はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

実験小説 塔 その17

2018年12月26日 09時45分22秒 | 実験小説 塔


「急いでいるのに雨とは。しかもなんだ、この天地を逆さにしたような降りっぷり。まるで海の水が空からこぼれ落ちているようではないか。
途中で廃屋が見つけられてよかった。これがなければ、かなり悲惨なことになっていたぞ」
「海の水が空からこぼれるとはふしぎな喩えをいうものだ。天に海はあるのか?」
「天に行ったことがないからわからぬが、秦(宓)子勅という、古書から引っ張り出したウンチクを引っ張り出してヘ理屈をこねさせたら、右に出る者はないという、口ばかり達者で実のない面倒な使者が来た場合に、追っ払い役をさせるのに最適な男がいるのだが、そいつに聞いたら、なにかわかるかもしれないな。
すごいのだ、いろいろ。ちょっと間違いをすると、すぐ怒るし。だから友達もいないらしい」
「あんたのまわりには、ほかにはだれがいる」
「そうさな、質実剛健を絵に描いたような董幼宰、いつも顔は笑っているけれど、心はいじけている、友達がみんな魏にいる劉(巴)子初、さぼってばかりだが友達は多い許(靖)文休、ガミガミうるさい、友達はそこそこいるが本人は否定している胡偉度……ほかにもいろいろ取り揃っておる」
「個性的だな。友達がすくないやつが多い気がするが」
「そうさ。だからわたしが友人をしてやっているのだよ」
「逆かもしれないぞ」
「……子龍、ほんとうにわたしに慣れてきたようだな」
「慣れたとも。おい濡れて冷えているだろう。もうすこし火のそばに寄ったらどうだ」
「こんな狭い、しかも雨漏りのひどい小屋しか雨を避ける場所がないとは、これも反動だろうか。あんまりそばに来ないでくれないか。この距離感に慣れていない」
「もうすこしで天水なのにな。まあ、この雨であれば、女のほうも足止めを食らっているだろうよ。しかし、ほんとうにすごい雨だな。海と天が引っくり返ったようだ。あんたは海を見たことがあるか」
「琅邪にいるときに、父上に連れて行ってもらったことがあるな。たしか、叔父上が遊びにいらしたので、三人で、泊りがけで遊びに行ったのだ。
漁師がちょうど網引き漁をしていたので、一緒に手伝って網を引っ張った記憶がある。帰りにきれいな真っ白い貝殻をもらったのだが、白水素女は出てこなかったな」
「白水素女? あの、貝殻から天帝の美人の娘が出てきて、留守のあいだにいろいろと家事をしてくれたという、あれか?」
「なんだ、その笑いは。わたしだって、そういう女人がいたらいいなと、子供心にあこがれた時期があったのさ。
もらった貝はずっと大事にしていたのだが、揚州で叔父上といっしょに南陽へ逃げる際に、どこかへ行ってしまった」
「揚州から南陽へ? またずいぶんな移動だな」
「袁術の力が弱くなったので、孫策が宮廷に根回しをして、揚州を手中にいれるべく、太守を送り込ませたのだ。
あのころの揚州は、孫策と袁術、劉表の三つ巴の対立が起こっていたからな。で、叔父は負けた。戦うことで、民を巻き込みたくなかったのだろう。
けれど、民は無慈悲にも、賞金目当てに叔父と、われらを襲ってきた。
袁術は援軍を送って来なかった。偽帝として即位した頃だったから、忙しかったのだろうさ。
袁術はあてにならないと見切りをつけた叔父は、もともとよしみのあった劉表のもとへと逃げたのだよ。
もらった白い貝殻は、たぶん、どさくさでだれかに盗まれたか、でなければ、つまらぬものとして、割られてしまったかしたのだろう」
「俺は海を知っているのだろうか」
「知っているのではないかな。ああ、でも聞いたことがなかったな」
「もう本当に指摘に飽きたが」
「みなまで言わずともわかる。そこまで知っているのは、仲が良かったのだろうと言いたいのだろう。そんなことはない。わたしはとても聞き上手なのだ」
「常山真定にもどったら、海は見られないであろうな」
「成都にもどったら、もっと見られないぞ。あるのは山、山、山ばかりだ。常山真定のほうが、まだ海にちかい」
「陳倉で、俺は東に行くのだな」
「そうだ」
「では、東に行ったついでに、もしいつか海に行くことがあったなら、あんたがなくしたという白い貝殻をひろって、成都に届けてやろう」
「それは、ありがとう。期待しないで待っているよ」

「天水は、羌族が多いな。商人も西域からの者が多いようだ。市場の雰囲気も、成都とちがうな。どの商人に荷物を届ければよいのだろう」
「市場で胡桃を売っているじいさんだと」
「おや、これは葡萄か? こんな大きな粒のものがあるのだな」
「めずらしがっている場合ではないぞ。なにか騒ぎが起こっているらしいな。聞いてくる。待っていてくれ」
「うむ。葡萄をひとつ…いや、ふたつくれ。おや、棗もある。これもくれないか。味見してよいのか。ありがとう。
わたしか? 襄陽からきたのだよ。訛りが中原のものだろう。よくわかるな。中原にも足を運ぶのかい。
成都に行ったことは? まあ、あそこは山道が険しいからね。え? 途中で出没する警備隊の質が悪い? そうかい、改善するように言うさ。
ああ、知り合いが蜀にいるのでね。左将軍府にいるのさ。ある男によれば、わがままで嘘つきでろくでもないやつだそうだけれど。
ああ、なに、こちらの話だよ。おまけまでくれるのか。ありがたいな。これからもっと西へ進まねばならないから、滋養のつくものはありがたい」
「こ、いや、元平だったか平元だったか」
「元平に統一しよう」
「よし、元平、子どもが消えたらしい。どこぞの寡婦の息子だというのだが、奇妙なことを口走って、家出をしたそうなのだ」
「奇妙なこと? どんな」
「塔へどうしても行かなくてはならないと言っていたそうだ。その母親が言うには、息子とやらは、数日前に河原で薄桃色の、卵のような、きれいな石をひろったらしい」
「五つ目だな」
「ああ、おそらくな。塔の夢をみたということは、まだ石を使っていないのだろう」
「子どもはいくつだ」
「まだ十歳にもなっていないらしい。母親は気も狂わんばかりになっている。母ひとり、子ひとりだったそうだから、余計だろう」
「塔へ向かったのなら、西だ」
「ああ、そして、おそらく女も、子どものもつ石に引き寄せられて、姿を現すだろう」
「よし、すぐに出立しよう。馬がなくても、子どもの足だ、すぐに追いつく。で、子どもの名前はなんだって?」
「阿維とか呼ばれていたな」
「阿維か。よし、その使命感に満ちたやんちゃ坊主を追うぞ」





