ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

映画「PERFECT DAYS」を観る

2023年12月27日 | 映画

日比谷シャンテで映画「PERFECT DAYS」を観た。2023年、日本、監督ビム・ベンダース。1,300円、シニア料金、座席は満席だったのには驚いた。シニアが圧倒的に多かった。

この映画は、2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演の役所広司が日本人俳優としては柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。このトイレプロジェクトは偶然だがテレビの「新美の巨人たち」で取り上げていたので知った。

映画は主人公の平山の日常生活の模様を淡々と描いていく。東京スカイツリーの見える下町のアパートに一人で住む中年の平山、彼の過去は何も示されない、毎朝近所のお寺の坊さんのゴミ掃除の箒を掃く音で目覚め、歯を磨き、洗面し、仕事着に着替え、アパートの前にある自販機で缶コーヒーを買う。仕事道具を積んだ軽ワゴン車に乗り込むと缶コーヒーを飲み、カセットテープで古い音楽を聴きながらトイレ掃除の現場に向かう。相棒の若者(柄本時生)と分担して丁寧に仕事をこなすと、夕方には銭湯の一番風呂に入る。そのあと、行きつけの浅草駅地下の飲み屋で一杯やり、家に帰ると、文庫本を読んで眠くなると寝る。この繰り返しだ。テレビもないし新聞もない、パソコンもない。携帯だけは持っていたが。

変化と言えば、①あるとき姪が家出して訪ねてくる②仕事の相棒が彼女を遊びに連れて行くバイクが壊れたので軽自動車に同乗させてやる③行きつけのスナックのママのところに別れた亭主(三浦友和)が訪ねてきた場面に遭遇する④毎日公園で撮っている木漏れ日の写真を現像しに行き、新しいフィルムを買う⑤本を読み終わると新しい本を古本屋に買いに行く、などだけ。

ストーリーに劇的な展開があるわけでもなく、どんでん返しがあるわけでもない。監督はこの主人公の平和な、規則的な、何にも縛られない自由な生活を称えているのだろうか。平凡な生活こそ人間の最大の幸せである、ということを言いたいのだろうか。そのこと自体、反対する理由は全くないどころか同意見である。

現在の先進国における暖衣飽食に対する痛切な皮肉か、あるいはウクライナや中東のような人間同士で殺し合うバカさかげんに対する批判か。人間みんなこんな風に生きていけば幸せなのに、どうしてそれができないのか。映画の中で姪の娘が「お母さんは自分たちが住んでいる世界とおじさんの住んでいる世界は違うのと言っているのよ」と平山に話す場面がある。住んでいる世界が異なれば考え方も異なり、違う考えの人とは衝突も起こる。衝突を起こさないためには、違う世界の人とは接触しないし、接触しても自己の主張を押し付けたりしなければ良いわけだが、なかなかそうもいかないというのが現実だ。

そんなことを考えながらこの映画を観たが、何かすっきりした後味はなかった。それは映画としてはもう少し何かがあった方が良いのではと感じたからだ。しかし、感じ方は人それぞれで良いのだろう。

平凡な毎日を退屈と感じる人も多いだろう、特に若者は。それは仕方ない、この映画の良さがわかるのは中高年になってからで良い。平凡な生活の良さが身にしみてわかるのは、それを失ってからだ、不治の病におかされたときとか、家族を亡くしたときとか、いくらでもそんなことはあるだろうが普段それに気付かないことが多い。そんな点が少しストーリーに絡めば、更に観る人に考えさせるのではないかと思った。

私も平山のような質素な、質実剛健な生活にはあこがれる。平山のライフスタイルで良いと思ったのは読書の習慣だ。最初の方で彼が読んでいる本が画面に映る場面があったが、タイトルがよくわからなかった。途中、古本屋で買った本は幸田文の「木」と、もう1冊はパトリシア・ハイスミス(米、1995年74才没)の「11の物語」だ。古書店主の女性が「パトリシア・ハイスミスは不安を描く天才だと思うわ。恐怖と不安が別のものだって彼女から教わったの」と平山に語るシーンが印象的だが、彼女の本は読んだことがないので、その意味がわからなかったが。

自分がどんな経済的境遇になっても読書の習慣さえあれば心が豊かな生活が送れると思っている。文庫本1冊、古本屋なら500円以下で買えるだろう、それを毎日少しずつだが読む習慣があれば豊かな人生が手に入ると思う。もう少し余裕があればテレビでは多すぎるくらいのクラシック音楽番組もあるしテレビ映画も多くある。金がなくても心が豊かな生活は可能だ。質素で規則正しい生活の中にそういった金のかからない楽しみがあれば人生がどれだけ充実することだろうか。

