ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

映画「法廷遊戯」を観る

2023年11月23日 | 映画

映画館で上映中の「法廷遊戯」を観た。2023年、深川栄洋監督、原作五十嵐律人。イオンシネマで観たが1,100円だった。来ていたのは若い人が多かった。今日は安い日なのか、シニア含めすべての人が1,100円だった。

弁護士を目指してロースクールに通うセイギこと久我清義と、同じ学校で法律を学ぶ幼なじみの織本美鈴、2人の同級生でロースクールの学生たちが行う「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判を司る天才・結城馨は、共に勉強漬けの毎日を送っていた。無事に司法試験に合格し、弁護士となった清義のもとに、ある時、馨から無辜ゲームをやろうという誘いがくる。しかし、呼び出された場所へ行くとそこには血の付いたナイフをもった美鈴と、すでに息絶えた馨の姿があった・・・

私がいつも見ている映画サイトでユーザー評価が4点以上と高かったので観ようと思った。原作の同名小説があるが知らなかった。原作者の五十嵐律人は小説家であり弁護士でもあるそうだ。小説の映画化というのは結構難しいと思うが、この映画を観た印象としては、ストーリーが複雑でわかりにくい、全体的に暗いムードの映画だった。

ストーリーについては、不正確な記憶だが、

  • 主人公の美玲は貧しい家庭に育ち、施設に入れられるが、そこで性的虐待を受け、思わず施設長を殺害してしまう
  • それを同じ施設にいた清義がかばい、美玲は無罪となる
  • 2人は若者に成長したとき、美人局のようなことを電車の中で働き、私服刑事に見つかる、美鈴が警察に連行されそうになったとき、清義が階段の途中から2人を突き落とし、警察官を痴漢にし、有罪とする
  • その後、2人はロースクールに入り司法試験合格を目指すが、同期に天才・馨がいた。彼の父親が美玲を捕まえた私服刑事であった
  • 馨は美玲と清義に復讐を誓い、無辜ゲームを考え、美玲を殺人罪で罪人にし、かつ、父の冤罪を証明しようとする

原作を読んだ人なら問題ないだろうが、いきなり予習無しで観ると、ストーリーを理解するのに苦労する。そして結末についても、何となくモヤモヤ感が残った。ストーリーを正確に理解していないからやむを得ないだろう。

感想としては、

  • 全体的に暗いムードの映画で、結末もあまり救いが無いし、何かを考えさせるようなものでもないような気がした
  • 馨が自作自演で美玲に殺される所は、話に無理があるように思えた、あまりに奇抜な考えだからだ
  • かなり貧困家庭に育った主人子たちが授業料の高いロースクールに入り、2人揃って司法試験に合格するというのも非現実的ではないか、と感じた

原作者や監督、出演者の俳優たちが好きな人は観て楽しめると思うが、何も知らない人が観たら1回観ただけではキチンと理解できない映画だと思う。その意味で私の感想はこの映画をもう1回見れば変ることもあると思うし、映画サイトの評価4以上というのもそれを示しているのでしょう。


映画「ゴジラー1.0」を観る

2023年11月09日 | 映画

近くのシネコンで話題の映画「ゴジラー1.0」を観た。2023年、監督・脚本・VFX山崎貴(1964年生まれ)。シニア料金1,300円、平日昼間であったが4,50人は入っていたか、幅広い年令層に見えた。このタイトルは「ゴジラ・マイナス・ワン」と読む。敗戦によりゼロになった日本を怪獣ゴジラが襲い、ゼロ以下のマイナスに追い込む、そういう意味で「マイナス、ワン」となったそうだ。

評判が良いようなので観ようと思った。主なキャストは、主演を神木隆之介、ヒロイン役を浜辺美波、その他山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、 佐々木蔵之介など。

結論から先に言うと、大変面白かった、感動した、よくできた映画だと思った。

ゴジラものはいくつかあるが、今までオリジナルの古いもの(1954年)と「シン・ゴジラ」(2016年、庵野秀明監督)しか観てない。今回は、それらと違う新しいストーリーを展開するというのではなく、基本部分は同じストーリーである。従って、先の2作を上回るシナリオを書くというのは大変な構想力、脚本力が要求されるだろうが監督兼脚本の山崎貴という人はその点でたいした能力の持ち主であろう。今まで彼は、「ALWAYS 三丁目の夕日」、「永遠の0」など数々の話題作を生み出してきたヒットメーカーだそうで、今回もやってくれました。

