情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

クオリアとヴェーバー‐フェヒナーの法則の関係

2020-11-26 17:11:12 | 情報と物質の科学哲学
ヴェーバー‐フェヒナーの法則 は、クオリアの大きさは感覚受容器への物質的刺激の量の対数に比例するというものです。

感覚受容器から出力される情報の量は、物質的刺激の量に比例します。
従って、クオリアの大きさは感覚受容器から出力される情報の量の対数に比例します。

この事実は、感覚野には情報の量の対数に比例するクオリアを創発する機能があることを証明します。
この事実は、クオリアに何の神秘性もないことを示しています。




情報と物質の相互創発

2020-11-26 10:20:25 | 情報と物質の科学哲学
以前のブログで情報と物質の相互作用の仕組みについて説明しました。
情報と物質は全く異質な存在なので物理法則でこの相互作用を説明することは出来ません。
そもそも、情報は物理量ではないので物理学では取り扱えないのです。
しかし、システムに適当な仕組みがあればこの相互作用が可能になります。

今回のブログでは、情報と物質の相互創発について説明します。
ここでは、創発という概念が重要な役割を果たします。

以下で、情報と物質の相互創発の実例を紹介します。

(1)符号器と復号器
先ず、情報が符号器に入力されます。
符号器は、この情報をパルス列という物質で表現して出力します。
符号器には非物質的な情報からパルス列という物質を創発する機能があります。
通常、符号器が情報をパルス列に変換すると言います。
創発という用語を敢えて用いるのは、非物質的情報と物質との非対称性を際立たせるためです。

復号器は符号器から送られてきたパルス列の情報を読み取って、その情報を出力します。
復号器にはパルス列という物質から非物質的な情報を創発する機能があります。

(2)3Dプリンター
この機械には元の物体の形状を表す情報から物質を創発する機能があります。

以上のほかにも情報と物質の相互創発を実現する機能を持つシステムは多数あります。

物質的創発と情報的創発

2020-11-25 10:12:41 | 情報と物質の科学哲学
創発概念は、一般に複雑系の現象に対して使われます。
要素の性質には還元できない性質が複雑系で出現することを意味します。
この場合、複雑系の現象を説明するには物理法則だけで済みます。
なので、このときの創発を物質的創発と名付けます。

一方、検出器や測定器には情報を創発する機能があります。
情報概念は、物質概念に還元できません。
これが情報的創発という概念を導入することの意義です。
これを情報的創発と名付けます。
検出器や測定器は複雑系とは全く無関係であり、単純な機械です。

脳神経回路やニューラルネットにも情報的創発機能があります。
脳神経回路の情報的創発機能は、クオリアの創発に繋がります。
クオリアは、更に意識の創発に繋がるのです。


2種類の情報概念: 量的情報と質的情報

2020-11-21 10:17:46 | 情報と物質の科学哲学
情報という用語は頻繁に使われています。

情報概念には、量的情報と質的情報と名付ける2種類があります。
両者は通常区別されていませんが。

「量的情報」
数字で表現される情報を意味します。
コンピューターや神経回路で使われる情報がこれに該当します。
物理量の測定値も量的情報です。
シャノンの情報も量的情報に該当します。

「質的情報」
数字以外の記号、記号の配列、言語、パターンなどがこれに該当します。
遺伝情報も質的情報です。
パターン認識は感覚器が誕生した頃から行われていたので、言語情報よりかなり古い機能です。
歴史的には、まずパターン認識機能が始まり、言語機能、数機能、記号機能の順で発生したものと思われます。

量的情報と質的情報とを区別する理由の一例を挙げます。
それは、量的情報をコンピューターや神経回路で処理してパターン認識をする場合です。
この場合には、量的情報が質的情報に変換されます。

生命現象という複雑で微妙な現象を説明する場合、単に情報という用語を用いるのは不適切です。

例えば、ヒトに関わる現象を説明する場合には、神経回路で使われる量的情報とパターン認識や言語認識などで使われる質的情報を区別することが必要です。

ヒトの行動は、質的情報によるものです。
これを質的情報駆動型制御と名付けます。
遺伝情報の働きも質的情報駆動型制御によるものです。

一方、電気製品などで用いられる数値制御を量的情報駆動型と名付けます。


ポール・デイヴィス『生物の中の悪魔ー「情報」で生命の謎を解く』

2020-11-18 16:55:54 | 情報と物質の科学哲学
ポール・デイヴィス(水谷淳訳)
『生物の中の悪魔ー「情報」で生命の謎を解く』
SBクリエイティブ株式会社(2019.9)
著者は、物理学者で宇宙論学者です。

情報が生物の現象にどのように関わっているのかを幅広く紹介しています。
目次
第1章 生命とは何か
情報=遺伝情報
第2章 悪魔の登場
情報=エントロピー
第3章 生命のロジック
情報=論理
情報処理
第4章 進化論2.0
第5章 不気味な生命と量子の悪魔
量子生物学
第6章 ほぼ奇跡
生命の誕生
第7章 機械の中の幽霊
1.どのような物理プロセスが意識を生み出すのか?
2.心が存在するとしたら、心はどのようにして物理世界の中に違いを生み出せるのか?
エピローグ

以下は、読後感です。
本書で使われている情報概念は、シャノンの情報と遺伝情報です。
この点は、従来の関連書と同じで期待外れでした。
私は、特に脳神経を扱うにはシャノンの情報だけでは間に合わないと確信しています。

何故なら、感覚受容器が創発する情報がすでにシャノンの情報ではないからです。
デイヴィスは、生物にとって情報が重要であると言いながら感覚受容器については全く触れていません。
クオリアについても言及を避けています。

そのクオリアを飛ばして意識について多くの議論をしているのは本末転倒です。
何故なら、進化論的にまずクオリアが創発され、そのあとで意識が創発されたからです。
これは、進化論的に証明されている事実なのです。
今でもクオリアの機能しか持たない動物は多数います。

当ブログで情報概念は物質との関係で定義しなければ意味がないと繰り返し指摘しています。

この点を無視した議論は、生物や脳に関する現象の本質に決して迫りません。
遺伝情報という概念も遺伝子の機能を分かりやすくするための便宜的なものです。
何故なら、遺伝子の働きはすべて物理法則だけで説明できるからです。
それにも拘らず、遺伝情報が不可欠な概念であるとされるのは実に不可解です。