るるの日記

なんでも書きます

古事記 須勢理毘売 嫉妬物語

2020-12-05 15:34:06 | 日記
ここにその后、大御酒坏を取り、立ち依りささげて歌日ひたまはく

八千矛の
神の命や
吾が大国主
汝こそは
男に坐せば
打ち廻る
島の埼々
かき廻る
磯の埼落ちず
若草の
妻持たせらめ
吾がもよ
女にしあれば
汝を除て
男は無し
汝を除て
夫は無し
綾垣の
ふはやが下に
蚕衾
にこやが下に
栲衾
さやぐが下に
沫雪の
若やる胸を
栲綱の
白き腕
そだたき
たたきまながり
真玉手
玉手さし枕き
股長に
寝をし寝せ
豊御酒奉らせ

とうたひたまひき
かく歌ひて、即ちうきゆひして、うながけりて、今に至るまで鎮まり坐す。これを神語といふ

■八千矛の神さまよ、私のいとしい大国主よ。あなたは男でいらっしゃるから、巡る島の埼岬々、巡る磯辺の岬は、残すところなく、どこにでも若草の妻を持っているでしょう

しかし、私は女ですから、あなたの他に男はありません。あなたの他に夫はありません

綾織の帳の揺れる下で
絹の夜具の柔らかな肌触りの下で
栲(こうぞ)の夜具の音を立てる下で
沫雪の若々しく柔らかな私の胸を
白い腕を、抱いて、その手を背中まで回し
私の玉のように美しい手、その手を枕にして
足をのせるのびのびと伸ばして、おやすみなさい
さあ、この酒をめしあがれ

と歌いになった

そしてお酒を酌み交わし、夫婦の契りを結び、互いに首に手をかけ合って現在に至るまで仲良く鎮座なさっている

以上の歌を神語(かつがたり)という

古事記 大国主神の須勢理毘売への歌 かよわき妻へ

2020-12-05 14:32:48 | 日記
ぬばたま
黒き御衣(みけし)を
まつぶさに
取り装ひ
沖つ鳥
胸見る時
はたたぎも
これは適(ふさ)はず
辺つ波
背(そ)に脱ぎ棄(う)て
そに鳥の
青き御衣を
まつぶさに
取り装ひ
沖つ鳥
胸見る時
はたたぎも
こも適はず
辺つ波
背に脱ぎ棄て
山県(やまがた)に
蒔ぎし
異蓼春(あたたでつ)き
染木が汁に
染め衣を
まつぶさに
取り装ひ
沖つ鳥
胸見る時
はたたぎも
こし宜し
いとこやの
妹の命(みこと)
群鳥(むらとり)の
我が群れいなば
引け鳥の
我が引けいなば
泣かじとは
汝は言ふとも
やまとの
一本薄(ひともとすすき)
項傾(うなかぶ)し
汝が泣かさまく
朝雨の
霧に立たむぞ
若草の
妻の命
事の語言(かたりごと)も是をば

★まつぶさに
完全に

★沖つ鳥
沖の水鳥が、首を曲げて羽を整えるさまを、旅装を整えるしぐさにたとえた

★はたたぎも
羽ばたき
衣服の袖などを動かして服装を確かめるしぐさを、鳥の羽ばたきにたとえた

★辺つ波
岸辺に寄せる波
寄せては引く波を、着て、脱ぎ捨てるしぐさにたとえた

★そに鳥
かわせみ
青の枕詞
羽の青いところから言う

★山県に
山の県(あがた
山村の畑

★異蓼春き(あたたでつき)
あた(異)→他、異
たで(蓼)→染草の蓼藍

★いとこや
いとしい

★群鳥(むらどり)
群れいぬの枕詞
群れをなす鳥の習性から言う

★引け鳥
引けいぬの枕詞
一羽が飛び立つと、それに引かれて多くの鳥が飛び立つ

★一本薄(ひともとすすき)
夫が旅立った後の妻の孤独な姿をたとえた

★頂傾(うなかぶ)し
うなじをたれる

★朝雨
霧な枕詞
朝降る雨が霧に変わりやすいことから言う

★霧に立たむぞ
嘆きの息は霧となって立つ、と信じられていた

★若草の
妻の枕詞
芽生えたばかりの草を、若くなよやかな妻にたとえた


■黒い衣服を手落ちなく取り揃えて身につけて胸のあたりを見る時、袖を動かして様子を見ると、これは似合わない

そこで岸に寄せる波が引くように後ろに脱ぎ捨てて、青い衣服を身につけて胸のあたりを見る時、袖を動かして様子を見るとこれも似合わない

後ろに脱ぎ捨てて、山の畑に撒いた蓼藍の根で染めた藍色の衣を身につけるとよく似合う

いとしい妻よ、私が大勢の従者と行ってしまったなら、私が従者たちに引かれて行ってしまったなら、決して泣くまいと強がっていても、山のあたりの一本の薄(すすき)のように、しょんぼりうなだれて、おまえは泣くであろう。おまえのはく吐息は霧となって立つことだろう

若草の妻よ
語り言として
このことを申し上げます


古事記 大国主神 正妻須勢理毘売の嫉妬

2020-12-05 13:30:38 | 日記
其の神の【適后(おほきさき)】須勢理毘売命、甚(いた)く嫉妬(うはなりねたみ)したまひき。故、其の【日子遅(ひこぢ)】の神わびて【出雲より倭国(やまとのくに)】に上り坐(ま)さむとして束装(よそ)ひ立たす時、片御手(かたみて)は御馬の鞍(くら)にかけ、片御足は其の御鐙(みあぶみ)に踏み入れて歌日(うた)ひたまはく

★適后(おほきさき)
後世の皇后にあたる正妻

★嫉妬(うはなりねたみ)
正妻が後妻や妾をねたむこと
うなはり→あとからめとった妻

★日子遅(ひこぢ)
ひこ→男性
ぢ→男性に対する尊称

★わびて
困る、当惑する

★出雲、倭国
大和(高天原系)と出雲(根国系)とが、表と裏の関係にある

★鐙
騎乗時に足をのせる

■八千矛神(大国主神)の正妻須勢理毘売命は、ひどく嫉妬深かった。それでその夫神は困り果てて、出雲から大和国に上ろうとして、旅衣装を整え出発する時に、片手を馬の鞍にかけ、片足を御鐙に踏み入れて歌をうたった