「人だかりがあるな。先に坊主を探しにいった者たちだろう。話を聞いてみよう」
「おや、羌族のことばがわかるのか?」
「片言ではあるが、あとは身ぶり手ぶりだ。人間が相手に伝えたいことなんて、あんがい、単純な事柄ばかりだったりするぞ」
「なかなか含蓄のある言葉だな」
「どうやら、子どものかぶっていた頭巾が落ちていたらしい。二又の道の片一方にあったそうだ」
「二又の道とな? ふむ、わたしが見よう」
「頭巾が落ちたのも気づかずにひたすら西へ向かったとは、『塔』は、そんなに強烈に暗示をかけるものなのか」
「茂みにひっかかったわけでもなし。頭巾が落ちているとは、なんとも怪しい。しかしわたしには通用せぬぞ、見るがいい」
「子どもの足跡だな。昨日の雨でぬかるんでいるおかげで、はっきりとわかる。うん? だがおかしいな。足跡が途中で引き返している」
「そうさ、そして、もう一方の道を見るといい」
「こっちにも子どもの足跡だ。別の子どものか?」
「いいや、そうではあるまい。足跡の深さを観察すれば行動が手に取るようにわかるというものだ。
阿維といったか、その子は、まず、この二又の道にさしかかったときに、自分を追ってくるであろう街の大人たちを振り切るための策を思いついた。
ほら、ここで立ち止まっている。そうして、自分の頭巾をとると、わざと先に進まないほうの道に置いたのだ。
そうして、慎重に引き返したのが、足跡の深さと、間隔でわかる。そして、つぎには、もう一方の道を、こんどは猛然と駆け出した。歩幅が大きいだろう。そのうえ、足跡の深さが浅い。走ったのだよ」
「なるほど。妙に知恵のまわる小僧だな。だれか大人が一緒なのだろうか」
「そうではあるまい。子供に付き添っているような足跡はない」
「それでは、これをあいつらにも教えて………やろうと思ったのに、せっかちな連中だな。もういなくなっている」
「人が多くないほうが、この場合、かえってよかろう。石のことをほかの者が知るのは、好ましくないからな。われらはこちらの道を行こう」





「子どもの足だからと高を括っていたが、なかなかどうして、かなりの俊足らしいな。まるで姿が見えない」
「石を使ってしまったのではあるまいな。子どものことだから、かなりつまらぬことに使ってしまってもおかしくないぞ」
「たとえば?」
「走って地平線まで行ってみたい、とか」
「壮大じゃないか。地平線のその先は地平線だ。つまりはえんえんと地の果てまで駆けていくことになる。俺だって地の果てに行ってみたい」
「地の果ては海だよ」
「ならば、海の果ては? 馬鹿でかい山があって、そこに太陽を動かす怪物が住んでいるというのなら、そいつを見てみたい」
「なんだか、いろいろごっちゃになっているようだな。だいたい、海の上を走るのか」
「走れるものならば、走ってみたいな。俺がどうして馬が好きかといえば、あの風を切る感覚が心地よいからだ。あんたは地の果てや、海の果てを見たいとはおもったことがないのか。まだだれも見たことがないはずだぞ」
「そんなことを考えていたわけか。そうだな、見てみたいとは思うが、考えてみればふしぎなものだ。どうしてこの大地を縦横無尽にうごきまわる商人たちがいるのに、だれも地の果てを見たことがないのだろう。
伝説の帝王たちは、みながみな、天下を治めることを目的に兵を動かすが、天下とは、もしかしたら、われらが想像する以上に広大で、人の身が、これをおさめることなどできないのかもしれない。
だとしたら、われらは虚しい夢を追っているということにならないだろうか」
「そんな嘆きにとらわれるのは、あまり健康的な心のありようではないな。あんたは地の果てにはなにがあると思う。海か、それとも巨山と、そこに住まう太陽を司る怪物か」
「さてね、それこそ想像がつかないな。東には大海がある。そしてそのさらに東には蓬莱という国があるそうな。この蓬莱より東は、どうなっているかよく知らないが、やはりまた海であるらしい。
となると、西だが、これはえんえんと厳しい乾いた大地がつづき、さらに進めば大秦国があるそうだが、大秦国のさらに西は、やはり海だというのだよ。その海の彼方になにがあるのかは、だれも知らないそうだ」
「行ってみないか」
「いつ。そしてだれと?」
「そうだな、あんたは『塔』へ行くんだったな。そして俺は石の災厄たる反動を避けるため東だ。
あんたは厄介な道連れだが、退屈しない道連れでもある。彼方の太陽をひたすら追いかける旅も、あんたが一緒だったら面白いのではないかと思ったのだが」
「ずっとこんな調子だぞ。面白いのか」
「俺は面白いがね、あんたは面白くないというのなら、仕方ない、あきらめるさ」
「ほかの道連れを探すがいい。あなたの人生はこれからなのだからな。
ほら、そうこうしているうちに、いよいよ目標発見だ。あそこで崖の上にいるざんばら頭の子供こそ、われらが阿維ではなかろうかね」
「なにをしているのだ、あれは」
「空でも飛ぼうとしているのかもしれないが……ええい、石の力がどれほどのものか知らぬが、うまく力が働かなかったら、あの高さでは死ぬぞ! 急ぐぞ!
ええい、何を考えているのだ、ほんとうに! どういう躾をしているのだ、親は! やめよ、小僧!」
「躾けの問題ではないぞ、駄目だ、間に合わぬ!」
「あ」
「あの女?」

つづく……

実験小説 塔 その16

2018年12月22日 10時19分29秒 | 実験小説 塔


「そういえば、俺は記憶をなくしてから、自分のことばかりを聞いて、あんたのことを聞いていなかったな」
「最初に話しただろう」
「簡単な経歴と、いまの状況だけだろう。琅邪の出自だというが、どうして劉予州にお仕えすることになったのだ?」
「話すと長くなりすぎるので話したくない」
「そうかい。それじゃあ、まあ、なにか事情があってともかく劉予州の軍師になったとして、あんたに家族はいるのか。やはり成都にいるのか」
「弟夫婦がちかくに住んでいる」
「あんたの妻や子どもは」
「子どもはわんさかいるが、妻はいない……いや、とりあえずいることになっているが、いつもいない」
「複雑な家庭環境のようだな。では子どもの面倒は、だれが見ている?」
「子どもたちはみな利巧でね、とっくにひとり立ちしているよ」
「あんたいくつだ。いくつのときに、そんなにたくさん作った」
「二十八のときに、突然増えたのさ」
「きのこじゃあるまいし、子どもがそんなにほいほいと増えるものか。俺をからかうな」
「からかっちゃいないよ。子どもはたくさんいるのだ。とびきり口の悪いのを筆頭に、何人も」
「よくわからんが、まあ、子どもがたくさんいるとして、そうだな、あんたの好きなことは?」
「機織」
「またからかう。女の仕事ではないか」
「なんだか昔にそういわれて、ずいぶんと反論した記憶があるが、あらためて言おう、機織を女の仕事だといって舐めてはならぬ。さまざまな糸を駆使して紡ぐあの作業に没頭していると、それまで導き出せなかった問題の答えが、とつぜんにふと思い出せるときがあるのだよ。
とはいえ、あまり機屋に閉じこもっていると、繊維が肺によくないのか、咳が止まらなくなるから、あまり多くの時間を割けないのが残念だ」
「そうかい。やっぱりあんたは変わっているな。ほら」
「何のつもりだ? 女の仕事をするやつには、女のようにあつかってやれとでも?」
「悪く取るな。さっきから足を引きずっている。どこか捻ったのか? ここから、また上りがつづく。手を引かれていたほうが楽だろう」
「たしかに楽だが、さっきも言っただろう。子どもじゃあるまいし、なにが悲しくて男に手を引かれなければならぬのだ」
「俺が女でなくて残念だったな」
「気味の悪いことを言うな」



