石油元売り各社が軒並み赤字決算を強いられている。JXホールディングスは4日に通期計画の下方修正を発表し、2750億円の営業赤字(前期は2136億円の黒字)になる見通しを示した。従来予想の1050億円の営業益から一転して赤字に転落する。同様に出光興産も3日に、通期で1200億円の営業赤字(同781億円の黒字)になる見通しを発表している。出光興産は2006年の上場後初の赤字、JXも2010年の統合以来初の赤字決算となる。
12月決算の昭和シェル石油と東燃ゼネラル石油も本決算発表は2月中旬を予定しているが、すでに1月末に決算の下方修正を発表し、それぞれ180億円、729億円の営業赤字を見込んでいる。5日に第3四半期決算発表を控えるコスモ石油も同様に通期予想の下方修正が不可避な情勢。2014年度決算は、石油元売り大手5社すべてが赤字決算に転落する見通しだ。
■在庫評価損は一過性の損失
主因は原油相場急落により膨らんだ巨額の在庫評価損の発生だ。元売り各社は、期末に在庫を総平均法で評価し、簿価の引き下げを行う。今期のような原油安の局面では、高値で仕入れた原油を安値で精製して販売することになるため、JXで4300億円、出光興産で1370億円という莫大な評価損失が計上される。70日以上の備蓄を義務付けられている石油元売り会社にとって、半年あまりで原油価格が半分まで急落した影響は極めて大きい。
もっとも、在庫評価損はあくまで一過性の損失であり、即座にキャッシュアウトするわけではない。また、1月に一時1バレル=45ドルを割ったドバイ原油相場は反発し、2月に入り足元50~55ドル前後で膠着している。出光興産の鷺島敏明執行役員は「原油相場はひとまず下落局面が収束したと見ている。とはいっても需給の引き締め要因も乏しく、来年度は50~60ドルのレンジ」と見る。原油価格の下落が落ち着けば、今期の巨額評価損の反動で来期決算では各社ともV字回復を果たす可能性が高い。
ただ、在庫評価損益の影響を除いた真水ベースでの収益は順調かというとそうでもない。業界最大手のJXは、石油精製事業の利益計画が昨2014年11月に修正した計画対比で160億円下振れた。2014年度末までに業界全体で精製能力の削減や製油所の閉鎖をしたことで、石油精製マージンが改善する見込みだったが、油価が急落したことで販売価格が1カ月程度先行して下回り、元売りの年後半の利幅は当初の想定から悪化した。
そもそも石油産業は低燃費車の普及などで構造的に年間2%弱の需要縮小が進んでおり、今後のジリ貧は避けられない。また、アジアでの供給過剰が響き、前期まで収益を牽引していたパラキシレンなどの石油化学製品も利幅は悪化している。
■油田開発などへの投資でも減損発生
さらに、原油安は各社の成長戦略にも影を落とし始めている。国内の石油精製事業が縮小を避けられない中、元売り各社は海外の油田開発や金属資源などの上流開発へ積極投資を行ってきた。だが、原油や石炭など資源関連の商品市況が下落する中、今回の決算発表で出光興産は豪州のエンシャム鉱山や北海の石油探鉱・開発事業で合計267億円の減損の計上を余儀なくされた。
JXは今第3四半期決算では減損を認識しながったが、年度末に資源関連資産の再評価を行う予定だ。同じく北海油田や銅、石炭案件などで大幅な減損損失が出る可能性がくすぶる。中でもチリのカセロネス銅山は、銅価格の下落やフル生産体制への遅延が出ており、JXは前年度に続き再度減損を行う可能性を示唆している。中東の油田など上流権益が利益柱のコスモ石油にも原油安による販売単価の下落影響は大きい。
市況の影響を受けやすい上流開発は一般的に20~30年といった長期スパンで投資判断を行うが、想定以上の資源市況下落により従来の計画と乖離が出始めている。今後、一部案件で立ち上がりの遅れや売却などの選択肢が浮上してもおかしくはない。出光興産による昭和シェルへの買収交渉など業界再編の動きも水面下で進む中、各社の収益体質の改善は一段急務となってきている。