映画館で「マエストロその音楽と愛と」を観た。2023年、米、監督ブラッドリー・クーパー、原題Maestro。クラシック音楽に関係した映画だから興味を持った。30人くらいの客がはいっていたが、女性客が多かった。
制作者(プロデューサー)の名前にはスコセッシやスピルバーグなどそうそうたる名前が並んでいる。制作者というのはどういう位置づけか、監督や脚本家とどういう関係にあるのか知らないが、かなり力の入った映画であることは確かだろう。この映画はNetflixで12月20日に公開されるのに先立って一部の劇場で上演されたようだ。
この映画は、「アリー スター誕生」で監督としても高く評価された俳優ブラッドリー・クーパーの長編監督第2作で、世界的指揮者・作曲家レナード・バーンスタイン(ブラッドリー・クーパー)と彼の妻で、女優・ピアニストのフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタイン(キャリー・マリガン)がともに歩んだ人生と情熱的な愛の物語を、バーンスタインの雄大で美しい音楽とともに描いた伝記ドラマ、という説明だ。
バースタインといえばアメリカの有名な指揮者でミュージカル音楽の作曲も手がけるなど多才な人物としてその名前は知ってはいたし、彼の指揮するCDもいくつか持っている。しかし、詳しいことは知らなかったので、あまり予習をせずに観に行った。
映画は前半は若いときの2人のよき時代をモノクロで描き、後半は夫婦の関係がバーンスタインの男色趣味や薬物摂取などで危機を迎え、フェリシアが癌になったりする激動の時代をカラーで描いている。そして、最後には夫婦の愛を確かめるというような結末になっている。
私は前半はあまり面白くなく、半分寝てしまった。これでは時間の無駄になると思い、後半はしっかりと観た。見終わった感想としては、クラシック音楽ファンとしては有名指揮者の夫婦愛というテーマが映画の中心となっていたため、あまり興味を持てななったというのが正直なところだ。人間だから有名指揮者でも夫婦や親子の間はいろいろあるよね、それよりももっと仕事や彼の主義主張に関係するようなテーマの方に惹かれる。例えば今年観た「TAR」などはクラシック音楽ファンとして大変興味深く観れた。
バーンスタインについては中川右介氏の「冷戦とクラシック」(NHK出版新書)で多く取り上げられているが、そちらで得られる知見の方が自分にとっては彼を理解する上で参考になる。いくつか例を挙げれば、
- 売れない音楽家でナイトクラブでピアノを弾いていたバースタインは、1943年からNYフィルの副指揮者になった、その直後にワルターが急病になったためぶっつけ本番で代役となり大成功した(これはこの映画でもとり上てていた)
- バーンスタインはリベラルであるが共産主義ではなかった。しかし、そのリベラルな言動から左派に担ぎ上げられ、戦後の赤狩りの対象となり、一時はパスポートも取り上げられた
- バースタインは誰とでも直ぐに親しくなる才能があった、若くてハンサムで陽気なバースタインは世界中どこに行っても直ぐに人気者になる。カラヤンとは1954年に知り合うと直ぐに意気投合したが、1958年にカラヤン指揮のNYフィル公演でカラヤンの許可無しでリハーサルにテレビを入れたため関係悪化し、以後2人は気まずくなっていった
- バースタインはケネディ大統領とも親しくなったが、米国の核実験再開により核兵器廃絶を主張していたバースタインとの関係が悪化した
- 1961年、バースタインのNYフィル初来日公演があったが反米の左翼系音楽家からボイコットされ、日本の半分からしか歓迎されなかった。左翼系文化人は東ドイツのゲバントハウス管弦楽団の来日の方を歓迎し、左右陣営の文化代理戦争の様相を呈していた。左派新聞の公演評論でNYフィルの評価は低かったため、次回の来日は約10年後となった
バーンスタインを演じたブラッドリー・クーパーは知らない俳優だったが、指揮するときのオーバーアクションや頻繁にタバコを吸うところなど、うまく演じていると思ったし、そっくりだと思ったが、そういったバースタインの姿はあまり好きにはなれない。
バーンスタイン夫妻、家族のことを知りたい人には良い映画でしょう。
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