いくつかコメントを述べてみよう。

  • 今回の時代設定は敗戦直後の日本であること、ゴジラ退治が自衛隊もまだ無く米軍の協力も得られず戦場から生き残った海軍将校・戦士たちの有志であったこと、米軍にまだ引き渡されていない戦艦2隻を活用した作戦であったこと、主人公の敷島浩一が元特攻兵の生き残りでそれに悩んでいること、などが絡み合ってストーリーが展開される。無理な設定もあるが許されるだろう。
  • 最後のゴジラ撃退の直後と、退治後暫くしてから、「ああ、こういうことだったのか」という、場面が2度あるが、そこが観てる人を感動させる所でもある。ちょっと無理があると感じるが、映画中にちゃんと伏線はひいてあるので、許されるだろう。
  • 神木隆之介、浜辺美波のカップルはつい最近終了したばかりの朝ドラ「らんまん」のあのコンビだ。偶然だろうか、朝ドラ終了直後のため、その人物イメージが強く残っており、別の組み合わせの方がよかったのではないかと感じた。

  • 新しいものとなると時代を反映してどうしても最新のCG(VFX) などのテクニックを駆使したあまりに現実離れしたものになり、それが見え見えで白けるが、今回はストーリーがおもしろかったので、その点は許せた。
  • エンドロールを見てると、撮影協力にいつもゴルフでよくいく笠間市や下館市が含まれ、自衛隊も協力しており、うれしくなった。自衛隊は先日観た「沈黙の艦隊」でも撮影協力しており、本来任務以外の仕事があって大変だ。そしてメディアでは読売新聞が協力しており、あの新聞社ではない、と言うのも分かる気がする。
  • 戦争に絡む映画やドラマ、ドキュメンタリーだと、何かと戦時中を悪く描きすぎる傾向があると思っているが、今回の映画ではそのようなことが無かったのは好ましいことだ。映画の中では戦争に関連して、この国は兵士を大事にしないで無駄死にさせた、兵隊がしっかりしていればこんな焼け野原にはならなかった、などのセリフがあったが、その部分はその通りだと思う。
  • 主人公が特攻出撃を理由をつけて回避した過去を持つことについて悩むが、その点は監督が手がけた「永遠のゼロ」も少し影響したのではないか、もちろん良い意味で。

十分楽しめた。


映画「サウンド・オブ・ミュージック」を再び観る

2023年10月15日 | 映画

映画「サウンド・オブ・ミュージック」が観たくなったのでYouTubeで見直した。だいぶ昔に観た記憶がある。1965年、米、監督ロバート・ワイズ、原題The Sound of Music。元々、ブロードウェイミュージカルだったものを「ウエスト・サイド物語」のロバート・ワイズ監督により映画化したもの。YouTubeで無料で見れるとは有難いことだ。

古い映画ファンなら誰でもこの映画を知っているだろう。ジュリー・アンドリュース主演のミュージカルだ。今までいくつかのミュージカルを観てきたが、この映画とオードリ・ヘップバーン主演の「マイフェアレディー」が一番好きだ。どちらも最高だ。「マイフェアレディー」はサウンドトラックも持っていて、子供が小さい頃自動車に乗せて良く聞かせたものだ。

今回改めてこの「サウンド・オブ・ミュージック」を観て、イメージがかつて観た記憶とほぼ一致しており、一回観ただけでそれだけ強烈な印象を残す映画だと思った。

1938年、オーストリア・ザルツブルグ。古風で厳格な教育方針のトラップ家に家庭教師としてやってきた修道女マリア、子どもたちに音楽や歌うことの素晴らしさを伝えていくうちに子供たちから好かれるようになり、やがて妻に先立たれた父親のトラップ大佐と惹かれ合うようになり、紆余曲折の末、二人は結ばれるが、時はナチスによるオーストリア併合の時代になり、トラップ大佐はナチの支配下に置かれることを拒否し、家族で出演したザルツブルグ音楽祭の演奏の後、隣国に逃亡を図る。

