秋田県のスーパーマーケットにクマが侵入し、騒動となった。その様子は全国ニュースでも報道され、世間にインパクトを与えた。全部書いたら恐ろしい長文になるので、なるべく抑制して書こうと思う。まず事前の確認事項として明確にしておきたいのは、現地の環境である。秋田県は田舎だと思うかもしれないが、今回の現場は思いっきり都市部である。クマが侵入したスーパーマーケットは、国道7号線のすぐ近くにあり、秋田県内でも最も交通量が多い場所である。大型トラックがひっきりなしに通行している。周辺には鉄道の線路も走り、大型工場が幾つも建っている。道の駅やビジネスホテルもある。秋田港まで徒歩数分であり、そこにはフェリーターミナルがある。つまり秋田県内でも、もっとも騒がしい場所である。およそクマが出るなどと想像できない。この場所では人々はクマを警戒するのではなく、クルマにぶつからないように注意するとか、車上荒らしに遭わないように対策するとか、ごく一般的な都市部ならではの心配をしている。そんな場所で発生したクマ騒動に関して、感じたことを何点か記述したい。非科学的な個人の感想ですが・・・。
1)クマ専門家は当てになるのか
勿論、当てになる専門家は沢山存在するとは思う。でもニュースなどで出てくる自称専門家の中には、首を傾げる人も多い。テレビ局が専門家の意見を放映する際、プロデューサーがディレクターに「おい、専門家を何人かピックアップしてアポを取れ」と指示しているに違いない。多分ADがGoogleか何かで調べてヒットした専門家に当たるのではないか。事案に適した専門家をチョイスすることよりも、インタビューの取りやすさ(首都圏在住か、アポが取れるかなど)が優先されているように思えてならない。以前に北海道で軽トラがヒグマの襲撃を受けた衝撃的な映像がニュースで流れた。その時は、パンク町田氏なる自称専門家が出てきて、「こういう場合はクルマは一気にバックして逃げるべきだ」と意見を述べ、失笑を買った。山奥の林道を走る人であれば、バック走行することの困難さは知っている。ヒグマが攻撃してくる状況でバックで逃げれる訳がない。トミ・マネキン(伝説のラリードライバー)ならまだしも、一般人ではスタックしたり横転し、結局ヒグマに捕まり命を落とすことになり兼ねない。現地住民はそんなことは分かっているから、前進で振り切って難を逃れたのである。ニュース番組のスタッフだって「本当かな?」と思ったはずだ。それを全国ニュースで、そのまま流すなんてどうかしている。パンク町田氏はオールマイティな動物専門家であり、研究者ではなく商業ベースの専門家だと思う(察して下さい)。そしてクマに対する特別な知見を持っているわけではない。色々な動物に対し広く知識を持っている方であり、クマの専門家でも何でもない。これはパンク氏の責任とでいうより、チョイスしたテレビ局に問題がある。そんな専門家の話を全国ニュースで流すことに何の意味があるのだろうか。
2)ドングリ不作説は、現代の天動説か?
