帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百四十四〕うつくしき物

2011-08-15 06:03:23 | 古典

  



                      帯とけの枕草子〔百四十四〕うつくしき物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔百四十四〕うつくしき物


 文の清げな姿と心におかしきところ

 うつくしき物(かわいいもの…いとしいもの)、瓜に描いてある幼児の顔。
  雀の子がねずみ鳴きすると踊り来る。

二つ三つばかりの幼児が、急いで這って来る途中に、ごく小さな塵があったのを目ざとく見つけて、とっても可愛い指でとらえて、大人ごとに見せている、いとうつくし(とってもあどけなくてかわいい)。

頭は尼そぎの幼児が、目に髪が覆い被さるのを掻きもやらずに、頭傾けてものなど見ているのも、うつくし(かわいい)。
 大きくはない殿上童が、装束整えられて歩きまわるのも、うつくし(かわいい)。

いとしい幼児が、急にふと抱いて遊ばせていつくしむ間に、抱きついて寝ている、いとらうたし(とってもいじらしい)。

雛人形の調度。
 蓮の浮き葉のたいそう小さないのを池よりとりあげている。葵のごく小さいの、何もかも小さいものは、なみなうつくし(みなかわいい)。

色白でよく肥えている幼児の二つばかりなのが、二藍のうすものなどの衣を長くして襷掛けに紐結んだのが、這い出るのも。また、短い衣で袖ばかりにみえるのを着て歩くのも、みなうつくし(みなかわいい)。

八つ九つ十ばかりの男児が声は幼くて文(漢文)を読んでいるの、いとうつくし(とってもかわいい)。

鶏のひなが足高に、白く変に短い衣着たようなさまして、ひよひよとやかましく鳴いて、人の尻や先にたって歩きまわるのも、をかし(おもしろい)。また、親鶏が共に連れ立って走るのも、みなうつくし(みなかわいい)。

かりのこ(雁の卵・小さくてかわいい…かりする子の君・かわいらしくいじらしい)。

るりのつぼ(ガラスの壷・うつくしい…流離のつぼ・いたわしい)。


 言の戯れと言の心

「うつくし…かわいい…いとしい…いつくしみたい感じ」「らうたし…いじらしい…いたわしい」「かり…雁…狩り…猟…むさぼり…あさり…めとり…まぐあい」「こ…卵…子…子の君…おとこ」「るり…瑠璃…宝玉…ガラス…流離…流れて離れる…流人となる」「つぼ…壷…うつわもの…女…急所…勘どころ…肝心なところ」。

伝授 清原のおうな

聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。