帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百四十二〕いやしげなる物

2011-08-12 06:09:17 | 古典

  


                    帯とけの枕草子〔百四十二〕いやしげなる物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔百四十二〕いやしげなる物



 文の清げな姿

 下品そうなもの、式部の丞の笏。黒髪の筋の悪いの。布屏風の新しいの、古びて黒ずんだのは、そのように言うかいもないもので、かえって何とも見えない。新しく仕立て桜の花多く咲かせて胡粉や朱砂などで彩った絵など描いてあるの。遣戸の厨子。法師の太っているの。まことの出雲筵の畳。


 原文

いやしげなる物、式部のぜうのしやく。くろきかみのすぢわろき。ぬのびやうぶのあたらしき。ふりくろみたるは、さるゆふかひなき物にて、中々なにとも見えず。あたらしうしたて、さくらのはなおほくさかせて、ごふんすさなどいろどりたるゑどもかきたる。やりとづし。ほふしのふとりたる。まことのいづもむしろのたゝみ。


 心におかしきところ

 下品そうなもの、お堅い役所の三等官の借(借金・借財)。黒髪のちぢれたの。新品の布屏風、古びて黒ずんだのは、そのように言うかいもないもので、かえって何とも見えない、新しく仕立て、おとこ花多く咲かせて、胡粉や朱砂でけばけばしく彩色された絵が描いてあるの。破れ戸のづ子。ほ伏しの太ったの。間ことのいつも無白の多々見。

 
 言の戯れと言の心

「いやしげ…卑しげ…さもしげ…下品そう」「式部の丞…式部省の三等官…朝廷の儀式、役人の採用・勤務評定などを行う役所の三等官」「しやく…笏(書き込みなどで汚い)…借…借銭…借金」「黒き髪の筋悪き…筋目が直でない…ちぢれている…わが髪のこと」「新しい布屏風…新参の女御などの調度」「やりとづし…遣戸厨子…観音開きではない厨子…普通では無い調度品」「やり…遣り…破り…壊れ」「と…戸…門…女」「づし…厨子…書画などを置く戸棚…津し…女」「ほうし…法師…ほ伏し…ほ立たない」「ほ…お…おとこ」「まこと…真…間こと」「間…女」「いづもむしろのたたみ…出雲産筵の畳…いつもむしろの多々見…いつも無白の多々のまぐあい」「む…武…無」「白…果ての色」「み…見…覯…媾」。


 さげすみ、自嘲、誹謗、色々と聞こえ、心におかしきところがある。
 ただ字義通りに読むうわべの意味だけの文ではない。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず  (2015・9月、改定しました)

 原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による