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コラム(167):核兵器廃絶の考え方
5月6日から北朝鮮の労働党大会が36年ぶりに開催されています。北朝鮮は今年に入って核実験や弾道ミサイルの発射など繰り返しています。
国際社会は口を揃えて北朝鮮の核保有を非難しています。また、マスコミはこれに同調する論陣を張っています。
水爆保有国のエゴ
国際社会、とりわけ核保有国が北朝鮮の核を問題視するのは、核保有国の持つ既得権益が脅かされるからです。
核保有国にとって、核兵器は国際社会で自国の国力を示す源泉となっています。最も威力のある水爆を保有している国はアメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアの五カ国ですが、これらの国々は国連の安保理常任理事国として君臨しています。この五カ国のエゴが、実質的に国連を支配していると言っても過言ではありません。安保理決議への拒否権発動はその典型事例です。
また、これら五カ国は、彼ら以外に核兵器保有国をつくらせないため核拡散防止条約(NPT)を定め、国際社会に強制しました。これに対し、南アフリカは1991年に核兵器を放棄、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンはロシアに移転しています。しかし、この条約を不平等条約として反発する核保有国のインド、パキスタン、保有疑惑のあるイスラエルはNPTに加入せず、北朝鮮は1993年に脱退しています。
新興国の逆襲
近年、核を保有する大国が、新たに核を持った新興国に脅かされるという奇妙な逆転現象が起きています。イラン核軍縮合意に至るまでのアメリカや、北朝鮮に核ミサイルを向けられている中国にその具体的な事例を見ることができます。
2002年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、イラク、イラン、北朝鮮の核保有疑惑を問題視し、「悪の枢軸」として非難し、イラクに対しては軍事介入、イランに対しては核軍縮を迫り核の無力化をはかりました。アメリカにとって重要な国であるイスラエルへの脅威を取り除くためでした。しかし、北朝鮮については、核ミサイルがアメリカに着弾する可能性が低いため、強力な取り組みをしていませんでしたが最近では警戒を強めています。
一方、中国は北朝鮮の核に脅威に感じています。金正恩体制になってから親中派の幹部が次々と粛清されたりと、北朝鮮にとって中国が必ずしも友好国ではなく、むしろ敵国であることが明白になりました。国連の北朝鮮制裁決議に関与した中国への反発も強めています。また、最近の北朝鮮機関紙では「全ての党員と勤労者は、社会主義に背く中国の圧迫策動を核爆風の威力で断固打ち砕こう」と述べているほどです。実際、北朝鮮から北京までは800km程度の距離にあり、北朝鮮の技術で十分攻撃が可能となっており、中国政府は不安を感じているのです。
このように既存の核保有大国が新興勢力の核に怯えるという現象が起きています。
核兵器が抑止力にならない時代
第二次大戦後から今日までの70年間、核の抑止力で地球規模の大戦争が回避されたと言われています。しかし、核保有大国はその間、さらなる軍事力を構築するために膨大な軍事予算を使い、自国の経済を著しく消耗させました。そのためにソ連は崩壊し、アメリカは未だに軍事費の負担にあえいでいます。そして、現在、軍備拡大に狂奔する中国が、財政破綻で瀕死の状態になっています。
これらの事実は、軍事大国による国際社会の軍備管理が不可能になってきたことを物語っています。小国であっても、核兵器、化学兵器、生物兵器を所持することで、国際的な脅迫者やテロリストとして国際社会を人質にとることが出来るのです。大国の核の抑止力で国際秩序が守られるという時代はすでに終りました。
したがって、冷戦時代の古い考え方に依拠して大国の核保有には目をつぶり、新興勢力の核保有の問題ばかりを問う、国連、各国の政治家、さらにこれに追随するジャナーリストたちは、ご都合主義の考え方を改めていただきたいと思います。
北朝鮮の核実験に対し国連が非難決議をするのなら、自分たちの核兵器を廃棄してからが筋というものです。また、ジャーナリズムは世界中の核兵器廃絶を強く主張することが先決です。
核兵器廃絶の問題は、国際社会全体のあるべき姿から考え、全体の利益として論ずるべき時代になってきました。
決して核保有国のエゴイズムの立場で考えてはならないのです。
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