良い映画でした。

ところで一昨日、24日のクリスマスイブは例年通り、シニア夫婦二人で鶏肉。このくらいの贅沢はあっても良いでしょう。

 


映画「小説家を見つけたら」を観る

2023年12月24日 | 映画

テレビで放映されていた映画「小説家を見つけたら」を観た。2000年、米、ガス・ヴァン・サント監督、原題Finding Forrester(フォレスターを探す)。

NYのブロンクス。黒人の高校生ジャマール・ウォレス(ロブ・ブラウン)はバスケットボールが大好きな16才の少年だが大変な文学少年でもあった。そんな彼が、バスケットボールの練習コートに隣接するアパートから練習の様子を望遠鏡で見ている老人の部屋に侵入を試みるという友人たちの肝試しに応じて老人の部屋を訪問する。やがて老人はウォレスの文学才能を見抜き二人は話をするようになる。この老人は40年前にピュリツァー賞に輝いた処女作(AVALON LANDING)一冊だけを残して文壇から消えた幻の小説家、ウィリアム・フォレスター(ショーン・コネリー)だった。二人の間にはやがて師弟関係のような友情が生まれる。

成績のいいジャマールは、有名私立高校へ学費免除で転校したが、教師のクロフォードは急速に上達していく文章力を疑っていた。学校の作文コンテスト用にフォレスターの部屋で書いた文章を提出するが、その文章はタイトルと冒頭部分が、フォレスターの古いエッセイの写しだったのだ。それに気づいたクロフォードは盗作と決め付け、ジャマールは退学の危機に追い込まれる。

作文コンテストの日、突然学校に現れるフォレスター。ジャマールを友と呼んで用意した文章を読み上げ、聴衆に感動を与え、危機を救う。実は、その文章はジャーマールが書いたものだった。そしてフォレスターはスコットランドに旅立つと宣言した。やがてジャマールの卒業が近づいたある日、弁護士(マッド・デイモン)がフォレスターの訃報と遺品を持って現れた。フォレスターは新作の小説「日没」を書き遺し、その序文はジャマールによって後日書かれる、と書いてあった。

あまり期待せずに観た映画だったが、面白い映画だった。特に主人公のジャマールが黒人で運動神経も良いが勉強家であるという設定が良いと思った。映画の最初の方でジャマールの部屋が映り、そこに何冊もの本が積まれている。その中に三島由起夫の本が4冊もあった。ただ、私はこのどれも読んでないが。

The temple of Dawn(暁の寺)
The Sound of Waves(潮騒)
The Sailor who fell from Grace with the Sea(午後の曳航)
After the Banquet(宴のあと)

また、フォレスターは最後に故郷のスコットランドに旅立つが、フォレスター演じたショーン・コネリー(2020年、90才没)自身もスコットランド人で、スコットランド独立運動を熱烈に支援していたとのこと。

この映画では、この老小説家と若者との交流を通じて孤独だった小説家が心を開き、若者も小説家に学び、救われるといういい話だが、ショーン・コネリーの演技はさすがであると感じた。

落ち着いた映画で楽しめました。

 


映画「007スカイフォール」を観る

2023年12月22日 | 映画

ダニエル・クレイグのボンド3作目、「007スカイフォール」をテレビで録画して観た。2012、米、監督サム・メンデス、原題Skyfall。第1作目「カジノロワイヤル」は非常に面白かったが、第2作「慰めの報酬」はちょっと期待外れだった。その上で今回の第3作目はどうか、一度観たことがあるが、テレビで放映してたのでまた観たくなった。

各国のNATOの工作員を記録したMI6の情報が奪われ、ボンドは犯人パトリスを追いつめるが、新人女性エージェントのイヴ(ナオミ・ハリス)の誤射で橋の上から谷底へと落ち、死亡扱いににされてしまう。その直後、パトリスによりMI6本部が爆破される。

その後ボンドは再びMのもとへ復帰、パトリスを追って上海に行くが、殺してしまい手がかりを失う。パトリスの所持品のカジノのチップをヒントにマカオに向かい、カジノでパトリスの仲間らしい女性・セヴリン(ベレニス・バーロウ)を知り、彼女から黒幕は元MI6エージェントであったラウル・シルヴァ(ハピエル・バルデム)を突き止める。