「ほら見ろ、マメがこんなにできて、しかも潰れている。割れかけている爪もあるではないか。なんだっていままで黙っていた」
「早いところ出立したかったからな」
「しかしこの足の肉付きからして、あんた、普段からあんまり動いていないな。だからこんなに白いわけだな」
「なにやら不穏な気配をおぼえなくもない発言だが、あえて流そう。わたしの足から手を離せ。軟膏を塗るくらい、自分でする」
「妙な意味はないぞ。ほら、その軟膏の壷を貸せ。膿んだらやっかいだ。
あまり無理しないほうがいいな。この山道を越えたら、また集落があるそうだ。そこで馬を借りることにしよう。
それまでは、そうだな、あと少しのようだし、負ぶってやってもよいが」
「却下」
「なんだ、歩いたら痛いぞ」
「だからといって、まったく歩けないわけではない。足のマメなんて、そんなもの、歩いているうちに自然と治る」
「急いでいるのに、よちよち歩きでどれだけ進めると思う。あの女のほうがよっぽど早く先に進んでいるぞ。
そうだな、あんたをここに置いて、俺が先に馬を連れて戻ってくるというのもあるが、さっきのような連中がまた出ると厄介だ。やはりここはおぶって」
「だから却下。ほら、歩ける」
「見ていて痛々しいのだが」
「見なければよかろう。さあ、前だけを見て歩け、東へ帰る予定の男! と、言っている端から、なぜわたしの手を取る。わたしは子供か、離せ!」
「急いでいるのだろう」
「急いでいるが、それとこれとは別だ」
「一緒だろう。まったく、ほんとうにわがままだな。肩書きは軍師将軍といったか? そんな重役を、よく勤めているな。周囲はきっと疲れ果てているだろうよ」
「ほーお、わたしにそんな嫌味を言えるまで余裕が出てきたか」
「なんだか、記憶をなくす前の俺の苦労が、判ってきた気がする」
「なにか言ったか?」
「べつに」
「言っただろう」
「あんたの真似さ」





「宿の主に完全にかん違いされているぞ。ほかにも部屋は空いているのに相部屋だし、なにやら意味ありげににやにや笑っているし、わたしの顔をじっと見て、嫌味にも『なるほど』と言った。
それもこれも、あなたがわたしの手を引きつづけたあげくに、宿につくなり、湯を用意させてわたしの足を洗ったのがいけない! 普通はそこまでしないぞ、このお節介!」
「親切にしたのになぜ怒るかね。かん違いとは、どういう類いのかん違いだ」
「と言いながら、指を鳴らすな、指を! ああ、もしかしたら反動は、わたしの身に起こっているのかもしれないな」
「なんだ、この程度なら、俺は東に帰らなくてもよいのでは」
「帰れ。さようなら」
「冷たいやつだな」
「そうさ。わたしは、あなたの屋敷の氷室の氷よりも、なお冷たい嫌なやつなのだよ。だから、あれこれ世話を焼く価値もないのだ。放っておいてくれ」
「ほう、俺の成都の屋敷には、氷室があるのか。めずらしいな」
「感心するな。ちゃんと聞こえたか?」
「聞いた。ところで馬だがな」
「聞いてないだろう」
「聞いているとも。というよりも、あんたの言葉の聞き方がわかってきた。『話半分』だ」
「なんだそれは」
「憎まれ口のほとんどが、本音じゃないからさ。いまここで俺が東に帰ったら、いちばん困るのはあんただろう。その足では石も取り戻せないだろうし、旅人を狙うろくでなしどもを振り切ることもむずかしい。つまり、俺はあんたと、もうしばらく一緒にいなくちゃいけないということさ。
あんただって、それがわかっているのだろう。わかっていてわあわあと俺に当り散らす。あんたは、わざと俺を怒らせたいのだ」
「そんなことはない。そんなことはあるものか。わたしはほんとうに怒っているし、あなたにも我慢ならない。鈍感で、お節介で、そのうえ、えーと、えーと、ともかく、なんだ、いろいろ面倒!」
「ほらみろ、やっぱりわざとだ。それで、馬なのだが」
「ちゃんと聞いているか? わたしは常に本音を喋っている!」
「はいはい。で、馬だが、天水までなら貸してやってもいいという商人がいる。その代わりに、荷物を一緒に運ばねばならないが、徒歩よりもよかろう。
というわけで、明日からは楽になるぞ、よかったな」
「ああ、嬉しくて涙が出そうだよ。早いところあなたと手を切って、石を取り戻し、一人でのんびりゆったり塔へ向かいたいものだ。
なぜ笑っている。本気だぞ!」



「いい天気だな。このあたりの気候はずいぶんと成都とちがう。晴れとなると、からっと晴れる。心地よいものだ」
「成都の天気はおぼえていないが、たしかろくに太陽のささない薄曇りばかりがつづく土地だと聞いた。そんなふうで、住み心地はいいのか」
「これが、慣れると、あまり気にならない。わたしは蜀の地が好きだ。民は素直な気質で、義理堅く一本気。迷信深いのがたまに瑕だが、あの土地には、たしかになにかがいるかもしれないと思わせる、神秘的な空気がある」
「俺はどんなふうに過ごしていた?」
「さてね、よくは知らない。馬の世話ばかりしていたのではなかったかな」
「俺はいい年だと思うが、妻帯していなかった理由はなんなのだろうな?」
「それも知らない。たぶん、流浪生活のときに、必要なものは最低限でいいという規則を自分のなかにこさえたからではないのか。
それよりも、女の足取りだが、どうやら、ろくろく休みもせず、ひたすら西へ向かっているものらしい。やつれた身なりの女が、なにかに追われているように西に走っていたのを何人も見ているそうだ」
「身づくろいも構わなくなっているのか。かえって目立ってしまうだろうに、どうしてそうも急いで西へ向かっているのだろう」
「わたしが話を聞いた農婦のひとりが、女の様子があまりにおかしいので、声をかけたそうだ。どこからか逃げてきたのかい、とね。すると女は、これ以上なにも起こらないように、早く西の塔へ行かなくちゃいけないと言っていたそうだ」
「これ以上なにも? それは、反動のことだろうか」
「どうとでも取れる発言だが、そうではない気がするよ。女の評判はどこへ行ってもいい。どんな病人であろうと、真心をこめて助けようと懸命に尽くしたそうだ。
そういった女を支えていたのが夫だったのに、その夫が石のために死んだ。もしもわたしがその女だったら、こう思うだろう。『石が世にもたらす災禍を止めねばならない』と」
「おのれ一人ですべてを背負おうというのか」
「夫を亡くし、自暴自棄になっている可能性もある。哀れだと思わないか。本当に仲のよい夫婦だったそうだよ。石に出会いさえしていなければ、苦難はあっても、かれらなりの幸せをつかんで生きていけたかもしれないのに。
やはり、石は塔に戻すべきだ。けれど、その役目はわたしがする。
女は石を使い続けることによって、みずからの身を滅ぼそうとしているのかもしれない。
だとしたら、あまりに哀れだ。止めなければならないよ。恨まれるとしてもだ」
「そうか」
「なんだ」
「いや、いまのが、あんたの本音であり、本質なのだろうと思っただけさ」