もう一つ。馬〇の一つ覚えのように連呼される「ドングリ不作説」と「人間の山地開発によってクマの居場所がなくなった説」にも僕は懐疑的だ。ドングリが不作だから餌を探して人里に来る、その現象自体は以前からあるとは思う。でも最近の出没は明らかに様子が異なる。一部の自称専門家は何の因果関係(データ)も示さず、何十年前から同じことをオウムのように繰り返し言っている。現地住民は既に気づいている。問題はドングリなどではない。最大の原因は、里山の放棄などにより人間の抑止力が低下したことにあるのだ。ドングリはキッカケに過ぎない。過去何百年にも渡り、クマと人間がせめぎ合うボーダーラインが存在し、不用意にそれを超えた場合、しっぺ返しに合う。それはクマも人間も同じだった。だが里山は放棄され、山仕事をする人間の数は激減した。クマが恐れ続けたボーダーラインは消滅したのである。ゆとり世代のクマさんは、人間の怖さを知らない。秋田県レベルでの山地開発は、ここ30年ほどは殆ど進展していない。平地も開発されないのだから、山地を開発する理由もない。むしろクマの生息域は広がっていると見るべきだと思う。都会の人は何でもかんでも開発されると思うらしいが、田舎では開発なんかされていないのだよ。高速道路建設、メガソーラー、風力発電。そんなものは大勢に影響はない。一部の環境活動家が政治的な意図で強調していることで、きっとそんな人が、市役所に「クマを殺すな!」と抗議電話をするのだろう。
3)猟友会と行政の関係
今回の件を、北海道での猟友会と行政の対立との延長戦で捉えている方も多いらしい。これだけ捕獲に時間が掛かったのは、猟友会が協力しなくなったからであり、警察の自業自得だという意見すらある。言っておくが猟友会トラブルは北海道でのことであり、秋田県(本州)は全く連動していない。それは現場レベルでは同様の不満も渦巻いているかもしれないけど、少なくとも表立った対立関係にはない。今回もちゃんと猟友会は出動している。現場は市街地かつ屋内なので、警察官による発砲命令が出ない限り、銃器の使用はできないだけである。その発砲命令は緊急事態にのみ発令される。ニュース画像では警察官が機動隊が持つような盾を持って内部の様子を伺う場面が映っていた。ちょっときついなと正直思った。ないよりはマシかもしれないが、あんな盾でクマと対峙しろというのは無茶だ。そしてクマと警察官が揉み合っている場面では発砲許可を出したところで、現実的に発砲は出来ない。これでは流石に警察官が気の毒だ。
4)まとめ
何だか散漫な内容になったけど、今後も市街地にクマが出没する頻度は高まるだろう。クマの襲撃の威力は凄まじく、重症者の多くは顔面を攻撃される。「命に別状なし」といえば聞こえは良いものの、顔面が崩壊したり、眼球が飛び出して失明するケースが多いという。そんな被害が山奥ではなく、都市部の病院とか、スーパーマーケット、コンビニ、学校、図書館、そんな身近な場所で発生するかもしれない。山仕事をする人ではなく、普通のサラリーマン、OL学生さん、あるいは観光客が被害者になるかもしれない。専門家は当てにならないと最初に書いたが、日本ツキノワグマ研究所の米田一彦所長 (氏は秋田県でクマ対策事業に長年従事していた)の見解には共感した。氏によれば捕獲されたクマは、そもそも肥えていて食料不足ではなかったという。餌に困って人里に来たのではなく、昨年から人里近くに住み越冬したクマではないかと・・・。更にそのまま転記すると、「おそらく昨年の晩秋から人里に定着し、そのまま越冬した個体でしょう。クマの冬眠は必ずしも山奥で行われるわけではありません。現場から6キロほどのところにある県立公園には、もう常時クマが居ついてしまっています。今回のクマは、昨年から今夏にかけて県立公園や海岸沿いの防砂林を転々とし、ここ数日目撃情報が寄せられるなかで、人に追われる形でスーパーに逃げ込んだ。最初から食べ物が目当てで侵入したわけではないというのが私の見立てです」 。
ちなみに昨年は記録的な暖冬、小雪の年だった。冬眠せずに越冬するクマもいたと聞く。そして氏は、鳥獣保護法を改正し、住宅地での猟銃使用を条件つきで緩和する環境整備を進めるべきだとしている。実際、国はその方向で法整備を進めているという。正直なところ、僕だってクマさんが駆除されることには同情する。他に方法があればとも思う。でも一方でクマの脅威におびえ、街中で突然襲撃されて失明するかもしれない。そんなリスクを負いたくはない。将来における人間とクマの共存を図る為に、再度ボーダーラインを構築し、住み分けを図るしかないと思う。もうドングリのせいにするのは辞めよう。
里山の荒廃の問題。単純に想像できるし、現地でも容易に実感できますが、何故かこのラインの放しになりません。
あるいはなっているけど、マスコミから取り上げられないのかもしれません。環境開発とかそっちに持っていきたいし、学者筋もそっちの方が予算獲得できるからと勝手に思っています。
私も「柿」「森林開発」「熊駆除かわいそう」論を支持してきましたが
6x6さんの御意見を伺って、熊の平地進出には違った理由があるようにも思えてきました。
あくまでも推測ですが、利益優先、あくなき富の追求が環境汚染や環境破壊で地球環境の急激な変化をもたらしています
それによって動物の脳にも、人間の脳にも何らかの影響を与えているのかもしれません
熊より遥かに危険なのが人間、特に国家指導者は指一本で地球を滅ぼすスィッチを握っている
この男の脳みそが狂った時がもっとも危険です
(脱線!)
