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帯とけの枕草子〔百四十四〕うつくしき物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔百四十四〕うつくしき物
文の清げな姿と心におかしきところ
うつくしき物(かわいいもの…いとしいもの)、瓜に描いてある幼児の顔。
雀の子がねずみ鳴きすると踊り来る。
二つ三つばかりの幼児が、急いで這って来る途中に、ごく小さな塵があったのを目ざとく見つけて、とっても可愛い指でとらえて、大人ごとに見せている、いとうつくし(とってもあどけなくてかわいい)。
頭は尼そぎの幼児が、目に髪が覆い被さるのを掻きもやらずに、頭傾けてものなど見ているのも、うつくし(かわいい)。
大きくはない殿上童が、装束整えられて歩きまわるのも、うつくし(かわいい)。
いとしい幼児が、急にふと抱いて遊ばせていつくしむ間に、抱きついて寝ている、いとらうたし(とってもいじらしい)。
雛人形の調度。
蓮の浮き葉のたいそう小さないのを池よりとりあげている。葵のごく小さいの、何もかも小さいものは、なみなうつくし(みなかわいい)。
色白でよく肥えている幼児の二つばかりなのが、二藍のうすものなどの衣を長くして襷掛けに紐結んだのが、這い出るのも。また、短い衣で袖ばかりにみえるのを着て歩くのも、みなうつくし(みなかわいい)。
八つ九つ十ばかりの男児が声は幼くて文(漢文)を読んでいるの、いとうつくし(とってもかわいい)。
鶏のひなが足高に、白く変に短い衣着たようなさまして、ひよひよとやかましく鳴いて、人の尻や先にたって歩きまわるのも、をかし(おもしろい)。また、親鶏が共に連れ立って走るのも、みなうつくし(みなかわいい)。
かりのこ(雁の卵・小さくてかわいい…かりする子の君・かわいらしくいじらしい)。
るりのつぼ(ガラスの壷・うつくしい…流離のつぼ・いたわしい)。
言の戯れと言の心
「うつくし…かわいい…いとしい…いつくしみたい感じ」「らうたし…いじらしい…いたわしい」「かり…雁…狩り…猟…むさぼり…あさり…めとり…まぐあい」「こ…卵…子…子の君…おとこ」「るり…瑠璃…宝玉…ガラス…流離…流れて離れる…流人となる」「つぼ…壷…うつわもの…女…急所…勘どころ…肝心なところ」。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。