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帯とけの枕草子〔百四十六〕名おそろしき物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔百四十六〕名おそろしき物
文の清げな姿
名の恐ろしいもの、青淵。谷の洞。端板(板垣)。黒鉄。土魂。
雷は名のみならず、とっても恐ろしい。疾風。不祥雲。矛星。肘笠雨。荒野良。
強盗、万に恐ろしい。乱騒、大方の人に恐ろしい。
かなもち。生霊。蛇苺。鬼蕨。鬼とろろ。荊。枳殻。入れ墨。牛鬼。錨、名よりも見ると恐ろしい。
原文
名おそろしき物。あをぶち。たにのほら。はたいた。くろがね。つちくれ。
いかづちは名のみにもあらず、いみじうおそろし。はやち。ふさうぐも。ほこぼし。ひじかさあめ。あらのら。
がうだう、又よろづにおそろし。らんそう、おほかたおそろし。かなもち。いきすだま。くちなわいちご。おにわらび。おにところ。むばら。からたち。いりずみ。うしおに、いかり、名よりも見るはをそろし。
心におかしきところ
汝おそろしきもの、吾お不治(病)。谷の法螺(貝)。端多痛(病)。黒が根(見た目)。土塊(見た目)。
雷は名だけではなく、ひどく恐ろしい。
疾風、不祥雲、矛星、にわか雨、荒野良、強盗、これらも・又、よろづにつけて恐ろしい。
乱騒(騒乱…道長と伊周の争いよ)、誰もが恐ろしい。
金望(金の望つき)、生霊(玉)、蛇いちご(へびの幼児)、鬼わらび(鬼の童子)、鬼とろろ(鬼のひげ付き根)、無腹(心無い)、空立ち、入り(すぐ)済み、憂しおに怒り。これらは・名よりも見(覯・媾)すれば、おそろしいよ。
言の戯れを知り、貫之のいう「言の心」を心得ましょう。
「名…汝…慣れ親しきものの称…君…あなた」「おそろし…恐ろしい…不気味だ…恐れ入る…驚くべきだ…すばらしい」「を…男…おとこ」「たに…女」「ほら…洞…ほら貝…螺旋状の」「貝…女」「は…端…身の端」「黒…強い色」「根…おとこ」「金…欠けない…衰えない」「もち…望…望月」「月…壮士…おとこ」「腹…心のうち」「いりすみ…入墨…入り済み…端入りて即、にわか雨にて終了」「うし…牛…憂し…不満でせつない」「おに…鬼…女」「いかり…錨…錨の形…怒り」「見る…目で見る…覯する」「見…覯…媾…まぐあい」「は…特に取り立てて強調して示す」。
われわれの言葉は「聞き耳異なるもの」。上の例とは別に他にも、聞こえるでしょう。
ことのわかるおとなの女たちが、笑いながら「そうよねえ」と聞けるように、低音で「心におかしきところ」をうたっている。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)
原文は「枕草子 新 日本古典文学大系 岩波書店」による