シルヴァはMに恨みを持っていた。格闘の末、シルヴァを拘束したが、MI6の本部から逃亡される。Mが議会でその責任を追及されている時、シルヴァが急襲したたため、ボンドはMを連れて今は住む者のないスコットランドの彼の生家「スカイフォール」へ逃れ、シルヴァを誘い込み、そこで最後の決戦に臨む。

相変わらず話が複雑で、予習をしていないと映画が理解できない。その上で、この映画の感想を述べてみよう。

  • 今回の第3作目は、第2作目よりもだいぶ面白かった。映画冒頭のイスタンブールのグランバザールでの格闘シーンは迫力あったし、その後のカーチェイス、列車の上での格闘シーンも面白かった。
  • 舞台もイスタンブール、ロンドン、上海、マカオ、スコットランドなど魅力的な場所が選ばれている。マカオは行ったことがないが、それ以外は行ったことがあるところなので、見ていた楽しかった。
  • Mが死亡し、その後任になった情報国防委員会の新委員長であるギャレス・マロリー(レイフ・ファインズ)は当初ボンドから典型的な官僚と非難されていたが、議会襲撃時に自らも銃を取り防戦し、負傷するなど、官僚らしからぬ実践力を見せ、ボンドからも一目おかれるようになるのが面白い。

楽しめました。


映画「枯れ葉」を観る

2023年12月18日 | 映画

池袋のシネ・リーブルで映画「枯れ葉」を観た。2023年、フィンランド・独、監督アキ・カウリスマキ、原題Kuolleet lehdet(枯れ葉)。シニア1,300円、今日は座席は満席であった。こんなことはシネ・リーブルで初めてだが、何かあったのだろうか。若者が圧倒的に多かったのにも驚いた。

この映画は、私の好きなアキ・カウリスマキ監督(66才)が5年ぶりか6年ぶりにメガホンをとって監督した新作で、孤独を抱えながら社会の底辺で生きる男女が、かけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたラブストーリーと紹介されている。

フィンランドのスーパーで店員をしているアンサ(アルマ・ポウスティ)は、賞味期限切れの商品を持ち帰ろうとして監視していた店員に見つかりクビになる。一方、アル中気味で勤務中もこっそり酒を飲んで工場で仕事をしているホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)も、あるとき仕事中に酒を飲んでいることがバレてクビになる。その後また別の仕事に就くが同じように酒が原因で長続きしない。

そんな2人が出会い、何となく惹かれ合うが、最初のうちはお互い名前も知らないまま会っていた。アンサは両親・兄弟を父親のアル中が原因で相次いで失い、一人暮らしで生活が苦しい孤独な女性。ホラッパも職場の同僚と酒を飲みに行ったりカラオケに行ったりするが、心が通う友達も家族もいないようだ。

主人公の一人ホラッパはアル中に近い人物として描かれているが、社会の底辺にいる人が、アル中になるというのはゾラの小説「居酒屋」でもいやというほど描かれている。どうしてそうなるのか、その立場になってみないと理解できないが、悲惨なことであろう。日本人は真面目だからこうはならないと思っているが。

やがて2人は名前も明かし、アンサの家で食事をするまでになるが、アンサがホラッパの酒の飲み過ぎを注意すると、ホラッパは他人から指示されるのがいやだ、といって別れてしまう。そしてある日、ホラッパは酒を断つことを決意して再びアンサに会いたいと言い、アンサから直ぐに来て、と返事をもらって急いでアンサの家に行こうとするが・・・・

劇中、アンサの家でラジオをつけるとロシアによるウクライナ侵略で今日も犠牲者が何名でたというニュースが繰り返し聞えてくる。フィンランドはロシアと長い距離にわたり国境を接しており、ウクライナ戦争でロシアの脅威が改めて認識され、つい最近NATOに加盟した。軍事的脅威が相当深刻になっているのが映画でも出ていると言うことか。一方、映画に出てくるヘルシンキの街の方は何十年も前の雰囲気で、アパートや工場やカラオケバーなど場末感が漂っているのがカウリスマキらしい。ただ、相変わらず室内などは貧しくてもカラフルな壁紙やタイルになっているのが面白い。

今回、主演のアルマ・ポウスティ(42)とユッシ・ヴァタネン(45)はカウリスマキ映画初出演ではないか。特にアルマ・ポウスティは美人で、カウリスマキ映画にはちょっと雰囲気が合わないように思うがどうであろうか。こんな美人は男がほおっておかないのではないか。いつものカティ・オウティネン(62)が出てないのが残念だ。そして、久しぶりの新作だが今回はワンパターンのストーリーに飽きてきたな、という感想を持った。何かストーリーにひとひねりほしいと感じた。