街に出た熊が戦闘的なのか、物見遊山なのかは知りませんが、山に入って襲われるのは人間の領海侵犯でしょうね
逆に街に出た熊も同様なんでしょうがね
理性ある人間と本能で動く熊・・・
環境の変化は人間がもたらしたことは確かです
かっては実り多き山を荒らしてしまったのも、山村が次々と消えていくのも、みんな人間の仕業です
おとぎ話では、金太郎も桃太郎もみんな熊や猿と仲良しですよね
昔の山間地では、そんな景色は当たり前だったんでしょうね、さすがに熊はどうかと思いますが
野生動物が家畜同様になついているテレビ番組も時々見ます、そこに暮らしている人たちそのものが自然の中に溶け込んで野生動物の一種になっているんでしょうね、そんな関係が理想ですけど。
若いころは一人で登山していましたが、熊に遭遇するなんて考えたことも無かったです
今は近隣の山城にさえ行くのが怖くて、行かなくなりました
野生動物と人間の関係はこれからも面倒になっていくのでしょうか?
おっしゃる通り棲み処のすみわけが一番大事なんですがね、熊にはできないから人間が何とかしなくちゃね。
国会議事堂あたりに熊が出てくれば議員も本気になるかもしれませんが。
長々とお借りしてすみませんでした。
(母の学友のご実家が運営されているスーパー)
何度か訪れておりますのでその立地等…知っている分、
クマ!?…と驚いてしまいました。
本当に、何か大きなところの変化を感じてしまいますね。
(そもそもの人間が問題…という点は、ここではちょいと横に置きますが…)
熊の習性を知れば知る程、捕殺するしかない事は明確ですし、
(ちゃんと美味しいものにありつけると学習している個体であるということ)
その事に苦情が殺到した…という現実も、その無知さ、想像力の欠如に驚きを隠せません。
これは僕の個人的な見解なのですが、戦後、日本中の山という山に杉を植林し、生態系にも自然環境にも影響があったと思います。江戸期と比べて確かに開発によって環境を変えてしまったかもしれません。でも一方で、戦後というカテゴリーでいえば、ここ80年の間では変化はない。むしろここ数十年でいえばよくなった面すらある。
そしてクマさん問題の悪化はここ数年著しくなったことと、里山放棄の進行とは見事に比例していると思います。秋田県の山地も、工作放棄地や荒廃した杉林という状況です。クマは環境の悪化で人里に出るしかないのではなく、人がとめなくなったから出て来ているのではと考えています。
少なくとも秋田県で突出すてクマ被害が多いことは、それが理由ではないか、そう思いますが、専門家の研究は進展していないようで残念です。
コメントの中に共感する考えが多く、嬉しい限りです。
あの場所にクマが出るのであれば、秋田県内でクマから安全な場所などないような気がします。
僕も最初に秋田県に来た際は、クマの駆除に否定的でしたが、実際の被害を聞くにつれ、これはクマと人間の命がけの攻防だと気づきました。ここで一線を引くことが出来れば、大きな眼で見てお互いの益になるのだと思います。
とにかく山に入らなくても、市街地でクマに襲われるようななると、もはや先進国ではないと思います。