コラム(168):分かち合えば余る
――独占、寡占、利権からの脱却
原油価格の変動が株式市場を左右するという論調があります。たとえば、4月中旬の主要産油国会合で増産凍結見送りを悲観して日経平均が16,000円台に下落したとの報道や、4月下旬のカナダの山火事で複数のオイルサンド施設が操業を休止したとの情報で石油先物とNY株式市場が上昇に転じたとの報道がなされています。
多くの評論家やマスコミは、原油安を良くないこととしているように思えますが、この見解は必ずしも正しいとは思えません。日本のようにエネルギーを輸入に頼る国にとって、メリットは大きいはずです。輸入関連の業種にとっては不都合とされる円安局面において、原油安で困るのは石油元受くらいで、その他の殆ど業種は恩恵に浴しているのです。しかも、消費者にとってガソリン代や家庭用の灯油が安いのは歓迎すべきことです。
それだけに、原油安で株価が下がる必然性はないのですが、実は、原油安が続くことで困る人たちの手によって株安が演出される仕組みが出来ているのです。
原油安の現状
原油安の要因は、アメリカおよびカナダのシェール革命による石油や天然ガス大量供給、中東などの原油産出国の生産調整の失敗、さらには、世界経済の減速でエネルギー消費の減退など複合的な原因によるものです。要は、需給バランスが崩れたことにあります。
原油安の直撃を受けているのはロシアと中東、南米の産油国です。なかでも、天然ガス輸出で経済をまかなうロシアは、プーチン大統領が「原油安は、ロシアを滅ぼそうとする米国とアラブ共同の陰謀だ」と述べているほどです。また、原油価格を一方的に決めていたOPEC(石油輸出国機構)の力が著しく弱まっていて、価格の低迷で「米シェール企業とOPECの我慢比べ」の状態と言われるまでになっています。さらに、市場を支配している石油メジャー【※1】も同様に厳しい状況にあるとされています。
【※1】国際石油資本:エクソン・モービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、BP、シェブロン、トタル、コノコフィリップスの6社をスーパーメジャーと呼ぶ。石油の採掘、生産、輸送、精製、販売を独占的に手がける。
原油安で困る人
今までの国際社会では、産油国や石油メジャーが国際的な石油利権を守ることを優先して、資源を多くの人に安く提供する考えはありませでした。このため非産油国は高い原油を輸入していました。この考えは今でも変わらず、国際社会は仕方なく彼らの強欲に従っているのです。
一方、日本国内においては、石油の元売り業者、大手輸入商社が独占的に石油利権を握っています。過去の政権はそうした利権を当然とし、通産省(経済産業省)は国策として業界を保護してきた経緯がありました。さらに、2014年の「産業競争力強化法」により、経産省は再び石油業界保護に乗り出しています。
したがって、原油安になり石油元売り業者が経営努力をしたり、業界に競争原理が働くことは無く、相変わらず独占的な商売を続けようとします。そこで、彼らは意図的に株安を演出して、原油安をその元凶に仕立てています。
原油安で困る人とは石油利権を守り手放そうとしない企業とその関係者なのです。
しかも、彼らは石油エネルギーの代替エネルギーの開発には極めて消極的です。太陽エネルギー、水素電池、メタンハイドレート(石油に比べ燃焼時の二酸化炭素の排出量がおよそ半分)などの自然エネルギーへの転換に抵抗を示しています。これが新エネルギーの開発を止めたり、邪魔している原因になっています。
日本からはじまるエネルギー革命
石油利権に連なる人びとの意識は時代に逆行しています。これからの時代はCO2を多く排出する化石燃料などではなく、クリーンエネルギーを使うことが強く求められています。CO2の削減と経済成長を両立・調和させる考え方が国際社会に浸透してきたからです。中東の産油国が原油輸出だけに頼らず、別の産業を推進する動きになっているし、国際社会全体は石油に代わる代替エネルギーの開発を推進する動きになっているのです。
昨年の12月に開催されたCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締結国会議)には、世界最大のCO2排出国の中国とアメリカが加わり、地球温暖化の解決に向けた歴史的な協定が締結されましたが、実は、それをリードしたのが日本の安倍総理でした。総理の演説はエネルギー不足の途上国に希望を与えるもので、「地球の中心部にある地熱エネルギーを取り出し、アフリカにクリーンな電気を届ける」「電力網が張り巡らされていない地域に、太陽光で光を灯す」といった斬新な提案をしていました。
当然のことながら、安倍総理の提言は日本でも実施されます。石油に代わるクリーンエネルギーへの移行はアメリカのオバマ大統領と連動し、従来の独占的なエネルギー利権を崩すきっかけとなりそうです。
新しいエネルギーの開発や活用に伴い、旧来の利権を守ろうとする勢力による大きな抵抗が予想されます。また、代替エネルギーに再び利権がからんでくると、「人々の暮らしを豊かにするエネルギー」という本来の目的が汚れてしまいます。そのためにも、単に旧来利権に関わった勢力の参入を阻止するのではなく、利権が入り込まない仕組みづくりが急務だと考えます。
これからの世界は、独占ではなく、分かち合うことです。「奪い合えば足りないものも、分かち合えば余る」という日本人の文化と感性でこの仕組みを構築したとき、日本は世界の光になり得ると思います。
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