アキ・カウリスマキ監督の映画は社会の底辺で経済的に恵まれず、孤独に暮らしている労働者の苦悩を描くものが多い。その労働者が暮らしているヘルシンキの街も何となく殺風景で、経済的にあまり豊かな国ではないのではないかと思えるが、調べてみるとフィンランドは人口550万人、一人あたりGDPは5万ドルで日本より高く、欧州の中では経済の優等生らしい。国全体はそうだが格差が結構あると言うことか。

さて、シネ・リーブルの1階下のフロアーには東武の本屋がある。映画が始まる前に陳列されてる本を見ていたら、若手ピアニストの藤田真央の本が出ているのを見つけた。高そうな紙に写真もたくさん含まれているので購入した。そういえば新聞の書評に出ていたのを思い出した。ヨーロッパの劇場でラフマニノフか何か難しい曲を弾けるかと聞かれたとき、弾けないのに「弾けます」とハッタリで回答してテストの時か公演までに猛練習したようなことが書いてあり、なかなかただの優等生ではないなと感じていたところだ。


映画「マエストロ その音楽と愛と」を観る

2023年12月16日 | 映画

映画館で「マエストロその音楽と愛と」を観た。2023年、米、監督ブラッドリー・クーパー、原題Maestro。クラシック音楽に関係した映画だから興味を持った。30人くらいの客がはいっていたが、女性客が多かった。

制作者(プロデューサー)の名前にはスコセッシやスピルバーグなどそうそうたる名前が並んでいる。制作者というのはどういう位置づけか、監督や脚本家とどういう関係にあるのか知らないが、かなり力の入った映画であることは確かだろう。この映画はNetflixで12月20日に公開されるのに先立って一部の劇場で上演されたようだ。

この映画は、「アリー スター誕生」で監督としても高く評価された俳優ブラッドリー・クーパーの長編監督第2作で、世界的指揮者・作曲家レナード・バーンスタイン(ブラッドリー・クーパー)と彼の妻で、女優・ピアニストのフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタイン(キャリー・マリガン)がともに歩んだ人生と情熱的な愛の物語を、バーンスタインの雄大で美しい音楽とともに描いた伝記ドラマ、という説明だ。

バースタインといえばアメリカの有名な指揮者でミュージカル音楽の作曲も手がけるなど多才な人物としてその名前は知ってはいたし、彼の指揮するCDもいくつか持っている。しかし、詳しいことは知らなかったので、あまり予習をせずに観に行った。

映画は前半は若いときの2人のよき時代をモノクロで描き、後半は夫婦の関係がバーンスタインの男色趣味や薬物摂取などで危機を迎え、フェリシアが癌になったりする激動の時代をカラーで描いている。そして、最後には夫婦の愛を確かめるというような結末になっている。

私は前半はあまり面白くなく、半分寝てしまった。これでは時間の無駄になると思い、後半はしっかりと観た。見終わった感想としては、クラシック音楽ファンとしては有名指揮者の夫婦愛というテーマが映画の中心となっていたため、あまり興味を持てななったというのが正直なところだ。人間だから有名指揮者でも夫婦や親子の間はいろいろあるよね、それよりももっと仕事や彼の主義主張に関係するようなテーマの方に惹かれる。例えば今年観た「TAR」などはクラシック音楽ファンとして大変興味深く観れた。

バーンスタインについては中川右介氏の「冷戦とクラシック」(NHK出版新書)で多く取り上げられているが、そちらで得られる知見の方が自分にとっては彼を理解する上で参考になる。いくつか例を挙げれば、

  • 売れない音楽家でナイトクラブでピアノを弾いていたバースタインは、1943年からNYフィルの副指揮者になった、その直後にワルターが急病になったためぶっつけ本番で代役となり大成功した(これはこの映画でもとり上てていた)
  • バーンスタインはリベラルであるが共産主義ではなかった。しかし、そのリベラルな言動から左派に担ぎ上げられ、戦後の赤狩りの対象となり、一時はパスポートも取り上げられた
  • バースタインは誰とでも直ぐに親しくなる才能があった、若くてハンサムで陽気なバースタインは世界中どこに行っても直ぐに人気者になる。カラヤンとは1954年に知り合うと直ぐに意気投合したが、1958年にカラヤン指揮のNYフィル公演でカラヤンの許可無しでリハーサルにテレビを入れたため関係悪化し、以後2人は気まずくなっていった
  • バースタインはケネディ大統領とも親しくなったが、米国の核実験再開により核兵器廃絶を主張していたバースタインとの関係が悪化した
  • 1961年、バースタインのNYフィル初来日公演があったが反米の左翼系音楽家からボイコットされ、日本の半分からしか歓迎されなかった。左翼系文化人は東ドイツのゲバントハウス管弦楽団の来日の方を歓迎し、左右陣営の文化代理戦争の様相を呈していた。左派新聞の公演評論でNYフィルの評価は低かったため、次回の来日は約10年後となった

