「野党はグチャグチャ、希望はないな」と、安倍自民党幹部はほくそ笑む。“排除”で自爆した希望の党に代わり、野党はリベラル、立憲民主党を軸とした立て直しが急務。だが、トップの枝野幸男氏には「9条改憲案」を発表した意外な過去があった。そして共産党との“協定”とは? 迷路のような野党再々編に出口はあるのか?
希望の党は11月1日召集の特別国会での首班指名選挙で、当選8回のベテラン、渡辺周元防衛副大臣に投票することを決めた。
小池百合子代表は「首班指名に値する立派な方と思っている」と述べたが、党内では公然と、立憲民主党の枝野幸男代表を首班指名すべしとの意見も出ていた。主張した小川淳也衆院議員は、本誌記者にこう語った。
「たとえば憲法9条第3項(の追加)を誰より早く言い始めたのは枝野幸男氏その人ですからね。希望の党の考え方と、まったく齟齬(そご)はないと思います」
どういうことか。枝野氏といえば民進党内の“リベラル派”として小池氏に「排除」されたイメージがあるが、実は改憲派だ。
「文藝春秋」2013年10月号に「改憲私案発表 憲法九条 私ならこう変える」という論文を発表し、枝野氏自身もメディアのインタビューで「私は護憲派ではない」「保守」と公言しているのだ。
小川氏が言及した9条3項とは、現行憲法の最大の矛盾とされる「自衛隊の存在」を明記しようと安倍首相が打ち出した改憲案のこと。一方、枝野氏も論文の中で、9条に「自衛権の行使」の条件を定めた条文を書き加える改憲案を示していた。自衛隊の現状を憲法に追加するという“加憲発想”は、安倍案の原型という見方もできる。
さらに、同論文の中では集団的自衛権の行使について、自衛艦と共同行動中の米国の軍艦が攻撃された場合を例に挙げ、<常識的には助けるべきでしょうが、憲法にははっきり書かれていません>と、範囲を限定して憲法に明記することで行使を一部、容認するような記述がある。PKOで海外活動中の自衛隊が「駆けつけ警護」を行うことも、
<助けに行くことができると考えます。(中略)憲法で明文化する必要があります>と、許容する考えを示している。民進党出身の希望の党議員がこう語る。
「枝野氏は前原誠司代表時代の05年に民主党で憲法調査会の会長を務め、『憲法提言』をつくっている。決して観念的な平和論者ではない。だからこそ、前原氏の希望合流も党幹部としてのんだのです」
希望の党から出馬して落選した元民進議員もこう枝野氏を評する。
「枝野氏は護憲論者ではなく、平和主義的な改憲で法律的な理屈さえ通ればいいという人。枝野氏、小池氏、安倍首相はそれぞれ加憲、改憲を主張しているが、差異は実は大きくない」
自民党細田派の改憲論者の重鎮議員からも、こんな声が上がるほどだ。
「枝野氏は保守政治家なので、高村正彦副総裁も改憲論議を呼びかけた。希望の党はあてにできないので、今後は立憲民主に目配りする必要がある」
一方で憲法学者の長谷部恭男早稲田大教授がこう語る。
「枝野氏の改憲案は、過去に内閣法制局長官などにより政府見解などで示されてきた考え方のとおりで、従来の政府解釈を憲法に明文化しようとしたもの。『駆けつけ警護』も含め、すべて個別的自衛権の行使として説明できる。一方、安倍首相の行った『解釈改憲』では、集団的自衛権の行使について自衛隊が『地球の裏側』まで行って武力行使できると国会で答弁するなど、どこまでも範囲が拡大する余地を残した。両者はまったく違う考え方です」
枝野氏の改憲案には、従来どおりの政府解釈をあえて憲法に明文化することで、「解釈変更」などで憲法の趣旨を変えてしまうことに対抗するという意図があるというのだ。
「現に憲法を変えるという人たちが多数いる以上、ただ反対と言うより、もし変えるならこうでなければおかしいと言うほうが、世論を説得する効果があるかもしれない。枝野氏は憲法で首相の解散権を制約することも主張している。改憲派対護憲派という単純な図式で見るべきではない」(長谷部教授)
立憲民主党の会派に入った山尾志桜里氏も、「枝野論文」について専門家に意見を求めるなど研究に余念がないという。
「逆風」の中にある希望の党からは早速、立憲民主党にラブコールが送られている。希望の党の柚木道義衆院議員も連携を主張する。
「第2自民党にならず、『安倍1強許すまじ』で他の野党と連携することを両院議員総会で小池代表に確認しました。枝野さんは希望とも連携する気持ちがあると思う」
実際、希望の党は着々と「民進党化」が進んでいる。衆院選では、自民党出身で小池氏と近かった若狭勝氏や福田峰之氏が比例復活すらできず落選。小池氏自身、敗戦の責任を問われて国会運営から距離を置くことを余儀なくされた。
