帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百三十四〕とり所なきもの

2011-08-03 06:02:10 | 古典

 



                    帯とけの枕草子〔百三十四〕とり所なきもの



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔百三十四〕とり所なきもの

 
 とり所なきもの、かたちにくさげに、心あしき人。みそひめのぬりたる。これ、いみじうよろづの人のにくむなる物とて、いまとゞむべきにあらず。又あと火のひばしといふ事、などてか、世になきことにあらねど、このさうしを人のみるべき物とおもはざりしかば、あやしきことも、にくき事も、たゞ思ふことをかゝむと思ひしなり。

 文の清げな姿
 
取り柄の無いもの、容姿醜くて心の悪い人。御衣ひめのり塗ったまま付着している、これ、ひどく、万の人が嫌がるものだからといって、いまさら書くのを止めることはできない。また、後火の火ばしということ、なぜか、世にないことではないけれど、この草子を、他所の・人が見るだろうとは思わなかったので、妖しいことも、不快なことも、ただ思うことを書こうと思ったのである。

 
心におかしきところ
 とり柄のないもの、身そ秘め糊の塗り垂る、これ、ひどくよろずの人が嫌がるものだからといって、いま、止めることはできない。また、情熱の残り火の、火の身の端ということ、どうしてか、夜に無きことはないけれど、この双肢を、男が見るべくもなかったので、女は・妖しきことも、みにくきことも、ただ思うことを、搔こうと思ったのである。


 言の戯れと言の心

「みそ…御衣…密そ…身そ」「ひめのり…米糊(白)…秘めのり…おとこの白き糊状のもの」「後火…送り火…情熱の残り火」「はし…箸…端…末端…はて…身の端」「世…夜」「さうし…草子…冊子…双肢」「人…よその方の女房…男」「見…覯…媾…まぐあい」「かゝむ…書こう…搔こう」「書く…記す…搔く…こぐ…しがみつく…ものをおしこむ」「思ふ…思う…恋しく思う…欲し求める」。

  
万人が、いみじうにくむ(甚だしく不快がる)ことや、あやしきこと(妖しいこと)が書いてある。
  
言の戯れを知り言の心を心得て読むと、おとなの女には、それが何であるかがわかる。


 伝授 清原のおうな

聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)
 
 原文は「枕草子 新 日本古典文学大系 岩波書店」による