バーンスタインを演じたブラッドリー・クーパーは知らない俳優だったが、指揮するときのオーバーアクションや頻繁にタバコを吸うところなど、うまく演じていると思ったし、そっくりだと思ったが、そういったバースタインの姿はあまり好きにはなれない。

バーンスタイン夫妻、家族のことを知りたい人には良い映画でしょう。


関西テレビ「逆転裁判官の真意」を見る(その2)

2023年12月14日 | 映画

(承前)

これらの人たちへの取材の中で、いくつかの大事なコメントが出てくる

  • 裁判官は被告人を裁くとき、自分も裁いている、過去の自分を裁きながら判決を書いている
  • 逆転無罪の判決内容は真っ当だが、日本の裁判は真っ当な判断に行き着くとは限らない
  • 逆転無罪判決の内容が真っ当だと言うことになると、他の裁判官の有罪判決には実は無罪が同じくらいの件数あったはずではないかと思える
  • 裁判官は有罪を出す方向で被告人質問をしている、被告弁護側の資料や主張にはあまり関心を示さない
  • 裁判官は有罪慣れしているのではないか、刑事裁判の有罪率99%が裁判官に大きな影響を与えているのではないか
  • 裁判官は99%を有罪にする検察が公益のため働いているのだから、十分調べているはずで間違いないはずだ、という前提になっているのではないか
  • 福崎さんは新聞・テレビなどに忖度しない人だ、証拠に基づいて判断している人だ
  • 福崎さんの逆転無罪判決文を読むと、実に細かい所まで読み込んでいる、すごい労力であろう、普通の裁判官はそこまでやっていない、情熱がないとできないことだ、普通の高裁裁判官は1審の判決を読んで、特におかしくないからこれでいいか、になっている
  • ロス疑惑控訴審裁判では、裁判長だった秋山氏は、刑事裁判では第六感でこの人はおかしいと思っても、それだけで有罪にはできないとしている

以上のような経過をたどり、記者は退官後の福崎さんにインタビューを申込むと今度はOKが出た。そこで記者の仮説(逆転無罪判決は裁判官人生の集大成で出したのではないか)をぶつけてみると、絶対にそれはないと回答された。

そこで最後は、福崎さんが関与した裁判で福崎さんが逆転判決を出された裁判例に辿りつく、2009年最高裁の痴漢事件の判決だ。1審東京地裁の裁判官だった福崎さんの実刑判決が最高裁で逆転無罪になったのだ。この判決が福崎さんの裁判官人生に与えた影響が大きかった。インタビューで福崎さんはこの逆転判決を自分に対する「戒め」にしていると述べている。

以上を踏まえて、記者は、一番最後の方で、福崎氏のような裁判官がいたことに希望を見いだすのか、福崎氏が目立ってしまう現実に絶望するのかと自問する。そして、最後に記者の「逆転無罪を連発された真意は何でしょうか」という究極の質問に対する福崎氏の答えは・・・・

福崎さんの退官間際の逆転無罪判決の理由は、以上の通り、最後まで見れば、だいたい「そうか」と言うことがわかるようになっている。

なかなかよく取材して、有意義な番組であったと思う。そして、法律の専門家でもなく、刑事裁判をよく理解していない自分がコメントをするのも難しいと思った。が、あえて素人コメントを許してもらえるなら、

  • 元々刑事裁判というのは必ずしも真実が明らかになる制度ではなく、裁判官が出された証拠や証言の範囲で有罪か無罪かの判断を下す制度だと思っている。従って、判決は絶対的真実ではなく、証拠不十分で推定無罪もあり、冤罪もありうるものだが、その証拠や証言は十分に審理してくれていると思っていた。が、その裁判官の判断過程にいろいろ問題があるとは・・・。番組で問題提起されている諸点があまりも深刻すぎるので暗い気持になった。
  • 関係者へのインタビューの中で、福崎さんは新聞・テレビの論調に忖度しない人だと言われている、ロス疑惑裁判では世論とは真逆の判決を書いた当時の秋山規雄裁判長や福崎さんを含む裁判官はすごいと思う。立派なものだ。新聞世論などは間違えている場合があるからだ。
  • 有罪率99%の中には無罪も含まれている可能性があることがこの番組の一つの視点だが、逆に、本来有罪になるのに無罪になっている例も多いだろう。検察が事実上裁判所の役割をしていることになるのではないか、と常々疑問に思っている。そういった視点でも今後取り上げて深掘りしてもらいたいと思う。