「女の足には翼でも生えているのかな。それとも、もしかしたら四番目の石に、一日千里を駆ける足がほしいとでも願ったか」
「いや、そうではなかろう。ときどき、女を見たという証言が途切れて、そのあとしばらく行くと、また証言が得られる。
おそらく、女は、このあたりの地理に習熟しているのだよ。地図にも載っていないような道をいくつも知っているのだ。だから、ひたすら街道を行くわれわれよりも常に先行している」
「なるほど、それならば、女一人であろうと、無事に通れる道を知っているのかもしれない。関所があろうと、そこを通過しなくてすむ道を知っている可能性もあるわけだ」
「それに、土地のものは、女に恩義がある。山賊すら、女には目こぼしをしているのかもしれないぞ」
「孔明、最初の関所は、あんたが用意よく持ってきていた偽の通行手形でやり過ごしたが」
「馬平元」
「うん? 元平ではなかったか」
「む、そうであったかな。ともかく、孔明はだめだ。ここはもはや、完全に敵地だ。陳倉にたどり着くまで、その名を口にしてはならぬ」
「陳倉で部曲を雇うという、その気は変わらないのか」
「変わらない。陳倉で、あなたは東に向かえ。街道沿いに、ひたすら東へ行くのだ」
「俺は、どうしても、常山真定に向かわねばならないかな」
「どうしてもさ。家族に逢いたいとは思わないのか? 言っていたではないか。どんな顔をしているのか見たいと」
「言ったし、たしかにそう思うが、俺ひとりで行くのか」
「あたりまえだ。わたしが同行してどうする。このあたりは辺境といっていい土地であるから、わたしもこうして堂々としていられるが、常山真定ともなるといくつも大きな街を通過せねばならぬ。わたしの顔を知っている者も出てくるかもしれない。
万が一、捕らえられた場合はただでは済まぬ。下手をすれば人質、悪くして見せしめのための処刑だ」
「俺はどうなる。記憶をなくしていようと、名前を変えようと、顔を覚えられているかもしれないぞ」
「だから、あなたは大丈夫だ。ともかく、陳倉に向かうまでに、女に追いつかねばならないな」

つづく……

実験小説 塔 その15

2018年12月19日 10時04分42秒 | 実験小説 塔
「人が物を食べるのを見るのは初めてではあるまい。なぜそのようにわたしをじっと見る」
「いや、結局のところ、俺が記憶をとりもどせるかどうかは、あんたにかかっているのだと思う。自分でも妙だと思うが、あんたは見た目とちがって、わがままだわ、短気だわ、嘘をつくわ、嫌味をいうわ、ろくなものではないのだが」
「大きなお世話だ」
「最後まで聞いてくれ。しかし、なぜだろう。あんたを見ていると」
「と?」
「面白い。反応が面白いのかな、妙に目が離せない」
「あのな、これでもいろいろと抑えているのだぞ。それほどに罵詈雑言を浴びせられるのがすきなのであれば、抑えるのはやめるが」
「罵詈雑言といっても、あんたのはあんまり堪えないな。それはたしかにむっとするが、なんだかんだと、本心からではないもののような気がする」
「そんなことはわかるまい。わたしはつねに本音で生きているとも」
「それは嘘だろう」
「ずいぶん確信があるようだな。なぜそういいきれる」
「俺にきついことを言ったあとに、あんたは、かならず俺の表情を探ろうとするからだ。俺がどんな反応をするのか知りたくてたまらないのだろう。意地が悪くてそうしているのではない。
あんたは、何を考えているかわからないが、あんたなりの計算があって、俺を突き放そうとしているように見える。それが悪意からくるのかどうかは、さすがに記憶をなくしているとはいえ、俺だって子どもではないのだからわかる。
あんたは俺に悪意はないのだ。悪意がないとするなら、なんだって俺を必死になって故郷に帰そうとするのかがわからない。
可能性としては、記憶をなくすまえの俺が、あんたを不安にさせる人間だったのではないかということだ」
「不安にもいろいろ種類があるだろう」
「不快にさせる、でもいい。でなければ、俺はあんたのことをあまりに知りすぎているからこそ、あんたは不安なのかもしれない」
「いい読みだな。しかし、それを探ってどうする。あなたはさっき、故郷へ戻ってみたいと行っていたではないか。わたしのことを考えて時間をつぶすよりも、早く故郷に帰ればいい。
子龍、なんとなくいままで一緒にいたが、あなたとは、ここで道を分かれてもよいのだぞ」
「それはできない」
「なぜ」
「あんたはどうする。俺はそこまで薄情ではないぞ。いまのあんたは石に守られていない人間なのだろう。あんたが蜀に帰ろうとしない以上、あんたはこの地に止まって、ひとりで石を探しつづける。
それを放っておいて、一人でさっさと故郷に帰るなんぞ、心配でできるものか」
「あきれるほどに優しい男だな。いや、優しいのではない、義理堅いのだな。わたしは女ではないのだし、一人でも問題はない」
「そうか? あんたはいかにも付け回したくなる顔をしているぞ」
「顔のことは言わないように。ふん、心配だというのなら、どこぞで部曲をやとえばよいし、成都から応援を呼んでもかまわない。
どうだ、これで問題はなくなっただろう」





「子龍」
「なんだ」
「人の話を聞いてないだろう? わたしは部曲を雇って、女を捜すと言っているのだよ。とすれば、あなたの力添えはもう必要ないということだ。わかったなら、安心して故郷へ帰るがいい」
「わかりました、そうします、と素直に帰れると思うか?」
「思うね。まったく、ただでさえ息の上がるのぼりの山道を、どうしてこんなふうにイライラしながらのぼらねばならぬのだ。
そこの君、女を見かけなかったか。このあたりで有名な薬師の女だ………そうか、ありがとう」
「一路、西へ、ということか。塔へ向かっているのはまちがいない。
なあ、そろそろ蜀の領土を出るのではないか。警備の兵卒たちにあんただとばれたら、まずいことになる。もし部曲を雇うのならば、早いうちがいいだろう」
「だめだ。にわか編成の部曲の部隊を率いて、国境を越えるほうがかえって目立つ。まさか魏の兵卒たちは、わたしが単身で街道を抜けようとしているなど、夢にも思わぬであろう。
それに、わたしの人相書きが関所に配布されているとも思えぬし、そこはかえって問題はない。
ああ、名前を変えねばならないな。わたしは無難なところで、姓は馬、そうだな字は元平とでも名乗るか。あなたは好きなように名乗れ」
「趙子龍ではまずいか」
「却下。何度もいうが、あなたの名前は知られすぎている。もともと覚えやすい名前だしな。適当に名前をつくっておけ」
「では、趙敬とでも」
「へえ」
「どうした」
「いや。やはり、すこし覚えているものだな」
「なにを? 趙敬は、だれかの名前なのか?」
「あなたの二番目の兄君の名前に、敬という字がつかわれていたのだよ」
「もう指摘するのも飽きたが、やっぱり、あんたは俺のことを、口で言う以上に知っているな」
「こちらも言い訳するのに飽きてきたから言うが、あなたは、わたしに自分の話をするのを渋る人だったよ。
知っているのは、あなたにはたくさんの兄君がいて、そのなかでも、長兄があなたの父親がわりで、二番目の兄君が、あなたの道を示してくれたということだけだ。この二人がどんな人であったかは、わたしは知らない」
「ほかの兄たちは?」
「聞いていないな……ほら、言っている端から、警備の部隊が向こうからぞろぞろとやってくるぞ。蜀の兵卒のようだが、知らない士卒長だな」
「なにやらあまりよい雰囲気ではないな。おい、孔明」
「馬元平」
「似合わない名前だ」
「うるさい。旧友の名を一文字づつ、くっつけた名前だ」
「馬元平、あんたは俺の後ろにつけ。あいつらの面構えはまずい」
「わかるものなのか?」
「勘さ」





