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はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

臥龍的陣 番外編 空が高すぎる その1

2023年04月30日 10時12分33秒 | 臥龍的陣番外編 空が高すぎる
徐庶は教室を見回して、点検した。
床掃除は完璧だ。
まるで鏡のようにうつくしく磨かれている。
机もぴしりと見事に揃っていた。
よく調練された兵卒のようだ。
机のうえには、だれの忘れ物もなく、文房具もすべて所定の位置にととのえた。


みなが全部帰って、掃除もすべて終わらせて、それから先が、徐庶の時間だ。
ほかの裕福な弟子たちとちがい、徐庶には自分のための書物を買う金がない。
だから、水鏡先生こと司馬徽にとくべつに頼み込み、書庫に積まれた書物を毎日コツコツと写させてもらっている。
おかげで文字は上達したと、徐庶は自負している。


徐庶は戦乱のために零落した官僚の家に生まれた。
父は幼少時に死に、母や弟と、家族だけで生きてきた。
物心がついてからは、母と弟を助けるため、そして守るため、みずから市井に出て、大人に混じって働いた。


そうした境遇であるため、司馬徽のところへやってくるまでは、数字のほか、市場で使うようなかんたんな文字しか知らなかった。
母は教養のあるひとで、徐庶に書物の内容を教えてくれてはいたが、あくまでそれはあらすじ程度のもの。
実物の書物は、徐家ににはなかった。
それに、口伝えだけの知識だけでは、書物を読みこなすためには足らなかった。


それでも、故郷の潁川《えいせん》の町では、読み書きのほとんどわからない市井の者たちから、教養のある変わった剣客というふうには見られ、なにかと頼りにされていた。
潁川には、綺羅星のごとく士人が多くいたが、かれらはみな誇り高く、上ばかり見ていた。
徐庶のように下々のために働くものは少なかったのだ。


徐庶は思う。
あの町で、ほかより多少ちがうというだけで、なにか偉くなったように錯覚できていたときが、自分にとってはいちばん幸せだったときだったのかもしれない。
勘ちがいしているやつだと影で笑われていたとしてもかまわないから、あのまま過ごせていたらどんなによかったか。


だが、徐庶はとりかえしのつかない勘違いをおこした。
人から慕われたことで、かえってつけあがってしまったのだ。
出来ないことは何もない、自分は何をしても許される。
そんな傲慢な思い込みにとらわれてしまった。


傲慢さゆえに、逆に人から頼まれたなら、断ることができなかった。
その背景に思いもよらぬほどの複雑な事情があるとも想像しなかった。
そして、請われるままに、自分とは全く関係のない仇討ちに参加する羽目になり、人を殺め、捕えられ、さらし者になった。
なぜさらし者になったかといえば、自分に仇討ちを頼んできた者をかばって、沈黙をつづけたためである。
名乗れば、自分に仇討ちを頼んできた者の身元が明らかになり、徐庶が殺した男の親族の報復のために消されてしまうおそれがあった。


たのまれた仇討ちには十分な理由があった。
世間も、捕らえられた徐庶に同情した。
さらし者として町中に引き回されても、町の者は、だれひとりとして、あれは徐家の息子だと役人に通報しなかった。
いまでも、故郷の潁川では、名無しの男は拷問にも屈せず、あるとき、だれの手引きかわからないまま牢から逃げだし、行方不明になった、というふうになっているはずである。


実際は、徐庶を助けるために、町の人々が動いてくれたのだ。
牢の役人も事情を察して、お目こぼしをしてくれた。


逃げてきて、ぼろぼろになったところを拾ってくれたのは、かねてからの友人の石広元だった。
潁川はたびたび戦場になっていて、黄巾党の騒ぎが収まったかと思えば、つづいて董卓軍に街を荒らされる憂き目にあっていた。
ここでは落ち着いて生きていけないという石広元とともに、各地を遊学してまわることになった。


最初は、ただの用心棒として石広元に同行していた。
だが、次第にかれの読む書物に興味を覚えた。
なんとか書物に食らいついて読みこなしていくうちに、より多くの文字をおぼえた。


一方で、かれらは玉突きの玉にでもなったかのように、どんどん南へ押し出されていった。
それほど北方の戦乱は収まるところをしらなかったのだ。
とはいえ、それが幸いした。
偶然に偶然がかさなって、ならず者のなかに才能を見つけてくれた類まれな師・司馬徽と出会えたのだから。


俺の運は、司馬徽先生と出会えたことで、使い果たしてしまったのかもしれない。
最近の徐庶は、そう思うことが増えてきている。
うしろ向きになっているなと感じ、このままではいけない、とおのれを叱りつけてみるも、こころは晴れない。


自分の年齢、そしてどんどん仕官していく友人たち、目まぐるしく変わる世間の情勢。
さまざまなものが、いま、徐庶を悩ませていた。


つづく

※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(*^▽^*)
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださっているみなさまも、感謝です!!
本日より、番外編「空が高すぎる」スタートです。
これまた十八年くらいまえの話をリライトしたものですが、だいぶ読みやすくなっているかと思いますので、ぜひご一読くださいませね。
これが終わったら、「臥龍的陣」のつづきを…さて、どうしようかなあ…
まだ時間があるので、準備を含めて、いろいろ考えようと思います。
それと、GWのお休みですが、3日から5日までいただこうかなあ、と思っています。
明日か明後日、スケジュールが確定しますので、そのときにまたお知らせしますね。
ではでは、今日もよい一日をお過ごしくださいー('ω')ノ


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