帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百四十六〕名おそろしき物

2011-08-17 06:47:46 | 古典

  



                                            帯とけの枕草子〔百四十六〕名おそろしき物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔百四十六〕名おそろしき物

 
 文の清げな姿

名の恐ろしいもの、青淵。谷の洞。端板(板垣)。黒鉄。土魂。
 雷は名のみならず、とっても恐ろしい。疾風。不祥雲。矛星。肘笠雨。荒野良。
 強盗、万に恐ろしい。乱騒、大方の人に恐ろしい。
 かなもち。生霊。蛇苺。鬼蕨。鬼とろろ。荊。枳殻。入れ墨。牛鬼。錨、名よりも見ると恐ろしい。


 原文

 名おそろしき物。あをぶち。たにのほら。はたいた。くろがね。つちくれ。
 いかづちは名のみにもあらず、いみじうおそろし。はやち。ふさうぐも。ほこぼし。ひじかさあめ。あらのら。
 がうだう、又よろづにおそろし。らんそう、おほかたおそろし。かなもち。いきすだま。くちなわいちご。おにわらび。おにところ。むばら。からたち。いりずみ。うしおに、いかり、名よりも見るはをそろし。


 心におかしきところ

 汝おそろしきもの、吾お不治(病)。谷の法螺(貝)。端多痛(病)。黒が根(見た目)。土塊(見た目)。

雷は名だけではなく、ひどく恐ろしい。

疾風、不祥雲、矛星、にわか雨、荒野良、強盗、これらも・又、よろづにつけて恐ろしい。

乱騒(騒乱…道長と伊周の争いよ)、誰もが恐ろしい。

金望(金の望つき)、生霊(玉)、蛇いちご(へびの幼児)、鬼わらび(鬼の童子)、鬼とろろ(鬼のひげ付き根)、無腹(心無い)、空立ち、入り(すぐ)済み、憂しおに怒り。これらは・名よりも見(覯・媾)すれば、おそろしいよ。


 言の戯れを知り、貫之のいう「言の心」を心得ましょう。

「名…汝…慣れ親しきものの称…君…あなた」「おそろし…恐ろしい…不気味だ…恐れ入る…驚くべきだ…すばらしい」「を…男…おとこ」「たに…女」「ほら…洞…ほら貝…螺旋状の」「貝…女」「は…端…身の端」「黒…強い色」「根…おとこ」「金…欠けない…衰えない」「もち…望…望月」「月…壮士…おとこ」「腹…心のうち」「いりすみ…入墨…入り済み…端入りて即、にわか雨にて終了」「うし…牛…憂し…不満でせつない」「おに…鬼…女」「いかり…錨…錨の形…怒り」「見る…目で見る…覯する」「見…覯…媾…まぐあい」「は…特に取り立てて強調して示す」。



 われわれの言葉は「聞き耳異なるもの」。上の例とは別に他にも、聞こえるでしょう。


 ことのわかるおとなの女たちが、笑いながら「そうよねえ」と聞けるように、低音で「心におかしきところ」をうたっている。
 
 
 伝授 清原のおうな

聞書 かき人知らず    (2015・9月、改定しました)


 原文は「枕草子 新 日本古典文学大系 岩波書店」による