国民は誰を頼ったよいのか。裁判にならないように気を付けるしかない。仮に最後に無罪になったとしても裁判の負担は大変だ。

(完)


関西テレビ「逆転裁判官の真意」を見る(その1)

2023年12月13日 | 映画

弁護士の山口利昭先生のブログ「ビジネス法務の部屋」を見ていたら、最近関西テレビで放映されていたドキュメンタリー「逆転裁判官の真意」(48分)がYouTubeで公開され、見ることを推奨されていたので、早速見た。そして、ブログを書くにあたり2度見た。YouTubeにはいろんなコメントが載っており参考になる。大変興味深い内容だったのでネタバレも含めて書いてみたい。

山口利昭先生のブログ
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2023/12/post-3165d3.html

この番組は、最近裁判官を退任された元大阪高裁裁判長(2015年12月から2017年7月)の福崎伸一郎さんが退官間際に出した逆転無罪判決が非常に多く、それはどうしてか、という問題意識を持って記者が取材をしたものである。福崎さんが大阪高裁裁判長在任中に出した1審破棄判決35件のうち、逆転無罪判決が7件あった。この件数は法曹界の常識では異常な多さである。

この逆転無罪判決の多さは週刊文春でも「大阪高裁で逆転無罪判決を連発する裁判官の真意(殺人も覚醒剤も万引きもみーんな無罪)」という記事でも取り上げられている。私はこの記事を読んでいないが、この題名を見ただけで福崎さんの判決に好意的な記事ではないことが伝わってくる。

取材をした関西テレビの記者(ディレクター)は、30才近くになって司法試験に合格して関テレの社内弁護士となり、その後記者になった上田大輔氏だ。裁判官を取材する側も法律の専門家だから取材もかなり核心に迫るものとなっている。

大きな流れとしては、ネタバレがあるが、

  • 記者は、退官間際の多くの逆転無罪判決は、福崎さんが過去の集大成として行われたのではないか、との仮説を立て、それを確かめるべく質問や逆転無罪判決の読み込みなどをしていく。
  • 当初本人に取材を申し込んでも応じてくれなかった。そこで、逆転無罪判決を勝ち取った被告の弁護士たち、在任中30件以上無罪判決を出し一度も覆されたことがない元裁判官木谷明氏、退官直後の他の元刑事裁判官、映画「それでもボクはやっていない」※を監督した周防正行氏などを取材して福崎さんの実像に迫っていく。
  • しかし、なかなか答えが出ない、そこでもっと過去に福崎さんが出した判決を調べてみると、福崎さんはロス疑惑事件裁判の高裁逆転無罪判決を出した時の裁判官であったことを突き止め、当時裁判長だった秋山規雄氏に対する質問まで試みた。

これらの人たちへの取材の中で、いくつかの大事なコメントが出てくる、それは次回に。

※ この映画は私も一度観たが、結論部分などは詳しく覚えていない。ただ、非常に面白い映画だったことを覚えている。特に印象に残っているのは、若い男性が満員電車で痴漢と騒がれ、駅事務室に連れて行かれる。そこで、女性の体に触ったというなら、私の手を幅広の大きなテープのようなものでペタペタと触って付着物を採取して顕微鏡で見て、被害女性の着ている服と同じ繊維がついてなければ触ってはいない証明になるからそうしてくれ、と言ったところだ。これがどうなったか覚えていないがいいアイディアだと思った。

(続く)


映画「かもめ食堂」を再び観る

2023年12月08日 | 映画

テレビで放送されていた映画「かもめ食堂」を観た。好きな映画で、3回は観ているが、再放送していたのでまた観たくなった。2005年、監督荻上直子、原作は群ようこの同名小説。映画の中でかもめ食堂のウインドウにはフィンランド語で「ruokala lokki(食堂かもめ)」と日本語で「かもめ食堂」と書かれていた。

私は映画でも本でも、一度観たり読んだりして「これは良いな」と思ったものは2回、3回と繰り返し観たり読んだりすることにしている。映画でも一度観ただけでは気付かない部分は多いし、大筋は覚えていてもそれ以外の部分は忘れてしまう場合もある。また、全体の記憶がかなり怪しくなる場合もある。本の場合はなおさらである。これではもったいない。良いものは繰り返し観たり読んだりして自分の中にハッキリと記憶が残るようにしてこそ一生ものの価値があると思っている。