「まったく、たいした勘だな! ろくでもない輩だというのであれば、それなりの対処をして、やり過ごせばよいものを!」
「それなりとはどういうことだ? 連中はあきらかに、この街道を通る者を襲うことに慣れている。多少の賄賂では黙らなかっただろう。あんた、下手をすれば身包みをすべてはがれていたぞ! 
しつこいな、まだ追ってくる! どうやら人に殴られ慣れていない連中だな。命があるだけ、よろこべばよいものを」
「そういうところは、やはり趙子龍だな」
「なにか言ったか?」
「空耳だ」
「ええい、ともかく走れ!」
「気持ちが悪い」
「さっき、意地汚く食べすぎたのだ」
「ひどい中傷だ。ほとんど食べてないぞ。横からじっと見つめられているうえに、うるさく話しかけてくるやつがいたからな!」
「しゃべるから余計に気持ちが悪くなるのだ。ほら、どんどん亀のようになってきているぞ。手を貸せ!」
「男に手を引かれるなんぞ、ぞっとしない」
「いいからさっさと手を貸せ! くそっ、しつこい連中だな」
「女を襲ったのに、うまくいかなかったと話をしていた」
「ああ。おそらく石を持って逃げた女が連中と鉢合わせしてしまい、女一人だというので、連中はそれをよいことに、襲おうとしたのだろう」
「だが、うまくいかなかった。石の力だろうか。崖から落ちたと言っていなかったか。と、急に止まるな! どうした?」
「ああ。見ろ、崖から落ちている」
「あの女だ」
「ひどいな。この高さから落ちたのだ。いくら石の加護があろうと、生きてはおるまい。襲われそうになって、揉み合いになっているうちに、崖から足をすべらせたのか…」
「どこかの街で落ち着いたなら、太守に手紙を書いて、断罪せねばならぬ」
「断罪か」
「うん? なんで立ち止まる。なんで剣を抜く?」
「官憲の立場を利用して、寄ってたかって女を慰みものにしようとしたうえに、さらに腹いせにわれらを襲って憂さを晴らそうなどという、その根性が気に食わぬ」
「たしかにそうだが」
「俺はまだ、蜀の将だな」
「一応な」
「ならば、俺がかわりにこいつらをとっちめてもよいわけだ! 孔明、あんたは物陰に隠れていろ! 貴様ら、覚悟してこの刃を受けるがよい!」
「あーあ、気の毒に、だれも家には帰れまいよ」





「いない? おかしいな。たしかにその一枚岩の上に横たわっていたはずなのに。この高さだぞ。全身がはがねでできていたわけでもあるまいし、無事であったはずがないのに」
「はがねでできていたのかもしれぬぞ」
「なにを冗談を……お?」
「あの高さから落とされて、なお元気に川の浅瀬を渡っていく。石の加護か、あるいは、石に願いをかけたのかもしれないな」
「つまり?」
「四つあるうちの二つは使用済みだとして、残り二つにまだ願いをかけていなかったらどうだ。咄嗟に願いをかけたのかもしれない。生き延びられますように、と。
子龍、わたしはあの女とどうしても話を聞きたくなってきたよ。そこまで石にこだわる理由はなんなのか、それを聞いてみたい………なにをにやついている」
「いや、べつに。やっとあんたが、普通になってきたような気がしたからさ」
「いつもこうだ」
「嘘だな。さっきまではそうではなかった。ここから先は、嘘はなしだ。俺はいずれ、石の反動を受けるだろう。そのときに、劉予州やあんたを巻き込みたくないから、おとなしく東へ行く。
だが、いまはあんただ。さっきの連中のような輩が、ここから先は増えていくだろう。やはり一人にはしておけない。どれだけのあいだかはわからないが、そのあいだに、あんたに悪い感情を持ちたくない」
「さっきはさんざん、わがままだの嘘つきだのと言っていたではないか」
「拗ねるな。あんたはわがままで嘘つきで矛盾したことばかり口にする、わけのわからんやつだが、だからといって、俺はあんたが嫌いじゃない。
これは記憶をなくす前の俺の影響かどうかはわからんが、俺の数少ない記憶を繋ぎ合わせても、いままで、俺の人生のなかで、あんたのようなやつはいなかった」
「面白いから覚えておきたいというのか。さっさと返り血を浴びたその顔を洗うといい。ひどいことになっているぞ。そうして、女を追う。早く出立したいから、てきぱきと洗うように」
「せっかちなやつだな。面白いからあんたを覚えておきたいのではないぞ。こういうと、あんたは嫌かもしれないが、あんたみたいに飛びぬけて奇麗な男を忘れるのはむずかしかろうよ」
「なお悪い。わたしは、わたしの顔が嫌いだ。何度、からかわれたか知れない」
「そうか? 俺はあんたの顔が好きだが」
「…………何を言い出す」
「いや、なんだかんだと、顔は人の心を映し出す鏡のようなものだ。顔立ちもたしかにあんたは際立っているが、いちばんは目だな。
あんたは俺になにを言っているときでも、目が明るいので、すべて帳消しになってしまう」
「いまから、目隠しでもして話をするか」
「待て。どうも俺は口下手だな。顔がいいから好きだとか言う話ではないぞ。それでは、ただの趣味のおかしなやつだ。
うまく言えないが、俺はあんたがどんなことを考えている人間なのか知りたい。どんな志がその身に宿っているのか、なにがあんたの目を明るくさせているのか、それを知りたいだけだ」
「…………子龍」
「なんだ」
「どこが口下手だ、この人たらし」