「ドレミの歌」、「エーデルワイス」など劇中で歌われる名曲の数々は誰でも知っているだろう。舞台がモーツアルトの誕生地ザルツブルグであることもうれしい、映画の冒頭にマリアが歩く高原の景色、物語中に描かれるザルツブルグの街並み、最後に山越えの逃亡を図り、頂上に達したときに見える眺望、どれもこれも素晴らしい。

ウィキを読むと、この映画のトラップ大佐は実在の人物でストーリーも実話らしいが、基本的なストーリー以外はだいぶ事実とは違った形で映画になっているという点で、トラップ家はショックを受けた。また、映画の主題が「ドイツによるオーストリア併合に抵抗するオーストリア人」というものだが、実際にはヒトラー自身がオーストリア人であったことをはじめ、併合に積極的に加担したオーストリア人が多かった。その史実を暗に糾弾し国民感情を逆撫でするこの映画はオートリアでは上演はタブーに近い扱いだったらしい。ドイツとオーストリアではマイフェアレディーの方が人気が高いとされている。

いろいろあるだろうが、良い映画であることは確かだと思う。


映画「沈黙の艦隊」を観る

2023年10月14日 | 映画

公開中の映画「沈黙の艦隊」を観てきた。2023、監督吉野耕平。シニア料金1,300円だったか。観客は15名くらいか、シニアが多かった。

この映画は1988~96年に講談社の週刊漫画誌「モーニング」にて連載された、かわぐちかいじのコミック「沈黙の艦隊」を映画化したもの。日頃コミックやアニメにはほとんど縁が無いので、この作品は全く知らなかったが結構人気がある作品らしい。

日本近海で、海上自衛隊の潜水艦がアメリカ原子力潜水艦に衝突して沈没する事故が発生。全乗員76名が死亡したと報道されたが、実は全員が生存しており、衝突事故は日米が極秘裏に建造した日本初の原子力潜水艦「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だった。しかし艦長の海江田四郎(大沢たかお)はアメリカをも欺し、シーバットに核ミサイルを積み、アメリカの指揮下を離れて深海へと消えてしまう。海江田をテロリストと認定し撃沈を図るアメリカと、同じくこれを捕獲するべく追う海自のディーゼル艦「たつなみ」、その艦長である深町洋(玉木宏)。やがて海江田は「シーバット」を独立国家「大和」と宣言する。

映画を観た感想を書いてみたい

  • まず、この映画の終わり方が中途半端で、物足りない。続編があるのだろうと思うが、その説明がどこにも出てこないのはおかしくないか。
  • 映画を観る限り、偽造工作により日本の潜水艦が米原子力潜水艦に衝突するとか、「シーバット」を支配した海江田が独立国家を宣言するなど、余りに非現実的な設定であり、観る観客が「こういうこともあり得るな」とは思わないのではないか。
  • このような状況に接して、日本政府はあたふたとして何もできないことが描かれているが、既視感がある。「シン・ゴジラ」で見た光景だ。「シン・ゴジラ」の方がこの映画以上にあり得ない状況設定だが、政府の右往左往ぶりは「有り得るな」と強く感じさせた。しかし、この映画ではその辺の描き方がイマイチな気がする。

原作を読んでいないのでこの物語の本当の良さは分からないが、続編に期待したい。


映画「007慰めの報酬」を観る

2023年10月09日 | 映画

テレビで映画「007慰めの報酬」を観た。2008年、米/英、監督マーク・フォースター、原題Quantum of Solace。この映画も以前観たことがあるが、内容はハッキリ覚えていないので再度観てみた。

ダニエル・クレイグが新しいボンドになってから2作目である。前作の「カジノ・ロワイヤル」が面白かったので期待した面もあった。

ストーリーは前作からの続きになっている。従って、前作を観ていないと理解できない。前作で最後にボンドが狙撃した黒幕ホワイトはドミニク・グリーンというさらに上の黒幕が属する組織の一部で、このグリーンがボリビアの失脚した元権力者メドラーノ将軍のクーデター計画を資金的に支援し、それと引き換えに石油や水の利権を獲得して一儲けすることを企み、そこにアメリカも絡む。それをボンドが闘って潰すというもの。

