伊耶那岐大御神、速須佐之男命に詔りたまはく「何のゆえにか汝は事依せし国を治めずて、哭きいさちる」とのりたまひき
答へて曰さく、「僕は★妣(はは)の国根之堅州国(ねのかたすくに)にまからむと欲(おも)ふが故に哭く」とまをしき
伊耶那岐大御神いたく忿怒(いか)りて詔りたまはく「然らば汝(いまし)はこの国に住むべからず」とのりたまひて、乃ち★神(かむ)やらひにやらひ賜ひき。故、其の伊耶那岐大御神は★淡海(あふみ)の多賀に坐すなり
■【伊耶那岐大御神が速須佐之男命に向かって、「どうしたわけで、おまえは私の委任した国を治めないで、泣きわめくのか」と言われた
須佐之男は「私は亡くなった母のいる国の、地底の片隅にある根之堅州国に参りたくて泣くのです」と申し上げた
伊耶那岐大御神はひどく怒って「それならば、おまえはこの国に住んではならぬ」と言われて、すぐに須佐之男命を追放してしまわれた
さて、その伊耶那岐大御神は近江の多賀に鎮座している】
★妣→死んだ母、伊耶那美命
★根之堅州国
根→地底
堅州→片隅または固い砂
★神やらひにやらひ
神→神としての行動を示す
やらひ→追放、重ねたのは強めるため
★淡海(あふみ)の多賀に坐すなり
※滋賀県犬上郡多賀町の多賀神社に鎮座。伊耶那岐命の終焉地
※淡海を淡路とすれば、兵庫県津名郡(淡路島)一宮町多賀の伊弉諾神宮
※国生みの時に淡路島が最初に生まれた点などを考えると、淡路島の方を古伝とすべきか