つづく……

実験小説 塔 その14

2018年12月15日 09時37分40秒 | 実験小説 塔
9
「起きているか」
「寝ている」
「起きているではないか」
「寝言だ。というわけで眠れ。ただでさえ相部屋という状況がたまらぬのに」
「それじゃあ、俺の独り言だと思って聞け。あんたは不安な道連れだな。怒っているのか、それとも悲しんでいるのか、よくわからん」
「怒っているさ。眠れないのだからな」
「ほら、やっぱり起きているのではないか。月の明かりが射しこんで、妙に眠れない。
あんたの名前も月に由来するのか。派手な名前だな。名が亮で、字が孔明。外見に合っている」
「だからどうした」
「いや、あんたの名前を付けたのが父親か、ほかの親族かはわからんが、ずいぶん気合を入れて名づけたのだなと思ってな。あんたはきっと、可愛がられて育ったのだろうと思うよ」
「なぜそう思う。わがままだからか」
「憎まれ口を叩いてはいるが、あんたは、なんだかんだと俺に譲歩している。
結局、相部屋の条件も呑んだし、あの女薬師の薬も素直に飲んだし。まるっきり手に負えないわがままではない」
「見立てちがいだ。可愛がられて育ったとは思うが、わたしは手に負えないわがままだ」
「自分で言うところからして、ちがうだろう。ひとつ聞きたい。これだけ聞いたら、あとはもう静かにする」
「言ってみろ」
「さっき、宿の主や、ほかの泊り客などとも話してみて、思ったのだが、俺は口下手だな」
「わたしにはべらべら喋っているではないか。安心せよ、あなたはだれとでもそつなく付き合うことのできる。隙がまったくない人だ」
「本当にそうか? 宿の主相手に、簡単な話はできるが、軽口が叩けないし、言葉をえらぶにも慎重になってしまって、ひどく疲れた。
思うに、これは記憶がなくなったからではないな。俺はもともとそういう人間なのだ。孔明、あんたがきっと、俺にとって例外だったのではないか」
「そうではない。旅先であるし、記憶がないからだ」
「あんたは前に、俺が単なる友人の一人だといったが、ほんとうにそうなのか? いや、あんたがそう思っていても、俺のほうはそうではなかったのかもしれない」
「………」
「答えてはくれんのか」
「質問はひとつだと言ったのに、二つも質問をした。そういうわがままに答える義務はない」
「………」
「おや、怒ったか」
「寝ただけだ」
「起きているじゃないか」





「子龍、起きろ! してやられた!」
「なんだ? どうした?」
「ええい、記憶がなくなっても、あなたの能力は変わらないだろうと、呑気にかまえていたわたしもいけない! まったく迂闊だった。冗談ではない。どうすればよいのだろう。こういうときこそ、あらわれろ、赤毛!」
「すまぬ、まだ夢を見ているのだろうか。なんだってそんなに、罠にかかったキツネのように、きゃんきゃんとわめいているのだ?」
「わたしをキツネというな! キツネだけは却下だ!」
「すまなかった。キツネに嫌な思いがあるのだな」
「旅先でその名を聞かねばならぬとは…いや、キツネなんぞはどうでもいい。子龍、石を盗まれた」
「なんだと? いつ?」
「どうやら、お互いに眠り込んでいるあいだに、あの薬師とかいう女が盗み出したようだな。宿屋の主が、夜が明けきらないあいだに、女が飛び出していくのを見ている」
「薬師ではなく、盗人であったのか」
「いいや、単なる盗人ではないらしい。宿屋の主の話では、薬師というのは本当で、たしかに漢族ではないが、真面目でやさしい女で、いかがわしいところなど、欠片もないそうだ。宿の代金も、ちゃんと精算していったそうだぞ」
「真面目でやさしい女が、男二人が眠っている部屋に忍び込んで、石を盗むか? 金子はどうなっている」
「手付かずになっているよ」
「おかしいな」
「うん、おかしい。わたしはあの石を、この町に入ってから、一度も表に出していない。あの女は、石だけを盗んでいった。
ほかにも金目のものはあったのに、まるで、わたしが最初から石を持っていることを知っていたかのようにな」
「石を持っていることを、知っていたとしたらどうだ」
「うん、わたしもそれを考えた。わたしが探さねばならない石はあと三つ。赤毛がいうには、石は石を呼ぶ性質があるという。
あの女、石を持っていて、その石に、こう願っていたのならどうだ。『ほかの石をみつけられますように』と」
「利巧だな。そうすれば、自然と石を五つ集められる、というわけか」
「これを吉と見るべきか、凶と見るべきか。捨てたくてたまらなかったものを、あの女が勝手に持っていってくれた。
石はわたしの手元になく、女は石をあつめた。見届ける者だと名乗ったあいつは、女のほうについていくのではなかろうか」
「いや、そうではないだろうよ。これは凶と見るべきだ」
「なぜ」
「孔明、あんたの話じゃ、あんたが石に選ばれた理由は、石に頼らない意志のつよさを見込まれたからなのだろう。
しかし、あの女が石に願いをかけたのであれば、石はあの女を選ばない。きっとあの女に反動があらわれて、とんでもないことになるのではないか」
「あるいは、赤毛が両天秤をかけていた可能性だ。わたしと、あの女と、どちらが先に石を多くあつめられるか。
しかし、石に願をかけてしまった時点で、女にはおそろしい落とし穴が待っている」
「どうする」
「追おう。このまま見捨てるわけにもいくまい」