観た感想を結論から言うと、前作に比べるとかなり面白みがなかった。冒頭のアクション・シーンはおなじみのハードさで、ロケ地もイタリアのシエナやタラモーネ、ハイチ、ボリビアなどなかなか行けないところを使っているが、なぜか面白く感じなかった。

それはストーリーが複雑すぎるためではないか。そして、ハラハラ・ドキドキするような緊迫した場面があまりなかったこともある。アクション場面があったとしてもカーチェイスなどの普通のつまらないアクション映画並の内容となったからではないか。ボンドのかっこよさもイマイチであった。

1つだけ面白かったのは、舞台がオーストリアでグリーンや彼の利権に群がる関係者がプッチーニのオペラのトスカを鑑賞する場面があったことだ。そのオペラハウスが上の写真だが、これが本当のオペラハウスかどうかは私の知識では分からない。

ただ、鑑賞とは名ばかりで実は裏でそこに集まった関係者が最新のデバイスを使って交渉をするのだ。オペラが、トスカがスカルピア男爵をナイフで刺し殺す場面になると音楽もかなり大きな音でその悲劇を強調する場面となるがその大音響の舞台裏でボンドとグリーンの手下との壮絶な格闘シーンが繰り広げられている。以前この映画を観たときはあまり印象に残らなかったの今回はこんなところでトスカにお目にかかれるとは思わなかった。

 


映画「007カジノロワイヤル」を再び観る(2023/10/08追記)

2023年10月08日 | 映画

(2023/10/08追記:マッツ・ミケルセン主演の映画「アナザー・ラウンド」の最後のシーンのYouTube動画を貼付け)

テレビで放映された映画「007カジノロワイヤル」を観た。もう4、5回目だ。しかし、何回観ても飽きないし、たまに観たくなる。2006年、イギリス・アメリカ・チェコ合作、監督マーティン・キャンベル。

カジノロワイヤルはボンドがダニエル・クレイグになってから最初の映画だ。それまでも007は観てきたが全作品を観てきたわけではない。しかし、このダニエル・クレイグのカジノ・ロワイヤルを観て以降、全部観ている。

あらすじは一回観ただけでは何が何だか分からないだろう。どこかアフリカの黒人ゲリラのようなテロ組織から資金の運用を引受けたル・シッフル(マッツ・ミケルセン)がある航空会社の株の空売りをする、その航空会社の新しい飛行機お披露目の日にテロにより爆破して株価を暴落させて儲けるつもりだったが、ボンドにテロを阻止され莫大な損失を被る。失った金を取り戻すためにモンテネグロのホテル、カジノロワイヤルで巨額のポーカー賭博に臨むが、ボンドもイギリス政府の資金を使ってそのカジノに参加し、勝ってル・シッフルの企みを潰そうとするが・・・

映画の冒頭のボンドが武器密売人をマダガスカルの雑踏の中で捕まえようとする追跡アクションに圧倒される。冒頭のアクションシーンは007シリーズおなじみのものだろうが、私はこのカジノロワイヤルのアクションシーンが一番好きだ。あり得ないようなシーンの連続だからだ。

そして、なんと言ってもダニエル・クレイグのかっこよさがたまらない、身長178㎝と最近の日本人とそんなに変らない背丈だが、そんなことは関係ない。苦み走った顔、鍛え抜かれた体、スーツや時計、サングラス、車などおなじみの高級品アイテムの使いこなし、ロックのウイスキーを一気に流し込む酒の強さ、どれもこれも男の憧れをいっている。

更にル・シッフルをやっているのがデンマークを代表する国際俳優のマッツ・ミケルセンだ。「偽りなき者」もよかったし、「アナザーラウンド」もよかった。「アナザーラウンド」では最後の場面で岸壁で缶ビールを飲みながらスカーレット・プレジャーの『What A Life』という曲で踊るシーンがあるが滅茶苦茶かっこよかった、なぜなら彼は若い頃ダンサー志望だったからだ。それがこの映画では悪役で出ている。