フィンランドの首都ヘルシンキにある小さな食堂を舞台に、3人の日本人女性(小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ)が織りなす穏やかな日常をつづったドラマ。日本人女性サチエ(小林聡美)はヘルシンキの街角に「かもめ食堂」という名の小さな食堂をオープンさせるが、客は一向にやって来ない。そんなある日、サチエはひょんなことから日本人旅行客のミドリ(片桐はいり)と知り合い、店を手伝ってもらうことに。やがてサチエの店には、日本から来てロスト・バゲージになったマサコ(もたいまさこ)など個性豊かな人々が次から次へとやって来るようになる。アキ・カウリスマキ監督の映画「過去のない男」のマルック・ペルトラが共演している。

3人の女性の1人もたいまさこは、「バーバー吉野」(03)、「めがね」(07)、「トイレット」(10)と荻上直子監督作の常連女優だ。個性的な女優で、アキ・カウリスマキ監督映画の常連女優カティ・オウティネンのような存在だと思った。

私がこの映画が好きなのは、主人公のサチエが提示している次のようなライフスタイルに共感を覚えるからだ

  • 質素
  • 清潔
  • 健康的(プールでよく泳ぐ、就寝前に膝行という座り技の基本を行う、お酒はあまり飲まない)
  • 良い食材を使って丁寧に作る食事(日本食)
  • 他人にやさしい

また、映画の中でフィンランドの街並みが多く出てくるのも好きだ。サチエの住まいも多く出てくるが清潔感と簡素さがありあこがれる、簡素といっても決して殺風景ではなく、アキ・カウリスマキの映画でたびたび出てくるのと同じカラフルなインテリアと蛍光灯ではない灯りが良い。私は住居においては蛍光灯で明るすぎる部屋は好きではない。現地での生活が手に取るように想像できるのがよい。

私は先進国に海外旅行に行ったとき、団体ツアーに参加して世界遺産を見て回るような旅行は好みではない。なるべく現地の人と同じように過ごす旅行が好きだ。公共交通機関を使い、スーパーやコンビニ・デパートに行って買い物をし、ファストフード店にも入るしガイドブックに載っていない現地の人が利用するレストランにも入り、美術館や音楽の公演にも行く、街歩きもゆっくり散歩するようにするのが好きだ。映画を観ていて海外のそういった風景や生活が多くの場面で出てくるようなものが好きだ。この映画はまさにフィンランドの街が何となくイメージできるのでその点でも好きだ。

この映画の撮影にあたっては、実際に存在する現地の食堂「カハヴィラ スオミ(Kahvila SUOMI)」を使用したそうだ、そして、現在も「ラヴィントラ カモメ(Ravintola Kamome)」として実在し、日本人観光客の少ないフィンランドにおいて日本人の集中する観光スポットとなっているそうだ。Googleマップで検索してみたらちゃんと出てきた。ヘルシンキには一度旅行に行ってみたい。

良い映画だった。

 

 


映画「トーマス・クラウン・アフェアー」を観る

2023年12月05日 | 映画

AmazonPrimeで映画「トーマス・クラウン・アフェアー」を観た。1999年、米、監督ジョン・マクティアナン、原題The Thomas Crown Affair。

何を見ようかAmazonPrimeで探していたら、美術館での絵画の盗難を扱った映画で評価が高いこの作品を見つけ、美術ファンとして興味が持てたので観てみようと思った。

ニューヨークの美術館が舞台、観ているとメトロポリタン美術館のようだ。トーマス・クラウン(ピアース・ブロスナン)は投資ビジネスで成功した大富豪。彼は裏で名画を盗み出すことを道楽としていた。ある日、美術館からモネの絵画が白昼堂々盗まれる。保険会社の敏腕調査員キャサリン・バニング(レネ・ルッソ)は大胆にもクラウンに会い、真犯人がクラウンであることを確信し、ニューヨーク署のマッキャン警部(デニス・レアリー)に告げる。キャサリンはクラウンをデートに誘い出し、彼の屋敷の合鍵を手に入れて侵入、盗難されたモネの絵画を発見するがそれは贋作だった。はめられたと知ったキャサリンはクラウンに会い行くが、話しているうちにお互い惹かれ合うようになる。だが、クラウンには別の女アンナがおり頻繁に密会していた。それを知って本来の自分を取り戻したキャサリンに、クラウンは不動産を処分して一緒に逃亡しようと持ちかけるが・・・