「こちらは空振りだ。あの女に関しての話は聞けたが、それだけだ。そちらはどうだった?」
「目立つ女だから、かならず野良仕事に出始めただれかの目についていると思ったが、案の定だった。西へ向かって逃げている様子だ」
「西か。『塔』へ向かっているのか? 女の足だ。それに、さほど時間が経っていない。どこかで馬を調達しよう。昼には追いつけるかもしれぬ」
「それがよかろうな」
「なんだ、気になることでも?」
「ああ。さきほどの農夫も、ほかの連中も、女のことを聞いたら、みな、口ごもるのだ」
「口ごもる? なぜ…ああ、わかった。わたしのほうも、聞き出すのに手間どったからな。理由は、あの女が薬師だからだ」
「そうだ。このあたりには、まともな医者はすくない。あの女の評判はともかくいい。どんな僻村であろうと、病人がいるからと頼めば、嫌な顔ひとつせずに出向いていったという」
「そんな人格者が盗みか。まあ、石の力のことを考えれば、そのあたりは差し引くべきであろう。とはいえ、それはまずいな。このあたりの者からすれば、われらはよそもので、女は恩人。われらを警戒し、女を庇って嘘をつくものも出てくる可能性がある。
あの女が、街道を使っていることはまちがいない。女の身で、裏道を抜ける危険は冒さないだろう」
「なぜ言い切れるのだ。石の加護が、あの女にも働いているかもしれないではないか」
「赤毛は、石は石を呼ぶといった。だが、あの女が石を持っていたのなら、どうしてわたしには、それが察することができなかったのだろう? 
こうはかんがえられないだろうか。あの女は、石に『残りの石を見つけられますように』と願っていたとしたら? だから、わたしが石を持っているのだとわかった」
「石を集めるために、石を見つけられるようにと願をかけたというのか? なんのために? あんたのいう赤毛に命令されたからか?」
「いいや、赤毛はたしかに口を出してくるが、口だけだ。
こういうことではないのかな。
あの女は、一度、石に願いをかけた。そして、その力の威力も知った。だが、反動もくることに気づいたのではないか。それを止めるためには、もうひとつの石があればいい。
だが、反動はそのままでは連鎖しつづける。だから、それを止めるための、みっつめの石を必要とした」
「待て。ひとつの石は、一人の人間の願いに、一度しか答えないのか?」
「おそらく。最初の宿の夫婦のことを考えればわかる。妻は夫を取り戻したいと願いをかけた。ところが、夫の心がもどってきた反動として、子どもたちはみな夭折してしまい、家門も傾いた。
石が何度も願いを聞いてくれるものならば、子どもたちを生き返らせてほしいとか、あるいは、家門の再興を願ったのではないかね。
でも、そうできなかった。石は一人の人間の願いを、一度しか叶えないからだ」
「つまり、反動をかならず受けるようになっている?」
「反動は、努力せずに物事をかなえようとする不自然さに対する、歪みが跳ね返ってくるものだ。石が人間の願いを叶えるのはなぜだ? 元にある場所に戻りたいからではないのか」
「どういうことだ」
「つまり、一人の人間の手に、長く止まることをよしとしないのだ。人の手から手へ移動し、最初に発見された、塔のある村へと帰ろうとしているのだよ。世の中に歪みを撒き散らしながらな」
「とんでもない話だな。だから石は人を誘惑するわけか。で、誘惑に乗らない人間を見つけると、なついて、自分たちを塔に戻すようにと訴えかける、と」
「そんなところであろう。あの女に対して、気になることを聞いた」
「どんなことだ」
「最初、あの女がこの地にやってきたときは、夫婦だったというのだ。夫のほうは、最近になって、気の毒に、ひどい感冒にかかって、女の必死の看病にもかかわらず死んでしまったという」
「反動か?」
「うむ、そうであろう。仲むつまじい夫婦だったそうだが、夫が病にたおれる直前に、ひどい喧嘩をしているところを見た者がいるそうだよ。
ふだんはおとなしい女で、よく夫に従う慎ましい女だと思っていたのに、夫の叱責にまるで引かない様子だったので、村の人間がおぼえていたのだ」
「喧嘩の原因は?」
「村で病人が出たのだが、これがむずかしい病気で、薬だけではとてもではないが治せるものではなかったというのだ。
夫のほうは、これは手の尽くしようがないといい、女のほうは、まだ方法はある、と言った。すると喧嘩になったというのだ」
「なるほど。背景を考えるとこうだな。病人を癒すために、石に願いをかけようとした妻に、夫が反対した。そして喧嘩になった。病人はどうなった」
「はげしい喧嘩のすえ、ふたたび女が病人を診ると、病人は突然に癒えた。女は、すべての災厄はわたしが引き受けるとかなんとか言っていたようだから、まずまちがいなく石を使ったのだ」
「でも、石は一人の人間に一度しか願いを叶えないのではないのか」
「だから、そこだ。石は、二つあるのではないだろうか。一度目は、女が病人を癒すためにつかった。二度目は、三番目の石を見つけられるようにと願った」
「おかしいぞ。矛盾している。夫が病に倒れたときに、どうして、石の力を使わなかったのだ? 反動が自分ではなく、夫が引き受けたことで、しり込みをしてしまったのだろうか?」
「それは、本人に聞かねばわからぬが、いま女は、手に四つの石を持っているということだ。もしもあなたならば、この負の連鎖をどうやって断ち切る?」
「石を探して、反動を止めてくれと願う? いや、だめだな。反動を止める反動もやってくるだろう。わからん」
「そうだ。解決法がない。本来ならば解決できない問題を、無理に解決させようとした反動は、かならずやってくるものなのだ。これを避けることはできない」
「では、俺も、いずれは反動を受けるのか」
「そうはならない。安心するがいい」
「あんたは本当によくわからん。なぜ安心しろなどと言い切れるんだ?」
「東へ帰る予定の男は、よけいなことは考えなくてよろしい。記憶になくなっている家族と、これから先、どうやってうまくやっていくかを、女を追いかけながら考えろ」
「家族、家族というが、どんな人となりかもわからない人間のことを想像して、どうやってうまくやっていくかを考えるのだ? 
それに、気になっていたのだが、俺は家族といっさいの連絡をとらずに、ひとりで蜀にいたわけだろう。どうしてだ? 俺の両親はどうなっている? 兄弟とは連絡をとっていたのだろうか」
「兄弟がいたことは覚えているのだな」
「うん? あんた、俺の家族のことはなにも聞いていないと言っていなかったか?」
「あー、それはあれだ。ことばのあやというか、多少のことは聞いていたとも。ちょっとした履歴みたいなもの程度で、くわしくは知らない」
「本当にそうか? なにか変だな。あんたは不安な道連れだ。こんなわけのわからない状況で、急に怒り出したり、かと思えば嘘をついてみたり、まるで俺をうまくいいくるめて、ともかく故郷へ追い返したがっているようだ」
「そういうわけではないが」
「では、どういうわけなのだ。俺は、記憶をなくす前に、あんたになにか悪いことでもしたのか? だから、ここぞとばかりに、あんたは俺を側から追放したがっているのか? 
だったら、そうはっきり言ってくれないか。俺はあんたにとって、どんな人間だった?」
「同じ主をいただく仲間であった。たまに顔をあわせれば世間話をする程度で、こんどの旅に同行するようになったのは、ほかに適当な人材がいなかったからだ。前にも言ったぞ、これ」
「ほかに人材がいなくて、さほど仲良くない俺を選んでつれてきた? なにやら妙な話だな。あんたのいう人材とやらは、だいたい何人くらいだ」
「ああ、もう、細かい人だな。以前のあなたはそんなふうにぐだぐだと言う人ではなかったのに」
「こちらの人生がかかっているのだぞ、細かくもなる! というより、あんた、やはり俺のことを、かなりくわしく知っているのではないか?」
「知らないといったら知らない!」
「また怒る」
「怒らせるからだ。いまは石だ。石を追わねばならんのだ!」
「ほら、そこも矛盾だ。あんたは石と縁を切るために塔を探しているのだろう? だったら、このまま四つも石を持っている女にすべてをまかせて、あんたは南、おれは北東へ帰ればよい」
「やはり故郷へ帰りたいのか」
「あんたにうるさく言われて暗示にかかったのかな。どんな連中なのか、顔をみてみたくなった」
「そうだな、そう思うのが普通だろうな」
「なんだか急に威勢がなくなったな」
「べつに」
「腹がすいているからだろう。そろそろなにか腹に入れたほうがいい」

