天照大御神
御髪を解きて
御みづらにまきて
左右の御みづらにも、亦御かづちにも、亦左右の御手にも、各(おのもおのも)★八尺(やさか)の勾玉の★五百津(いほつ)のみすまるの珠をまき持ちて
★そびらには千入(ちのり)の靭(ゆき)を負ひ
ひらには五百入(いほのり)の靭(ゆき)をつけ
★いつの竹鞆(たけとも)を取りおばして
弓腹振り立てて
堅庭は★向股(むかもも)に踏みなづみ
沫雪なす蹴散(くいはらら)かして
いつの男建(おたけ)び踏み建(たけ)びて持ち問ひたまわく
「何の故にか上り来つる」ととひたまひき
■【天照大御神は、すぐに髪を解き、それを左右に分けて男子の髪型の角髪(みずみ)にまとめて、
そして左右の角髪にも
左右の手にも
それぞれ長い緒に多くの勾玉を通した玉飾りを巻いて持ち
背中には千本も矢が入る靭を負い
脇腹には五百本も入る靭をつけ
左手首には威力ある高鞆を巻き
弓の上端部を宙に振り立て
聖庭の堅い土に踏みこんだ股が没するまで踏みこみ
まるでそれが泡雪であるかのように堅い地を蹴散らして
威勢のよい雄々しい叫び声をあげ
荒々しく大地を踏んで弟君を待ち受けて「どうして高天原に上ってきたのか」とお問いになった】
★八尺(やさか)の勾玉(まがたま)
※やさか→珠を貫く緒の長いこと
※まがたま→曲がった玉
動物の牙、ガラス、瑪瑙、水晶などで作られた
★五百津(いほつ)のみすまるの玉
※いほつ→多数
※みすまる→玉を緒に貫いて統べくる
※高天原の権威の象徴で、呪術威力を示そうとした
★そびら
背中
★千入(ちのり)の靭(ゆき)
多数の矢が入り、矢を入れて背におう武具
★いつの竹鞆(たかとも)
※いつ→威力ある
※たかとも→高い音を発する鞆
※鞆→弓をもつ左手首につけ、弦のはね返りを防ぐとともに、弦がそれに触れて発する音で、敵を脅かすためな武具
★向股(むかもも)に踏みなづみ
※向かいあってる両股説
※股を前向きに踏み込む動作説
※なずむ→難渋
※容易に踏み込めない土に股まで踏み込む