故(かれ)、しかすれども天照大御神は、とがめずて告(の)りたまはく
「屎なすは酔ひて吐き散らすとこそ我(あ)がなせの命かくしつらめ。又田の阿を離ち溝を埋むるは、地(ところ)を【あたらし】とこそ我がなせの命かくしつらめ」と【詔り直し】たまへども、猶其の悪しき態(わざ)止まずて【転(うたて)】ありき。天照大御神、【忌服屋(いみはたや)】に坐(ま)して、神御衣(かむみそ)織らしめたまひし時、其の服屋の頂(むね)をうかち、【天の斑馬(ふちこま)】を【逆剥(さかは)ぎ】に剥ぎて堕とし入るる時、天の服織女(はたおりめ)見驚きて、梭(ひ)に陰上(ほと)を衝きて死にき
★あたらし
惜しい、もったいない
★詔(の)り直し
悪いことを善意に解して言い直す
天照大御神の寛容の美徳
★転(うたて)
異常なこと、ひどい状態
★忌服屋(いみはたや)
神の衣を織る神聖な建物
いみ→斎み謹むべき、神聖な
★頂(むね)
棟
屋根の中央の一番高い所
★天の斑馬(ふちこま)
あめの→美称
ふちこま→毛色のまだらな馬
★逆剥ぎ(さかはぎ)
尻の方から皮を剥ぐ
異常な剥ぎ方
★服織女(はたおりめ)
機を織る女
★梭(ひ)
機織りの際に、横糸を縦糸にくぐらせる舟形の道具
★陰上(ほと)
女陰
■須佐之男命がこのような乱暴をはたらいたけれども、天照大御神はその行為を咎めないで、「大便のように見えるのは、酒に酔ってへどを吐き散らそうとして、我がいとしい弟はこんなことをしたんでしょう。
田の畔を壊したり、溝を埋めたり、耕せば田となるのに畔にしておくのは、土地が惜しいと思って、我がいとしい弟はこんなことをしたのでしょう」
と、すべて善意に解して言い直しなされたが、なお須佐之男命の乱暴行為は止まらず、ますますひどくなった
そして天照大御神が神聖な機織屋にいて、神にお供えする衣服を機織り女に織らせていた時、須佐之男命がその機織屋の棟に穴を開けて毛色のまだらな馬を、尻の方から逆さまに皮を剥ぎとって、穴から落とし入れたので、機織女はそれを見て驚き、器具で陰部を突いて死んでしまった