 

この映画を楽しむためには、ポーカーの知識があった方がよいだろう。ポーカーの参加者が順番にチップをかけていく、前の人と同じチップをかけるか(コール)、掛け金を上げて(レイズ)ゲームに参加し続けるか、それまでの掛け金を放棄してゲームから降りるか(フォールド)。レイズをする相手が掛け金全部を場に出せば(オール・イン)、あとの人も同額以上かオールインしないと負ける。乗るか反るか、相手のレイズやオールインをブラフと読むか自信と見るか、その駆け引きがドキドキする。

さて、最後の方で、ボンドとカジノの資金係だった英政府財務省のヴェスパー(エバ・グリーン)がベニスに滞在する場面が良い。一度だけ観光で行ったベニスだが、世界のどこでも見られないような美しく歴史のある街だ。サンマルコ広場とか運河など自分たちが行ったところが舞台になっているのがうれしい。

そして、最後の場面、風光明媚なコモ湖畔の館に到着した黒幕のホワイトが車から降りると、突然背後から足を銃撃されて転倒する、そこに現れて名乗った男は、ライフルを持ったジェームス・ボンド、かっこよすぎる。やってみたい、こういう役を。

144分の長さだが最初から最後まで目が離せない面白さだ。

 


カウリスマキの映画「街のあかり」を再び観る

2023年09月26日 | 映画

昨日に続いてカウリスマキの映画を観た。今日は彼の敗者三部作の最後の作品「街のあかり」を観た。2回目。2007年、フィンランド、原題はフィンランド語Laitakaupungin valot、英語Light in the Dusk)

カウリスマキの映画は以前はAmazonやNetflixでは観られなかったと思うが、昨日チェックしたらAmazonPrimeで観られるようになっているではないか。それも無料なのはうれしい。それで連日観ているわけだ。

夜間警備員として働く孤独な男コイスティネン(ヤンネ・フーティアイネン)は、「警備会社勤務のままじゃ終わらない」と夢は大きいが人付き合いが下手な不器用な人間。ある日、魅力的な女性ミルヤと出会う。しかしミルヤは、百貨店強盗をもくろむ悪党リンドストロンの女だった。

ミルヤは勤務中のコイスティネンにアプローチして宝石店のボタン式施錠の暗証番号を盗み見る。まんまと利用されたコイスティネンだったが、惚れたミルヤをかばって服役する。リンドストロンはそこまで読んでコイスティネンを狙ったのだ。

なじみのソーセージ売りアイラ(マリア・ヘイスカネン)の思いには気づかぬまま、刑期を終え社会復帰を目指すコイスティネン。だがある日、リンドストロンと一緒のミルヤと居合わせた彼は、自分が利用されていたに過ぎないことに気づき、リンドストロンを刺し殺そうとするが失敗し、どんどん転落していく。

再び観た感想

  • 昨日観た「浮き雲」と同様、映画の中でヘルシンキの街が多く出てきて、現地を旅行している感覚になりよかった。
  • コイスティネンは貧乏暮らしだが、やはりアパートの部屋はカラフルに装飾されている。街もヨーロッパの街特有の曇り空、雨で濡れた路面、枯れ葉が舞う殺風景な印象があるが、部屋の中や店などはカラフルだ、が、高級ではない。安アパートなのにカラフルなのだ。カウリスマキの趣味か。
  • 出演者はコイスティネン以外も皆、寡黙で、余り話さないのは「浮き雲」と同じだ、そして滅多に笑わない。日本人以上だ。
  • 日本では海外に行ったら自己主張しなければダメだ、などと言われているが、ずけずけと言いたいことを言い、大声で話したり笑ったりするのは主にアメリカ人と中○人(1字略)だけじゃないか。言うべきことは言わないといけないが、声高に自己主張するやり方に日本人が合わせる必要は無いと思う。寡黙な日本人が学ぶべきは、イギリス人のユーモアセンスの方であろう。
  • この映画も社会の底辺で働く孤独な人の生き様を描いているが、「浮き雲」と同様、最後には救いがある。ソーセージ売りの娘アイラと街の黒人少年だが、それがカウリスマキ流なのだろう。
  • この映画はそんなに遠くない過去であるが、みんな、結構タバコを吸っている。欧州ではアメリカほど禁煙が徹底されていなかったが、さすがに最近はこの映画のようなことは無いと思うが。
  • 日本にはアメリカのニュースが多く入ってくるが欧州のニュースはそれに比べると少ない、禁煙でもそれが世界のトレンドだと勘違いして直ぐにマネをするのが日本である。よくもあるが思考停止でもある。同じような状況は至る所にある、環境問題などもそうだろう。世界は1つではないことを知るべきだ。日本にないものがあると直ぐに「世界ではこうだ」などと説明されるが、そんな場合はじっくり考える癖をつけたいものだし、報道するメディア自体がそうなってほしい。
  • この映画ではカティ・オウティネンの出番はほとんどないが、スーパーのレジ係でチョットだけ出ていた。