民進党を離党して希望の「チャーターメンバー」(設立メンバー)となった細野豪志氏や長島昭久氏なども、微妙な立場に追いやられているという。前出の民進出身の希望議員がこう語る。
「民進党の党内手続きを経て合流した我々は、いわば『合法的』な合流組。一方、強引に党を割った細野氏らの行為は『違法』で、民進党をガタガタにして希望と合流せざるを得なくする一因をつくった責任もある。細野氏は両院議員総会でも後方に座り、積極的に発言しなかった。党内の空気を感じているのでしょう」
チャーターメンバーたちからは「考え方の違う立憲民主とは一緒にやれない」という不満も聞こえるが、その影響力が低下すれば、希望はますます立憲民主党に接近することになりそうだ。
だが、一方の立憲民主党の反応は芳しくない。
当の枝野代表は10月27日、「合併して、政党を大きくするのは時代遅れだ。再編にはくみしません」「(19年の)参院選は立憲民主党で戦う」と野党再編を否定する発言を繰り返した。
“野合”によるイメージダウンを避ける意図がありそうだ。立憲民主党のある議員は、希望への冷ややかな見方を示す。
「希望は次の参院選も候補者を立てられず、バラバラになって崩壊するのではないか。一部は岡田克也氏が結成した無所属の会派に流れるなどするだろう。まずは今回の選挙戦で共闘した社民、共産との連携にプライオリティーがある」
さらに立憲民主党が希望の党と組めない“隠された裏事情”もあるという。それは、今回共闘した共産党の存在だ。
「立憲民主は北海道など各地域で候補者が共産党と『当選後、希望の党の会派には入らない』などの政策協定を結んでいる。希望と合流するようなことになれば共産党がだまっていないから、元のさやには簡単には戻れないよ」(前出の民進出身の希望落選議員)
さらに立憲民主党の“孤高”路線に枝野氏の性格も影響しているという。旧民主党の関係者がこう語る。
「枝野氏は民主党時代から『排除の論理』を振りかざす傾向があった。菅政権時代、官房長官を務めて鳩山由紀夫、小沢一郎両氏を『排除』した張本人の一人で、鳩山、小沢両グループを人事で外した経緯もある。立憲民主党の議員は寄せ集めで秘書上がりの新人も多く、国会質疑がもつのかも疑問だ。ブームは長く続かないのではないか」
一方、10月27日の民進党の両院議員総会では、参院議員の大半が残った民進党の存続が確認された。
どの党の公認も受けずに当選した民進系の無所属衆院議員らは岡田氏を代表とした会派「無所属の会」を結成。民進党は四つの勢力に分裂し、先行きの見えない情勢となっている。
「今後は民進党の組織を残したまま新党にして、希望、立憲、無所属のそれぞれの議員が戻れるようにするしかない。ただし弱小政党ばかりで、93年の細川護煕連立政権前後に、日本新党、民社党、社会党、社民連といった中小グループが乱立した状態に戻ったかのようだ。野党再編には、10年はかかるだろうね」(前出の旧民主党関係者)
安倍政権は「19年夏の参院選と同日に改憲の是非を問う国民投票を仕掛けてくるシナリオを描いている」(政府高官)とされる。
果たして今後、野党はどう戦うつもりなのか。
「野党再編のキーマンは無所属の会の岡田さんだろう。参院選がある再来年の夏から逆算して彼が政権奪取を掲げて希望、立憲との統一を仕掛けるしか道はない」(民進党閣僚経験者)
民進党の有田芳生参院議員は、「第三の道」を模索する手もあると語る。
「例えばイタリアでは小党分立が当たり前で、野党連合として選挙の時には一緒に戦うことで政権奪取も可能になっている。日本もイタリア型の野党連合を目指せば、小党分立でも政権奪取を狙うことができる」
だが、与党はそんな弱小野党を舐めきっている。
11月1日召集の特別国会では当初、安倍首相の所信表明演説と各党による代表質問を来年の通常国会まで先送りする予定だったが、メディアに批判され、ようやく重い腰をあげ、野党との調整に入った。
「衆院選の大勝でみそぎは済んだと判断し、加計学園の獣医学部新設に11月にも認可を出す予定です。国会を開かないと加計疑惑隠しとメディアが騒ぐので、国会審議に応じるほうが得策との判断に傾いた。審議しても野党にはたいした力がないからね」(自民党国対幹部)
混沌の中から真の“希望”が生まれるのはいつになるのだろうか。(本誌・小泉耕平、直木詩帆、村上新太郎)
※週刊朝日 2017年11月10日号
以上、アエラドット
枝野革マル、立憲民主党は共産党と連携して55議席を獲得したが共産党は半減しており、裏で共産党から借りを返せと操られる党になるのでしょう。
希望の党についても、実質第二民進党に成り下がってしまっています。
私が気になるのは希望の党は改憲政党なのに護憲派が幅を利かせる形になると訳が分かりません。