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帯とけの枕草子〔百三十四〕とり所なきもの
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔百三十四〕とり所なきもの
とり所なきもの、かたちにくさげに、心あしき人。みそひめのぬりたる。これ、いみじうよろづの人のにくむなる物とて、いまとゞむべきにあらず。又あと火のひばしといふ事、などてか、世になきことにあらねど、このさうしを人のみるべき物とおもはざりしかば、あやしきことも、にくき事も、たゞ思ふことをかゝむと思ひしなり。
文の清げな姿
取り柄の無いもの、容姿醜くて心の悪い人。御衣ひめのり塗ったまま付着している、これ、ひどく、万の人が嫌がるものだからといって、いまさら書くのを止めることはできない。また、後火の火ばしということ、なぜか、世にないことではないけれど、この草子を、他所の・人が見るだろうとは思わなかったので、妖しいことも、不快なことも、ただ思うことを書こうと思ったのである。
心におかしきところ
とり柄のないもの、身そ秘め糊の塗り垂る、これ、ひどくよろずの人が嫌がるものだからといって、いま、止めることはできない。また、情熱の残り火の、火の身の端ということ、どうしてか、夜に無きことはないけれど、この双肢を、男が見るべくもなかったので、女は・妖しきことも、みにくきことも、ただ思うことを、搔こうと思ったのである。
言の戯れと言の心
「みそ…御衣…密そ…身そ」「ひめのり…米糊(白)…秘めのり…おとこの白き糊状のもの」「後火…送り火…情熱の残り火」「はし…箸…端…末端…はて…身の端」「世…夜」「さうし…草子…冊子…双肢」「人…よその方の女房…男」「見…覯…媾…まぐあい」「かゝむ…書こう…搔こう」「書く…記す…搔く…こぐ…しがみつく…ものをおしこむ」「思ふ…思う…恋しく思う…欲し求める」。
万人が、いみじうにくむ(甚だしく不快がる)ことや、あやしきこと(妖しいこと)が書いてある。
言の戯れを知り言の心を心得て読むと、おとなの女には、それが何であるかがわかる。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)
原文は「枕草子 新 日本古典文学大系 岩波書店」による