カウリスマキらしい映画だった。


フィンランド映画「浮き雲」を再び観る

2023年09月25日 | 映画

フィンランド映画の「浮き雲」を再び観たくなった。1996年、フィンランド、監督アキ・カウリスマキ、原題:Kauas pilvet karkaavat。原題をGoogle翻訳で「遠くに雲が逃げる」とでた。日本の成瀬巳喜男の映画に同じような題名の「浮雲」があり、大好きな映画だが、カウリスマキの「浮き雲」もなかなか良い映画だったとの印象がある。

JALが発行している雑誌に「アゴラ」がある。以前は毎月送ってきていたが、最近はオンラインで見るようになった。だいぶ前のアゴラに作家の村上春樹が書いた紀行文「シベリウスとカウリスマキを訪ねて、フィンランド」というのがあった。

その中で、村上氏がフィンランドの映画監督アキ・カウリスマキが好きで、彼の作った映画は全部見ていると書いていたので興味を持った。フィンランドと聞いて何を思い浮かべるかと自問し、1にアキ・カウリスマキ、2にシベリウスと書いてあった。

それでアキ・カウリスマキの映画を片っ端から見たことがあったが、結構良い映画が多かった。カウリスマキは1957年生まれの今年66才、兄のミカ・カウリスマキと一緒に映画製作をしている。監督だけでなく、脚本・俳優もこなす。彼の作る映画はフィンランドを舞台にした、社会の底辺にいるフィンランド人の生活を描いたものが多い印象がある。

「浮き雲」はカウリスマキの敗者三部作の第一作目、第二作は「過去の無い男」、第三作は「街のあかり」。

中年夫婦の亭主ラウリ(カリ・ヴァーナネン)は路面電車の運転手をし、奥さんのイロナ(カティ・オウティネン)はレストラン“ドゥブロヴニク”の給仕長をしている。亭主はリストラされ、奥さんもレストランのオーナーがチェーン店に経営権を譲渡し、社員は全員クビになってしまう。夫婦そろって失業し、職探しをするがなかなか見つからない。イロナが元同僚からレストラン経営をやらないかと持ちかけられ、プランを立てるが銀行が資金を貸してくれない、自動車を売ったりするがとても足りない。その時、イロナがパート先の美容院で偶然に“ドゥブロヴニク”の元オーナーと再開し、身の上を話すと、金を出してくれることになり計画は一気に進む。

