帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百三十九〕ごをやむごとなき人のうつ

2011-08-09 06:05:09 | 古典

  


                              帯とけの枕草子〔百三十九〕ごをやむごとなき人のうつ



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔百三十九〕ごをやむごとなき人のうつ


 文の清げな姿

 碁を、やむごとなき(身分の高い)人が、打つということで、衣の・紐を解き、無造作でやる気なさそうに、碁石を・取り出し、碁盤に・置くと、おとりたる人(身分など劣る相手方)が座っている様も畏まった気色で、碁盤よりは少し遠く、及び腰に、袖の下はもう片方の手で控え持つなどして、打って居るのもおかしい。


 原文

ごをやむごとなき人のうつとて、ひもうちとき、ないがしろなるけしきに、ひろひをくに、おとりたる人の、ゐずまひもかしこまりたるけしきにて、ごばんよりはすこしとをくて、をよびて、袖のしたはいまかたてしてひかえなどして、うちゐたるもをかし。


 心におかしきところ
 
碁を、やむごとなき(止むことのない)人が、うつということで、衣の・紐うち解き、あなどった気色で、碁石・取り出し置くと、おとりたる人(棋力などすべてに劣るひと)が、座っている様も畏まった気色で、碁盤よりは少し遠くて、手の指で、袖の下はもう片方の手で控え持つなどして、相手を・撃ち射ている形なのもおかしい……御を(碁)、やむことなき(止むことのない)人が、討つということで、妃も(紐)うち解き、あなどった気色で、取り出し置くと、おとりたる人(才などすべてに劣るひと)が、その座に・居る様も畏まった気色で、五番(序列…碁盤)よりは少し遠くて、及び腰で、袖の下はもう片方の手で控え持つなどして、ふと座って居るのもおかしい。


 言の戯れと言の心
 「ご…碁…御…女性に対する敬称…きさき」「やむことなき…格別な…そのままにはしておけない…止む事無き…止む事無くひつこい」「うつ…打つ…(碁を)うつ…(御を)討つ」「およびして…及び腰して…指して…指の形で」「ごばん…碁盤…五番…女御の序列の五番目」「および…及び…指」「うちゐたる…(碁)打って居る…(弓矢)撃ち射たる…なんとなく座って居る」「うち…打ち…討ち(討伐)…接頭語」。

 
 
左大臣道長は、摂政関白を目指して、邪魔なものには揺さぶりをかけて、悠然とわが道を歩む。もはや争う者はいない。

長徳二年(1000)二月、五番より遠い女御彰子を中宮に据え、御を皇后にまつりあげた。
 上の文、真名(漢字)では諷喩とか風刺という。秘かな、ささやかな抵抗の文芸と読めるように書いてある。

伝授 清原のおうな

聞書 かき人知らず    (2015・9月、改定しました)


 原文は「枕草子 新 日本古典文学大系 岩波書店」による