つづく……

実験小説 塔 その13

2018年12月12日 09時35分43秒 | 実験小説 塔


「風がきついのは、山肌に当たった風が、こちらに跳ねかえってくるからだと宿の主が言っていたな。冷えてしまうが仕方ない。庭に出てやっとひとりになれた。
記憶がないと、あんなに口数の多い男だとはな。雛の親になった気分だ。それとも、単に心細さが先に立ってしまうのか。あたりまえのことだが、子龍も人の子というわけだな。
やれやれ、宿の窓からこちらを見ている。ほかに見るべきものがあるだろうに」
「石でも投げてやったらどうだ」
「やはり、ずっとついて来ていたのだな、赤毛。そのまえに、おまえに石を投げてやりたい気分だな。勝手に石を二つも押しつけていった。いきなりご神体のなくなった村では、暴動が起こっているのではなかろうな」
「それもまた、『反動』だろう」
「おまえに名前がないというのも不便だな。名前を忘れたのか、それとも捨てたのか。まあ、どちらでもよいわ。不便であるが、あえて名づけてやるつもりもない」
「俺もかまわん。見届ける者。それだけでいい」
「そのわりには、口を出すわけだ」
「おまえには、なんとしても『塔』に向かってもらわねばならぬからな。それより、面白いことになっているじゃないか。あの男を取り戻したければ、おまえも石に願いをすればいい」
「そんなことをしたら、石の災禍はますます広がりつづける、ということではないか。第一、矛盾しているぞ。わたしが『塔』に行くことができなくなっても、おまえにはどうでもいいとでも」
「願いが叶う反動は、どうやって訪れるかは、俺にも予想がつかないのさ。案外、おまえたちには累が及ばない形で、まるく納まるかもしれないぞ」
「となると、だれかが不幸になるということではないか。いちいち不愉快なやつだ」
「そういう性分なのさ。それよりも、おまえは、あいつが何を願ったか、気づいているのだろう」
「それがどうした」
「故郷にあいつを返してやって、どうするつもりだ。常山真定の趙家は、いまや零落の一途をたどっているのだぞ。おまえはそれを知っているだろう。
あの男が帰ったところで、食い扶持が増えると困ると、厄介者扱いを受けるのが関の山だ」
「そうだろうか。子龍の大きな障壁となっていた父親は死に、長兄という男との確執も、記憶がなくなったのであれば、もしかしたら解消できるかもしれない。いや、子龍ならば解消できるであろう。
それに記憶をなくしたといっても、能力そのものは失われていないのだ。子龍ならばきっと、故郷の家を再興させることができよう」
「そんなことになると思うか?」
「なる。子龍は、いつまでも父や兄のことに捕らわれている。わたしに向けている心も、父や兄の不品行に対する反発が、大きく歪んだものなのだ。
苦しかっただろうよ。どうであれ八方塞だ。未来がみえない。
記憶がないことで不安にとらわれるのと、記憶にとらわれて、いつまでも明けることのない夜のなかに閉じ込められたような思いのまま生きていくのと、どちらが苦しいだろうか。後者であろう。
だからこそ、石に願いをこめたのだ。
自分を苦しむすべての心を取り去ってほしいと、子龍はそう願った。
だから、側室だった母親や、ほかの女たちを苦しめていた父、父親の妾を盗んでいた兄を憎んでいた少年のころの記憶、ほかならぬ主君に憎まれ、師匠たる男にすら妬まれ、苦境に立たされていた公孫瓚のもとにいたころの記憶、そして、そのあと、流浪者として、あまり口外できないような生活をくりかえしていたあいだの記憶、さらには、わたしと出会って以降の記憶がなくなっているのだ。
思い出してしまうと、苦しいから」
「つまり、おまえは、やつの人生の傷のひとつとして、あっさりと切り捨てられてしまったというわけだ。気の毒に、同情するよ。だから、あんなに冷たい態度をとっていたのだな」
「勝手に判断するといい。おまえにわたしのなにがわかる」
「言っただろう、俺は見届ける者。人外の者なのだぞ。
そうか、わかった。冷たい態度をとっているのは、女々しく捨てられたことを恨んでいるのではない。
おまえは傲慢なやつだな。せっかく記憶をなくしたあいつが、また同じような心を持ってしまうことがおそろしいのだろう」
「だまれ」
「そう思いたい、というのが本音なところなのじゃないか? あいつがおまえに心を傾けるようになったそもそもの要因は、常山真定の家にあるのだ。それを忘れているということは、同じことが起こる可能性は、ひくい」
「だまれというのだ!」
「ふん、笑わせる。天下の智者と謳われるやつにしては、ずいぶん女々しい考えだな。
おい、石を使ってみたらどうだ。二つもある。反動が来たら、もうひとつの石で反動を食い止めればいい」
「くだらぬ手を。ひとつの願いに対して反動が起こるのであれば、『反動を止めてくれ』という願いにも『反動』がくる、ということだろう。
わざとわたしに石をつかわせて、残りの三つをなんとしても探させようという魂胆か」
「疑い深いやつだ。ひとが親切を言ってやったのに。石は石を呼ぶ性質がある。ただし、石を使わないやつに、石は惹かれる。おまえが石を使っちまったら、なんにもならないのさ。
どちらにしろ、おまえはこの状況からぬけだせないぜ。
おっと、あいつが来た。しかも女を連れている。
どうだ、おまえの下手な気遣いは無用なようだぞ。あいつのご面相なら、ほうっておいても女のほうから寄ってくるであろう」





「熱があるやつが、どうしてこんな風のつよいなかに立っている!」
「赤毛の男と話をしていただけだ」
「赤毛の男? どこにいるのだ、そんな奇妙なやつが」
「………消えたか」
「まったく。やはり、あんたからは目が離せんな。広い部屋が空いていると言っていたし、宿の主人にいって、やはり相部屋にしてもらう。もう決めたからな、いやだといっても、そうするぞ」
「そこの女はどうする。女と一緒に相部屋なんぞ、ご免蒙る。あなたはあなたで、好きに楽しめばよかろう」
「は? ああ、この女か。この女は、たまたま宿に泊まっていた薬師だ。病人がいると宿の主人に説明したら、紹介してくれたのだ」
「薬師? 呪師か巫女のまちがいではないのか。どうみても漢族ではなさそうであるが」
「ああ。西域のほうから流れてきて、この近辺をまわって稼いでいる女らしい」
「まだ若くてきれいな女だから、よろこんで連れてきたのではあるまいな?」
「それも少しある」
「あちらへ連れて行ってくれ。医者というのならばともかく、薬師なぞ、わたしには不要だ。
すっかり忘れているようだが、わたしも琅邪の古い巫子の血筋を引く家の長なのだぞ。薬の知識は十分にある。医巫同源というわけだ。ひとつ利巧になったな、女好き。相部屋は取り消してくれ」
「なんでそんなふうに怒るのだ? あんた、俺の女房みたいなやつだな」
「は?」
「ああ、言い間違えた。俺の女房がいたと仮定して、もしいたら、似たような反応をしたのじゃないかと言いたかったのだ」
「だれがあなたの妻だ、気味の悪いことを。おかしなことを言うから、その女も、見ろ、わたしを、おかしな目で見ている!」
「すまん、俺の言葉が足りなかった。そう怒らないでくれ。でないと」
「でないと?」
「ますます熱が上がって、たいへんなことになるぞ。あんたは見るからに丈夫そうじゃないからな」
「………」
「どうした? なにか変なことを言ったか?」
「言ってない」
「ならばいいが」
「ふん、どうせ、旅の道連れが病人だと、面倒だと思っているのだろう」
「ひねくれたやつだな。そうじゃない」
「そうだ、わたしはひどいひねくれ者なうえに、あなたに災難ばかりあたえる人間だったのだ。構うな! 一人にしてくれ!」
「あんたが災難だというのなら、もしかして、もうすでに反動は十分に起こっているのではないか」
「うるさい!」

つづく……

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