そんなに期待しないで観たが、大変面白い映画だった。絵画を盗み出す手口や、その盗み出した絵画を最後に美術館に返還する手口など、観ていてなかなか面白かった。トーマスとキャサリンの駆け引きも面白かったし、話していくうちに何となく惹かれ合っていく過程などもよかった。それぞれの場面に、その後の事件等の伏線がはられており、「嗚呼、そういうことだったのか」と言うことが後でわかる仕掛けが面白い。

その上で2、3コメントをすれば、

  • モネのベニスの朝焼けか夕焼けの絵を美術館から盗むとき、アタッシュケースに絵を入れて、閉じるところがあるが、こんなことをしては絵の画布から絵の具が剥落するので、このようなやり方はあり得ないのではないか、筒に丸めて入れるのはあると思うが
  • 盗んだモネの絵の上に別の絵を水彩画で描き、それがスプリンクラーの水で洗い流されて、元の絵が見えてくる、こんなことも普通あり得ないのではないか
  • 盗んだ絵を戻すとき、ちょっとした爆発物が展示室の中で煙を吐いて火事のようになり、スプリンクラーが作動すると、展示作品を保護するために作品の横からシャッターのような壁が出てきて作品を被害から守る様子が映されるが、これは実際に取られている措置なのであろうか、そうだとすれば感心だが、多分映画向けのものでしょう

トーマス役のピアース・ブロスナンは1953年生まれのアイルランド人で5代目ジェームズ・ボンドになった俳優だ。「ゴールデンアイ」など4作品に出演して興行的に成功した。本作でも、若くして大富豪になった男をうまく演じていた。キャサリン役のレネ・ルッソは1954年生まれの米人、保険事故調査員としての辣腕ぶりにお色気が加わり、その両方を武器にトーマスに迫っていく演技をうまく演じ、また、大胆な脱ぎっぷりにも驚いた。

サスペンスであり、ロマンスであり、美術館や絵画を扱った作品として、興味が持てる人には観て損がない映画だと思う。楽しめました。


映画「追跡者」を観る

2023年11月29日 | 映画

テレビで放映されていた映画「追跡者」を観た。1998年、米、監督シュチュアート・ベアード、原題U. S. Marshals(米連邦保安官)。この映画を観るのは2度目だ。結構面白かった記憶があったのでもう一度観たくなった。

主演の米連邦保安官を演じるのは日本では缶コーヒーの宣伝で有名なトミー・リー・ジョーンズ(77)だ。彼の出演した映画はほとんど観てないが、この映画のような刑事役が本当にはまっていると思う。

(以下ネタバレあり)シカゴからニューヨークへの犯罪者を護送中の飛行機が囚人による騒ぎで機体に穴が空き、オハイオ川に墜落する。飛行機に乗り合わせたサム・ジェラード連邦筆頭副保安官(トミー・リー・ジョーンズ)は、逃走した囚人マーク・シェリダン(ウェズリー・スナイプス)を部下と共に追跡することになる。元CIAの特殊工作員で、2名のCIA部員を殺した容疑を受けていたシェリダンを追うため、外交保安局捜査官のロイス(ロバート・ダウニー・Jr.)が捜査に加わる。

実は、囚人になったシェリダンはCIA部員を殺したがそれは正当防衛で冤罪だった。このため護送機の墜落を利用して脱走し、恋人のマリー(イレーヌ・ジャコブ)の協力をひそかに得て自らの冤罪を晴らそうと行動を開始したのだった。事件の背後にはCIAから中国に国家機密を売り渡す陰謀が存在、その首謀者はなんとロイスだった。それを知らないジェラードは激しい追走劇の末、シェリダンを逮捕したが、ロイスこそ真犯人だと知るや、シェリダンを殺そうと忍び寄ったロイスを間一髪で倒す。

この映画は、ハリソンフォード主演の「逃亡者」(1993)の続篇として制作されたものだが、当初のハリソンフォード作品の評価が高かったため、続編のこの映画は二番煎じで高評価にならなかったらしい。私はハリソンフォード編は観た記憶が無いが、この映画を観る限り、なかなか面白い映画だと思った。ストーリーはそれなりに考えられているし、飛行機墜落場面なども迫力あるし、トミー・リー・ジョーンズの熱血捜査官ぶりも好感が持てた。最後までハラハラ・ドキドキさせてくれて十分に楽しめた。アメリカ映画らしい勧善懲悪ストーリーで肩の凝らない良い映画だったし、この映画を観てトミー・リー・ジョーンズが好きになった。