この映画を見直した感想を述べてみよう。

  • 結末に希望があるのは救いだ。ただ、うまくいきすぎ、という感じもする。これがフィンランド人にうけるのだろうか。最後の場面まで出演者は皆、寡黙で、議論したり抵抗する感じではない暗いイメージで描かれてるが、これがフィンランド人気質なのだろうか。
  • 夫婦の生活は苦しいはずだが、家の中はカラフルに装飾されている、壁紙やソファーがカラフルだ、イロナのコートも赤の派手なものである。部屋の壁には絵がいっぱい掛けてある。犬も飼っている。大型アメ車に乗っているのが違和感ある。これだけ見ると結構豊かな生活に見える。ただ、ソファーや本箱、カラーテレビは全部ローン返済中である。
  • イロナが勤めていたレストラン“ドゥブロヴニク”もカラフルな内装の店だったのでこれがフィンランド人の好みなのかなと考えたが、最後にイロナ達が経営することになったレストランは全然カラフルではなく普通の内装であった。
  • 冒頭にイロナが働くレストランで黒人がピアノでジャズのナンバーを歌っている場面があるが、英語で歌っていた。これもちょっと違和感ありだ。また、最初の30分くらいのところではチャイコフスキーの交響曲悲愴が流れていたのはこの映画の主人公の悲惨な状況に合う曲として選んだのか。
  • イロナが失業して生活に困窮したとき、ふと棚にあった小さな子供の写真の前で悲しい顔でたたずむ場面があった、夫婦には子供がいたが亡くなったのだろう。これがこの夫婦になんとなく暗い影を投げかけているのだろう。
  • カティ・オウティネンは1961年生まれのフィンランド人、カウリスマキ映画の常連女優である。美人ではないし、役柄上、暗い感じのする役が多いが、なんとも言えない味がある女優であり、私は好きだ。
  • 通貨の呼称がマルクになっていたが、ネットで調べると旧通貨はマルッカ(markka)なのでこれがマルクと聞え、そのまま字幕翻訳したのかもしれない。

他のカウリスマキ映画ももう一度観てみたい。


映画「コンフィデンシャル国際共助捜査」を観る

2023年09月24日 | 映画

近くのシネコンで韓国映画「コンフィデンシャル国際共助捜査」を観た。2022、韓国、監督イ・ソクフン、原題Confidential Assignment 2: International。シニア料金1,300円、それほど広くない部屋だったが、半分は入っていただろうか。女性が多かった。

韓国映画は今までほとんど観てこなかった。ところが昨年、挑戦してみようと思い、「パラサイト、半地下の家族」と「モガディシュ」の2つの韓国映画を観たら大変面白かったので、機会があったらまた挑戦してみようと思っていたところ、最近、新聞の映画評論の欄でこの映画が封切りされたことを知り、観ようと思った。

映画のストーリーは、北から逃亡したテロリストと、彼が持ち逃げした北の10億ドルを取り戻すことを使命として北から韓国へ派遣されてきたエリート捜査員リム・チョルリョン(ヒョンビン)と、それに協力して北の魂胆を探る韓国の破天荒なベテラン刑事カン・ジンテ(ユ・ヘジン)が共同で犯人を追い、戦う。さらにこれに麻薬捜査で同じ犯人を追っていたアメリカFBIの凄腕捜査官(ダニエル・へニー)も絡み、三国・三者で犯人と格闘することになるが・・・、というもの。

犯人の追跡、銃撃戦、だましあいなどのアクション映画お決まりのシーンが数多くあり、確かに迫力はあり、派手である。そして、北の捜査員チョルリョンに惚れているジンテの義妹ミニョン(イム・ユナ)、ジンテとその妻・娘たちとの関係などがおもしろおかしく絡む。

全体的にシリアスなアクション映画と言うよりも、アクション・コメディ映画であった。その点で、昨年観た2つの韓国映画とは異なり、期待通りではなかった。アクションシーンなど、よく撮影されていると思うが、コメディが絡んでくる時点で、この映画がターゲットにしている人は学生や若者、韓流ファンの女性たちだなと思った。

今まで、アメリカ映画を多く観てきたが、ここ10年くらいはヨーロッパ映画を中心に観てきた。そして、これからはこれらに加えて、韓国・インド・ベトナム・タイなどのアジア映画もなるべく観て、映画ファンとしての視野を広げて行きたいと思っている。

 

 


映画「ブリッジ・オブ・スパイ」を観る

2023年09月20日 | 映画

映画「ブリッジ・オブ・スパイ」を観た。2015年、米、スティーブン・スピルバーグ監督、コーエン兄弟脚本、原題Bridge of Spies。なぜこの映画を観たかというと、最近、中川右介著「冷戦とクラシック」という本を再読したら、最後のあとがきに、氏がこの映画のことに言及していたからだ。氏の本は冷戦時に音楽家たちがどういう人生をたどったのかを書いたものであり、この映画も冷戦を描いている。

