告りたまひしまにまに、かく設け備へて待ちし時、其の八俣のをろち、信(まこと)に言ひしが如(ごと)来つ
乃ち船毎に己が頭を入れ垂れ入れて其の酒を飲みき。ここに飲み酔ひて留(とど)まり伏し寝(い)ねき
須佐之男命、其の御はかせる十拳剣(とつかつるぎ)を抜きて、其の蛇(をろち)を切り散(はふ)りたまひしかば、肥河血になりて流れき
其の中の尾を切りたまひし時、御刀の刃かけき。怪しと思ほして、御刀の前もちて、刺し割(さ)きて見たまへば、【都牟羽(つむは)の大刀】(たち)在りき。故此の大刀を取り、異(け)しき物と思ほして、天照大御神に白し上げたまひき
是は草那芸(くさなぎ)の大刀なり
★都牟羽(つむは)
つむ→ものを断ち切る
は→刀の刃
★大刀(たち)
※たち→刀剣の総称、後に片刃のたちとも言う
※ツルギは両刃のたち
※カタナは片刃のたち
♦️この大刀はツルギ
★草那芸の大刀
※倭建命(やまとたけるのみこと)が相模国で、野の草をなぎ払って、賊の火難から逃れたことによる命名で、これをさかのぼって用いた
※皇位のしるしの三種の神器の一つ
名古屋市熱田区新宮坂町の熱田神宮に祀られている
■準備して待っていた時、その八俣の大蛇が本当にやって来た
大蛇はたちまち器ごとに自分の八つの頭をそれぞれに突っ込んで、その酒を飲んだ。そして酔ってその場で横になって寝てしまった
須佐之男命は腰につけていた長剣を抜いて、大蛇をズタズタに切ったので、肥河の水は真っ赤な血に変わって流れた
大蛇の中ほどの尾を切った時、剣の刃が欠けた。これは不思議と思い剣の先でその尾を刺し割いて見ると、すっぱりとよく切れる大刀があった
この大刀を取り上げ、不思議なものだと思い、天照大御神にこの事情を申しあげ、それを献上した
これが草薙の大刀なのである