ここにその后、大御酒坏を取り、立ち依りささげて歌日ひたまはく
神の命や
吾が大国主
汝こそは
男に坐せば
打ち廻る
島の埼々
かき廻る
磯の埼落ちず
若草の
妻持たせらめ
吾がもよ
女にしあれば
汝を除て
男は無し
汝を除て
夫は無し
綾垣の
ふはやが下に
蚕衾
にこやが下に
栲衾
さやぐが下に
沫雪の
若やる胸を
栲綱の
白き腕
そだたき
たたきまながり
真玉手
玉手さし枕き
股長に
寝をし寝せ
豊御酒奉らせ
とうたひたまひき
かく歌ひて、即ちうきゆひして、うながけりて、今に至るまで鎮まり坐す。これを神語といふ
■八千矛の神さまよ、私のいとしい大国主よ。あなたは男でいらっしゃるから、巡る島の埼岬々、巡る磯辺の岬は、残すところなく、どこにでも若草の妻を持っているでしょう
しかし、私は女ですから、あなたの他に男はありません。あなたの他に夫はありません
綾織の帳の揺れる下で
絹の夜具の柔らかな肌触りの下で
栲(こうぞ)の夜具の音を立てる下で
沫雪の若々しく柔らかな私の胸を
白い腕を、抱いて、その手を背中まで回し
私の玉のように美しい手、その手を枕にして
足をのせるのびのびと伸ばして、おやすみなさい
さあ、この酒をめしあがれ
と歌いになった
そしてお酒を酌み交わし、夫婦の契りを結び、互いに首に手をかけ合って現在に至るまで仲良く鎮座なさっている
以上の歌を神語(かつがたり)という