天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時、高天原に成れる神の名は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、次に高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、次に神産巣日神(かむむすひのかみ)。この三柱の神はみな独(ひとり)神と成り坐(ま)して、身を隠したまひき。
次に国稚(わか)く浮べる脂の如くして、くらげなすただよへる時、葦牙(あしかび)の如く萌えあがる物に因(よ)りて成れる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ)、次に天之常立神(あめのとこたちのかみ)。この二柱の神もみな独神と成り坐して身を隠したまひき。
上(かみ)の件(くだり)の五柱の神は別(こと)天つ神
【宇宙の初め、混沌としたものの中から、天と地が初めて分かれた時、高い天上の聖なる世界、高天原に成り出でた神の名は
●天地を主宰する
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
●万物を生成する霊力を持った
高御産巣日神(たかみむすひのかみ)
●同じ霊力を持った
神産巣日神(かむむすひのかみ)
この三柱の造化神は、みな配偶をもたない単独の神としてお成りになって、お姿を見せることはなかった
次に、国土がまだ形を整えていず、水に浮かんだ脂のようで、くらげのようにふわふわ漂っていた時、春の光さす水辺の葦がすくすくと芽を吹くように、混沌の中から、きざし伸びる生命体によって成った神の名は
●葦牙の生命力を持った
宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこちのかみ)
●天上が恒久に存立するようにと予祝をこめた
天之常立神(あめのとこたちのかみ)
この二柱の神もまた、ともに単独神としてお成りになって、お姿を見せることはなかった。
以上の五柱の神は、天つ神の中でも特別に扱われる神である】
★高天原
天つ神の住む天上の世界
★成る
古事記に頻出する重要語
根元の生命から生り出ずる
生成発展
★天之御中主神
あめのみなかぬしのかみ
天の中央にあって天地を主宰する至上神。後続の神々の原点
★高御産巣日神
たかみむすひのかみ
タカミは美称
ムスは「こけむす・みすこ・むすめ」のムス(生)
ヒは神秘な霊力
★神産巣日神
かむむすひのかみ
カムは美称
出雲系の至上神
★宇摩志阿斯訶備比古遅神
うましあしかびひこぢのかみ
ウマシは賛美の意
ヒコは男の意
ヂは男子に対する尊称
生命力を春先の葦の芽に直観した神格
くらげ、葦牙などは海に関係が深い風物なので、海人族の伝承だろう
★天之常立神
あめのとこたちのかみ
後出の国之常立神に対応する神