冷戦時、ベルリンの壁ができる少し前、アメリカで活動していたソ連のスパイのアベル(マークライランス)がFBIに逮捕された、米政府は形だけの裁判によりアベルを死刑にするべく法廷の準備をする、弁護士のドノバン(トム・ハンクス)にアベルの弁護の依頼がくる。ドノバンは嫌がったが引き受けざるを得なくなった。調べていくとアベルはソ連を売るようなことはせず、また、FBIによるアベルの逮捕についても捜査令状もスパイとしての逮捕状もないことが明らかになるが、検事に裁判は形だけだで有罪にすることが大事と言われた。やがて、ドノバンは司法長官に直談判に及びアベルを死刑にしたらソ連が米人スパイを拘束したときに交換条件で差し出す切り札がなくなり米人を危険に晒すと訴えると事態は・・・

その後、米偵察機がソ連上空で追撃され、米兵がソ連に拘束され、東ドイツでは米学生が拘束された。そして人質交換を司法長官に訴えたドノバンに米政府非公式代表でベルリンでソ連と東ドイツと非公式交渉を始める。

このストーリーは実話だとテロップにでていた。有り得る話だろう。ドノバンはその後ケネディ大統領から新たな任務を与えられ、1962年にピッグス湾での捕虜1113名の解放を目指してキューバのカストロと交渉して9703名の男女子供が解放された。ホンマかいなと思うような偉業だ。

いくつかのコメントを書きたい

  • ストーリーは面白く、2時間以上の映画だったが、時間の長さは全く感じなかった。スピルバーグ監督やコーエン兄弟の脚本が良いのだろう。しかし、ただ面白かっただけの映画であるとも言える、何か観た人に考えさせるような内容がないのは、アメリカではそのような韻を含んだ映画は流行らないので、この映画のようなわかりやすい映画が作られるのだと思う、といったら米人に失礼か。
  • ただ、日本人には、自国民がスパイ容疑で他国に拘束されたら、相手国のスパイを拘束して、交換することによって救出する、これが現実だ、という教訓を示している。今現在でも多くの日本人がスパイ容疑で隣国に拘束されている。「改正反スパイ法」でますます日本人は狙い撃ちされるであろうが、隣国のスパイは我が国でやりたい放題やっている。日本も法改正して隣国のスパイを拘束し、自国民救出の材料とするしかないのが世界の現実だと悟るべきだろう。
  • 最近アメリカはイランに拘束されていた米人5人とアメリカが拘束していたイラン人5人を交換し、さらにイランの資産60億ドル(8,800億円)の凍結を解除したとのニュース があった。このバイデン政権のディールについて共和党は60億ドル払って人質を取り戻す実績を作ったとして疑問視しているようだ。
  • この映画は「事実に基づく」と説明されている。「基づく」なのでどこまで事実かはわからない。例えば、ソ連のスパイを逮捕するのに明確な理由や証拠がないし、結論ありきで裁判は形式的だと裁判官が言う、こんなことまで事実に基づいているのだろうか。
  • 私はほとんど事実ではないかと思った。アメリカというのは昔から敵を決めたら証拠をでっち上げてもやりたいことをやる国だ。その点、わが国の隣国やロシアと大差ない。大国は常に自分勝手だと日本人は悟るべきだ。アメリカの無法な振る舞いは以前観た映画「モーリタニアン、黒ぬりの記録」(こちらを参照)でも描かれている。日本は、アメリカを信用しきっていると、きっと裏切られるだろう。
  • アメリカの偵察飛行機に乗り込む極秘任務の兵士に上司が、ソ連に捕まりそうになったらこの飛行機を爆破せよ、捕虜になりそうになったら1ドルコインの中にある毒がついた針で死ね、狙撃されるな、捕虜になるな、任務は家族にも誰にも言うな、という。これが兵士を大事に、捕虜を処遇を適切にする国のやることか。
  • この極秘任務の兵士が拘束され、さらに東独に留学していた(左翼かぶれの)米人学生も拘束された。CIAは兵士の救出をミッションとし、左翼学生は見捨てろと最後までドノバンに言った。アメリカのヒューマニズムもこんなもんだろう。

非常に面白い映画だった。