もう少しで、明日になる午前4時。
君とキスが出来なかった今日が、まだ終わらない。
朝起きた時に、さっきのキスは夢の中での感覚だと気付いた。
布団の中で自分の唇を撫でてみる、勿論、君の口紅は残っていない。
なんとなく匂いは覚えているけど、本来、僕は君の匂いを知らない。
夢の中の矛盾は、心地好い。
自分が作り出したルールの中であって、他の誰が入る余地もない。
君とキスをし過ぎた。
喉が渇いた僕は冷蔵庫を開けて、グレープフルーツジュースのパックを菱形に開きながら、喉を鳴らして飲み込んでみる。
初めてのキスの味は、思い出せなかった。
スマートフォンにニュースが届いている。
もう見慣れた、若い女の行方不明の話題。
もしかしたら、今日、知らない誰かとキスする事になるかも知れないし、仕事もあるわけじゃないし、時間だけはあるから。
沢山、歯を磨いた。
勿論、舌専用の舌磨きでも、キレイに口の中をキレイにするが、口の中の『キス魔』は追い出せない。
無言のまま、勝手に契約を結ぶ悪魔は、人間にキスをさせる。
僕は支度をして出掛ける、足元はお気に入りのスニーカー。
夢の中で見た彼女に出逢うまで、歩き続ける。
不思議と、必ず、夢の中の女性に出逢える。
キスまでのプロセスは覚えていない。
キスの後、その一瞬。
相手の顔を直視出来なかったら契約成立。
『行為の後に、相手の目を見られるキスなど、嘘なのだ』
と、僕の知り合いの悪魔が、ワイングラスに注がれた人間の血をクルクルと回しながら、あのbarで語っていた。
その悪魔はいつも人間の血で酔いながら気持ちよくなり、僕に問う。
「明日は、誰とキスがしたい?」と・・・、素直に答える僕に、お決まりの注文を奴はする。
「では、また彼女の血を一杯な・・・」と。
ニヤリと笑う八重歯からは、下品に血が滴る。