程度の実力の選手ならば良い機材を使った方が明らかに有利になってしまいます。
しかし、ディスクホイールは30万円ぐらいするわけですし。変速装置やブレーキも何にもないトラックレーサーでもカーボンフレームにディスクホイール付きだと下手をすると100万円にも達してしまいます!
昔は競輪の公益金で普及版ではありますが、水色のフレームのロード、トラックレーサーが全国の高校や大学の自転車部に「貸与車」として何台も貸し与えられ、自転車競技の入門者は大きな恩恵を受けることができました。
また、片倉やブリジストン、日米富士などの国産メーカーの自転車なら頑張ってアルバイトをすれば購入できた金額でした。
特にトラックレーサーは変速システムやブレーキもないので比較的安価でした。
ところが、現在の競技用自転車、スポーツサイクルはあまりにも進歩してしまったが故に高くなり過ぎてしまいました。
(ミヤタ製のクロモリフレーム、ホイールはもちろんチューブラーです)
トラックのタイム系種目の記録の変遷を見るととても分かりやすいと思います。
1000mタイムトライアルは、現在は五輪種目からは外されていますが、1964年の東京五輪の優勝タイム1分9秒台は、現在では高校生でも出せるタイムです。
昨年4月の松本のトラック大会では1分4秒台が出ていましたが、76年のモントリオール五輪の1位記録が1分5秒台なので1秒も上回っています。
また、現在の世界記録は1分を切っているわけです。すごい時代です!
カーボンフレームやディスクホイールがなければ、会場が高地だったとしてもこのような記録は出せなかったと思います。
自転車競技に関してはやはり機材の影響は大きいと考えています。
しかし、良い記録を出すためには、勝つためには高い機材が必要になる。
これではこれから競技に取り組みたいと考えている人たちにとっては、自転車やパーツの価格があまりにも大きな障壁になってしまいます。
機材の進化は、競技の普及のためには必ずしも良い影響を与えているとは限らないかもしれません。